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2019.06.13

5月のブックカフェレポート

ニュース

2019年5月16日(木)OICOICブックカフェレポート

夏を感じる日の夕方、OICブックカフェが開催されました。
今日の参加者は、心理2回生の方2名、心理3回生の方5名、心理4回生の方1名、政策1回生の方、2回生の方それぞれ1名の方が駆けつけてくださいました。
今回は「お薦めの本の交換会」と「本の中の気に入った言葉の紹介」も行いました。

こんな本が話題になりました

●僕の中学時代は、『ダレン・シャン』と『ハリー・ポッター』に埋め尽くされています。
『ダレン・シャン』は奇怪なサーカスを見に行った主人公が友人を助けるために世にも恐ろしいバンパイアと取引をするはめになり、半バンパイアと化してしまい葛藤するという物語です。『ハリー・ポッター』は1990年代のイギリスを舞台にした魔法使いの少年ハリー・ポッターの学校生活や、両親を殺した巨大な闇の魔法使いとの戦いを描いた物語です。
どちらも夢中で読みました。

●恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』は本屋大賞と直木賞をダブル受賞した名作ですが、若きピアニストたちが競うピアノコンクールが舞台の小説です。審査員の事情、参加ピアニストの事情、魅力あふれる登場人物が登場する中、物語は音楽にあふれています。すべての曲を聞きながら読みたいくらいです。コンクールにチャレンジする大変さ、音楽を生み出すのは才能ただそれのみの世界。その中でコンテスタントたちは自分の表現を全う出来るのか。どんな結果なのか、わくわくします。

●有川浩が好きです。中でも『レインツリーの国』は傑作です。もともとは『図書館戦争』の第2弾『内乱』の中のあるエピソードの架空の小説として登場しましたが、それを描き下ろしの恋愛小説として刊行されました。小説の感想を書くウェブサイトで知り合った男女が困難を経て結ばれます。障害者と健常者の恋という難しいテーマを扱っています。小説の中の好きな言葉は『レインツリーの国』のあとがきを紹介させてください。 「分かったつもりでわかっていない、わかったふりしかできていない。後からそんな自分を振り返るときの自己嫌悪といったらありません。
しかし、何度でも自己嫌悪するしかないのだと思うようになりました。常に適切な振る舞いが出来ないとしても、その度にそんな自分の思い知ることは無意味じゃない。そう信じるしかない。次から気をつけよう。なんどでもそう思うしかない。立派で正しい人になれないのなら、間違って打ちのめされる自分でいるしかない。少なくとも、何も感じなくなるよりは間違って打ちのめされる自分でいるしかない。少なくとも。何も感じなくなるよりは間違う度に打ちのめされる自分でいたい。」とても感銘を受けました。

●『星に願いを そして手を』は中学3年の夏休み、幼馴染4人は街の科学館のプラネタリウムに併設された図書室で勉強会を行っていた。そんな彼らを館長はにこやかに向かい入れ、星や宇宙の話をしてくれた。そして成人してそれぞれの道を歩む彼らは、館長の死をきっかけに再び集まる・・。あの頃の自分と今の足りない自分・・。科学館の閉館と館長の死は彼らに何をもたらすのか。中学の星好き、イイなぁと読んでいると突然視点が変わって10年後が描かれる。細かくよくできたお話・・。これを16歳で書くとはすごいな・・。

●西加奈子の『i』を読みました。「最近愛が足りない。愛について書きたい」と思って書いた小説だそうです。シリアで生まれた女の子はニューヨークで養子になり、小学6年の時に来日します。女の子、恵まれた環境にいることを受け入れることが出来ずにいます。貧しい国からセレブに引き取られた自分。選ばれた自分がいるということは選ばれなかった自分がいるということ。高校生になった女の子は数学教師から信じられないことを聞きます。「この世界にアイは存在しません」『サラバ!!』以来、世界と深くかかわる物語です。

●西尾維新の『りぽぐら!』を読みました。リポグラムとは特定の語、文字を使わないという制約の元、書かれた小説です。西尾維新の言葉の持つ無限の可能性に挑んだ意欲作です。
まず何の制約もなしに短編小説を書きます。そして五十音46文字から任意の6文字を選択します。あとの40文字をそれぞれ10文字ずつ4グループにして、今度は、その10文字を使わずに最初に書いた短編小説を書いていきます。3編5通り、計15編のリポグラミング小説を味わうことが出来ます。こいつできるなぁ、こう来たか!と思わせられます。

●『ReLIFE』は2013年からマンガアプリcomicoで連載された学園コミックです。受験や就職につまずき続け、無職となった主人公が社会復帰の実験として高校生活をやり直す姿をコミカルに描いています。

●APUの出口先生の『おいしい人生を生きるための授業』を買いました。せっかく生きているのだからまずいよりはおいしい人生を生きたい。どうしたら生きられるのかが書かれています。幸せってなんなのか。仕事ってなんなのか。社会と政治とは?勉強するって?
生きていくために必要なことが、分かり易い言葉で分かり易く書かれています。すぐ読めます。すぐためになります。

