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2019.06.25

6月度トークイベント開催報告 第一段 『いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー会に君臨したか』

ニュース

2019年6月7日(金)岡本先生トークイベントレポート

6月初旬の涼やかな雨の日の夕方、文学部 岡本広毅先生の『いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか』の出版記念トークイベントを開催しました。

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今回は30人もの学生が駆けつけてくれて、先生のハンドアウトも配られ、期待のうちに会は始まりました。
今回のトークイベントのテーマとなった本は3種類の表紙(アーサー王・ガウェイン・ランスロット)で、アーサー王が日本でどのように受け入れられていったかを描いた本ということです。

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ふらっとでもトークイベントが決定してから、アーサー王について知るための手助けになるように「アーサー王の世界を探るフェア」を行ってきました。

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最初に「アーサー王とは何なのか」と語りかけられました。
 1500年前頃のヨーロッパのイギリスで民族間の対立が起ったときに片方の民族の戦士にアーサーという名前の人がいたとされています。日本においては地理的にも遠く、なんの縁もゆかりもなかったと言えます。そしてアーサー自体この時は王でもなんでもなかったわけです。いかにして日本に「アーサー王」が伝わり、変化していったのか。日本に特化した「アーサー王」の受容についてですが、100年前に日本に「アーサー王」が伝わってから目を見張る勢いで君臨していると言えます。「アーサー王」の姿はいくつかの写本の中に描かれていますが、あまり西洋人の姿になじみがなかったせいか、遊牧民などの姿に似たものが描かれています。
 また変わったことと言えば、日本でアーサー王に関連あるコーヒーが売っています。それは次のどれでしょう。
 ① ガ(カ)ウェインコーヒー
 ② スーパーエクスカリバーコーヒー
 ③ 円卓崩壊コーヒー
 ④ 聖杯満杯コーヒー
 ⑤ キングアーサーコーヒー
 実は5番のキングアーサーコーヒーです。すごいですね。普通にメニューとして載っているのです。
 また日本で最初の「アーサー王」の小説を書いたのは夏目漱石とされています。そして「エクスカリバー」は知られすぎていて、ゲームではパロディ化されているほど。みなさんご存じのファイナル・ファンジーなどですね。あるところでは「エクスカリパー」と呼ばれていて、これはプア "poor" とかけていて、その名のとおり強くない剣として描かれています。面白いのは、アーサー王関連の騎士が裁判にもかけられていることです。国際アーサー王学会という学会の日本支部があるのですが、アーサーの甥のガウェインという騎士はとても評価が分かれる人物で、様々な事例を取り立ててガウェイン卿を許すべきか許されざるべきかを問うたという裁判の記録(学会ニューズレター)があります。

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 日本に出自を持ち2017年にノーベル賞作家となったカズオ・イシグロは、最新作『忘れられた巨人』において、アーサー王亡き後のブリテン島を舞台にその戦と復讐の記憶を描いています。過去の栄光を背負って生きる老騎士ガウェインを描き出しているのがとても興味深いです。必見です。

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 ディズニー映画の「王様の剣」は、アーサー王の少年時代を描いたものですが、鉄床に突き立てられた剣をひきぬくことが出来たものが、次の王になるであろうと語り継がれてた中世のイギリス。この映画で剣をアーサーが剣を抜くシーンが有名になったと言えます。アーサーは魔法使いマーリンに助けられていくのですが、マーリンの予言として自ら破滅へ導くものが出てきます。その破滅というか、死の運命と言うのが「アーサー王」を読む上で奥深いポイントになっています。このあたりはトマス・マロリー作『アーサー王の死』を読むといいですね。

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 これは15世紀に書かれたものですが、円卓の騎士たちは没していく流れを止めることはできません。その世界は崩壊する定めにあり、内部分裂や内輪もめで破綻していきます。抗いようのない運命、宿命、そこに向かって突き進んでは翻弄される騎士たちの多様なエピソード、織り成す人間模様にアーサー王物語の一つの本質と魅力が潜んでいるように思います。

 『いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか』についてですが、本書は二色刷りとなっています。それはアーサー王の原典であるマロリーの『アーサー王の死』(ウィンチェスター写本)の中で、騎士の名前や重要なアイテムなどが赤で印字されているからです。つまりこの本は原典への「オマージュ」であると言えます。作業としては一つ一つのチェックが大変で編集者泣かせの作業でした。話の中で進軍していって、巨人を倒す場面があるのですが、巨人を切りつけて倒す(生殖器を切る)ところで巨人の「局部」という語彙が赤字になってしまっていて、これを密かに本書に反映させようとし、あえなく速攻却下ということになりました。

