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2018.01.12

12月のブックカフェレポート

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12月14日(木)OIC12月19日(火)衣笠12月21日(木)BKC

2017年12月14日(木)OICブックカフェレポート

その昔、元禄時代に有名な討ち入りが起こったという日にOICブックカフェが開催されました。今回の参加者は、政策科学部3回生、総合心理1回生が5名、2回生が1名、経営学部4回生の方が1名、OICショップ職員とブックセンターふらっとの職員が参加いたしました。

こんな本が話題になりました

●『本屋さんのダイアナ』は本名が大穴と書いてダイアナと読む女の子と友人の二人の女の子の物語です。「赤毛のアン」だと真面目な子は脇役ですが、これはダイアナみたいな真面目な子が主人公です。水商売をしている母親との確執などいろいろありますが、自分の本屋をつくるんだと頑張ります。友人の子は自分自身の芯がないというか、自分が確立していません。それでトラブルにも巻き込まれますが、いきいきとしたお話です。お薦めです。

●『コーヒーが冷めないうちに』は感動ものとして有名ですが、典型的なお話で泣かせにきているところがどうかなと思いました。そのカフェではコーヒーが冷めないうちにタイムトリップをすることができて、取り戻せないものと出会い、そうしたことを巡って物語が進みます。でも泣いちゃうところがやられたなと思います。

●『超常現象をなぜ信じるのか』何か不思議なことがあった場合、人間は共通点のみに目がいって、合わないことには目がいかない傾向があります。よく言われるリンカーンとケネディの暗殺の共通点ばかり語られますが、実は合わない面もたくさんある、そこに思考をつなげることができないのです。こうしたことが不可思議なことにとらわれる要因となっています。「ノストラダムスの大予言」も、そもそもあいまいな表現の詩に対して後づけで「これはあれのことだったんだ!予言は当たっている」となるわけです。認知心理学として面白い報告書です。

●『精霊の守人』シリーズは注目の本です。とにかくバルサがかっこいい!!そしてファンタジーの中の国々がリアルで日本から船で外海に出れば、こうした国々があると思わせるような感じです。そして文化の書き方がとてもうまいです。服装とか食べ物の描写とか。
フルーツをモチでつつんだ食べものとか、ありそう、おいしそうと思わせます。

●『夢をかなえるゾウ』は引き続き心の友です。いろいろな指南書の中で無理なく心に入ってきます。

●『おおかみこどもの雨と雪』は、子どもたちが親離れをして、選択を迫られます。二人は違う道を選ぶのですが、どの道も正解で間違いでないと語っているようで切ないです。

●『君の膵臓を食べたい』はとても感動しました。もうすぐ死ぬという女の子がとても明るくて、関わっていく男の子はとても暗くて、でも二人の距離感がお互いの呼び方で変わっていく描写などとてもよかったです。最後にハッと思わされました。

●『死亡フラグが立ちました』は死神と呼ばれる殺し屋のターゲットになってしまうと24時間以内に偶然の事故によって殺されてしまう。バナナの皮が事故の原因とか笑えて、リアルじゃないし、でも小さなトリックを重ねて重ねていくうちに複雑な世界観が見えてくるというようなエンターティメントです。でも、めちゃルール違反もあって、推理小説でそれをやっちゃあフェアじゃないだろ、それをやってはトリックも何もなくなってしまうというすれすれの作者の開き直りが笑えます。

●同じ人が書いた『ドS刑事』もそんなことになるはずじゃないというところに物語がころがって、こうだと言い切ってしまうところに驚かされます。

●『メルカトル鮎』のシリーズもどう考えてもそうでないだろというようなことを探偵がやってのけて、真実が塗り替えられてしまうような驚きがそこにはあります。似てませんか。

●最近、辻村深月を読み直したいという欲求がでてきて『本日は大安なり』を読んでいます。
ブランドホテルでのウェデイングを舞台に、それぞれの人のモノローグで構成されており、少しずついろいろな頃が明らかにされていくプロセスがとてもお面白いです。