●『デスノート』はおもしろいです。名前を書いた人間を死なせることが出来るという死神のノート「デスノート」を使って、犯罪者を抹殺し、理想の世界を作り上げようとする夜神月。そしてその夜神月と世界の名探偵Lたちによる攻防戦が描かれます。

●最近吉本ばななを読み始めました。『キッチン』とか『TUGUMI』とか。少女まんが的という声もありますが、心のひだというか、細かな心情を定年にすくい取ってくれていて、すごく共感できます。好きな言葉はばななのどの本にあったか忘れましたが、「すきなん?」という問い合わせのあとに「強いて言えば顔や性格を知っている女の子の中でいちばん好き」というセリフにぐっとくるなぁ。

●『東京喰種(グール)』は絵がとてもきれいで繊細なのに話はとてもグロい。でも表現はとても文学っぽいです。お話は人の姿をしながら人肉を喰らう喰種(グール)が出てきます。
事故で喰種の臓器を移植されたことで半喰種となってしまった主人公。心は人間なのに人肉を食べないと生きていけないという葛藤。読んでいて苦しいです。
このコミックで気に入ったセリフは「この世の不利益はすべて当人の能力不足」です。

●コミックで好きなのは『いちご100%』です。中学3年生の主人公はある日屋上に出ようとしたところ、頭上からいきなり女の子が飛び降りてきた。その娘のスカートはめくりあがり、イチゴ模様のパンツが丸見えだった。夕日の中の彼女は、とても美しい人だった。でも名前の書かれたノートを残して彼女は消え去ってしまう。後日、ノートの名前の彼女に行き当たったけれど、おさげ髪に黒縁眼鏡姿で野暮ったいほど地味だったため夕日の彼女ではないと思い込んでしまいます。謎の彼女を追いながら他の娘との付き合いもはじまって・・というラブコメディです。

●手塚治虫は『火の鳥』とか読みましたが、なかでも『三つ目がとおる』が好きでした。
ぼんやりしたおでこに絆創膏をはった写楽保介は、いったん絆創膏がはがれるとおでこの目が開眼し、とても優れた天才的な頭脳を発揮して、いろいろなこと、特に古代ミステリの謎を解決するという物語です。ただ人格も怖くなっていきます。和登さんという女子高生が巻き込まれ型のパートナーとして登場します。

●私は『ブッダ』を読みました。私の仏教の知識はこの本以外はありません。

●手塚先生を頂点としたトキワ荘の物語は興味あります。藤子不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎とか、たくさん漫画家が排出されました。

●コミックでいうと『サトラレ』が好きでした。「サトラレ」とはあらゆる思考が思念波となって他人に伝わってしまう症状、またはその人を言うそうで、サトラレは例外なく天才だけど、本人に告知すればすべての思考が周囲に知られる苦痛から精神的崩壊を招くために国が本人にけっして知られることなく保護している、というところから物語は始まります。自分の思考がすべてバレバレなんて考えたらすごく怖いですよね。

●『ReBORN』は運動も勉強も何もかもダメダメな少年の前に家庭教師が現れます。それはヒットマンを名乗る赤ん坊。ヒットマンの目的はただ一つ。イタリアンマフィアの10代目として少年を育て上げること。絵も綺麗で読みやすいし中二病を卒業した人ももう一度中二病になるくらいの面白さです。

●『嫌われる勇気』は「人間の悩みのほとんどは人間関係の悩みである」と語っています。
そのアドラー心理学を哲学者と若者の会話を通して分かり易く解説をしています。

●『イノセント・デイズ』は、30歳の女性の死刑囚が主人公です。元恋人の妻と1歳の子どもを死に至らしめた彼女は、現在死刑囚として生きています。その彼女のこれまでの人生を読み解き、本当に罪を犯したのかを問います。自分から死刑囚を選んだくらい、つらい人生とは?が明かされていきます。暗くてしんどいけれど読みがいがあります。

●『星の王子さま』ですが、あらためて読み返すと深いなと思います。児童小説の体裁を取りながら、その実は子供の心を失ってしまった大人に向けて書いています。生命とは?愛とは?生きていくうえで大切なことですよね。

●『夜は短し歩けよ乙女』を読んで京都に来たくて立命館に入りました。なのに大阪です。
気付かずに学部を選んでしまいました・・・。いつか住もうと心に誓っています。
◎小説のあらゆるところが京都ですよね。電気ブラン飲みました。まずかった・・。
◎韋駄天こたつって笑えますよね。この間真似していてニュースにもなりましたよね。交差点にこたつを出して鍋をするという・・・。絶対、森見を読んでいますよね。
◎黒髪の乙女の「おともだちパ~ンチ!!」やってみたいです。

●西尾維新の「戯言シリーズ」は、零崎がとてもいいです。僕の気になる小説の中の言葉は零崎のセリフです。
「殺して(ころして)解して(ばらして)並べて(ならべて)揃えて(そろえて)晒して(さらして)刻んで(きざんで)炒めて(いためて)千切って(ちぎって)潰して(つぶして)引き伸ばして(ひきのばして)刺して(さして)抉って(えぐって)剥がして(はがして)断じて(だんじて)刳り貫いて(くりぬいて)壊して(こわして)歪めて(ゆがめて)縊って(くびって)曲げて(まげて)転がして(ころがして)沈めて(しずめて)縛って(しばって)犯して(おかして)喰らって(くらって)辱めて(はずかしめて)やんよ」すごい印象的ですよね。いたぶる言葉をよくもこれだけ並べたものです。
※読み仮名は筆者がつけました。

