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2019.02.08

1月のブックカフェレポート

ニュース

2019年1月29日(火)衣笠ブックカフェレポート

後期試験も終わりの見えた日の夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。
今日の参加者は、文学部の1回生の方、2回生の方、3回生の方と4回生の方がそれぞれお三方、そして産社の3回生の方が駆けつけてくださいました。

こんな本が話題になりました

●星新一の『進化した猿たち』を読みました。星新一がアメリカの一コママンガを紹介したもので、笑いと想像力を駆使したマンガを星が一級のエッセイで紹介する見どころのある本です。

●西村寿行の『捜神鬼』は、4つの短編の本ですが、どれも変わっています。一つは松坂牛と少女の交流、次はクジラとの交流、その次は少女と蟹の交流、最後はサイコパスの女性と猫との交流を描いています。書かれたのは70年代なのでその当時はサイコパスとかの認識は社会的になかったはずなのにすごいなと思いました。

●映画の話ですみません。「インターセラー」は、地球から移住できる星を捜すところから始まります。結局はタイムトラベルものなのですが、5次元の世界で時間を物理的に操作できるという世界です。ブラックホールに吸い込まれたりしますが、重力が強い無限大の世界として描かれていて、時間の流れが変わっていきます。よくわからなくなります。

●『幼年期の終り』っぽい感じですか?(違うゾーとの声あり)

●幼年期と言えば藤子・F不二雄の作品に『老年期の終り』という短編があります。
ある男の子がフロンティア精神にのっとって宇宙船で移住先に飛び出します。何度も冷凍睡眠を繰り返しながら何百年もかけてある星に到着します。でもそこには地球人が普通に暮らしていたのです。なぜかというとワープ航法が発見されて彼が寝ている間にもっと早い時間で行き来できるような時代になっていたのです。彼は自分のやってきたことがなんだったのか自問自答します。そうした中、住人のおじいさんと孫娘と知り合いになります。
彼ら地球人はもうこの星に見切りをつけて地球に戻ろうとしていました。彼もいっしょに戻ろうと誘われます。では彼は孫娘と一緒に未来に向かってまた宇宙に飛び出していくというお話です。

●柳宗悦の民芸について書いた本を読みました。芸術品とはみなされない普段使いのお茶碗など無名のものに美の本質があると言っています。天才や才能がすべてではない。地道に一つのメソットを積み上げて慣れていくと、無意識に手が動くようになる。それが仏教のさとりと共通する部分だと語っています。

●立命館大学の文学部の学生が出版したと話題の『異世界語入門』ですが、これはネットで連載しているときから話題になっていました。お父さんの影響からか、以前から造語をしてたそうです。
〇異世界ものは世の中にたくさんありますが、「異世界に転生したら日本語が通じなかった」というのは実際そうだなと納得しますよね。
〇新歓期にPENクラブでの読書会に使用して、応援しましょう。

●『承久の乱』なのですが、これは鎌倉時代に後鳥羽上皇が鎌倉幕府の北条義時に対して討伐の兵をあげた乱のことを言います。上皇と武士が真っ向から戦ったのですが、後鳥羽上皇は負けて隠岐に流されて失意の人生を送りました。その後、北条の執権政治が100年も続きました。結構この時代好きなので、面白いです。

●森博嗣の『すべてがFになる』は面白いです。「最低でも完全犯罪以上」という真賀田四季の存在がいいですね。
〇私は妹が登場したところでトリックがわかりました。16進法の謎は私には理解不可能でした。
〇この作家は、家に人が乗れるプラレールをもっていますよね。
〇萩尾望都好きですよね。

●萩尾望都と言えば、授業で先生から『半身』を教わりました。体のつながった双子の少女がいて一人はミイラみたいに痩せこけて、髪の毛も生えていない。もう一人はふっくらと天使のように可愛らしい。髪の毛も金髪のふさふさです。なぜなら姉の作っている栄養を妹がすべて奪って生きている。妹は自分で何一つ作りだせないのです。そんな中、医者から姉に二人を切り離すというお話がされます。「もう君は限界だ。二人分を支える力はない。そうすると妹も死んでしまう。一人だけでも助けたい」と。切り離された姉は少しずつ回復していきます。ある時、死に際の妹に会います。それはミイラのような姿のかつての自分でした。
少女らしくなっていく自分を見ながら、あの時死んだのは自分かもしれないという既視感に悩まされるというお話です。

●光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』をコミカライズした作品があります。プラトンやシッタールタやキリストが出てきて、終末観や救済など壮大なスケールになった作品です。
〇少年誌に連載されていましたよね。だからかな?絵が結構ハードというか荒い感じで破壊力がありました。阿修羅王が恰好よかったです。

