ナビゲーションをスキップ

web RUC/Ritsumeikan University Coop Canpus Communicatuon Magazine

立命館ノベリストクラブ

学園探偵事務所に関するお知らせ

 

 学園を暗躍する学生主体の秘密機関「学園探偵事務所」。その存在は、この学園の者なら学生はもちろん、教師、事務員、はては食堂のおばちゃんまで、知らぬ者はいないだろう。ただ、その「実体」について知っている人間は少ないのではないだろうか。
  確かなことは、コンタクトを取れれば、どんな依頼だって請けあってもらえること。しかし、気をつけなければいけないこともある。依頼をするには、それ相応の報酬を支払う義務があるということだ。
  もしも、これを蔑ろにしてしまうと……。

大道御法(だいどう みのり)は、溜息とともに携帯を閉じた。
「おい君、仕事中に携帯を触るとはどういうことかね」
  声をかけてきたのは金城成人(かねしろ しげひと)。大道の今回の依頼者だ。依頼は「彼を支持するサークルを作りあげること」。早い話が、この男のファンクラブの設立ということらしい。
「大丈夫ですよ。魅力たっぷりな広告も配りましたし、依頼完了までもう少しです」
  大道はここ数日で凝り固まってしまった営業スマイルで頷くと、まるでチェーンメールのような、勧誘メールをもう一度送信してみせた。サークル設立には、関心を金城の財力という一点の美徳にだけあてて、他の全てには目をつぶることのできる人間が五人は必要となる。加入承諾者が四人の現在、あとの一人は、宣伝の物量でものをいわせるのが上策だった。
  不意にメールの受信音。
  送信先は以前から興味を示してくれていた女生徒だった。
「……決まりました。後は申請すれば、金城ファンクラブが設立されます」
「うむ、ご苦労」
  そうして颯爽とその場を立ち去ろうとする金城の背中に、大道の冷たい声が届く。
「……失礼、報酬を頂いていませんが」
  大道は、多額の報酬を期待したからこそ、この馬鹿げた依頼を承諾したのだった。
「何だ、もう渡しただろう」
  金城は白痴な顔をむける。
「というと?」
「この僕の役に立てたんだ。最高の報酬じゃないか」
  金城は誇らしげに馬面を緩ませ、その場を悠然と立ち去った。残された大道は、遠のいていく足音に、そっとため息をついた。
「やれやれ」

 翌日、学内新聞に金城賛美のコーナーが追加された。内容は、金城ポエム。金城が密かに書き留めていたポエム集である。
  学校中に張り巡らされた紙面を、金城は必死の形相ではがして回っていた。しかし、何度はがしても、それは、いつのまにか、また張り出されている。
「なんなんだコレは!」
「喜んで頂けましたか?」
  狼狽える金城の後ろ、振って湧いたように大道が佇んでいた。
「いったいどういうことだ! コレをなんとかしてくれたまえ!」
「おや、せっかくのサービスなのにお気に召しませんでしたか。あの報酬に見合うだけのことをしなければと必死だったのですが」
  大道はにこにこと笑い、携帯を取り出した。
「ほら、ロックを解除したブログのURLです。すでにメールでばらまいておきましたが、なんなら全国ネットで流してしまっても構いませんよ?」
「金は望むだけ払う! だからもうやめてくれ!」
 
  学内はそれまでの騒ぎが嘘のような静けさで包まれていた。金城ファンクラブはバッシングにあい解散。金城本人は、キャンパスの違う学部へ転部することになった。
  携帯を弄び、少々膨らんだ財布を鞄へとしまう大道に安達義明が声をかけた。
「大道は、相変わらずだな」
「そうですか?」
「相変わらずの甘さだよ。それはそうと、飯でもいかないか? 何か奢ってくれよ」
「わかりましたよ」
  二人は連れだって食堂へと向かう。歩きながら、大道はのんきな声でつぶやいた。
「ミッションコンプリート。ご馳走様でした」

 

前へ戻るSITE TOP