●『幸色のワンルーム』はありえない設定のお話です。「お兄さん」に誘拐された14歳の少女「幸(仮名)」が「お兄さん」といっしょに幸せを求める話です。主人公は学校でも家でもいじめと虐待で、いる場のない状況で、不幸せです。誘拐されたのに今よりその状態が幸せと感じる不幸な状況なのです。テレビドラマにもなりました。

●『トリマニア』は世界で唯一翼を持った人間が住む共和国です。そこに留学を決めた少女。
三人のトリマニア人の複雑な三角関係が繰り広げられます。現実的なアレンジがほどこされたファンタジーです。三人は踏み込めない領域を持ちながら恋愛をしています。そのリアル感がすごいです。それぞれの恋愛観が全く違っていてちょっと後向きなところも現実的です。

●伊坂幸太郎の最新刊『シーソーモンスター』を読みました「我が家の嫁姑戦争は米ソ冷戦より恐ろしい」で始まるこの本は、バブルに浮かれる昭和後期のどこにでもある家庭を書いているように思われたが、嫁が国家の諜報部員だった!!!・・・こう書くと陳腐ですが、これで終わらない仕掛けが満載であっと驚かされます。そして第2部は2050年となり、ある青年が巻き込まれて、ミッションを実現すべく翻弄する。そこには恐ろしい国家機密があった!ちょっと『ゴールデンスランバー』的なジェットコースタードラマで損はしません。

●森見登美彦の『熱帯』を読みました。不可思議な物語で現実と非現実との境目がなくなり、その間に落ち込んで抜け出せなくなるような感覚がします。『熱帯』という本を熱に浮かされたように求める人間たちの危うさが怖い。誰もが知っている『千夜一夜物語』を誘い水に、冒険が始まります。そして読み進めるうちにこの本の持つ熱量に充てられ、体力を使い果たしてしまう感じでした。大地や宇宙の理(ことわり)まで書き表しているような壮大なミステリーを感じました。

●私のお薦めの小説の中の言葉は、『砂漠』の中で、大学の学長が話した「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」というセリフです。どれだけ自分のことを考えてくれる人を持つかというのは贅沢な財産なんだと思います。伊坂は名言集を出せるほど名言が多いです。

あっという間に時間が過ぎてしまいました。

2019年5月28日(火)衣笠ブックカフェレポート

雨の降り続いた日の夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。本日の参加者は、文学部1回生の方お二人、文学部3回生の方お二人、文学部5回生の方、産業社会学部1回生の方お二人、4回生の方が参加してくださいました。4月に初めて参加して「面白かったので来たよ」と言ってくれる人もいて嬉しかったです。今日初めての方も3名いらっしゃいました。

こんな本が話題になりました

●『アーサー王はいかにして日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか』の岡本広毅先生のライスボールセミナーに行ってきました。アーサー王というのは、6世紀初め、ローマン・ケルトのブリトン人を率いてアングロサクソン人の侵攻を防いだ人物とされています。一般に知られるアーサー王物語はほとんどが民間伝承や創作によるものだそうです。本当に実在したか?について歴史家の間でも論議中だそうです。今度のふらっとでのトークイベント、楽しみにしています。

●有川浩が好きです。一番好きなのは『塩の街』です。丁寧に描かれているところや、その躍動感が好きです。
◎自衛隊三部作が面白いですよね。『空の中』『海の底』とか。どれも一所懸命さにあふれています。そしてこれは有川浩の特徴ですが、読後感がすごくいいです。他にも「自衛隊モノ」ってありましたか?
◎『空飛ぶ広報室』は航空自衛隊の広報室が舞台ですが、とてもおもしろかったです。ドラマも良かった。東日本大震災が起こった2011年に刊行予定だったのが、その大震災を盛り込むために刊行を遅らせたそうです。
◎僕は何と言っても『キケン』です。ありえない設定ですが大学生活の醍醐味が味わえます。
◎最後に泣けます。大学生にイチバン読んでほしい本かもしれませんね。
◎最初に読むなら『阪急電車』かもしれませんね。小さな物語がいくつもあって、それが阪急電車でつながっています。

●村上龍の小説とかを読んで感じるのですが、病んでいないと小説は書けないかも・・と思います。精神が健康だと創作へ向かえない感じがします。他に楽しいことがいっぱいあるわけですから。

●この間あった映画の『シン・ゴジラ』ですが、最初に宮沢賢治の『春と修羅』が映っています。これはメタファというか、シン・ゴジラは現象的な攻撃では撃退できなかったけれど、違う対象として見るとやっつけられた、というところにあります。

