TRANSLATE

PickUp

2018.12.11

11月のブックカフェレポート

ニュース

2018年11月15日OICブックカフェレポート

落ち葉舞い散る秋の夕方、OICでのブックカフェが開催されました。
今回の参加者は、総合心理の1回生の方が4人、2回生の方がお二人、3回生の方がお一人、政策1回生の方、経営の2回生の方が駆けつけてくれました。

こんな本が話題になりました

●母から進められて島本理生さんの『ファーストラヴ』を読みました。これは直木賞をとった本で、主人公はカンナという女子大生と臨床心理士の二人なのですが、その女子大生が就職の面接の途中で帰って父親を殺すことから物語は始まります。謎の多いセンセーショナルな事件で世間は騒ぎますが、口を封じてしまいます。そんな中、依頼を受けた臨床心理士がいろいろ調べていくとういう物語でわくわくします。
〇これは犯人が黙っているので、謎を解く臨床心理士の視点で書かれています。いろいろありますが、エンディングがめちゃめちゃおしゃれです!!!!

●島本理生さんといえば『ナラタージュ』ですよね。映画の松潤も魅力的でしたが、ナラタージュというのは「主人公は今を生きているけれど同時に過ぎた過去を、いつも現在に重ねあわせているところがある」という映画用語のナラタージュを見つけて使用したということです。かつて心を寄せていた先生との新たな関わりの始まり。でも先生には妻がいて、というせつなさが満開です。

●夏川草介さんの『神様のカルテ』を読みました。生と死がテーマなのですが、24時間365日がんばっている医師の主人公が大学病院に誘われるのですが、そんな時、手遅れで入院してきたおばあちゃんに出会います。手遅れの患者を拒否する大学病院、受け入れる地域病院。そんな中で迷いながら主人公は自分の生き方を見つけていきます。
〇実際の医師である作者の知識が役だっていますよね。また夏目漱石好きというところに惹かれます。

●遅ればせながら住野よるさんの『きみの膵臓をたべたい』を読みました。最初に男の子の名前が出て来なくて、関係が近づいて行ったときに、名前が出てきて呼ぶとか、その距離感の表し方にわくわくしました。そして読んでいくうちに泣いて泣いて泣きました。

●東野圭吾さんの『マスカレードホテル』のシリーズが大好きです。3つの予告殺人が通告されるところから物語が始まります。そしてそれがあるホテルで行われると推測されます。捜査一課の刑事たちがホテルのベルボーイやフロントスタッフに扮して配置されます。 果たしてを未然に防げるのか・・・潜入捜査の面白さが満載です。

●『マスカレードナイト』は匿名通報ダイヤルから不可思議な通報があったことから始まります。あるマンションに女性の死体があるとの通報。死体が見つかってそこに新たな密告状が来ます。はらはらドキドキで、何度読み返しても面白いです。

●冲方丁さんの『十二人の死にたい子どもたち』はおもしろいです。死にたい子どもたちがいるのですが、全員一致でないと死ねません。そこにある事件が起きて、一致が出来なくなってきます。それぞれの違いが見えてきます。部屋の見取り図とかもあって、謎解きも楽しめます。

●桜庭一樹さんが好きです。どの作家さんよりいちばん文章がきれいだと思います。特にひらがなと漢字の使い分けがうまいです。『私の男』は現在から過去に向かってお話が進みますが、性的関係を持つ養父が実際の父であるなど近親相姦が描かれています。

●桜庭一樹は『GOSICK』がいいです。舞台はヨーロッパのどこかの中立国、時代は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間。謂れのある生まれの美少女ヴィクトリカと東洋からやって来た留学生・一弥が主人公のミステリーものです。なにしろ天才的な頭脳を持ったヴィクトリカの不遜な態度やそれに逆らえない一弥との関係など、見どころはたくさんありすぎです。謎解きも文章の美しさもかっこよさも味わえます。

