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From:学園探偵事務所
Subject:学園探偵事務所に関するお知らせ

立命館ノベリストクラブ

  学園を暗躍する学生主体の秘密機関「学園探偵事務所」。私たちの存在は、この学園に属する者ならば、学生はもちろん、教師、事務員、果ては食堂のおばちゃんまで、知らぬ者はいないだろう。ただし、「実体」については、知っている者が極めて少ないのではないだろうか。そこで今日は少し告知をしてみようと思う。といっても基本的な仕事内容を述べるだけだが。
ただ一つ確かなことは、私たちとコンタクトが取れれば、報酬と引きかえに仕事を依頼できるということだ。その内容はまさしく千差万別。噂では自然緑地に眠っていた十五世紀の秘宝を掘り当てたというものもある。私も探偵の一人だがよく知らない。「学園探偵事務所」は万能の裏組織……そんな認識で十分だ。
だが、一つ気をつけないといけないことは、私たちに仕事を依頼した場合、それ相応の報酬を支払う必要があることだ。これを怠ると、依頼者は……。

メールを書きながら安達義明は退屈を感じていた。事務所の宣伝、新人探偵の募集のために書いているメールはどうせ目の前の学園に備え付けられているパソコンからは送らない。文面はよくわからない内容になったが、どうせ一年に一度の儀礼的なものだ。適当でもいいという思いが安達の中にあった。
加えて目の前のパソコンでは、彼の大好きなハッキングも、システム改変もできない。ウェブブラウザーを立ち上げてみても、見たいサイトの更新は昨日で止まっている。だが彼は仕事中であった。席を外すことはできない。
「あーあ。十二時までひまだなー」
思わず声が出てしまう。安達はとっさに左右を見渡した。そこには安達と同じようにパソコンに向かっている人の姿がある。自分の作業に没頭していて安達の声は聞こえなかったようだ。
「ふー」
学園中央に位置するパラボラハウスの2F。その名のとおり放物線状、U字型の謎めいた施設の階段を上ったところにマルチメディアルームは位置していた。その一角を占拠しているのが安達義明である。学園に所属する者ならば、探偵兼学生の安達も含めて誰でもマルチメディアルームのパソコンは自由に使える。しかし、今の状況で「ひまだ」などという台詞を言う権利は彼になかった。安達は席を空け渡すわけにはいかなかったからだ。
火曜日の昼休み、安達は空腹を我慢してパソコンの前に座り続ける。部屋の入り口にパソコンの空きを待つ長蛇の列ができていても、することがまったくなくても、とにかく座り続ける。決して「ひまだ」と言ったり、寝たりしてはいけない。
「今何時……十一時五十四分。なんだ、もうそんな時間か」
安達はおもむろに携帯電話を取り出し、せっせとメールを打つ。その間にも学生がきちんとマルチメディアルームを利用しているか確認のため巡回している教師、学生ボランティアが安達の後ろを通り過ぎる。安達はそのたびにパソコンに顔を向け、いかにも作業中であるとよそおった。
このタイミングで失敗してはいけないという思いが安達の中にはある。プロなのだ。十二時前か、それとも一分後か、二分後か? いずれにせよ、報酬をもらうまでが仕事だ。
携帯電話にメールの返事が返ってくる。時刻は十一時五十八分。
その一分後、ついにマルチメディアルーム入り口に依頼主の女学生の姿が見えた。長蛇の列を無視して安達の元に向かってくる。
「あ、安達君」
そして偶然のように白々しく女学生は安達に声をかける。
「ん? ああ、白鳥さん」
こちらも白々しい。
「安達君、今から出るの?」
白鳥はログオフ画面を表示させた安達を見て言った。
「うん。食堂に行くよ。白鳥さん、使う?」
報酬を受け取る場所を指定して安達は席を立つ。
「本当? ありがとう。友達に呼ばれたから来たんだけど、ちょうど印刷したいものあったから助かったわ」
架空の友人まででっちあげて、白鳥は激しい争奪戦の起こる火曜日の昼休みに、パソコンを即座に使うことができた。
安達は食堂へ向かう道を歩きながら満足げに呟いた。
「マルチメディアルームの座席確保……ミッションコンプリート」
今日も探偵たちは学園を暗躍する。

 

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