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学園探偵事務所 第四話

立命館ノベリストクラブ

 賀東庄司は目の前に置かれた紙をうっとうしそうな目で見つめていた。この事務所には(庄司を初めとして)、整理整頓をできる人種がいないらしく、あっという間にモノで溢れかえるのだ。机の上だけでなく、通路や備え付けの棚の上にも隙間なく書類や本が置かれている。足の踏み場がない、という表現でもまだ温い。決まったルートを通らないと、たった八畳の部屋で遭難しかねない。
 「浮かない顔してどうしたんです、室長?」
 庄司以外にこの部屋にいた探偵の一人、竹宮ゆゆこはそんな庄司の様子を見て話しかけた。
 彼女はこの事務所で唯一の女性探偵であり、勤勉にも毎日事務所に顔を出してくれている。ちなみに、今年の春で二回生。庄司は彼女の一つ上の先輩にあたり、年明けにこのサークルでの部長である「室長」に就任したばかり。その彼がゆゆこに、今まで睨んでいた書類を見せながら言った。
 「学生オフィスから、今年度に新入生勧誘できないと廃部にするって連絡が来た」
 「ああ……今でもギリギリの人数ですもんね」
 この大学のサークル設置の必要条件として、「最低二十人の部員の所属」というものがあった。二十人以下になると「サークル」から「同好会」へと格下げされ、活動場所や予算が大幅に下がってしまう。依頼人からの報酬が一つの事件解決で貰えるが微々たるもので、このサークルは大学からの予算を大いに当てにしている。しかし、現在このサークルの所属人数は四回生の卒業で十四人になってしまっていた。その上、先輩らの話によると、毎年、新入部員の勧誘は相当苦労しているようだ。
 そりゃそうだろう、と庄司も思う。我が学園探偵事務所はオープンな部ではない。強いて表現するなら「何でも屋」だが、活動自体も謎過ぎる。所属している探偵もひと癖もふた癖もある奴ばかりで、今ここに庄司とゆゆこの二人しかいないのを見てもわかるが、部室を荷物置き場にし、室長である庄司が割り振った依頼を各自で解決する、という組織構造である。皆、協調性がないというか、能力は高いが社会的には駄目な人間である。
「そんな部に入部したがる変人が六人もいるとは思えないしな」
 ゆゆこに話終えた庄司は頭を抱えた。
「あっ、それなら室長、良い考えが!」
 今まで話を聞いていたゆゆこは、庄司の話をから何か考えを思いついたらしい。庄司の方に向けていた体を自分のデスクのラップトップに向けて、何やら作業をしだした。竹宮ゆゆこは、この事務所のIT探偵である。
「何だ? それ」
 庄司が器用にモノの合間を縫って、ゆゆこのデスクに来ると、そこには見たこともないソフトが彼女のパソコンで開かれていた。文字が読めない。
「これ何? つか、どこの国の字だ?」
「ふふーん、これはですね、とある呪術の教本を手本にした催眠効果のあるポスターを作ることができるソフトだそうです。これを使って部員募集のポスターを張り出しましょう」
「……」
 ゆゆこは普段からネットで情報収集をしているので、時折妙なモノを拾って来るのだった。
「まあ…別にいいか、駄目で元々だし。二百枚くらい印刷してくれ。張っておくから」
「はい。任せてください」
 こうして、背色が水に油を浮かべたような気味の悪いポスターがゆゆこの制作で刷り上がり、大学敷地内に張り出してみた結果は…。

 一週間後、今年度の学園探偵事務所に、百二十人の応募が来た。

「どうですか室長。ミッションコンプリートです」
「できてねぇよ! 効き過ぎだろ! 部室とかどうすんだよ」
 後日談というか、今回のオチ。
 結局、催眠の効果は一次的なものらしく、一週間も経たずに応募者のほとんどが応募を取り消した。
 しかし、今回の騒動で知名度が上がった学園探偵事務所はそもそもの六人の新入部員の獲得に成功した。
 まあ、依頼の割り振りの連絡以外で話すこともないし、新入部員ももれなく社会不適合者ばかりだったが。
「あ、室長。今日は早いですね」
 相変わらず、今日も事務所には庄司とゆゆこの二人のみの話声がしていた。

 

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