●湊かなえはすごいです。なにしろ読んで苦しくていやな気持になります。「いやミス」(いやなミステリー)というのは湊かなえにつけられた称号です。

〇『ポイズンドーター・ホーリーマザー』の最初の2編は「毒親」がテーマの本です。自分の親から一方的にから決めつけられた人生が最後にひっくり返るというような爽快感も味わえます。

〇『夜行観覧車』は高級住宅地に引っ越してきた一家も物語です。街のしきたりや近所づきあいで苦労をします。そんな中、親切に接してくれる一家と出会い救われます。両家の距離は近づきますが、そんな時に事件が起こります。わくわくして読めます。

〇『ユートピア』は資産家の老人が殺されるという事件が起きます。芝田という男が犯人と目されて指名手配になります。その後、老人の家は宮原という男が買って、パートナーのすみれと一緒に暮らします。実は芝田と宮原が犯人だったのです。そして共犯の芝田を殺した宮原は、庭に柴田の死体を埋めてその上にパートナーの工房をつくるのです。どうやって完全犯罪の綻びが出ていくのかが見所で面白いです。

〇『リバース』はしがないサラリーマンの主人公の恋人の職場に、主人公は人殺しだという手紙が来るところから始まります。実は3年前にゼミ仲間5人と旅行に出かけた主人公はある同級生が飲酒をしているにも関わらず、ゼミ仲間を車で迎えにやらせます。その同級生は途中で事故を起こし、帰らぬ人になります。そのことを恨みに思う者の仕業でそれが誰かという物語です。ぞくぞくします。

〇『贖罪』は、章ごとに主人公が変わる独白形式の本です。ある田舎町にできた工場と職員のための豪奢な住宅。そこに越してきた転校生エミリと地元の小学生4人は仲良くなります。あるときエミリが殺される事件が起きます。小学生たちはその男を見ているはずなのに顔を思い出せません。その後15年にもわたる贖罪の気持ちが登場人物の人生をゆがめていきます。怖いです。最後に謎が解けてびっくりします。

●西尾維新はお薦めです。最初のシリーズ戯言(ざれごと)シリーズも面白いです。まず表紙がPOPです。そして中身は読んでいるうちに裏切られます。その陥れ方がすごいです。立命館大学政策科学部中退の人なので、立命館大学を鹿命館大学、存心館を存神館とか表記していて笑えます。

〇『化物語』は、田舎町の高校生が怪異に関わった少女たちと出会い、怪異を解決していく物語です。作者がとにかく馬鹿な掛け合いに満ちた楽しげな小説を書きたかったことで生まれた作品です。

〇『刀語』は作者初の時代小説で、「刀を使わない剣士」とそれぞれある一つの能力に特化した「変体刀」と呼ばれる刀を持ったものたちとの戦いを描いています。
〇西尾維新の言葉遊びには注目です。すごい作りこまれた感があります。
〇西尾維新の筆の速さは目を見張ります。維新が5人いるのではと言われるほどの出版点数の多さはすごいです。

〇西尾維新の作品でいちばん読みやすいのは、乱歩のタイトルをオマージュしている「美少年シリーズ」です。これはお薦めです。

〇読みやすいと言えば「掟上今日子」のシリーズもお薦めです。一晩眠ると記憶を失ってしまう名探偵が活躍する物語です。

●江戸川乱歩のおどろおどろは注目です。おすすめは『人間椅子』です。主人公の女性作家は夫を送り出した後、ファンレターを読んでから作品に取り掛かるのを日課としていた。ある日届いた「私」からのファンレターはとある椅子職人からで、容貌は醜いが仕事は順調で注文が舞い込んでいた。ある時注文に応じてつくった椅子に、遊び心で一人の人間が入るだけの空間を作った。そして昼は椅子の中にこもり、ホテルの客である外国人少女が座る感触に触れた。ある時その椅子が売られ、その椅子はなんと女性作家の元に・・・・・。自分が座った椅子に人間が隠れていたかと思うと気持ち悪いですが、最後にこうなるかとあっと驚かされます。

