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2022.01.11

『YOUTHQUAKE』刊行記念トークイベントレポート

書籍

2021年12月14日(火)16:30から、衣笠キャンパスブックセンターふらっとにて、2年ぶりのトークイベントを開催しました。今回は対面&オンライン配信で、BKCやAPUからも参加していただきました。ふらっとの会場には20名の方、そしてオンラインからは8名の方が参加。
法学部4回生の宮坂奈津さんが所属する団体NO YOUTH NO JAPAN(ノーユース・ノージャパン、以下NYNJ)が、10月に刊行した『YOUTHQUAKE U30世代がつくる政治と社会の教科書』の刊行記念として、本の紹介とNYNJの活動について、お話しいただきました。
聞き手はゼミの後輩にあたる法学部3回生松尾遼太郎さん。
お二人の話をメインにしつつ、会場とオンライン参加の皆さんとたくさんお話していきましょうと呼びかけていただきスタート。

まずは、NYNJの活動、そして本を出そうと思ったきっかけについて

宮坂:NYNJは2019年の参議院選挙の際、若者の政治参加に危機感を抱き発足。SNSのInstagramを中心に情報発信やイベント企画運営、地方選挙における投票啓発等を行い、若者の政治参加、社会参加の促進を目指しています。 大学生を中心に、海外在住者も含めて70人くらいメンバーで活動中。 普段はSNS発信が中心だが、小中高の学校の図書館や本屋さんにも置いて欲しいと、紙の本を出すことに。 政治の話をしてみたいけどどうしていいかわからない、といった声に応えるため、政治を話す共通言語を持てるような内容を目指して作りました。

本の2章から5章までを簡単に紹介していただきました。

2章の9つの社会課題について
それぞれかなり詳しく書かれていますね。
このイベントの申込時に、この9つの課題について、何に関心があるかアンケートを取ってみたところ、「教育・子育て」が一番多かったです。

宮坂:一番身近な課題だからでしょうか。最近、ブラック校則に対して自分たちで声を上げ始めた学生たちが増えています。身近なところから声を上げていく、これがNYNJも目指す参加型デモクラシーにつながっていきます。

参加型デモクラシーとは?
選挙の時だけではなく、デモに参加したり議会に陳情したり、署名活動をしたりするなど、選挙と選挙の間にも政治参加を積極的に行うこと。


  • NO YOUTH NO JAPAN著
    『YOUTHQUAKE』
    よはく舎

社会運動の話から、松尾さんから富永京子先生(産業社会学部)の本について紹介されました。

松尾:日常生活の中に社会運動が織り込まれている、若者の政治に関する言動を若者自身の日常の中に位置付けて考えていかなければならないという本。この本の中で、若い人は当事者性を大事にしていると指摘されていて、『YOUTHQUAKE』に書かれている政治を課題解決の手段とみなすことも当事者ベースという点で指摘が当たっているように思います。当事者ベースの思考は、逆に当事者ではないという感覚を持つと話しにくかったり参加しにくくなることを招きます。

産業社会学部 富永京子先生の本


  • 『社会運動と若者』
    ナカニシヤ出版
    「若者」たちの語りから見えてくるものは何か。社会運動の規範や作法(=社会運動サブカルチャー)はどのように形成されるのか。「若者」とその社会運動の特質を当事者が集合するデモなどの「出来事」と、他者との関わりの中で揺れる「日常」生活から浮き彫りにする。

  • 『みんなの「わがまま」入門』
    左右社
    意見を言うことへの「抵抗感」をときほぐし、みんなで社会をつくるための5つの講義

では、社会に対するもやもやを持った人が、実際どうやって政治と結び付けて、周りと話していけばいいのか?

