2016年7月28日BKCブックカフェレポート!
試験も終わりかけた日の午後、BKCブックカフェが開催されました。
今回は薬学部、生命科学部、理工学部の方、計5名が参加してくれました。そのうちお一人が初参加の方でした。
最初に夏に読みたい本の紹介が続きました。
●小野不由美の『残穢』は夏にふさわしい本です。土地が背負っている業について書かれているのですが、身近で自分のまわりでも起こってしまいそうな恐怖に苛まれます。いちばん
いいのは、最後まで書ききらないで想像の余地を残す描き方です。
●『新耳袋』は日本人ならではの恐怖が味わえます。お薦めです。
●なんといっても夏目漱石の『こころ』です。物語は夏から始まります。数年前にかったのが赤いかき氷の表紙だったので、まさに夏です。
●鈴木浩司さんの『リング』のシリーズは最初から物語は進むにつれて医療世界、仮想世界と話が大きくなってきます。読者を裏切りたい作者のさがかもしれません。
●海外のオーソドックスなホラーとして『猿の手』があります。3つだけ願いを叶えてくれる猿の手を手に入れた老夫婦の話ですが、何かを望むと同等以上のものを失わなくてはならないという展開にやりきれなさを感じます。
●80年代に一世を風靡した阿刀田高さんの『ナポレオン狂』はナポレオン大好きの男がある男を自分の家に招待するのですが、ナポレオンに関するものはなんとしてでも収集したい男が、招待したナポレオン似の男に対してある思いを抱いていることがしんしんと伝わり、恐怖に陥れられます。
●『吸血鬼カーミラ』は、反道徳的は記載もあって反感も買っている本ですが、そのそこにはキリスト教精神と対峙する中身があります。
●『雨月物語』の中にある「菊花の契り」は泣いてしまします。9月9日に酒を飲みかわそうと誓い合った男たちが、一人が旅に出てつかまってしまうのです。そして約束を守るために生身の身では戻れないとさとり、死して魂となって戻るのです。ネタバレしても読めます。
●山田悠介の『親指さがし』は彼の小説の中でいちばんまともで、内容はループしてまた戻って始まるというようなお話です。スプラッターホラー小説のひとつです。
●ほのぼの系の物語として『夏の庭』をお薦めします。人の死ぬところをみたいと老人宅に出向いた小学生とおじいさんの交流の物語です。
●『夜市』がいいなぁと思ったのは伏見稲荷のお祭りに行ったからで、夏の夜の祭りはいいなぁとしみじみ思った次第です。
●『なつのコケット団』はコミックなのですが、『宇宙兄弟』の読みごたえと似たところがあって、ロケットのことが読みながらよくわかる本になっています。
●『宇宙飛行士選抜試験』は、高い知性や能力を持つ宇宙飛行士たちが最終的に必要なのは、コミュニケーション能力であるということが力説されていて、隔離された世界で人との関わりを良好に持てる人間力を持たないとミッションはこなしていけない。何がいちばん求められる能力なのかがよくわかりました。
●貴志さんの『新世界より』は超能力が当然となった世界を描いています。長くて疲れますが、読み応えはばっちりです。
●貴志さんといえば『クリムゾンの迷宮』がおもしろいです。いつのまにか知らない世界に連れてこられた主人公たちがデスゲームに参加せざるをえないという物語です。
昔流行ったで行うアドベンチャーゲームブックを思い起こさせます。
●『キャンプテンアメリカ』や『スーパーマン』『バッドマン』などのアメコミはすごく面白いです。一つのキャラで長くコミックが出版されているのでストーリーは複雑化していますし、矛盾を解消するためにパラレルワールドがたくさん出現していたりしますが、絵が丁寧で読みごたえがありますし、最初は1冊完結の本を選ぶとすっと入っていけます。
●フランスのコミックで『バンドデシネ』というのがありますが、絵柄が丹精をこめてかかれていて素晴らしいです。一度チャレンジしてみてください。
●大友克洋は『アキラ!』が有名ですが、最初に『童夢』に出会ったときは世界が変わるかと思ったくらいびっくりしました。絵の美しさといい、発想の斬新さといい、これまでにないまんがでした。
●レトロな未来を描く小説は多いですが、ウェルズの『タイムマシン』もその系統です。
●P・K・ディックの『ニューロマンサー』はサイバーパンクものです。読みにくいですが、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』と合わせて味わってみてください。
