TRANSLATE

PickUp

2018.08.06

7月のブックカフェレポート

ニュース

2018年7月30日BKCブックカフェレポート

暑い日々が続く中、BKCブックカフェが開催されました。今日は、情理2回生の方、4回生の方、生命科学院生の方、薬学部4回生の方が参加してくれました。

こんな本が話題になりました

●太宰治の『人間失格』を読みました。薬中毒の男の情けない話です。
〇いろいろあっても「いっさいが過ぎ去っていくんですよね。」
〇太宰は明るいお話も好きですが、ちょっとはすかいな作品も好きです。『晩年』とか。
「死のうと思っていた」から始まって、「反物をもらった。その生地は夏のものだった。夏まで生きていようと思った。」ちょっとかっこつけですよね。

●赤川次郎の『記念写真』を読みました。背筋が凍るミステリーから心に染み入る人間ドラマまで10の物語がつまっています。さくさくと読めて、それでいて読み応えがあります。
〇赤川次郎さんは、数多くの作品を書かれていて人気のシリーズも多いですが、それだけ書けるということは大いなる才能なのでしょうか。

●安倍公房の『砂の女』を読みました。虫採集に来た男が、村人につかまり、砂に埋もれた女の家に囚われ、毎日砂を掻き出す作業をさせられます。もう解放の道はありません。不条理です。
〇彼は最初は逃げようとします。でもそのうち諦めて、すべてを受け入れます。そこが恐ろしいです。

●『壁』は名前に逃げられた男が現実での存在権を失い、他者から犯罪者か狂人のように扱われて、彼の目に映る現実世界も奇妙な不条理に変貌し、彼自身も無気質な壁に変わっていくという物語です。すごい前衛的な作品です。

●不条理と言えばカフカもそうですが、まだ『変身』はストーリーがあってわけがわかります。『城』は城に雇われた測量士がどうしても城にたどり着けないというお話です。何が言いたいのか、なんの象徴なのかまるでわかりません。しかも未完小説です。永遠に謎は解けないのです。

●初めて円城塔の作品を読みました。『これはペンです』は文章の書き方がいいです。
入り易いし、読みやすい。これで円城塔を読もう!と思って別の作品『プロローグ』を読んだら、困りました。まったくもって読みにくいのです。罠かと思うぐらい読みやすさに差があります。こんなに作品別に難解さと読みやすさが入り混じっているとうまく読めません。この読みにくさは衝撃的です。味わってみてください。

●円城塔といえば、伊藤計劃の意志をついで、彼が最初の30枚の原稿を残して早逝したため、残された原稿をもとに『屍者の帝国』を書き上げましたが、これはフランケンシュタインによる屍体蘇生術が普及した19世紀が舞台で、ワトソンを始め多くの著名な登場人物も出てくる面白さがあります。

●伊藤計劃と言えば『虐殺器官』ですよ。戦う世界が身近に感じられます。傑作です。

●小沼丹の本を読んでいます。小説もおもしろいですが。エッセイもいいですよ。

『珈琲挽き』が秀逸です。庭の木々と草花、群れ遊ぶ小鳥たち、木漏れ日、散歩道、そんな日常の風景を穏やかに温かく描いています。

●ちょっと批判的な言い方になりますが、『ビブリア古書堂の事件簿』の出始めに、こんな雰囲気のラノベが増えたのはいかがなものかと思います。
〇ラノベはなかなか終わらず長いですしね。涼宮ハルヒとか有名ですけど...。
〇筒井康隆は日本で、ラノベを一番最初に書いたのは自分だと豪語していますよ。
『時をかける少女』がそうですって。

●日常の謎ミステリってありますよね。北村薫が始めたという。その感じが好きです。
『空飛ぶ馬』は、人気のシリーズです。

●『読書と日本人』は読書がどのように発展・変化してきたのかを解説しています。日本人の読書を歴史的にたどった本は珍しい。平安から明治前期の読書を扱っていて、黙読というスタイルの定着や静かな部屋にこもって一人で読書を楽しむ喜びが過去の人たちから語られ、現代では、書評などの進化から見知らぬ人々と同じ本を読むという文化が生まれた、一度読んでみてください。

●海外の文学では、いたるところにシェイクスピアから引っ張ってきたものが多く、知識がないと充分に楽しめないものになっています。キリスト教の教えなどもそうですよね。
〇みんな読んだ気になって語れるけれど、本当は読んでいない人が多いって聞きますが。
〇『ユリシーズ』なんかも難解で誰も読まないけれど誰もが知っているってやつでしょうか。
〇『失われた時を求めて』もエピソ-ドとかは知っているけれど読んではいないってやつですね。