〇乱歩と言えば『心理試験』がいいです。貧しい大学生は親友から、ある老婆がお金をため込んでいる、と聞きますが、老い先短い老婆より若い自分がその大金を使った方が有効であると考えます。そしてけっして自分の犯罪だとばれないように計画を練ります。そして実行に移します。その後心理テストで有名な判事がこの事件を担当すると知って、心理テストの対策を練ります。完璧に心理テストをこなす様子に名探偵明智小五郎は疑いのまなざしを向けます。そして主人公を罠にかけ、自白に追い込むのです。

●辻村深月の『ツナグ』は好きです。死者の霊と生きているものをつなぐことのできる才能をもった青年が関わっていく物語ですが、登場人物は許されたいから関わりたいという気持ちを持っています。最後の章でその青年自身の話が語られて彼は救われます。このためにこれまでの話はあったのかと思わされます。

〇本屋大賞にもなった『かがみの孤城』ですがこれは傑作です。最初、こなす課題が赤ずきんちゃんかと思ったら違っていたり、かがみの城に集められるひきこもりの中学生たちがそれぞれの世界では生きている時間が違っていたりとかあっと驚く仕掛けがありました。学校に行かないことを肯定も否定もしない。行かなくても人間関係は構築できるということが伝わりました。

〇辻村深月の最高傑作は『凍りのくじら』じゃないかな。「ドラえもん」が好きと言うのもあるけれど、ドラえもんのポケットから出てくる道具がたくさん出てきて、引き込まれます。主人公のやるせなさも共感できて、最後にファンタジー的ですが救いがあってよかったなと思いました。

〇『子どもたちは夜と遊ぶ』は今風のストーリーです。一人の受験生の失踪から始まった殺人ゲーム。兄に会えると信じてゲームを進める主人公。私は主人公の浅葱が好きで、辻村作品はわりと一人の人物が他の作品にも出るので、出ないかな~?と待ち望んでいます。

〇すごいなぁと思っている作品が最新刊の『噛み合わない会話とある過去について』です。4編が入っているのですが、これはファンタジーでもミステリでもありません、その一つを紹介するとアイドルな男性グループがいて、主人公は教師です。元教え子のアイドルがある日学校訪問をします。ちょっとした教え子の過去を知っている教師は特別な思いを抱いています。カメラが外れたときに二人で話すきっかけがあります。そこで自分が忘れているにも関わらず、相手が覚えてている過去を押し付けられます。ざらっと過去をなめとられるホラーにも似た恐ろしさがあります。人を殺さずに苦しめる作品です。

●読んで騙されるといえば乾くるみの『イニシェーションラブ』です。普通の恋愛小説として読んで終わってみるとあっと言わされます。そうだったのかと読み返してしまいます。
〇女ってコワイですよね。その謎は、例えば不倫をするときにバレるのは呼び名を間違えるから。「きみ」とか「ハニー」に統一したらOKですよね。そんなところがあります。みんな今度までに読んできましょう。

●『ジョジョの奇妙な冒険』はすごいです。コマの情報量がハンパではありません。これほど書き込まれたマンガを見たことはありません。
〇ジョジョは7編あって、それぞれ主人公は違うのですが、名前のどこかににジョジョが入っていてみんなジョジョと呼ばれます。ひたすら殴り合いだったり、吸血鬼が出てきたり超能力バトルになったり、縦横無尽に物語が広がっていきます。長いので途中から読もうと思っても、これはどうして?と思うとどうしても最初から読まざるを得ません。こうして人はみなジョジョにはまっていくのです。

とても盛り上がったひと時でした。
次回は12月13日(木)です。よろしくね。

2018年11月27日(火)衣笠ブックカフェレポート

穏やかな日差しの陰った夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。
本日の参加者は産業社会学部1回生の方、3回生の方、文学部1回生の方、文学部3回生の方がお二人、4回生の方がお二人、法学部3回生の方。合計8名、そのうちお一人が初めて参加の方でした。