●『春と修羅』は、宮沢賢治の口語で書いた詩集です。「おれは一人の修羅なのだ」という箇所に象徴されるように。春の情景と心象風景という内面と外景の対比がとても印象的です。
◎『よだかの星』のよだかは、美しいせみすずめやかわせみの兄でありながら不格好なため鳥たちに嫌われています。彼はついに生きること絶望し、故郷を捨てます。太陽に向かって「あなたのところへ行かせてください」と頼むけれど、おまえは夜の鳥だから星に頼むようにと言われます。でも星々にも相手にされません。命を懸けて夜空を飛び続けたよだかは、いつしか青白く燃え上がる「よだかの星」となるという物語です。自らの「存在」への罪悪感から体を燃やして星へと転生するよだかの姿は賢治の仏教思想とも関わりがあるような気がします。
◎面白いのは、『注文の多い料理店』ですよ。狩猟にやってきた二人の青年紳士が、迷った先で1軒のレストラン「山猫軒」にたどり着きます。すると「当軒は注文の多い料理店です。そこはご承知ください」と但し書きがあります。次のドアを書けると「髪をとかして靴の泥を払ってください」とあります。そして注文は衣服を脱がせ、貴金属を取り外させ、最後に身体に塩をもみこむように指示されます。ようやくこの西洋料理店は来た客を食べてしまう料理店だと気付いた二人は果たして・・・というお話です。怖いです。

●『浜村渚の計算ノート』は中学の時から読んでいます。これを読んで数学が好きになりました。数学を題材にしたミステリー作品なのでとても読みやすいです。執筆のきっかけは中学生に「数学なんか勉強して一体何になるの?」と問われて自分なりの答えを見つけようと始めたのがこの作品だということです。

●伊坂幸太郎の作品の中では、『マリアビートル』が好きです。『グラスホッパー』に続く殺し屋シリーズ第2弾ですが『マリアビートル』の方が好きです。極悪人とお調子者がでてきます。
◎『アヒルと鴨のコインロッカー』も面白いです。仙台舞台の学園ものですが、2つの時系列の物語が同時進行していきます。これはゼッタイ映像化は無理!!と思っていたのにうまく作っていました。原作を知っているのにあっ!と驚きました。
◎『死神の精度』も傑作です。人間の生き死にを査定する死神が出てきます。仮に「千葉」と呼ばれていて、何の感情も持たず、仕事を遂行していきます。音楽が好きだったり、人間界の風習を愛しんだり、超天然なところも魅力です。

●村上春樹を好きな人を「ハルキスト」と呼ぶと村上春樹に怒られます。「村上主義者」と呼べと春樹自身が言っています。『騎士団長殺し』は、妻との離婚話から家を出て日本画家のアトリエ住まいをすることになった主人公が、そこで「騎団長殺し」という名の日本画を発見します。そこからさまざまな不思議な出来事に巻き込まれていくと言う物語です。

●『1Q84』はしばらくたってから第3巻が出て、こんな終わり方なんだ、と思いましたが、『ねじまき鳥クロニクル』も2巻が出てから、3巻目が出るのが遅くて、こんな終わり方かよ、とフラストレーションを募らせました。3巻が出てよかったです。
◎『ノルウェイの森』は病んでいる人たちの物語で、少し読むのかきつかったです。
◎でも、病んでいる時に楽しい本も読みにくいので、ぴったりかもしれません。
◎相対的にバランスがよいのは、『色彩を持たない多崎つくる彼の巡礼の年』です。この物語は負の要素からはじまる小説で、主人公の発見気づきから、これまで背負ってきたことを解消していきます。

●僕は山田詠美が好きなのですが、いちばんのお薦めは『放課後の音符(キィーノート)』です。女の子5人の恋愛譚が出てくる短編集です。あるお話は、夏休みを終えたあと、大人びた女の子が、実は口のきけない青年と恋をしたのが大人びた理由だととわかるとか・・。
女の子であることに誇りを持っていることが伝わります。
◎山田詠美だと『僕は勉強ができない』がよく読まれていますね。勉強はできないけれど恰好よくて女の子にもてる主人公。小さな苛立ちややり場のない怒りをきっと晴らしてくれます。

●僕は、『GOSICK』以外の桜庭一樹が好きです。痛みと喪失を感じる物語です。
狭い世界の中であえぐ様子があの時代の一過性のものかはわかりませんが、とても惹かれます。
◎『推定少女』もいいです。二人の少女のハンパない荒唐無稽な出会いとその語の展開。
ブレーク前の桜庭一樹の傑作です。
◎『赤朽葉家の伝説』は、壮大な3世代に渡る歴史物語です。骨太の作品で桜庭さんとしてみたらちょっと珍しい作風かもしれません。読み応えがあります。

●実は横溝正史が好きです。『犬神家の一族』は代表作ですが、いちばん好きです。映画も何本もありますが、金田一耕介が石坂さんの分が好きです。本当になりきっています。
◎一人で村人30人も殺したという「津山三十人殺し」というのがありますが、これが『八つ墓村』のベースになっています。本当に恐ろしい事件で恨みから刀や猟銃で村人30人ほとんどを殺してしまい、犯人も自害をしてしまいました。そのおどろおどろな感じが出ています。『獄門島』は封建的な風習が残る孤島で、戦死した友人の頼みによって、島に渡り、そこで起こったさまざまな殺人の謎を解きます。