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 『新訳アーサー王物語』は、6世紀頃のイギリスで国王アーサーと騎士たちが繰り広げる冒険と恋愛ロマンスが描かれています。この本は一つの通過点としての「アーサー王」を描いたもので、さらなる始まりを描く本でもあります。とても熱い本です。
(筆者注:この本は出版社品切となっており、現在ふらっとにある在庫で最後となります)

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『ガウェイン卿と緑の騎士』は14世紀に成立した中世イギリスロマンスの新訳です。多彩で変化に富んだ原文が格調高い日本語で表現されています。ガウェイン推しには必読の、珠玉の中世ロマンス作品です。

 中世以降「アーサー王物語」は莫大な人気を得ていきます。
 常に問われるのが「アーサー王」は果たして実在したのかという命題です。現在ではまだ半々くらいの評価ではないでしょうか。史実と伝説のあわいをゆく存在だと言えます。いわば歴史とファンタジーの間に存在していたからこそ、これほど親しまれて人気の題材になったと言えます。そして負ける側の、滅びる側の存在であったということもポイントかもしれません。12世紀頃、意図的にファンタジーとして「アーサー王」を語り称え、脚色する動きが起こりましたが、この運動は言わば、違う視点から「アーサー王」を語りなおす―女性化や遊牧民族化―といった日本の受容へと連なる動きだったといえるでしょう。そもそもイギリスではケルト系ブリトン人の戦士が英語を話すイングランド人の王様へとすり替えられてきました。我々の受容の形も、多様な変容するアーサー王物語の歴史の延長線上にあり、それがこの伝説の本質として発展を遂げてきました。よって現代に生きる私たちは、「アーサー王」のもつフレキシブルな多様性を楽しめばいいと思います。

これで先生の講演は終わりましたが、「アーサー王」が身近に感じられ、今後の探索にも手助けとなるお話をしていただきました。ありがとうございます。
ここで参加者からの質問を受け付けます。

  • 質問:なぜ、アーサー王の研究をしようと思われたのでしょうか。
  • 回答:高校の頃英語を好きになったことがきっかけです。英語のルーツがイギリスにあることを知り、言葉の歴史に興味を持ち中世アーサー王物語と出会いました。
  • 質問:なぜ、赤字になっているのでしょうか。
  • 回答:ハイライトの要素はあるかと思いますが、先ほどの「局部」の案件などまだ分からない部分が多くあるようです。ちなみに日本には写本や書誌学研究のスペシャリストがおられ、アーサー王研究に世界的に貢献しています。
  • 質問:多様な変化を見せるアーサー王物語の中で、それでも人を魅了する変わらない要素は何だとお考えですか。
  • 回答:変わらないアーサー王の魅力は、史実と虚構のあわいのゆき、常にクリエイティブな空間を創出しつづけるという題材であることでしょうか。人々の想像力がかきたてられ、クリエイティブな可能性を許す下地が出来ています。常に変化を許容するという、変化という不変性が次なる想像力の源となる、これは逆説的に変わらない要素といえそうです。
  • 質問:先生の好きな登場人物は?
  • 回答:あえてランスロットと言えば、私周りにはとてつもないランスロット狂がいますので、怒られそうですが。普段通りガウェイン派を名乗りたいのですが、あえてランスロットで。円卓の騎士たちの中で戦って最も強い、自分の感情が抑えられない点に最大の弱点をもっているとこと。最強で最弱であるところが魅力です。ギネヴィアとの不倫も止められないまま流されていきます。なのでアーサー王は「寝取られ男」とも言われています。(とはいえアーサー王物語はアーサー王のおかげ、そのグローバルな喝采は鳴りやまず、とフォローしておきます)
  • 質問:夏目漱石がアーサー王最初の小説を書いたということですが、イギリス留学時にアーサー王にふれたのでしょうか。
  • 回答:その当時のイギリスはアーサー王に関してとても熱をあげていた時期でした。漱石がそうした影響を受けたことは必然であったに違いありません。
  • 質問:ガウェイン卿のついて
  • 回答:カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』では、何よりガウェインが老いているというのが個人的には萌えポイントです。アーサー王の行いを信じ、最後まで生き方を突き通す。信念を曲げず最後まで考えを変えません。たとえそれが間違っていたとしてもいとわない。貫いている潔さがあります。ここにイギリスが経てきた歴史の光と影が投影されていると考えるとさらに興味深く思えます。イシグロはそうしたイギリスの歴史を踏まえた上でガウェインを老騎士として設定したに違いありません。

最後にサイン会が行われて、何人もの方が並ばれて、先生はお一人お一人に丁寧にサインをされていました。

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アーサー王の世界に触れられて とても充実した時間でした。
岡本広毅先生、どうもありがとうございました。