●『僕のメジャースプーン』は衝撃的な物語です。罪と罰ということに関して考えさせられます。

●『凍りのくじら』は寄る辺のない女子高生が体験する傷を描いていますが、ドラえもんの世界とミックスしていて興味深いです。

●『ツナグ』は、感動しました。死者に会いたい、会えるということがどういうことなのか、人は自分を肯定しきることが必要なんです。

●『紙の動物園』は短編集でどれもオチがあってすっきりします。「僕のかあさんは中国人だった」の章がとても好きです。

●『接近』は、沖縄が戦争だった時代のお話です。主人公は11才の男の子なのですが、アメリカ兵が上陸してくる時に逃げそびれて、日本兵の手伝いをすることになります。そこでは悲惨な戦場が描写されます。そこでスパイとして送り込まれていた日系人もいて、いろいろな場面で日本兵より信じられると感じたり、いろいろなことを体験したりします。

●戦争ものでいうと『僕たちの戦争』はありえない設定なんですが、平成の青年が昭和19年にタイムスリップしてしまい、逆に昭和19年の海軍の青年が平成にスリップしてしまいます。平成に行った青年は、年上の者を敬わない風潮や様々なことに憤り、「こんな国にするために戦ったわけじゃない」と嘆きます。過去に行った青年はもう少ししたら終戦が来ると知っていますので、うまくやりすごして命を守ろうとします。ところがそこで知り合った兵士が海の特攻と言われる回天に乗って出撃することが決まります。そのとき青年はその彼が自分が残してきた彼女の祖父だと気づきます。この人が死ねば彼女の命はない。そこで苦しみの果て、自分が代わりを申し出ます。そうして平成の彼は海に出向き、昭和の彼も出撃をしていきます。そこで元の世界に戻れたかどうかは書かれていません。考えさせる物語です。

●浅田次郎の『獅子吼』は短編集ですが、戦時中の動物園が舞台です。戦況もひどくなって飼っている動物を殺していくことになります。人間は動物が何もわかっていないと思っていますが、動物は日本が戦争に負けつつあることも理解し、人間の話もちゃんと聞こえていて理解しているという設定です。主人公のライオンは餓死させられる対象となりますがそうせざるをえない人間を「かわいそうだね」「あわれだね」と感じています。そしてこのライオンは、自分は知らないけれど親から故郷の草原の話を聞いて育っており、思いを馳せます。「この青空は故郷に続いている」、そして撃ち殺されてしまうのです。

●戦争といってもインターネット上で闘う『サマーウォーズ』は名作です。
ソーシャルネットワーキングサービス上の異変が起こり、主人公は巻き込まれてしまいます。世界を救うということが彼の肩に背負われます。ネットワーク世界につながっており、世界中の人のパワーをもらい闘います。みんなに希望と勇気を与える物語です。

●前に話題になった『生者と死者』は、袋とじという仕掛け本です。最初そのまま読むと短編で、袋とじを破ると200ページもの長編になります。そしてその二つはつながっており、でも内容が変わっていくのです。おもしろいです。

●今まで読んだ中ですごいなと思ったミステリは貫井徳郎の『プリズム』です。
小学校の先生が死んで、教え子たちが犯人を推理していきます。いろいろ証明を重ねてこの人が犯人だとたどりつきます。するとすぐ次に犯人と目された男の視点での推理が始まります。果たしてだれが犯人なのか。それはわからないまま終わるのです。

●日常系ですが、『春期限定いちごタルト事件』はスイーツがでてきておいしいのですが、実は主人公の他にはないような性格が見ものです。

●コミックですが、『ブラックナイトパレード』はお薦めです。ニートが北極のサンタ会社に就職するところから始まります。免許も資格も取れる、住むところはいいし、食事も最高で福利厚生もバッチシ。でも何か裏がありそうというギャグ系だけど暗い系コミックです。

●『荒川アンダー ザ ブリッジ』はトップ企業の御曹司で人に借りをつくったらだめだと教えられた主人公が、ある女の子に溺れたところを助けられて彼女から「私に恋をさせてくれ」と頼まれます。そして二人は恋人同士となり、橋の下に住むが...というお話です。