●マリア・テレジアが娘のマリー・アントワネット(ドイツ名マリア・アントニア)との往復書簡が本になっている『マリー・アントワネットとマリア・テレジア 秘密の往復書簡』は、娘の輿入れから自らの死の瞬間まで天真爛漫な娘を諭し続けたマリア・テレジアの激動の11年間を秘密裏に語る本です。
◎フランス革命というかフランスのことを知りたければ、『レ・ミゼラブル』を読むといいかも。フランス革命後の王政復古の時代を描いています。その当時の庶民の貧しさや理不尽さが伝わります。
◎『モンテ・クリスト伯』も名作です。でも児童文学の『岩窟王』の方が読みやすくてテーマも絞れていて良いです。その頃の日本の訳者はやっぱりすぐれていると思います。細かいことよりも大枠でその本の魅力を伝えきっています。

●よく読まれている三島由紀夫の『金閣寺』も病んでいる男の話ですね。崩壊させてしまおうという気持ちと揺れ動く気持ちの対比が伝わります。

●安倍公房は変わった作風ですが、そこにはかすかな理性が存在するように感じます。
◎カミュとカフカと揃えば不条理三人組ですよね。『異邦人』もまったくワケがわかりません。でも読むうちに受け入れている自分がいます。理屈で説明がつかないというのは魅力なのでしょうか。

●『第二の性』はフランスの実存主義者のボーボワールが女性の待遇について歴史的に考察を述べた本です。「女性は女に生まれるのではない。女になるのだ。」は有名な言葉ですね。
◎私的感想ですが、ボーボワールは男女同権論を解きながら、サルトルとの間で結婚しない対等な関係を築こうとしたけれど、失敗だったような気がします。結局サルトルは好き勝手に女性と関係を持って、結果としてボーボワールを悲しませて、でもそれを受け入れないのは意識が低いと言われる関係なんて・・・どうでしょうね。

●哲学を学ぼうとするには、とてもよい本があります。ふらっとに置いてありますが、『史上最強の哲学入門』という本です。ソクラテスやデカルト、ニーチェなど偉大なる哲学者たちが繰り広げてきた頭脳と頭脳の闘いの歴史を分かり易く噛み砕いて書き記した本です。

●朝井リョウさんが好きです。特に『少女は卒業しない』は思い入れを持って読みました。
『星やどりの声』は家族の温かい話が胸に沁みます。『チア男子』はアニメや実写が有名ですが、はじける青春もので、楽しいです。

●手塚治虫の『火の鳥』は必読です。様々なテーマでいろいろな時代を描く物語ですが、最初は「黎明編」で昔の日本を描き、次の作品はメガロポリスでコンピュータに支配される未来の末期の世界を描いています。始まりと終わりをまず提示して物語は始まるのです。

●SFでいうと小松左京の『神への長い道』なのですが、21世紀に生きる主人公は精神の再生を未来に求めて、無期限の冷凍睡眠に入ります。3500年後に目覚めた主人公が目にしたのは変わらない人類の姿だった。果たして彼は何を選択するのか?というお話です。
◎小松左京といえば『日本沈没』しか思い浮かびません。ノスタルジーを感じるお話ですよね。故郷である日本が無くなるという設定がすごいです。
◎筒井康隆の『日本以外全部沈没』もすごいです。『日本沈没』が出たあとの2週間で書き上げたそうです。世界が沈没して日本だけが残るという荒唐無稽な小説で、面白いです。
◎最近ライトノベル流行りですが、筒井康隆は日本で最初にライトノベルを書いたのは自分だと豪語しています。
◎アニメの?
◎アニメは後日談です。映像で言えば「原田知世版」を見ましょう。けっこう名作です。

●P・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』はSFですが、SFの定番中の定番だと思います。人間とアンドロイドの区別はどこなのかわからなくなってきます。
◎ハインラインの『夏への扉』も読んでスカッとするSFです。タイムマシンとコールドスリープが出てきます。でも一番の注目は猫がかわいいというところです。

●伊藤計劃の『屍者の帝国』は作者が死の淵にいたからこそ描けた世界だと思います。
◎ほとんど円城塔チックですけれどね。
◎円城塔の『これはペンです』はめちゃ面白いです。文章の自動生成装置を発明した叔父とその姪が出てくる物語と存在しない街の記憶を浮遊する父親と息子のお話が入っています。
読むことと書くことの根源に迫る物語です。

●世の中の物語のキャラは二人を対峙して描くものが多いですよね。ホームズとワトソンとか、一人を語り部に据えるとか、対比することでお互いを輝かせるとか・・。
◎それでいうと手塚治虫の『三つ目がとおる』もそうした枠取りがされています。絆創膏をはった写楽保介が絆創膏をはがすと天才的になるという設定で、ワトソン役に同級生の和登さんが出てきます。これも古代のミステリーの謎解きなどもありめちゃ面白いです。