こんな本が話題になりました

●先々週は羽田圭介さん、京極夏彦さんのイベントが立命館で続けてありました。羽田さんは『スクアップ・アンド・ビルド』で芥川賞を取られた作家さんですが、とてもいい講演会でした。学生さんに向けて「生きる上で自分がやりたいことをできることが幸福。何が出来るのか、何が好きなのかを試せるのが就職。」「知ったかぶりというのは美しい。わからないことでもわかろう、追いつこうと努力すること。それが分かりあう、理解できる道筋の第一歩」などいいお言葉をいただきました。
〇「サイン会でも一人一人に声をかけてくれて、ツーショットのお写真もOKで、すごい丁寧な応対で感激しました。

〇最新刊の『5時過ぎランチ』も連作ですが面白いですよ。お店では「僕以外の本でも本を読んでね」という色紙を飾って「羽田圭介さんが立命館に来られましたフェア」をしています。今からでも読んでくださいね。

●次の日の京極夏彦さんはとてもお話の上手な方でした。生き方として「できることはできる。できないことはできない」とはっきりされるタイプでした。
〇京極さんが作家になったのは本当に偶然だそうです。仕事場で自分が仕事を終わっても回りが終らないので帰れなくて、パソコンで小説を書いていたそうですよ。そうしたら、今は西尾維新の編集者である大田さんという方がその才能を見つけて、京極さんのデビューが決まったそうです。
〇京極さんのあの着物姿はそのまま大作家然としていますよね。
〇本が売れない中、電子書籍が出てきたとき、その扱いを間違えたと言っていました。電子書籍の力を誤ったというかたいしたことないだろうと思って、受け入れることをしなかった。こんなに広がるとはと言っていました。
〇イベントの時、一人だけ「妖怪」について質問した人がいて、この質問がなければ今日のイベントは妖怪抜きで終わったのにと言っていました。でも妖怪と京極さんは切っても切り離せませんよね。

●最近横溝正史を読みました。『獄門島』は、古い因習の残る島に赴いた名探偵金田一耕介が活躍する物語ですが、おどろおどろ感満載です。
〇金田一と言えば国語辞典、じっちゃんの孫と言えば「はじめ」ですよね。

〇横溝で有名なのは『犬神家の一族』で家宝による見立て殺人が繰り広げられますが、古い家柄の当主が亡くなって戦地に赴いている佐清が戻って来て遺言を開けるところから物語が始まります。ビジュアルに対応しているので映画化もたくさんされています。

●ナボコフの『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』を読みました。文章がとても難しくて、闇の奥に落ちるような気がしました。英訳がむずかしいのではなく作家自身が不親切な感じがします。

●岡倉天心の『茶の本』も難しくて読みにくいです。訳された文章というのは確かに読みにくいです。

●村上春樹の『風の歌を聴け』などの読みやすさは、最初日本語で書いたら、なんかしっくりいかなくって、英語で書いて、それを日本語訳にしたものだそうですよ。
〇春樹はペーパーバックとか読み過ごして青春時代を送った人なので、英語が担当だし、その英語っぽいところが各国で訳されて読み継がれている理由かもしれませんね。
〇春樹の小説の女性は強い人が多いですよね。『ねじまき鳥クロニクル』は主夫である僕と働く妻クミコがいて、やがて妻が失踪して・・。でも女は強いってわかります。『1Q84』の青豆も筋トレ猛者ですし。

●坂口安吾の『桜の森の満開の下』は、女に恋するがゆえ被虐に耐える男と、残酷な女との対比が見事です。残酷であればあるほど女の純粋性や聖性が際立ち、それは美しすぎる桜の存在と相まって物語を形作ります。桜の妖しい美しさは死の象徴でもあります。
〇桜の木の下には死体が埋まっているって言ったのは梶井基次郎でしたっけ?
〇この物語は女性性の恐ろしさがあります。女性の二面性。それはいつの世もありです。