●『オーバーロード』は、ゲームの世界に転生してしまったブラック企業で働くサラリーマンが世界侵略をしようともくろむ物語です。主人公はどくろです。

●太宰治の『人間失格』を読もうと思いましたが、挫折して「漫画で読む」でことなきを得ました。暗いのはつらいです。

●太宰でも『女生徒』とかは思春期の少女のみずみずしい感性がいいし、『富嶽百景』の描写なんてすばらしいし、「富士には月見草がよく似合う」などしみじみと読めますよ。

●『チュラブ』というのは、子どもたちで構成されたイギリス情報局のスパイ組織の活躍を描いた物語です。すこく面白いです。

●やはり『夜は短し歩けよ乙女』です。読みやすいし、不思議だけれど先輩に共感しまくりで楽しいです。

●『プロパガンダゲーム』は、人の心を変える広告心理の世界を描いて怖いです。戦争のできる世界とはこうして出来上がっていくのではと思いました。

●昔ながらの『あしながおじさん』ですが、岩波少年文庫が新訳を出したのをきっかけに5つほど訳者の違う『あしながおじさん』を読んでみました。どれも工夫にあふれていて良かったのですが、なぜ古いとだめなのかよくわかりませんでした。時代感の良さは何ものにもかえられませんし、私はどちらかというと古い方が好きです。

●今年ノーベル賞を取ったからというわけではありませんが、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』がよかったです。人間の尊厳を考えさせられます。

今年読んだ本でいちばんよかったのは?

●辻村深月さんの『かがみの孤城』は最高です。鏡の世界に集められた7名の少年少女は、孤独でみんなよりどころがなく生きています。アンバランスな思春期の少年少女たちが、問題を解決しながら進むと...。最後でびっくりします。読んでほしいです。

たくさん話題の出たブックカフェでしたが、時間も迫り終了いたしました。次回は1月が試験なので、新年度に行おうということになりました。

2017年12月19日(火)衣笠ブックカフェレポート

12月の晴れた寒空の夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。
今回の参加者は、産業社会学部の2回生の方、文学部3回生の方が3名、文学部2回生の方、文学部1回生の方、法学部2回生の方が来てくれました。

こんな本が話題になりました

●とにかく西尾維新の『十二大戦対十二大戦』がいちばんです。最初のやつは「子」から「亥」の干支による12の戦士がバトルする物語でこれはその発展系です。西尾維新はとにかく早く書く、情熱が失われないうちに早く仕上げるという手法の作家です。

●ライトノベルの『ゲーマーズ』読みました。ゲーム好きの男の子が女の子との出会いをきっかけにゲーム部に入り、勝利していきます。ただ本人は勝利よりもゲームを楽しみたかったので、いろいろ・・・という物語です。主人公が実況者になっているところが面白いです。

●この間ミステリー研究会のイベントで古野まほろさんが来校されました。古野さんは『禁じられたジュリエット』が最高です。もう一つの歴史を刻む日本の全寮制女子高校で、現体制化で退廃文学となっているミステリー小説に触れてしまった女子高生6人が反省室に収容されるのです。彼女たち「囚人役」6名と「監視役」の2名が更生プログラムに参加させられます。次第に対立を深めて、とうとう一人の命が奪われてしまいます。はたして...。

●島田荘司さんのファンです。『占星術殺人事件』は最高傑作です。あんなトリックがあったのかと目からうろこです。

●『すべてがFになる』は読んでおくべきで、いろいろシリーズがありますが、これは第3作か4作だったのが、編集者の判断で第1作に据えられたそうです。内容は、そこまでやるかというところもありますが、大成功でしたね。

●芥川龍之介の『桃太郎』ですが、ニートの桃太郎がとても独善的で、平和主義者の鬼たちを極悪非道にやっつけるお話です。桃太郎がひどすぎます。

●『魍魎の匣』は、いつものおどろおどろでけっこう複雑で体力がいります。これぞ京極夏彦?でしょうか。

●綾辻行人の『アナザー』もホラーですよね。犯人がなんと人間ではないところとかこわいです。

●『ソロモンの偽証』ですが、学校で転落死をした同級生の死の謎を校内裁判で解き明かそうとうする中学生たちのお話です。ちょっと長いので読みにくいですが、ネタとしてはめちゃおもしろいです。

●『君の膵臓をたべたい』ですが感動しました。暗い男の子とはつらつとした女の子。普段だったらクラスの中で交流することもない子たちが、女の子の病気をきっかけに触れ合うようになります。終わり方はびっくりです。こう来るかと思いました。

●大江健三郎に注目です。何しろノーベル賞作家です。『個人的体験』というのは大江の長男・光が脳の障害者であり、生まれて以来の葛藤、逃避などののち、受容するという物語です。