●『ビブリア古書堂の事件手帳』のスピンオフ作品なのですが、『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』という本があります。鎌倉のとある高校で友人には内緒で小説の朗読配信を行っていた主人公は、ある日その小説ノートを破棄してしまう。拾ったのは図書委員のこぐち。こぐちは利用者のほとんどいない旧図書室での読書を楽しみにしていた。
知り合った二人は旧図書室を守るためオリジナルルールの書評バトル「ビブリアファイト」に挑むことになった・・という物語です。このビブリアファイトでは実際の名作が多数紹介されるのが醍醐味となっています。

●有名は『涼宮ハルヒ』のシリーズですが、この間カバーの絵柄をチャンジして刊行されています。筒井康隆が解説をされていたりしてして注目です。

●辻村深月が書いた「ドラえもん」の映画原作ですが、読もうと思ってまだ読めていません。
◎『映画ドラえもん のび太の月面探査記』ですね。これは子供には無理ですよ。わけがわからないと思います。異説クラブメンバーズバッチというのが出てきますが、これをつけた人間だけが、異世界を体験できるというものです。辻村深月の「ドラえもん」愛が爆発しています。

●『聲の形』は、聴覚障害によっていじめを受けるようになった少女と、彼女のいじめの中心となったのがきっかけで孤独に悩む少年と二人の心のふれあいを描く物語です。
「聲」という表記にしたのは気持ちを伝えるのは声だけじゃないという意味をこめたそうです。

●トロイア戦争は、実際に起こったことですが、伝説上人々が増えすぎて人間を減らすために戦争を神が起こしたとなっています。
◎伝説といえば「ノアの方舟」もよく聞きますが、全世界で洪水伝説があるというのはやはり実際あったことなのかと思いますよね。
◎虐殺というか現代でもあったのが「地下鉄サリン事件」ですね。村上春樹の『アンダーグラウンド』を読むとよくわかります。『アンダーグラウンド』は地下鉄サリン事件の被害者やその関係医者に村上春樹自身がインタニューをしたのをまとめたものです。「そのときに地下鉄の列車の中に居合わせた人々は、そこで何を見て、どのような行動をとり、何を感じ、考えたのか」を見極めようとした作品です。『神の子どもたちはみな踊る』は阪神・淡路大震災について書かれた本です。地下鉄サリン事件との関連についても書かれています。ある種の圧倒的な暴力について書かれています。深いです。

あっという間に2時間が経ってしまいました。次回は6月25日開催になりました。

2019年5月30日(木)BKCブックカフェレポート

少し涼しい風の感じる夕方にBKCブックカフェが開催されました。今日の参加者は、理工学部1回生の方、理工学部5回生の方、理工院M1の方、経済学部5回生の方で比較的落ち着いた年齢の方の集まりとなりました。

こんな本が話題になりました

●大阪心斎橋の「トイブックス」という本屋があるのですが、けっこうとがった本を置いていて面白いです。そこで『セリー』という本を買いました。コミックなのですが核シェルターで生まれた青年とその青年の面倒をみるアンドロイドの女性の物語です。アンドロイドが母親のように本の読み聞かせをするとか、静かな日常が過ぎていきます。とても雰囲気のよい本です。

●『歌舞伎はスゴイ』という本が面白かったです。どんな名優たちがどのように歌舞伎の歴史を切り開いて来たか。最初は女歌舞伎から始まったとか、裏方たちの発明や工夫の数々などオリジナリティあふれるその文化を余すことなく書いています。この作者は、『吉原はスゴイ』や『江戸はスゴイ』なども書いていて江戸時代を知るのに必見の書です。

●『脳はバカ、腸はかしこい』は「腸が脳を支配している。ダイエットが失敗するのも、タバコがやめられないのも、勉強がうまくいかないのも、腸を鍛えていないから」と主張しています。腸を鍛えて脳の暴走を抑えることで幸せな人生が送れるということです。

●最近、小川洋子をよく読みます。『博士の愛した数式』で有名ですが、真綿で心をしめつけるような悲観主義を感じます。かなしい終わり方の小説が多いです。そこに惹かれます。

●6月20日に衣笠ふらっとで行われる松尾先生のイベントをとても楽しみにしています。
最近『反緊縮!宣言』という本を出されましたが、先生はアベノミクスは評価しています、でも評価していると公言するといろいろ難しくて、ということみたいです。また沖縄は基地があるから潤っているといわれていますが、基地がない時もそんなに変わっていなかったと聞きます。生活史に基づいた聞き取り調査を続けていらっしゃいます。

●『社会学はどこから来てどこへ行くのか』は、例えば経済に行動経済学が出てきて何年か立ちましたが、これは今まで社会学でやっていたことが語られています。行動経済学というのは言うなれば心理学と経済学の融合です。心理学に追いつき追い越された時、社会学にいったい何が残るのか難しい命題です。

●『八九六四』は天安門事件についてその関係者にインタビューをしてまとめた本です。
天安門を経て今の中国に何を感じているのか。結局中国は崩壊しません。中国は強いということがわかります。

●『ドラゴンラージャ』はとても面白いです。ファンタジーでその架空の世界がよく作りこまれています。一人称で物語が進むので、感情移入がしやすいです。また登場人物同士の掛け合いが秀逸です。信じる神ごとに挨拶の言葉が違うとか、結局は魔法と剣の世界の出来事ですが飽きさせません。