●女の恐ろしさと言えば泉鏡花の『高野聖』もそうですよね。若い修行僧が迷い込んでぼ美女の住む狐家に足を踏み入れます。超現実的な幽玄の世界が描かれて、女の正体がとても恐ろしいです。

●村上龍は面白いですよ。『限りなく透明に近いブルー』は龍のデビュー作ですが、ドラッグやセックス、暴力を書ききった作品として注目されました。衝撃的な内容なのにその文章はシンプルで清潔感があります。その当時の人は「新しさ」を感じたのですね。

〇衝撃的と言えば『コインロッカーベイビーズ』もそうです。生まれてすぐコインロッカーに捨てられた子のその後の物語。孤児院で育てられて、養父母の元で暮らした日々。東京にでて、本当の母親を探すが、合えた時彼は・・・・。この物語もそうですが、龍は時流に乗ったお話を書きますよね。
〇コインロッカーに捨てられた話も本当のことですし。実際には亡くなっているのでしょうね。

〇『希望の国のエクソダス』は閉塞感強まる日本で、日本に絶望した中学生たち約80万人が学校を捨て、インターネットを駆使して新たなビジネスを始めます。そして北海道に土地を買い30万人規模で集団移住して日本からの実質的独立を果たすのです。これもインターネット時代の物語ですよね。

〇『半島を出でよ』は北朝鮮の特殊部隊が福岡を占拠し、自治を行うようになってしまいます。それに対する日本政府の対応は? 果たして博多民は博多を取り戻せるのか?という物語で、これも北朝鮮の政治状況が色濃く反映されています。

〇龍はそんな固い本ばかりではないですよ。『69』のはじけた青春物語なんてスカッとしますよ。

〇『鉄腕アトム』の誕生日は2004年4月7日ですよね。もう誕生しているんですよね。1960年代には21世紀は輝かしい未来だったんですね。

〇『ドラえもん』の誕生日は2112年9月3日となっています。ドラえもんはもともと子守用ロボットとして作られましたが、ねじが1本おちて不良品となってしまいました。今もって、生まれ年がまだまだ未来と言うのは夢がありますよね。

●海外作品だけでなく日本文学にもキリスト教の影響を受けた作品は多々ありますが、三浦綾子の『氷点』はその頂点とも言えると思います。人間の現在について突き詰めた物語です。

〇有名なのは遠藤周作の『沈黙』ですよね。映画でも見ましたが暴力のシーンとか見ていてつらかったです。許されざる信仰を守り通すその起爆剤とは何なのか、考えさせられます。
最後にバテレンが死んだときに、日本人妻がこっそりとロザリオを握らせて・・・という演出が泣かせました。原作は違うのですけれど。

〇大岡昇平も模索しています。『俘虜記』の登場人物は米兵に対して銃を撃つかどうか悩み、そして打ちません。『野火』は死の直前における人間の極致を書いた小説です。律しがたい生への執着と孤独の中で、飢えのため迷走、人肉食への欲求など極限が描かれます。

〇芥川龍之介でいうと『奉教人の死』でキリスト教世界のことが書かれています。描かれているのは男装女子ですが、様々なためらいがあります。

〇それでいうと夏目漱石の『こころ』で先生がKを裏切ったことを悔やむのも背景にキリスト教的心持ちがあるような気がします。

●日本の最初の書物である『古事記』も各地の伝承などが集められていますが、元は中国だったり、日本古来のものではないですよね。

〇『かみあり』は、神在月に八百万の神々が集まる出雲が舞台で、出雲の学校に転校してきた主人公が一定のルールを守り、神々と過ごす様子を書いたコミックです。

●『横浜大戦争』は横浜のそれぞれの区の土地神がバトルを繰り広げます。横浜愛に満ちた小説です。

●『未来職安』は、AIがすべての生産を行う社会で、人間は労働の必要はないけれど職安の需要はまだまだという世界が描かれています。「横浜駅SF」の作者です。面白いです。