●『万延元年のフットボール』は谷崎潤一郎賞をとった名作で、精神障害の子どもを持つ主人公は、安保闘争にも挫折しよんどころのない人生に陥る。そんな時にアメリカから弟が帰国し、一緒に四国の山奥の故郷に戻ることになる。その時、曾祖父とその弟が万延元年の一揆の指導者だと知り、この百年前の兄弟に自分たちの姿を重ねあわせようとする物語です。

●谷崎潤一郎は関東大震災が怖くて関西に移住してきて、『細雪』はその辺からの耽美派らしい筆致で描かれた作品です。

●ピュアな恋愛ものと言えば『春琴抄』です。目の見えない琴のお師匠さんと身の回りを世話する男との物語ですが、女が高潔できつい性格で、でも男は女につらく当たられても尽くして尽くしてという関係性で、最後まで奉仕をやめないという驚きのラストです。

●谷崎は耽美派やマゾヒズムなどいろいろ言われていますが、美意識に関する純度も高くて、『陰翳礼讃』はおぼろげな暗さの中に日本の美を見出しています。

●さっきの女に男が被虐的は奉仕をする物語は『桜の森の満開の下』の怪盗と女の関係性と同じですよね。最後は桜の花びらの中にすべて消えてしまって美しいですが、空虚さが色濃く出ています。

●市川拓司の『ねえ、委員長』は短編集ですが、中学や高校を舞台に3組の男女が惹かれあっているのに卒業、転校、退学などを迎えて離れ離れになっていくお話です。すれ違いにならなさそうなスマホを見事にに登場させていないのはきっぱりしています。

●今読みかけですが、『ハリネズミの願い』というのが面白いです。ハリネズミはきっと精神分裂なんじゃないかと思ったりします。いつも「こうなってしまったら」「ああなってしまったら」と気に病んで他の動物を寄せ付けません。読んでいる自分が落ち込んでしまいます。こども向けの作品を書いている作家が大人向きに書いた作品です。

●瀬名英明さんの『八月の博物館』は現代の日本の博物館、19世紀のエジプト、1867年のパリ国際万博の3つの物語が交錯し、そして結びついていく作品です。

●瀬名さんと言えば『パラサイト・イヴ』で名を高めた人ですよね。生きているかのようなミトコンドリアの物語が面白かったです。

●伊藤計劃の『虐殺器官』と『ハーモニー』は面白いです。『ハーモニー』は『虐殺器官』で一つの体制が壊れたあとの世界を描いています。これが幸せだというのが提示され、人は考えることや判断力を失って暮らしています。そこで一人が疑問に思い、変わるのかとドキドキします。

●現世と異世界を描くということでは、村上春樹もその傾向があります。『1Q84』では昔から惹かれあった男女が、月が二つある異世界で出会います。ラストはハッピーを急ぎすぎた感じがします。二人が再開しなくてもと思ってしまいました。

●『ノルウェイの森』はかなり売れた作品ですが、精神病の女とヘタレ男が出てきて、読むのがちょっとつらくなります。

●けっこう春樹で好きなのが、『パン屋再襲撃』。新婚の夫婦が夜にとてつもない空腹に襲われる、その呪いは、夫が前に起こしたパン屋の襲撃が失敗に終わったからだ。でも今は深夜、パン屋は空いていない。そこで妻がマクドナルドへ行くことを提案する。マクドでハンバーグを300個注文する...。ちょっと不条理系?

●『夜のくもざる』は、短編集ですがちょっとおしゃれで読ませて、面白いです。ここから春樹を始めてもいいかもです。

●『騎士団長殺し』は、妻との離婚話から家を離れて、ある日本画家のアトリエで暮らす肖像作家は「騎士団長殺し」というタイトルの日本画を発見する。いろいろなものを解放した結果、不思議な現象が現れていく。様々なことが連鎖してそして...。

●ヘタレ男でいえば、佐藤正午の『ジャンプ』という小説は、一緒に暮らしていた彼女が突然姿を消して、なぜだと探し続ける男がいて、でも諦めて付き合いのあった彼女と結婚した頃、失踪した彼女と再会します。そして元カノの失踪の原因は、今の妻だった。大それたことをしでかして、男を手に入れていながら、自分の意志があったかのようにふるまわない妻が他人のように見えてしまう。というお話です。いちばん怖いのは人間かもしれませんね。

●面白くて知恵のつく、人の死なないミステリーがキャッチフレーズの『万能鑑定士Q』はとても面白いです。若くて美人で天然系の女性が男性助手を従えて大活躍をします。読んでね。

今年読んで面白かった本は何ですか?