●ゴーリキーの『外套・鼻』の鼻は鼻が勝手に動き回る話です。なくなったり現れたり、どういうことなのかさっぱりわかりません。

●『不思議の国のアリス』はアリスが白いウサギを追いかけ不思議の国に迷い込むというお話ですが、これは英語で読むと、まるでわかりません。多数のナンセンスな言葉遊びが紛れ込んでおり、作中にある詩や童謡はその当時の流行り物のパロディだったりします。そんなの、わかったものじゃありません。

●昔『ウォーリーを捜せ』を読みました。いつのタイミングでよしとするか、終わりが想定できない不思議さがあります。

●『シャーロック・ホームズ』は昔よく読みました。フロックコートのいでたちがとてもかっこいいです。
〇理屈ではホームズの推理が当たっているかなんてわかりませんが、名探偵が言うから真実だという説得力はありますよね。
〇海外では名探偵の言葉は神の言葉、という決まり事があるみたいですよね。誰も逆らえない...。
〇でもホームズを読むとイギリスのベイカー街に行ってみたくなりますよね。
〇同じイギリスですが、ブロンテの『ジェーン・エア』はイギリスの荒涼とした風景と寒さに震える感じが苦しくて行きたいとは思いません。これは美男美女が主人公でない初のメロドラマです。
〇僕は、新選組の小説を読んで、京都の壬生へ行きましたよ。

●フィリップ・K・ディックは注目しましょう。斬新な小説です。ちょっと変わっているけれど。

●よくタイムスリップものってありますが、『戦国自衛隊』は戦国時代において、特出した戦いぶりを示しますが、物資の補給が続かずに敗れるというお話でした。過去にさかのぼってその時代の空気を味わうという物語は多いですが、過去に行ったからって、その時代のことが手に取るようにわかるという保証はないと思います。だって今私が未来から来たとして、この時代のことが手に取るようにわかっているかと言うとちょっと疑問です。歴史って難しいですね。

これで春セメスター最後のブックカフェが終わりました。
次回は9月27日になりました。みなさん、ぜひいらしてみてくださいね。

2018年5月29日(木)衣笠ブックカフェレポート

5月の蒸し暑い日の夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。
今回の参加者は、産業社会学部3回生の方、文学部1回生の方、3回生の方お二人、4回生の方、合計5名の方が参加してくれました。

こんな本が話題になりました

●『教誨師』という本を読みました。教誨師というのは職業ではなくて、今はほとんどボランティアなのですが、主には死刑囚にかかわって面談をするお仕事の人です。著者の人は、自分が亡くなったら出版して良いと言い残したそうですが、いろいろな死刑囚の方がいていろいろな人生があって、いろいろな考え方があって、死刑制度というものを深く考えさせられます。

●『「やさしさ」過剰社会』という本は、人への優しさが人のためでなく、自分の自己保身のためのものであるのではという問題意識を投げかけています。人に何も言わないということは、叱られ慣れない子どもたちを生み出し、生き抜いていく力を奪っている。本当にこのままでいいのかという問題提起の本です。

●伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』を読みました。かかしが出てきます。かかしは未来を見通せるはずなのに殺されてしまいます。なぜ自分の未来がわからないのでしょう?

●『魔王』は伊坂幸太郎が「自分が読んだことのない小説を読みたい」ということから書いた本だそうです。主人公は自分が思っていることを相手に喋らすことができる能力の持ち主。おもしろいですよ。

●伊坂幸太郎は最初『重力ピエロ』で一世を風靡しました。「春が2階から落ちてきた」というような描写が印象的で、最後に常識外のことを犯しても罪を償わないのが、ああよかったなと思えました。

●名作と言えば『終末のフール』です。隕石が落ちてきて、何年後かに地球が滅亡すると決まった世の中が舞台です。最初の荒れ狂うような事態が収まり、人々は日常を取り戻します。
そうした人々の6編の短編集です。
〇ボクサーが毎日走って、同じ日々をたんたんと繰り返します。それを読んだ時ああいいなぁと思いました。
〇前に他の方ですが、この物語が大好きで読み終わるのがもったいなく感じた、と言っていました。そんな本と出会いたいですね。

●有川浩の『キケン』を読みました。ものすごくはじけている青春ドラマで本当におもしろかったです。
〇私はお店の子が活躍する文化祭のラーメン屋の話がよかったです。こうしたら売れると計画をたてて、布陣を敷いて、「イクゾー!」とやりきる。スカッとします。
〇最後のノスタルジアな場面は、本当に泣かせます。やられた~!!って思います。

●有川浩だとやはり『塩の街』から読んでほしいですね。自衛隊三部作はお薦めです。

●最初の一冊として『阪急電車』が人気ですよね。いろいろな登場人物が面白くて、私は日本語の不自由な恋人の話が好きです。
〇関西にいると阪急電車も身近に感じますよね。