●『猿の惑星』は映画の最後で自由の女神が出てきて文明社会への風刺ととも取れる作風が支持されましたが、原作はまったく違います。地球人テイラーの必死の手紙が宇宙をただよい、宇宙ボートで航海中の夫婦に拾われます。読み進めて夫婦はなんかおかしな作り物と思います。なぜなら夫婦は高い知性をもったチンパンジーであって、夫婦の世界では猿こそが万物を支配するものであって、知性を持たない人間が航海をして故郷に戻ったらそこは猿の世界だったという訴えがまるで通じないという怖い物語でした。
●コナン・ドイルの『失われた世界』は、崖の上にあるところに絶滅をまぬがれた恐竜がいたという物語です。映画「ジュラシック・パーク」の続編の「ロストワールド」もここから取られています。
●ブラッドベリの『ウは宇宙船のウ』に「霧笛」という15ページほどの短編があるのですが、これも生き残ってしまった恐竜の話で、同る舘がたくさんいた日々を夢見る恐竜のせつなさが伝わる物語です。萩尾望都のコミック版も名作です。
●今評判の『帰ってきたヒトラー』ですが、本物なのにコメディアン扱いされてしまう面白さがあります。いろいろナチスが活躍する物語は多いです。
●『高い塔の男』は第二次世界大戦で枢軸国が勝った世界を書いた本です。ディックは価値観が崩れてくる面白さを書く作家だと思います。
●老人問題を書いた本で、『未来医師』という本は、現代の医者が人が増えすぎて死を肯定的に受け止める、つまり医者はいらないという世界にタイムスリップをしてしまって、交通事故にあった人を助けようとすると逮捕されて死刑になってしまうという怖い物語です。
●筒井康隆さんの『銀齢の果て』は高齢化社会の中で老人に殺し合いをしてくださいというお話です。様々な経験のある老人たちは自分の得意の武器を持って戦うのです。
●殺し合いと言えば映画にもなった中学生のクラスメイトが殺しあう『バトルロワイヤル』がありますが、おどろおどろしい設定のわりにはハートウォーミングな読後感です。
映画では監督が戦争時代に生き延びた経験を表したかったような演出ぶりでした。
今回のブックカフェは、ここに書きとめられないほどさまざまな話題がでました。
あという間の2時間で、次回は9月29日(木)18時に開催することを確認して終わりました。
2016年7月30日(土)衣笠ブックカフェレポート
前期試験の終わった土曜日の午後、衣笠ブックカフェを開催いたしました。
先月のブックカフェ終わりの時に、次回が後期だとさびしいのでぜひ試験終わりにやって夏休みに入ろう!!と開催を決めたのですが、残念なことに4名の方が急に参加できなくなってしまいました。本日駆けつけてくれたのは、産社の1回生の方、4回生の方、文学部2回生の方の3人でした。ただ短い時間でしたが情熱的な語り合いで楽しいひとときでした。
●6月にここでお薦めしてもらった『パルブ』がすごかったです。よく当時発禁処分にならなかったなぁと感心しました。ファンクな言葉使いといい、にっちもさっちもいかない感じがすごくて、そのカッコよさに圧倒されました。訳もすごく自然で原文の味が伝わってきます。出会えてよかった。
●映画ですが『シン・ゴジラ』は名作です。ゴジラがちゃんとゴジラしています。CGを多用していますが、それがすごくいい味を出しています。よかったのは、こんなことが起きたとき日本政府は何をいったいどのようにするかということが、とても丁寧に書かれていてリアリティにあふれています。
●はやみねかおるの『モナミは世界を終わらせる』はジュブナイルミステリーですが、モナミの身の回りにあるものが、世界とリンクしていくという物語です。『僕と先輩のマジカルライフ』のそうですが、ちょっとずつ謎が提示されて、読みやすくしかも女の子がとてもかわいいのがいいところです。
●はやみねかおるにはもう一つの顔があって、勇嶺薫という筆名でも小説を会知恵いますが、『赤い夢の迷宮』はもっと大人向きで、ちょっと痛い感じの内容で、展開もえぐくて、平凡に終わらせないところがあります。
●面白い本を見つけました。乙野四方字(よもじ)さんの『僕が愛したすべての君へ』と『君を愛したひとりの僕へ』平たく言えばパラレルワールドものなのですが、平行世界があると認識された世界で、主人公は平行世界へ移動できる力を持っています。今の自分にとって都合の悪いことを解決するために他の世界へ飛んだりするのですが、行き来できるということでの心の葛藤や感情的問題も抱えてしまいます。この2つの小説は裏表なので2冊読むことがお薦めです。