●萩尾望都と言えば出世作の『ポーの一族』ですよね。エドガー・アラン・ポーに倣ってバンパネラ(吸血鬼)の一族がポー、エドガーが主人公でアランも出てくる1700年代から1975年までの壮大な物語です。

●手塚治虫の『ブラックジャック』も今だとなかなか表現上難しい作品も多いですが、そこも魅力的でしたよね。それと作者は違うと思いますが、老人になったブラックジャックを書いている作品があって、なんとピノコが落ち着いた女性になって登場します。お医者さんになっているのです。
〇表現上難しいと言えば『どろろ』もそうですよね。戦国時代に妖怪から自分の身体を取り戻す闘いをつづけている百鬼丸と泥棒の子どものどろろ。雑誌掲載当時はあまりの暗さに不人気だったそうですよ。
〇でも映像化されますし、その辺はクリアしていますよね。

●電撃文庫の『銀色ふわり』は「黄昏の子どもたち」と言われる新人類が出てくる物語で高次元の子どもが生まれる社会の中での男女の出会いを描いています。挿絵がすごくいいですよ。

●『やがて君になる』は、前にビブリオバトルでも紹介しましたが、先輩から好きと言われて、でも「特別好きってよくわからない」といなす少女が出てきます。とてもかわいくて抱きしめたくなります。

●最近は『羊をめぐる冒険』を読み直しました。レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』に影響を受けて書いた作品とのことです。

●先日ふらっとで行われた岡本先生の『巡礼ビジネス』の刊行記念トークイベントに参加しました。『らき☆すた』がメインだったので他の実践例もたくさん聞きたかったのに・・と思いました。
〇先生が伝えたいことは、その交流でわかりあえて行く過程なのじゃないかな。『らき☆すた』だってそのオタクたちがその地域に出入りするようになって、布教活動をしますが、地域のおじいさんはまったくわからない。でもそのおじいさんは神輿オタクで、彼らの好きなものは自分にとっても神輿のようなものかなと思い当たって受け入れていきます。そして和が生まれて行ったというお話でしたよね。

●筒井康隆が好きなのですが『俗物図鑑』はすごいです。わけのわからない評論家が大集結して、エログロナンセンスが満載というお話です。
〇ぶっ飛んでいるという点では『富豪刑事』も相当なものです。富豪の息子が刑事になってとにかくお金をばんばん使って犯人を逮捕してしまうという荒唐無稽の物語です。

●今年読んでよかったのは逸木裕さんの『虹を待つ彼女』です。ミステリの新人で、将来的に東野圭吾を超えるかもと思いました。登場人物の成長の仕方が納得できるというか東野らしくて、これは・・!!と思いました。あとはトリックの仕掛けをもっと勉強してもらえればと思っています。
〇同じ作者でいうと『星空の16進数』は17歳の主人公は6歳の時に誘拐された相手と会いたいと願います。「混沌とした色彩の壁」それは誘拐当時見た景色。色に導かれたように自分の過去と向き合っていくのです。

●美術が好きなので『西洋美術史』を読みました。古代から現代までを網羅しています。
好きな絵はフラアンジリコの「受胎告知」です。ルネサンス初期の絵ですが、光と闇の使い方が秀逸です。
〇日本でいうと北斎はすごいと思います。あの波の絵なんて本当にあのようになっているそうですよね。どんな目をしているんだと思ってしまいます。
〇私は東海道五十三次を描いた歌川広重が好きです。日常の様子が伺い知れて、ああこんな暮らしぶりだったのかなと思います。

●朝井リョウさんは就活前に『何者』を読んでパンチを受けました。ちょっときついです。
〇反対に『風と共にゆとりぬ』はレンタル彼氏とのバトルとか読んで面白い傑作エッセイ集です。ひたすら楽しいのでお薦めです。
〇『星やどりの声』は海辺で喫茶店を営む家族に起こる奇跡を描いています。とにかく文章が美しくて入り込めます。
〇朝井リョウさんの初期の作品の『少女は卒業しない』が好きです。3月卒業前の静かな冷え冷えとした空気の中で、いろいろなことが怒ります。『桐島、部活やめるってよ』のようにいろいろな人にスポットがあたっていろいろな視点で語られて、そこから全体像が見えてくるような物語です。