●『キケン』もそうですが、この本たちエンターティメント性って、森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』とかに通じるものがありますよね。
〇はじける青春!?先輩の恋心が泣かせますが。黒髪の乙女の認識度が低いのが切ない...。
〇前に舞台を見ましたが、祇園の場面とかがとにかく明るかったです。ハチャメチャなのに泣かせるって感じですかね。

●『武士の日本史』を読みました。歴史的に武士がどのように発展してきたかがよくわかります。「武士がいなくなって武士道が生まれた」「武士は農村でなくて都で生まれた」「主君を変えるのは当たり前」「戦場の馬はすべてポニー」「武士の命は刀ではない」・・・武士はそもそも弓という飛び道具で戦ってきたわけで、刀はあとから出てきたものです。
〇芥川龍之介の『藪の中』。ある場面で、盗賊と弓と刀を交換します。弓を渡した方は、遠くから弓で襲われて、持っている刀も奪われてしまいます。そんな力関係があります。

●11月に羽田圭介先生の講演があるということで、先生の本を買って読みました。まず有名な『スクラップ・アンド・ビルド』ですが、死にたいと訴える爺さんと暮らす孫の話で、叶えようとする孫の可笑しさがあります。それと少しエロい感じのお話なのです。『メタモルフォシス』はSMクラブが出てきます。まだ途中ですが、やるなぁという感じです。

●たまたまレポートがきっかけだったのですが、おもしろい本を見つけました。
『大津絵』という本です。大津絵というのは、江戸時代初期から大津で書かれていた民俗絵画で、さまざまな画題があって、旅人達にも土産物や護符として知られていたものです。
絵を見てください。ファンキーでかわいいでしょう。今で言うゆるキャラみたいですよね。
仏教画にしても、一度に13の仏像を書いて一気に信仰できるとか、合理性に満ちています。まぁ民芸なんですが、おもしろいです。

●星新一の『未来いそっぷ』に収録されている「少年と両親」というお話がとても怖くて印象に残っています。年老いた両親とわがままな息子がいて、息子はお金をせびって遊んだり、暴言を吐いて暴れまくります。そんな彼に両親はひたすら耐えて、しかも少年の体を気遣います。ある日ある男が「期限が来た」とやって来て少年を連れ出そうとします。
実は彼は、臓器移植仲介業者で、業者は生まれる前から子どもを臓器移植用として買い上げていたのです。「よくここまで五体満足に育てましたね。脳以外すべて使えます。これで老後の生活は安泰ですね」老夫婦は少年の叫び声には反応せず縮こまって男に頭を下げた...。というお話です。怖いでしょう。
〇本当の子どもだったらすごいホラーですよね。血のつながりがないとか裏がないとやりきれませんね。
〇カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』もそういう話ですよね。臓器移植を前提にクローン技術で生まれた少年少女たち。彼女たちに未来はありません。
〇変わったところでは、菅浩江の『五人姉妹』は一人は本当の子どもで、臓器を実験のため作り物に入れかえているのですが、何かあった時のため臓器のスペアとして4人のクローンを用意されているというSF作品です。こういうのってクローンが自覚があるかどうかがか鍵になりますよね。まぁみんな受けいれてますけれど...

●ポールギャリコの『猫語の教科書』はおもしろいです。ある日編集者のもとに変わった原稿が届けられます。暗号のような文章を解読するとそれは猫による全国の猫のためのマニュアルだった。「快適な生活を確保するために、人間をどうしつけるか」人間の家をどうのっとって、自分の場所をあけさせるかなどなど猫による猫のための本。猫好きな人はもちろん、そうでない人も読んでほしい。

●高村薫の本は読んでほしいです。『李歐』と『わが手に拳銃を』は姉妹編の本なのですが、主人公は大学生で、在日やら解同の伯父が出てきて、大学生は関わっていくについれて転落していきます。美青年の殺し屋との出会いやいろいろあって、とにかく読み終わると達成感がハンパないです。

●東野圭吾はうまく読めないんですが、『秘密』を読みました。バス事故に妻と娘が遭遇して、娘だけは命を永らえたと思ったら、娘の体には妻の精神が宿っていたというお話です。夫は、娘を妻として見ますが、それは許されることではありません。そして妻は娘として新たな学校生活にチャレンジし、自分の生活を確立していきます。妻なのに娘・・。離れていってしまう、というせつなさがあります。
〇ネタバレですが、旅立っていこうとする娘は、娘の心から妻が消え去って、娘が出てくるというような場面があります。でもこれは本当に戻ったのか、妻の演技なのかわかりません。夫は、妻を再び失い、旅立っていく娘の背中を見るしかないのです。