宮坂:この本で大事にしているテーマ、4章の「友達と政治について話してみよう」は一番おすすめしたいところです。政治の話って友達とは話しにくいなと思ったことはありませんか?ここでは、どうしたら友達と政治の話をすることができるか、さまざまな観点からヒントになるようなことを紹介しています。こういう内容は学校で配られる社会や道徳の教科書ではあまり語られていないのかなと思います。
まずは民主主義の基本である対話って何なのか、そして価値観の違いにも触れています。例えば休みの日に対する価値観でも、家にいる方がいい人と外に遊びに行きたい人がいて、人それぞれですよね。政治の世界では保守とリベラル、大きい政府と小さい政府などと言われることがありますが、これらの本当の意味は意外と知ってるようで知らない、理解するのも難しい言葉です。そのあたりもなるべくかみ砕いて紹介しています。
「政策に現れる価値観の違い」では、ひとつの発言で話相手の政治的な価値観をラベリングするのではなく、個々の政策に対するスタンスの違いを基本にして判断しようということです。例えばAさんは経済や外交に関する政策に対しては保守的だけど家族観はリベラル(例:選択的夫婦別姓に賛成)という人がいたとします。このように、一人の中でも政策分野によって保守的、リベラル的といった価値観が違います。思い込みでラベリングしてしまうことで、政治の話がしづらくなってしまい、相手も何かちょっと発言しただけで決めつけられてしまうと思えば、自然と政治の話はしたくないとなってしまうのではないでしょうか。

政治に対する知識が少ないというより、対話に対する知識が少ないということ?対話に対するスキルを身に着けることによって政治の話がしやすくなる?

宮坂:政治の話をする上で、知識はもちろん大事なこともあります。ただ、知識がそんなになくても対話のスキルを知っておくことで話しやすくなったり、変なムードになりにくいのではと思います。でも、私自身も完璧にできているとは自信を持って言えませんね...。(笑)気づいたらお互いが知っていることを発表し合う会になってしまっていたり...。「じゃあ〇〇党に入れるんだね」と単純解釈されてしまう。しかも1回そういう印象がつくとなかなか離れないんですよね。

もやもやしてる人はどうやったら政治の話がしやすくなりますか?

宮坂:わからなくても話していいと思います。今の日本の雰囲気には、政治について知らないとしゃべっちゃいけないみたいなものがある気がします。昨年春にツイッター上で#検察庁法改正案に抗議しますのハッシュタグムーブメントが起きた時に、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんが関連するツイートをしてたたかれていたことがありましたよね。こういうことがあると、「政治って知識がないと話しちゃいけないのか」という風に思ってしまう人が増えてしまうと思います。だから、聞く側の態度も大事です。「それしかわからないのに聞くの?」というスタンスではなく、今の段階ではこれしかわからない、という前提で聞くことが大事だと思います。

政治について話せない原因ってなんでしょう?

宮坂:今までの生活の中で周りの人と雑談レベルでも政治の話をする機会があったかどうか、つまり環境的な要因がやはり大きいのではないでしょうか。
松尾:家族や友人同士で政治の話をしたことがなかったら、国会での討論を見るとあのイメージでしか政治の語り方がないかもしれないですね。

まとめ

宮坂:知らなくても理由やストーリーがなくても、今までそういう経験がなくても、政治について話していいんだよと同世代にも伝えたいです。若い世代が政治を語る共通言語を持つためにという目標でこの本を作ってました。意識高い人たちが読む本、ではなくて、単純に色がかわいい、くらいの気持ちで手に取もらえたら嬉しいです。

会場の皆さん、ZOOMのみなさんと話していきたいと思います。

政治の話がしにくいのは自分自身の考えや価値観を押し付けたり押し付けられると感じる人が多いのではないでしょうか。

宮坂:意見と人格は切り離して聞くことはおすすめです。難しいですが(笑)。「この人が言ってるから」ではなくて「この人はこう言っている」という吹き出し(=話の内容)の方に注目することが大事だと思います。
松尾:対話の中で意見が変わっていく瞬間に立ち会えたら、人格と切り離していくことができると思います。

不在者投票がすごくめんどくさい。手続きをもっと簡単にすれば投票に行く人が増えるかもしれない

松尾:不在者投票の簡素化を図る活動を立命館生協購買部でしました。その場で申請ができて自分に投票用紙がやってくる、システムを変えるのではないが手軽に申請ができるような取り組みをしました。あと、電子申請もあるがマイナンバーカードによる投票は問題が指摘されているので電子申請で問題解決というわけにはいかないです。投票場の時間を告知なく早めたことが問題になっているが、そのようなことを告発していくことも大事。

政治的思想で差別を擁護する方に関しても、その人の人格を疑ったりするのは間違っているのでしょうか?

