12月の11日、火曜日の夕方、立命館大学産業社会学部の飯田豊先生と富永京子先生のトークイベントを開催しました。
お二人の関わられた『現代文化への社会学―90年代と「いま」を比較する』(高野光平・加島卓・飯田豊編、北樹出版)『ポスト情報メディア論』(岡本健・松井広志編、ナカニシヤ出版)という二つのテキストの出版を記念したトークイベントです。
学生のみなさん、そして教員のみなさんも参加され、立ち見がでるほどの盛況のなか、富永先生は写真のような姿で登場され、会場が一気に湧きました。
トークがはじまると一気にスイッチが入るお二人。『現代文化への社会学―90年代と「いま」を比較する』は富永先生によれば編み物のような――伸縮性があって通気性がよい、それぞれのテーマから共通の部分を引き出して読むことができる――テキスト(教科書)であるとのこと。飯田先生と高野光平先生(茨城大学)、加島卓先生(東海大学)の共編著で、企画スタートから4年かけて完成した教科書だそうです。最近の学生さんたちの卒業論文やレポートを指導されているなかでよく出てくるテーマを、編者の先生方で持ち寄って組み合わせを考えながらバラエティに富んだ15の章を決められたそうです。それぞれのテーマに適した先生方に執筆を依頼、その中に富永先生がいらっしゃいました。
編者のお一人である飯田先生とご執筆に関わられた富永先生がこの本においてしっかりと共有されていたこと、それは授業やゼミのなかでさまざまな時代の動きにあわせたテーマを扱おうとする今の学生さんたちの問題意識と、その一世代ほど年長にあたる執筆者の先生方が向き合うなかで感じるギャップを架橋しようという思いであったことが、お二人のお話からしっかりと伝わってきました。
そして、サブタイトルにあるように「90年代と「いま」を比較する」ことをテーマとする本書が90年代論としては物足りない、そんな印象を受ける読者もいるかもしれない、とおっしゃる飯田先生。しかしそれは今の学生のみなさんの問題意識と接続することを重視した結果でもある、ということから、学生のみなさんとのコミュニケーションを本づくりにおいてもしっかりと意識され、工夫されているのだな、という印象を受けました。
飯田豊先生と富永京子先生のお二人がご執筆された『ポスト情報メディア論』は富永先生によれば織物のような――伸縮性は高くない、通気性もよくないけれど、どれか一つの章が学生にフィットすればしっかりと読んでもらえる――テキスト(教科書)とのこと。岡本健先生(奈良県立大学)と松井広志先生(愛知淑徳大学)という気鋭のお二人が編者の、新しいメディアをつくっていくこと、考えていくことを志向した野心的なテキストで、執筆依頼を受けたお二人は、タイトルにつけられた「ポスト」という文字の意味を考えながら、何か新しいことを考えなければ、書かなければというプレッシャーのなかで執筆されたそうです。こちらも目次には奇抜でユニークなテーマが並び、比較的若い世代の執筆者たちが、のびのびと、しかし、きめ細かく事例について書いていることが特徴だとのことでした。
飯田先生曰く、90年代という話題に無理やりつなげれば、90年代のメディア論は、さまざまなルーツをもった学説がブレンドされ、ごった煮の状態だった――そして、本書は、その当時のことを思い出すようなスタイルの教科書になっている、とのことでした。21世紀に入って入門書や教科書が相次いで刊行されると、そのような状況がいったん整理され、良くも悪くも洗練されてきたものの、さらにその先に進むにあたって、メディアという概念をそれぞれの書き手が再解釈し、あえてもう一度ごった煮的に扱うことによって、文字通り新たな方向性を模索するような本になっているのではないかという見方を示されていました。
後半は富永先生がご自身の「はがき職人」についてのご研究について飯田先生にご質問(研究相談をお願い)される流れとなりました。はがき職人――深夜ラジオ番組や雑誌におもしろネタを送る人たち――のつくる言説の空間について、現在調査を進めておられるとのこと。雑誌やラジオへの投稿活動はカウンターカルチャーとしての性格を持ちつつ、一方で対抗性が希薄化し、政治的な事柄を「茶化し」「いじる」動きも強く見られるようになる。こういった流れについて、どう社会学の研究として扱うことができるのか。
富永先生が、飯田先生にメディア研究の視点からのアドバイスを求めながら考察を深めていくかたちで、特に投稿文化とネットカルチャーの接続性、あるいは、その違い(なぜ一部は雑誌に残り、一部はネットに向かったのか)など、どんどんお話が深まっていく様子がとても興味深く、スリリングなトークとなりました。
終了後のふりかえりでは、このトークにふれながら、学生のみなさんの前でイベントトークをするにあたって、ふだんの授業における教員としての姿だけではなく、研究者として研究を楽しんでいる姿を学生さんたちにみせることの意義をお二人が強調されていたことも印象的です。
質疑応答もフロアの先生方や学生のみなさんから、後半の研究相談や前半の本の紹介について活発にご質問が出て、終了後も、会場でお二人を囲んでお話が続くかたちとなり、議論が盛り上がりました。こういったトークイベントでふだん授業で使用されているテキスト(教科書)についてのお話を聞ける機会はあまりないように思います。そして研究者同士の研究についての率直なやりとりがうかがえる機会は、学生さんたちにとってもたいへん貴重なものとなったのではないでしょうか。
飯田豊先生と富永京子先生、ありがとうございました。
この報告文書はナカニシヤ出版編集部様にお願いしました。重ねてお礼申し上げます。
立命館生協