●綾辻行人の『アナザー』はホラーですが、面白いです。転入生の主人公は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚えます。そして不思議な存在感を持つ少女が気になります。そんなある日クラスメイトが悲惨な死を遂げる......果たして!!という物語です。しんしんと怖いです。
〇綾辻といえば「館シリーズ」ですよね。未だにデビュー作が語られ続けています。『十角館の殺人』で新本格ブ-ムを巻き起こしました。

●ミステリーだったらエラリー・クイーンとかもいいですね。名探偵の存在が際立っています。神の名を受けた存在というか、神々しいです。

●古畑任三郎は人気ドラマですが、その時々の旬の役者を犯人役に迎えているのがすごいです。イチローが出たことがありましたよね。難易度の高い役をよくここまでという演技でした。
〇あれは登場人物が少ないのに、よく響きあって出来がいいですね。ゴールデンハーフのルナがお気に入りという古畑がお茶目にかわいいです。
〇お茶目でかわいいといえば、部下の西園寺くんからホームズと誕生日が一緒と告げられて喜んでいる姿もかわいかったです。

●仏像を見にお寺に行きます。仏像って目力がすごいです。夏目漱石の『夢十夜』の中に掘っても掘っても運慶が出てこない!!!というのを思い出してしまいました。

●『未来少年コナン』は最終戦争が勃発したあとのお話で、のこされ島におじいと住むコナンのもとに、ある日、科学都市インダストリアの者たちにさらわれた少女ラナが隙をみて逃げてやってきます。またさらわれたラナを助けるために旅立つという冒険活劇です。
〇『名探偵コナン』の作者、青山さんが主人公の名前を「江戸川コナン」にしようとしたところ「未来少年コナン」があったので「江戸川ドイル」にしろというお話になったそうです。
コナンにこだわってよかったですよね。今、コナンと言えば名探偵ですものね。

●『ペンギンハイウェイ』が映画化されるので楽しみです。
〇森見さんの作品はいつも場所が「京都」とか特定されているのに、この作品はどこかの新興住宅地ってことになっています。研究熱心な主人公の少年がとてもかわいいです。
〇ペンギンがたくさんでてきます。不思議なお姉さんへの淡い恋が切ないです。

●夏と言えば読みたくなるのは『夏への扉』です。SFの古典ですが、最後はもやもやがすっきりするのがサイコーです。未来からタイムマシンで帰ってくるのに、未来へ行くのはコールドスリープとかちょっとチープな古めかしさがいいです。

●『悪童日記』を書いたアゴタ・クリストフの作品で『家』というのがあります。ある少年がいて、少年は自分が住んでいる家が大好きで、ここから離れようとはちっとも思っていません。ずっとここにいる...。でも世の中はそんな訳には行かなくて、学校に行ったり働いたりで引っ越しをしてしまいます。そしてかなりの時間がたって、彼はまた昔の自分の家を思い出します。そして昔の家を再現しようとします。でもできた家はどこか違って見えます。そして本物を見に行こうと思いつきます。老いてから訪れた家に変わりはありませんでしたが、今は他の家族が住んでいて、もう自分のものではありません。家は自分を愛してくれなかったのか、と感じますが、そのうち最初に家を見限っていたのは自分だということに気が付くのです。

●昔話やおとぎ話を童話風にアレンジした『大人のための残酷童話』という倉橋由美子の小説があるのですが、その中で「かぐや姫」のお話がいちばん気の毒です。
月から舞い降りたかぐや姫は光輝くほど美しく、たおやかで、老夫婦にかしづかれて育ち、多くの求婚者が押し寄せます。いよいよかぐや姫は月に帰るということになったときに、地上の人々は抵抗します。かぐや姫を返せと諦めません。それならと天人たちは、空飛ぶ乗り物に入ったかぐや姫を地上に置いて帰ってしまいます。「ああ良かった」とかぐや姫に人々が近づくと、それは球体のように膨らんで、目も鼻も口も見えないような生き物にかわっていました。月でのかぐや姫の姿のままほっておかれたのです。意地悪ですよね。誰もかぐや姫の相手はしません。本来いるべき場所を受け入れないとこんな結末になるとしたら人生やってられません。そんな辛口のエピソードがいっぱい詰まっている本です。

●『アイヌ民謡集』という本がありますが、アイヌ語には文字がなくて、口伝でいろいろなことが伝わってきた言語です。今、『ゴールデンカムイ』とか注目を浴びていますが、違った文化について興味があります。

今回もいろいろな話題で楽しんだ2時間でした。次回は10月2日になりました。もしよければ、みなさん、いらしてみてくださいね。