●ルソーの『演劇について』を読みました。ジュネーブに演劇場を作るという話をルソーが「演劇は嘘をつくのでよくない」として反対するという本です。「自然に還れ」に反するとかで。

〇オスカー・ワイルドの『サロメ』は新約聖書に出てきますが、イエスに洗礼を授けた洗礼者ヨハネの首を求めた女として有名です。よく戯曲になっています。立命の劇団も格調高くわけのわからないものを演じるところや、ファンタジーを描くところなどいろいろありますが、芸術といっても人々の暮らしに寄り添い楽しめる存在ですからいいのではと思います。

●谷崎潤一郎は面白いです。短くすらっと読めるのは『春琴抄』ですが、二人は対で存在しており、女が主で、男が従のように見えますが、男の独占欲も描かれており、多面的に読めます。

〇『卍』は女性同士の愛を描いた作品で、そのうち夫までも惹きこみ、官能の世界に身を焦がし続けるというお話です。

〇『痴人の愛』15才の少女を自分の妻にしようと見出した男が次第に少女に取りつかれ、破滅していくという物語です。少女の小悪魔的女性の魅力が描かれています。

〇『陰翳礼讃』はまだ伝統のなかった時代の今と違った日本の美を書いた本です。風雅を知る日本人の感性が描かれています。日本人なら一度は読んでほしい本ですよね。

●『京都寺町三条ホームズ』は、あるアンティークを扱うカフェで地方から出てきた女の子がバイトします。そこにはホームズと呼ばれている大学院生、家頭清貴がいて、謎解きをしていく物語です。いちばん良いのは、京都に住んでいても知らない京都の隠れた名所について知れることです。

●京都と言えば森見登美彦ですよね。『四畳半神話大系』はパラレルワールドの楽しさが味わえますし、『新釈走れメロス』は有名な文学作品のオマージュとなっていて笑えます。
現代の『走れメロス』も大学生がオパンツ1丁になって走り回ります。本家のメロスは勝手に怒って、親友を人質にして、半ばあきらめたへたれ男の極致ですね。そして実際にはあまり走っていないのに疾走感があるというのは太宰の腕でしょうか。

〇森見の京都案内の『京都ぐるぐる案内』は森見作品の人物達が一目でわかるすぐれものです。一読あれ!!!

あっというまに2時間がたってしましました。
次回は12月18日(火)です。だれでも参加できますので、よろしくね。

2018年11月29日(木)BKCブックカフェレポート

ちょっと時雨れた夕方、BKCブックカフェが開催されました。
今回は常連の方が来られなかったのですが、理工学部4回生の方と経済学部4回生の方が参加してくれました。

こんな本が話題になりました

●最近、田中芳樹の『銀河英雄伝説』を読みました。遠い未来の銀河系を舞台に、数多くの英雄たちが攻防を繰り広げる物語です。対立する陣営のイデオロギーや人物像、陰謀の術など後世の歴史家からの視点として叙述しているので、作者の歴史、文学の知識が際立った架空の歴史物語となっている大作です。主人公は銀河帝国のラインハルトと自由惑星同盟のヤン・ウェンリーですが、ミッターマイヤーというラインハルトに絶対の忠誠を誓っている提督がいて、統率力に優れていて魅力的です。それで没落大貴族の姪っ子を囲っている、とかちょっと気になって注目しています。

●岩波文庫が50%オフになっていたので購入した『ナイチンゲール』ですが、ビクトリア王朝の時代、戦場で衛生管理に努めて100人に一人二人しか死なせなかった功績などが描かれています。これは結構すごいことで、ナイチンゲールとその看護団のレベルの高さを物語っています。白衣の天使としか思っていなかったのですが、すごい方だったのですね。