●『コンビニ人間』。コンビニが何か違ったものに見えたり、作者の孤独を感じたりします。主人公は筆者をなぞらえていて、変わり者でふつうの人間らしく振舞えるようになることを目指して働いています。そしていつしか自分自身の場所としてコンビニに根付くのです。

●一番よかったのは『騎士団長殺し』では。春樹はやはりいいなぁ。

●『禁じられたジュリエット』がい一番でした。スピード感あり、冴えています。

●『壊れやすい自転車で僕はゆく』は夫婦の物語。自分にとって唯一の存在を大切に抱きしめたくなる本。

●サン・テグジュペリの『夜間飛行』は作者の飛行士という景観を生かしたリアリズムあふれる作品。人間の勇気と尊厳を問う物語です。

●湊かなえの『高校入試』です。高校入試を揺るがす事件が没発する高校が舞台のミステリーです。

●やっぱり坂口安吾の『桜の森の満開の下』です。

みなさんの今年一番の本は何でしたか。
今回も様々な本に対する意見がでました。次回は1月30日(火)です。

2017年12月21日(木)BKCブックカフェレポート

木枯らしの舞う夕方、BKCブックカフェが開催されました。今回は理工学部3回生の方、薬学部3回生の方、生命科学部院生の方が参加してくれました。ちょっと数は少なかったけれど、充実したひと時でした。

こんな本が話題になりました

●『夜葬』を読みました。B級ホラー系の作品で、これが作者の最初の本ですが、人の顔は神から与えられたものなので、死んだらお返しする。顔をくりぬいてそこにごはんをつめて食べるという風習が出てきます。ライブ感あり、疾走感ありで、一気に読めます。ホラー映画を見ている感じです。

●『アーカム計画』はロバート・ブロックのSFホラー小説で、10歳の時にラブクラフトに傾倒し、ラブクラフトとの文通でアドバイスを受け、10代で怪奇小説家としてデビューしました。映画「サイコ」の原作者としても有名です。この作品はクトゥルフ神話の入門書として最適です。現実世界のあやふやな感じとインスピレーションに満ちた感じで設定がとても面白いです。ブロックにとってラブクラフト=神話大系で彼への尊敬の産物と言えます。

●ラブクラフトは著作権フリーの作家で、いろいろなところに使われています。アーカムというのもラブクラフトがつくった想像上の街のことです。ラブクラフトはいいですよ。全集が出ているのでよかったら読みましょう。

●『本日は大安なり』はいろいろな登場人物のモノローグで構成されていて、事件が起こる予感がするのですが、上質のミステリー仕立てで面白いです。

●ドイツのSF作家たちが、かわりばんこに執筆していっている『宇宙英雄ペリーローダン』というシリーズがあるのですが、様々な作家が書くうちに設定が変わったり、いろいろ変遷を繰り返しています。今はあるのかなぁ。

●『ナルニア国物語』は現代的ファンタジーの始まりです。ワードロープが異世界と現世の入口となっています。行き来があるものはローファンタジーと言って、『指輪物語』のように一つの世界で完結しているものをハイファンタジーと言います。『ハリーポッター』はローファンタジーです。ナルニア国に出てくるターキッシュ・デライトという甘いお菓子があるのですが、それが日本語訳でプリンと訳されていて、適した概念のお菓子が日本にないから伝わる分かり易いお菓子に変えたのかなということで、翻訳ものは面白いです。

●『ハリーポッター』も訳ではいろいろ言われていますが、世界中でたくさん読まれたに違いないファンタジーです。でも18年後の物語は面白くないし、他のシリーズは評判悪いし、ローリングさんはこのシリーズだけで終わるのでしょうか。

●コミックのファンタジーといえば、山岸涼子さんの『妖精王』が好きです。療養で北海道に来た少年が妖精の世界に紛れ込み、使者クーフーリンを伴って、闘いの旅に出ます。
最後は水の中に隠された指輪を見つけることで「信頼」を取り戻し、「あなたが妖精王です」と認められるという物語です。出てくるディテールが面白くて、わくわくします。