宮坂:難しい質問ですね、個人の意見としては、していい差別はないと思っています。例えば報道で差別をしてる側とされてる側を両論併記の観点から同じだけ報道するのはどうかといった議論がありますが、差別的な考えには慎重でありたいと思っています。自分の価値観にも影響してくるところですが、まずはその人の考えを吹き出しを意識して注意深く聞いていくことが必要だと思います。
松尾:NHKスペシャルで哲学者マルクスガブリエルが言っていたのを見て衝撃を受けたのですが、もし今ナチスと話す機会があったら、丁寧に言葉を選んで話せば、ユダヤ人に対する差別をやめさせられることができると考えています。
ドイツでは小学校の教育で手をパーで上げちゃダメというのがあります。ヒトラーに対する敬礼になってしまうから人差し指だけをあげる、ナチスとは何だったのかと徹底的に向き合っています。しかも、哲学者として言語を扱うものとして、それくらいの認識でいるのだという話でもあります。日本人が言うのとは重みが全然違います。対話ってそいうものなのかなあと思いました。
対話の中では、その人がなぜそういう差別をするに至ったかの背景を探っていくということも大切かもしれません。

マルクス・ガブリエルの本


  • 『資本主義と危機』
    岩波書店

  • 『全体主義の克服』
    集英社新書

  • 『新実存主義』
    岩波新書

  • 『なぜ世界は存在しないのか』
    講談社メチエ

  • 『私は脳ではない』
    講談社メチエ

  • 『未来への大分岐』
    集英社新書

  • 『神話・狂気・哄笑 ドイツ観念論における主体性』
    堀之内出版

自分のことを政治に興味があると思っていなくても、例えば、バイトの最低賃金が上がったほうが嬉しいし、非正規雇用より正社員での雇用のほうが嬉しいとか、女子トイレが無くされ共用トイレに統一される流れがあるが怖いなど...それらも政治が決めていることですし、生活の実感として苦しいと思うことは、大体政治によるものだと思います。それを気軽に話せて、若者の意思として示せるような場所があったらいいなと思ったのですが、どのような場所が考えられるでしょうか?

宮坂:現状適切な場所がなければ、これは自分たちで作っていくしかないのですが、1票を投票しても要求が全部解決するわけではなく、その人に投票するということでしか選挙での意思表明はできません。少しハードルは高いですが改善してほしいことを政治家のところへ行って陳情したり、最近ではオンライン上で署名したりすることもできます。実はすでに場所作りを始めている若者はたくさんいて、本でも紹介しています。

若者の人口が少ないので母体数が少ない若者の声は投票率が上がっても反映しにくいのではないか?

宮坂:確かに、若者が全員投票に行っても、絶対数では世代によって違いがあるため、少子高齢化が進んでいる今、世代としての意思表明はあまり公平にはならないかもしれません。それでも率で考えてみると、若者の投票率が30%から50%に増えたら、政治家にとって若者の声も無視できないと思ってもらえるようなアピールにはなると思っています。

その他、まだまだ多くの意見や質問が寄せられました。
当日申し込みをしていなくて、"ふらっと"飛び入り参加した人も、最後まで熱心に聞かれていたり、その場で本を買われている方もいらっしゃいました。

参加者Hさんの感想

説明責任を当事者がすべて担う必要はない」「政治の話をするとマウント合戦になってしまう」という問いに、「知識の差で勝ち負けが決まるのであれば、そもそも話す必要がない。知識は意見ではない」と答えていた場面が印象に残っています。知識がなければ友人と政治の話をしてはいけないと考えていたので、心が軽くなりました。

予定時間を大幅に延長し、最後の質問まで丁寧に対応してくれた宮坂さん、松尾さん、お疲れ様でした。