●冲方丁の『マルドック・スクランブル』を読みました。娼婦である少女が大ギャンブラーに身請けされるのですが、騙されて爆死させられそうになります。なんとか回復するのですが、この社会には人命を救うために超最先端の科学を使うことが許されていて、彼女はそれの対象になります。皮膚がすべてダメだったのですべて人工の皮膚に変えるのですが、その皮膚は高度な電気干渉能力を発揮して、敵であるガンブラーを追いつめていきます。頭脳戦あり肉弾戦ありで最高です。面白いのは、ギャンプラーは脳に埋め込んでいる記憶のチップを取り出すことができるんです。捕まった場合など「記憶にありません」で罪に問われないなどその特色も楽しめます。一番の注目は、文体はとても独特で、人によって好き嫌いが分かれると思いますが、スラッシュの多用とか体言止めを使い過ぎるとかです。

●文章に記号などを取り入れたのは1970年代の筒井康隆ですよね。七瀬シリーズの第3弾『エディプスの恋人』でそれこそ多用されています。ボールが空気をつんざくように投げられる場面では本当にボールが走っているのかと思います。ちょっと前衛的です。
〇日本で書かれた場合はそういった作品もいくつか見受けられますが、英語の場合はそういう自由度が失われているような気がします。言語の特徴なのでしょうか。

●『凶悪』という本を読みました。映画版ではピエール瀧がやっていますが、これは連続殺人事件の裏側を丹念に追って行って、犯人の手法を描き出しています。事実を重ねて、事件の裏をひたすらたどることで、真実を見極めようとしています。夢中になります。

●坂口安吾の『堕落論』を読みました。なぜか共感するところが大いにあります。戦時中コソ泥とかがなかったということについて「これはおかしい、やるのが人間としてまっとうである」と安吾は言っています。安吾はとても怖がりで防空壕の中で震えて時を過ごしているとき、圧倒的に謀略を静かに見ている自分がいるとしています。とてつもなく怖さの中の静寂、それも怖いです。

●安吾で有名なのは、『桜の森の満開の下』ですよね。これも圧倒的な美の存在である桜がやはり死を暗示しています。戦時中というのは、人がわけもなく死んでいく時代で受け入れられなくても、受け入れてしまう人間としての心地があるのかもしれません。

●夏目漱石の『こころ』はとてもお面白いと思います。年2回は読みます。夏の海水浴の場 面から始まるので、夏の終りに一度読むのが習慣になっています。
〇「精神的向上心のないものは馬鹿だ」というセリフは有名ですが、その言葉でKを追い詰めた先生が、なぜ後年とても後悔してしまうのか不思議でした。恋愛というのは盗った盗られたというより、相手の心に先に響いた方が勝利者であって、もんもんとしていたKはおのずから負けたのですから。
〇先生の後悔の元は、武士道による恥の文化からではないでしょうか。
〇高校の時『こころ』を読んで論文を書けという課題があったのですが、僕のテーマは「奥様は魔性の女かどうか」でした。純粋で無知なうえの魔性というのはあるかもしれませんが、普通の洗練潔白な人という印象でした。
〇奥様は先生が亡くなったあとに「僕」と結婚したという説もありますし。
〇どちらにしても、私は先生のように死のうと思ってからあれだけ長い遺書を書くだけの体力はありません。
〇仕方ないですよ、これは新聞小説で次の連載の作家の準備が遅れて、伸ばしてくれと言われた結果伸びたのですから。どちらにしてもの第3部しか読んでいない人には全部読んでほしいですね。

●最近はメディアミックスされている小説が多いですが、映画が成功しているなと思った本はそんなにありません。でも例えば、伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』は大成功例だと思います。2つの時系列と留学生がキーになっているので、ビジュアルで見るとすぐ謎が分かるぞと思っていたのに、うまく作っていました。原作読んでいたのに気が付きませんでした。

〇松本清張の『砂の器』の原作は単なるミステリーで、世の中を買い被った若者の芸術集団と戦後の社会性とあいまって見応えはありますが、映画では原作をほんの少ししか描いていない部分を大きく拡げて、日本の折々の四季と絡めて感動巨編にしています。やられたと思います。