●『フェイト・スティナイト』は原作者である那須きのこが中学時代にノートに書きつけていたもので、コミック・小説・アニメと広がりを持った作品です。英雄の魂を呼び出して戦えるという物語です。

●『古事記』や『日本書紀』は体制の正当性を主張したり、制度や文化を認知させる目的があってつくられたものです。『風土記』はみんなの共通項を表しています。昔のものですが、じっくり読むと面白いです。

●『NHKにようこそ』のNHKは日本ひきこもり協会の略で、ひきこもりの青年とそれを救うべく登場した少女を軸に、ひきこもりの葛藤を描いた作品です。私も許されればひきこもり生活をしたいです。ずっと家にいて平気なタイプです。

●『センゴク』は、ある武将が信長の手の内のものになり、失敗を繰り返しながら成長していく物語です。そして淡路島の大名にのし上がります。どのようにして戦国大名がうまれたのかが分かります。これを読んでいて、今川義元の見方が180度変わりました。民を統制し、幕府から独立し、貨幣経済を担っていきます。いままでのイメージと違って、再評価してしまいます。

●ケストナーの『飛ぶ教室』ですが、この間いくつかの訳を比べ読みをしました。最初に読んだのは、小学5年生の頃で小松太郎訳のものでした。マルチン・ターラーがクリスマスに家に帰れなくなったとき寝ながら「涙は厳禁」とつぶやきます。他の訳者は池田さんも高橋さんも、山田さんも「泣くこと厳禁」と書いています。どうしてもついていけない自分がいます。

●ファンタジー作家という括りでいったら、エリナー・ファージョンが好きです。いろいろ名作はありますが、石井桃子訳の『ガラスの靴』が好きです。シンデレラが元ネタですが、生き生きときついお話をさらっと書いていてうまいです。でも今は岩波書店のが絶版になっていて、新潮文庫で新訳が出ているけれど石井桃子訳を復活してほしいです。

●『処刑列車』は突然急行列車が6名の男女にジャックされます。犯人たちは何を要求するわけでもなく、ただひたすら乗客を処刑していきます。とてもグロいですが、逃げ出した青年が戻らないから恋人が殺されてしまうとか、その青年が戻らない限り乗客を殺し続けると宣言されて針のむしろに立たされてしまうとか、乗客が殺され続けるエピソードがひたすら続くのです。

今年読んでよかった本は?

●『雨月物語』が好きです。お坊さんが鯉になる話、ディベートする話とか、捕らえられて約束を守るために死んで魂になって戻ってくる菊花の契りとか面白い話がたくさんあります。

●『邪魅の雫』ですが、京極を読むのには体力を使います。長い言葉使いや独特の言い回し、そしてよくあるのは「前の何々事件では...」どの事件かよくわからんと迷います。

●『百鬼園随筆集』は、琥珀のことを学んだ時に閉じ込められた虫の気持ちになってしまうとか、日常を話題にした随筆がたくさんあります。文章が読みやすくてお薦めです。

●『屍者の帝国』は、伊藤計劃のプランを彼の死後、円城塔が書いたものですが、もう円城塔の色がたくさん出ている本です。伊藤計劃は0年代の最高のSF作家なので読みましょう。短編もお薦めです。

●これまでエンターテイメント系の小説しか読んでこなかったのですが『西の魔女が死んだ』は癒しを求めて読んでみました。思いがけず予想以上に良かった。すごく丁寧に書いてあって心情にピタリときました。

●『二十歳の原点』。「はたち」と読む人が多いですが、本には「ニジュッサイ」とルビが打ってあります。1969年の2月から6月までの日記です。理想と現実のギャップや生と死の間で揺れ動く心などが書かれています。タイトルは成人の日に書かれたという「独りであること、未熟であること、これは私の二十歳の原点である」という一節から取られています。
その危うさに共感して読みました。

いろいろお話は続きましたが、今回はラブクラフトとクトゥルフ神話のお話で大変に盛り上がりました。事務局が勉強不足でよく理解できなかったので、その躍動感をお伝えできず...すみません...。
次回は4月26日木曜日に仮置きされました。長いお休みになりますが、みなさんお元気でね。新年度にまたお会いしましょう。