TRANSLATE

PickUp

2018.02.05

1月のブックカフェレポート

ニュース

2018年1月30日(火)衣笠ブックカフェレポート

ようやく後期試験の終わった日の夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。今日の参加者は、産業社会学部1回生の方(初参加!)と2回生の方、文学部2回生の方2名、3回生の方2名が駆けつけてくれました。

こんな本が話題になりました

●最近、『精神現象学』(ヘーゲル)と『純粋理性批判』(カント)を読んでみようかと思ったのですが、とても歯が立ちません。この哲学者たちは人にわからせようという気がまったくありません。ヘーゲルはナポレオンと同年代の人なので、ナポレオンと絡めて小説を書きたいと『ヘーゲル伝』も読んでいるのですが、なかなか先は遠いです。

●古美術研のサークル活動が忙しくて、その現実逃避のために読んでいるのが木下杢太郎の随筆の全集だったり、武者小路実篤の全集だったりします。この二人は実生活で相容れないところがあってその論争がとても面白いです。絵画の約束論争というのがあって、山脇信徳という画家の絵を木下は「自分の感情に惹きこもっている。視るものの感動を得るためには、社会と調和させた方がいいのでは」、これに武者小路実篤が真っ向から反論して「社会におもねれというのか」。武者小路にとっては天才という存在はそれだけで社会をつくる存在であって、わざわざ社会のことを考える必要はない、という主張だったのです。
天才というのは個人の才能だけでなく、この才能を育ててくれる環境と相まってはぐくまれるものですね。白樺派と反白樺派との争いもあって歩み寄りはなかったようです。面白いですねー。

●ジョージ・オーウェルの『一九八四年』を読みました。
最初は、上から押さえつける支配社会のことを多く書いている本と思っていましたが、現実的には、ソ連などが社会主義でこうした社会をリアルに実現したので、ちょっと言語的なところに注目が行ってしまいました。例えば、ある人が「2+2は?」と問われて「4」と答えるのですが、「5だ。何がなんでも5だ。」ということを徹底させるのがディストピアかと思いました。

●『動物農場』や『素晴らしい新世界』などディストピアものと言われていますが、人間たちが思考能力を奪わり、ものごとの判断をできない状態の社会がディストピアというのでは?

●まず文明社会があって、それが破壊したあとの社会がディストピアであることが多いです。最初に『虐殺器官』があって『ハーモニー』があるように。文明が無くなる恐怖ってありますよね。今だったら電気がなくなるとか、ネットが世界的に落ちて使いものにならなくなるとか怖いです。スマホがないなんて考えられません。

●どちらにしても話の中の飯がまずかったらディストピアですよ(笑)

●『紙の動物園』は「不死」とか「人格のデータ化」というテクノロジーの果ての人間疎外を書いたSF作品です。これも大枠としてはディストピアものかも。

●みなさんは水上悟志という漫画家はご存じですか?ずっぽりはまっています。
『惑星(ほし)のさみだれ』は、魔法使いと戦って倒すことを目的とする12の戦士が出てきます。彼らは契約時に一つだけ望みが叶います。いちばん良いところはシンプルなセリフで殴り殺してくれるところです。殴られて気持ちいい感じなんですよね。

●『戦国妖狐』は室町幕府13代将軍足利義輝の時代。闇と呼ばれる妖異と闘いを繰り広げる話です。戦国を舞台にした歴史ファンタジーなのですが、未来を変えるため過去から来ました!見たいな雰囲気があります。めちゃ面白いです。

●『デファレンス・エンジン』は蒸気機関が完成し、それによって生まれた蒸気で駆動するコンピュータによって、産業革命と情報革命が同時に進んだ架空の英国が舞台となっています。実在した歴史上の人物がたくさん出てきますが、物語上の歴史と現実の歴史の間には大きな差があります。蒸気の計算機が成功した場合どんな世の中になるのかというのが興味津々です。社会は世襲制の貴族制度が廃止され、能力に応じて貴族に分類される社会になっています。

●でも蒸気が世の中を支配する社会はどんな風景なのでしょうね。イオン混じりの煙に覆われているとか、街の電気は確保されているのかとか。きっとガス灯見たいな感じかなぁ。

●ニュートンとかも出てきますが、科学者であるけれど錬金術師でもあって神学的な要素をたくさんもっています。急進派が力を持った社会ですが、神の存在などは否定されていません。こうやって見ていると、歴史を学校時代に習った気になっていても、文化史の素養はほとんどありません。その辺がはっきりしているとこの本も読みこなせるのでしょうか。

●ちょっと話は飛びますが、平安時代の人物像の「ひきめかぎ鼻」ですが、これはあえて似ている顔を書いたという説がありますよね。本人に似ていると陰陽師の手に渡ったりすると呪われるとかいう考えがあって、区別をつけなかったそうですよ。

●そういう知識に裏打ちされると本の楽しみも倍になるわけですね。

●この本にはどんな食卓があるのでしょうか。イギリスの貴族はたいがい貧しい食事を旨としていて、いちばん贅沢なのは、貴族に使われているメイドの階級だそうですよ。ささやかな御給金をおいしいものを食べることに費やして、宵越しの金を持たない。この小説は貴族社会ですからきっと節制した生活だったのでしょうね。

●実は、太平洋戦争に日本が勝っていたらとか、現実とは違う社会をテーマに書かれた本はたくさんありますよね。ちょっとボタンの掛け違いで違う社会に生きていたかも?と思わせる小説はほんとうに怖いですね。

...実は「デファレンス・エンジン」の話題は、1時間も続きました。でもまとめ役の担当者がうまく書きだせなくて...すみません...

●『デファレンス・エンジン』はサイバーパンクのお話ともいえるのでしょうか。
サイバーパンクと言えば『ニューロマンサー』ですよね。超巨大ネットワークが地球を覆いつくし、財閥とヤクザが経済を牛耳る近未来を描いています。ものすごく評判になった本で映画化も何度も企画に上り、何度もぽしゃっています。

●山田詠美を読んでいます。『放課後の音符(キィノート)』は表紙は可愛らしい女の子なのに内容は女性を表現しています。「いつ恋に落ちても大丈夫という自信のない女は、むやみに人を好きになっちゃいけないんだよ。それが大人のルールだよ」などはっとされる場面が満載です。『僕は勉強ができない』の主人公は作家好きの高校生で、勉強はできないのに女性にはよくモテる。名言があふれていて楽しめます。

●同じような印象をよしもとばななの『つぐみ』で感じます。若いからって、足りない、わかっていないなんてこと、決してないんですよね。

たくさんの話題で楽しみました。次回は4月26日(木)になりました。
次回までちょっと時間があきますが、またお会いしましょうね。