●児童文学ですが、『若おかみは小学生』は注目の本です。映画では、親が死んでトラウマを抱えている様子から入ります。それで祖父母に引き取られるのですが、主人公はなんと幽霊が見えるようになります。それは死にかけたからという設定です。彼女は負けずに旅館を盛り上げていきます。面白いのですが、めちゃめちゃ長いのが難点です。

●長いといえば、はやみねかおるの『都会(まち)のトム・ソーヤ』のかなりのものです。
二人の主人公が究極のゲームを作ろうとする物語です。

●宗田理の『ぼくらの7日間戦争』は伝説の本です。これは仙台市青葉区が舞台ということですが、1学期の終業式のこと、1年の男の子が行方をくらませます。実は、荒川河川敷の廃墟工場に立てこもって、校則や勉強を押し付ける教師や親に反旗を翻します。

●『ズッコケ三人組』の定番ですね。映画やテレビドラマにもなっています。3人の小学生の物語があらゆるテーマで書き続けられています。

●子どもも大人もみんな読んだのが『窓際のトットちゃん』は黒柳哲子の小学校時代の完全ノンフィクション小説です。トモエ学園の教育方法や延長の人柄など学ぶところが多く、またいわさきちひろの絵がかわいくて、夢中で読みました。

●『ニルスの不思議な旅』って覚えていますか。少年ニルスが妖精によって小人にされ、ガチョウのモルテンやガンの群と一緒にスウェーデン中を旅する物語です。もともと子どもたちがスウェーデンの地理を楽しく学べるように学校が作者に依頼したものだそうです。
そんなこと関係ないくらい物語に入りこんで楽しみました。

●マーク・トウェインの『トム・ソーヤの冒険』はトムがミシシッピ川のほとりの小さな自然豊かな街で友達といろいろ冒険を繰り広げる物語です。

●ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』は少年たちだけで無人島に漂流してしまった彼らが、力を合わせて生活していく物語です。主人公ブリアンが中心となって整えていく姿や、秘密を抱えた弟の存在、対決するイギリス人のドニファンたちとの争いなどいろいろ激動の生活が繰り広げられます。

●夏に向けてホラー小説が恋しくなる季節ですが、鈴木光司の『仄暗い水の底から』は心底怖いです。水をテーマにしたホラーなのですが、水の様子が湿っぽくてジャパニーズホラー全開という感じで楽しめます。

●小野不由美の『残穢』は作家の主人公は都会のマンションで起こる怪異な出来事にせまっていく物語です。実在の作家が出来来るなどドキュメンタリーの様式となっていまいわくつきの土地から始まるホラーストーリーです。

●今邑彩の『よもつひらさか』は読むのが怖くなるほど怖いホラー小説です。ネタバレになるのでいえませんが、一度読んでみてください。
◎私はこの作品を読んで、今邑彩の作品を全部読みました。

●話は変わりますが、『シャトウーン ヒグマの森』は、アニマルパニック&サバイバル小説です。人間たちが野生のヒグマに次々と肉を食いちぎられ、骨を砕かれる場面が出てきます。そのリアルな残酷さは他ではない残酷さです。このようなヒグマを生み出した原因は生態系を壊した人間たちにあると述べているところも怖いです。

●『成功する人は缶コーヒーを飲まない』は普通のサラリーマンがビルゲイツや孫正義のように燃費よく仕事ができるかといえば疑問であるが、良い栄養素を体に取り組むことで、良い結果が得られる、すべては食べものが決めるという本です。役立てましょう。

●『イノベーションのジレンマ』は大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した本です。
大企業にとって、新興企業の事業や技術は小さくて魅力なく思えて、自社の商品の改善だけに目を奪われ、顧客の別の需要には目が届かない。そのため既存の商品には劣るものの新たな特色を持つ商品を売り出した市場への参入が遅れてしまう。レンタルビデオを行っていた会社が、ビデオの配信に時代にあって、いままでのしがらみを切れず、新しく配信を始めた会社に負けてしまうのと同じことであるとかいろいろ学べます。

●『宇宙倫理学入門』は宇宙開発における倫理学について考察しています。宇宙開発は公的に行われるべきか、リベラルな宇宙開発とは何か、宇宙で暮らせるようにする人体改造の是非は?など宇宙植民について考えされられます。

●みなさん、映画の「風の谷のナウシカ」はご存じですか。ナウシカは人類と自然の再生について描かれていますが、そこに出てくる腐海とは何をあらわしていると思いますか。汚染された大地に広がる腐海。たとえどれだけ腐海が清浄化されても、それに毒されて慣れきった人間は腐海が解決された世界に棲めません。宮崎駿の描いた「ナウシカ」は映画の世界だけでは終わらず終末を描いています。ナウシカがどのような選択をするのか、宮崎駿の意思が感じられます。物語において西洋思想をとっぱらうというのは難しいことです。国家というのはどこまでもなくならないと思えます。