〇『きみの名は』は映画が先で小説は後付けですが、小説らしくないビジュアルな雰囲気の文章です。監督や脚本家の各文章は、文として独立というより映像とのコラボが感じられますね。

〇映画として成功していると言えばクリスティの作品がダントツだと思います。『オリエント急行殺人事件』は原作を知らなくてもあっと驚かされるし、原作を知っていても細かなところで楽しめて驚けます。『そして誰もいなくなった』ももはや古典的名作ですが、名作というのはネタバレしていても楽しめるものなのですね。

●『八十日間世界一周』は気球で旅をする物語ですが、面白いのは登場人物の性格やその人の来ている服装、食べているものなどをこと細かに描写しています。たぶん自分が体験していないことを書くので、ブレないシーンのために状況を積み重ねたのだと思います。

●みんなに知られて読み継がれている『星の王子さま』ですが、飛行機乗りの目線で書いているせいか、かなり難しいです。哲学的な書き方でちょっと受け止めるのが大変です。

●現代の名作と言えば『朗読者』です。ナチへの協力のために文書を偽造したと疑われて裁判にかけられている女がいて、でも彼女は文盲なのでその容疑を果たせるわけがないのに罰を受け入れます。なぜか。それは文盲ということを絶対に知られたくないという人間としてもプライドのためでした。かつて15歳の頃、彼女と知りって愛人関係となり、彼女にせがまれてたくさんの本を読んで聞かせていた男の子が司法自習生となってこの女と再会します。そして彼は彼女が本を読めなかったことに気が付きます。でも彼女の気持ちを察して何もいわないのです。この本の訳は秀逸です。読みましょう。

●訳と言えば、読むのがしんどかった海外小説のひとつに『指輪物語』があります。現実にない世界を描くために、世界観を書き並べるのですが、物語が始まる前のその作業の部分がつらくて読みこなせませんでした。入り込みやすさの工夫は必要ですよね。

●『38人の沈黙する目撃者』は、ニューヨークの下町で、ある女の子が襲われて死んでしまいます。38人も目撃者がいたのに誰ひとり通報もしません。それがなぜなのか、そうせざるを得なかったのかが書かれています。それぞれ頭を悩ます事情があったり、へたに通報したら自分が疑われてしまう危険性などいろいろあってできなかったことが描かれ、やるせなくなります。

●川端康成の『雪国』は「国境のトンネルを超えるとそこは雪国だった」の一言で世界が変わりますが、雪の温泉街を舞台にしながら主人公の男が考えているのは惚れた女の様子だったり、頭の中は女のことばかりというのが妙におかしくなります。
〇きっと川端はこの作品でエロスを描きたかったのですよ。

●ジョージ秋山の『アシュラ』は衝撃的な作品です。飢饉による地獄絵図が描かれ、人肉食なども書かれています。主人公アシュラの壮絶な人生に圧倒されます。当時有害図書に指定されるなど話題を呼んだそうです。

●これもホラーSFだと思うのすが『R62号の発明』は、リストラされてその後脳だけサイボークになった主人公が、彼をリストラした人を集めて復讐をします。そのやり方は無数のボタンをしつらえて、そのボタンが順番に光るのですが、すべてそれに対応して指で押さえていきます。失敗したら指が飛び、10本飛んだら首が飛ばされます。怖くて仕方ありません。

〇人間の怖さというと『ジキルとハイド』に代表されますよね。優しく穏やかな人間にも憎しみに満ちた感情をむき出しにする人間性が隠れている。世の中でいちばん怖いのは人間かもしれませんね。

●ライトノベルですが『生ポアニキ』という本は、ひきこもりの人々も保護されているのですが、その中で恋愛も保護対象ということで恋愛対象が支給されるというです。でもやってきたのは筋肉隆々の男子で、男に男子?って不思議ですし、なんでも筋トレで解決しようとするところが笑けます。おもしろいですよ。

あっと言う間に時間がたって、ブックカフェが終了しました。
次回は12月20日です。だれでも参加できます。よろしくね。