●平行世界もそうですが、タイムループものも多いですよね。それでいうと古典ですが、広瀬隆の『タイムマシンのつくり方』はおもしろいです。タイムトラベルをしている側とされている側の認識がどうなのかとか、つまりタイムトラべルをした人が過去の世界で何年すごそうが、例えば消えた5分後に現代に戻ってしまうと、された人は目の前の人がタイムトラベルをしたとは思わない。ないことになります。そういう面白さがあります。
●同じ流れで、『帰ってきたヒトラー』ですが、ちょっと訳が入ってきませんでしたが、パロディとしての面白さがあります。ナチスやヒトラーというのは、なんでもやりそうなイメージがあって、今後も小説世界で活躍しそうですよね。
●タイムスリップものでいうと、荻原浩の『僕たちの戦争』は、平成の若者と昭和19年に生きている青年が入れ替わってしまう物語です。平成にジャンプした大日本帝国軍軍人の青年は、こんな世界をつくるために自分たちは戦ってきたのかと悩みますし、過去に行った若者はもうすぐ戦争が終わるとわかってやり過ごそうとしますが、軍の同僚が平成の世に残してきた恋人の祖父だと気付いて、未来の彼女の命を守る行動に出ます。どういう結末かは読者に想像はさせますが、はっきりと作者は書きません。そこが余韻があっていいです。
●『僕だけがいない街』もタイムスリップもので、主人公はそういう特殊能力を持っていますが、何かを解決できるまで自分の意思とは関係なくタイムスリップを繰り返してしまいます。これはアニメも映画もありますが、コミックがいちばんいです。
●筒井康隆の『日本以外すべて沈没』は小松左京の『日本沈没』のパロディですが、他国の有名人がどんどん日本にやってきて、あるハリウッド女優はバーのマダムになっているとかその当時の有名人や時代感が出ていて面白いです。
●ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』は、怒っていることが現実の話だというところがとても興味深いです。ある事件の容疑者ビリーはそのことにまったく記憶がないところから物語が始まります。いくつもの人格を持った人間の存在はあるだろうと思っては見ても、現実感がないのに現実の話というところが怖いです。
●村上春樹の本訳ものです。フイリップ・マーロウがとてもいいです。存在感があります。
ハードボイルドってこんな感じかなっと思ったりします。
●『世界の終わりとハードボイルドワンダーダンド』は、最初はエレベーターがこれでもかと出てきて、まだ終わらないのかなと思ったりしますが、例えば「計算士」という職業がいかにも現実にあるように書かれているところなどおもしろいです。文章もスタイリッシュですし。
●『ねじまき鳥クロニクル』は、スパゲッティを作るシーンがいです。春樹の小説は食べ物がとてもおいしそうです。
●村上春樹つづきで、『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』ですが、一つはすぐ全世界に向けて翻訳されることがわかっているのに、なぜこんなに日本人っぽい名前を多用したのかな?で、これは最初短編だったんですよね。主人公が学生時代の中身に訳は分からないけれど疎外されてしまうというまでの。でも主人公の恋人があなたはこの原因を突き止めなくてはいけないと言ったので、続きを書くことになったそうですよ。
個人的に言えば春樹の小説は、刺激が薄い感じがします。例えばある描写を見てこの描写が表現が薄いんじゃないと思ってしまいます。
●さっき、すべてを書ききらない良さという話題が出ましたが、それのマイナス点をこの『獣の奏者』に感じています。1,2巻で謎をすべて明らかにせず、余韻を持った終わり方でとてもよかったのに、3,4巻で滅びる様子を逐一書いていてがっかりさせられました。
どこで留めて終わらせるかというのは、その物語の存在意義に関わるところだと思います。
●西尾維新は美少年探偵シリーズから読むといいと思います。でも「戯言シリーズ」は鉄板です。『クビキリサイクル』から読みましょう!!
●桜庭一樹の小説ですが、唯一ジャケ買いで購入してしまった本です。淡い感じの非現実な物語でした。
凝縮された時間の中でブックカフェは開催されました。例によりもっといろいろな話も出ましたが、すべて拾えませんでした。次回は今日これなかった方たちもタイミングよくきてもらえることを祈って、後期開講後の9月27日(火)に決まりました。