●『もうすぐ絶滅するという煙草について』は、現在の愛煙家の肩身の狭さが迫ってきます。
「体の健康より魂の健康」を求めるとし、煙草をやめられない人々、芥川龍之介や開高健、筒井康隆などなどが描く作家と煙草に関する異色アンソロジーです。でも最近は禁煙に対してあまりにもヒステリックになりすぎていると思います。

●伊藤計劃の『ハーモニー』は世界が崩壊したあとの管理社会について描いています。健康で生きることが幸せだと提示され、疑うべくもなく幸せな人生を生きていると思っている人間たちの世界です。そこは高度な医療経済社会で、社会のために健康・幸福であれという思想が構築されています。

●コミックですが、『戦国ベースボール』はとてもおもしろいです。小6の天才野球少年は事故で死にますが、あの世で豊臣秀吉にスカウトされ、戦国武将たちの野球チームに入って生き返るために真剣勝負に挑むというお話です。武将たちのとんでもなさが魅力です。

●ミラン・クンデラの『不滅』は様々な少女たちが時空を超えて行き交い、存在の不滅、魂の永遠性を奏でる愛の物語です。悲哀とノスタルジアに満ちています。

●『聖☆(セイント)おにいさん』は世紀末を無事に乗り越えたブッダとイエスが有休をとって下界でのバカンスを楽しもうと東京都立川の安アパートで暮らす物語です。イスラム教以外の宗教がたくさん出てきて、様々な神が会話に中に出てきます。知識として知っているとよりおもしろく読めます。

●『愛と欲望のナチズム』は性も解放するナチの様子が描かれています。産めよ増やせよ。強きゲルマン人の子を大量にえるために性の解放を謳うナチズム。欲望の禁止でなく、解放により大衆を支配しようとしたナチズムの「性の政治」の実態を豊富な原資料から光をあてる書です。

●『戦争は女の顔をしていない』によると、ソ連では第二次世界大戦で、100万人超える女性が従軍をしたそうです。看護婦や軍医としてだけでなく、自ら兵士として武器を手に戦ったとのことです。しかし戦後は世間から白い眼で見られ、戦争体験をひた隠しにして生きてきた女性たちに光を当て、500人の女性体験者から聞き取りを行って戦争の真実を明らかにした書です。

●戦争関連ですが、『普通の人々』は、ヒトラー時代にいかにして普通の人々が史上稀な大量殺戮者となったのか。知られざる警察予備隊の賞月の実態に注目し、人間の心の中に潜む魔性の恐怖を味わえます。ホロコーストの基本書です。

●P・K・ディックの『高い城の男』は第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、アメリカが東西に分断されている世界を舞台にしています。大日本帝国とナチス・ドイツが世界の覇者になっているという設定ですが、日本人は勝者として傲慢な部分はあるもののドイツの人種政策に対抗するなどある程度話の通じる集団として描かれている一方、ドイツは反ナチがすべて粛清されており、ナチズムの狂気の満ちた集団として描かれています。そしてイタリアは表面上は戦勝国扱いですが、ドイツの衛星に過ぎず、その劣等感からアメリカに同情しています。歴史を改変するSF小説です。ディックの傑作です。

●ジョージ・オーウェルの『一九八四年』はこの本は第二次世界大戦の4年後に可能されました。全体主義国家において分割統治されている近未来世界の恐怖を描いていいます。
出版当初から冷戦下の英米で爆発的に売れたそうです。この本が反共のバイブルとされたのはオーウェルの意図ではなかったように思えます。

●同じテーマの『動物農場』ですが、動物たちが飲んだくれの農場主を追い出して理想的な共和国を築こうとしますが、指導者の豚が独裁者と化し、恐怖政治へ変貌していく様子を描いています。スぺインの内戦に参加したオーウェルがその体験をもとに、全体主義やスターリン主義への痛烈な批判を寓話的に描いたものです。

●『カタロニア讃歌』はジョージ・オーウェルによるスペイン内戦のルポルタージュです。戦争の現実を飾らない文体で克明な描写をしており、内紛に巻き込んだスターリン主義を痛烈に批判し。そんな中でも人間味を失わないスペイン人とカタロニア人への尊敬と愛情が向けられています。

●『セレモニー』は、共産党建党記念祝賀と北京万博の祝賀の年に勃発した観戦パニックから物語は始まります。その背後でうごめく極秘の暗殺計画。はたしてこの完全監視社会は独裁体制の完成形といえるのか、を問うています。

●『伊藤計劃トリビュート』は伊藤計劃が2009年でこの世を去ってから、今や多くの作家によって伊藤計劃は継承されている。まさにその盈虚を受けた若手作家8人がとりくんだ超巨大アンソロジーでとても読みでがあります。

●『紙の動物園』は短編集ですが、妖狐という化け狐の女の子が出てきます。男の子と知り合いになります。女の子は妖力が減って狐に戻れなくなります。そこで男の子と再会を果たした時、男の子が女の子の身体を改造して狐に戻って4本足で駆け回れるようにします。
そして女の子は夜の街へ走って消え去っていきます。文章がうまくて読みやすいのでお薦めです。

あっという間の2時間でした。今日は真面目な本の話題がたくさん出ました。
次回は6月27日(木)です。誰でも参加できます。みなさんいらしてくださいね。