●手塚治虫の『火の鳥』はすごいです。僕は「望郷編」が好きです。異星に移り住んだ恋人同士なのですが、男性が死んでしまいます。子どもを身ごもっていた女性は、そこで生き延びるために冷凍睡眠を繰り返しながら子どもたちと番って子孫を残していきますが、最初の母親がどうしても地球に帰りたいと思うようになります。果たして?という物語です。
〇『火の鳥』は「未来編」が好きです。最初、1巻目は日本の3世紀くらいの物語でしたが2巻目は50世紀くらいの時代になります。コンピュータが支配しているメガロポリスが描かれていて、人間の青年が不定形の生命体「ムーピー」と恋をします。
〇「ヤマト編」がいいですね。殉死殉葬が当たり前だった時代、それに抵抗して埋められる人々が火の鳥の生血をなめて、埋められたまま長いこと声を出して訴えたお話です。
〇『時計仕掛けのリンゴ』を読みました。「時計仕掛けのオレンジ」のパロディらしいのでしが、結構ハードな作品で、あるお話は町が占拠されて住民が人質になるとか、あるお話はナチスの親衛隊の将校が銃殺刑に処されるのですが、「時間延長剤」を持っていたために逃れられると余裕で、でもその時間延長剤は意識の身に作用するのであって肉体には影響を及ぼさず、処刑は執行されるとか苦しいお話ばかりです。

●『海底軍艦』は、作者が戦前のイメージで戦う軍艦を設定したロマンあふれるストーリーです。戦前の戦争の雰囲気を味わえます。

●さっき出てきた筒井康隆ですが、『お助け』という作品は自分の時間軸が早くなって周りがどんどん遅くなっていく物語です。主人公は誰からも見えなくなって、認められずに社会生活も出来なくなります。最後は? ちょっと怖いです。

〇筒井でいちばん好きなのは『日本以外すべて沈没』です。陸地を失った世界の人が日本に殺到する悲惨な様子と世界一偉い人種となってしまった日本人の島国根性の浅ましさを描くブラックユーモア小説です。もちろんこれは小松左京の『日本沈没』のパロディです。
こういうぐだぐださが好きです。

●『スワロウテイル』は疫病によって人工島で男女別々に暮らす人間と失われた異性の変わりに人間に愛されるために作られた人工妖精たちとの共生を描くシリーズものです。おもしろいですよ。

●『銀魂』は江戸時代に天人と呼ばれる宇宙人の襲来を受けて、攘夷戦争を戦うけれどあっさりと幕府は開港してしまい、その後は宇宙人の傀儡政権となり、天人が江戸をわが物顔で歩く時代になるというSF人情時代劇コメディです。作者初の連載でしたが、ジャンプの中心連載となって行きました。

●『マルクスちゃん入門』は、好きな人が他の女の人に寝取られるのに興奮するマルクスの生まれ変わりという主人公が出て来る、恋愛の搾取と不平等を打倒する革命的ラブコメと名乗っています。変わっているし、ぐだぐだですが面白いです。

●『帰ってきたヒトラー』は、少子化とかドイツの社会問題が色濃く出ていて、劇中の市民へのインタビューも、実際に道をゆく人々に聞いたとのことでリアルな反応が出ています。
苦しい時にヒットラー再来が叫ばれますが理性を持っていきたいですよね。

熱烈な語り合いの中、あっという真の2時間で、今年度最後のブックカフェが終了しました。

最後にこの回を最後に卒業するお二人にお礼の花束をプレゼントしました。4年間ありがとうございました。次回は4月23日(火)です。よろしくね。

2019年1月31日(木)BKCブックカフェレポート

小雨の降る日の夕方、BKCブックカフェが開催されました。本日の出席者は、理工学部4回生の方お二人のほか、経済学部4回生の方、情報理工学部4回生の方、生命科学部の院生の方で合計5名が参加してくれました。4回生の方が多いですが、全員が来期もキャンパスに残られるようで、4月からのブックカフェへの参加を約束してくれました。

こんな本が話題になりました

●堀井憲一郎の描いた『1971年』を読みました。今の現代社会は1971年ごろの空気感を引きずっているというのが著者の主張でした。1971年というのはフォークやロックの時代で、なんとなくの時代だったそうです。それは民主党政権になったときにその要因が「なんとなく期待してしまった」というところに現れているそうです。

●小林泰三の『記憶破断者』は面白いです。数十分しか記憶が持たない健忘症の主人公が、記憶をコントロールしようとするヤツらと戦うサスペンス小説です。
〇『博士の愛した数式』とか『掟上今日子の備忘録』を思い出しますね。

●映画なのですが、スピルバーグの『AI』を見ました。あの「シックスセンス」の子役や出ているやつです。ラストの10分で胸を締めつけられて泣きました。あんまりのバッドエンドで苦しくて・・。

●基本的に日常の謎系が好きです。日常の謎というジャンルは北村薫さんから始まりました。『空飛ぶ馬』から始まるシリーズがお薦めです。この日常系というのは日本独特のジャンルで、海外にも似たような雰囲気のものはありますがコメディの中で人が死ぬとかやわらかい空気の中でやはり人が死にますので、殺人の起こらないミステリというのはやはり日本独特だと思います。
〇続く書き手として、加納朋子『ななつのこ』だったり、米澤穂信が書いています。
〇米澤穂信は、『氷菓』から始まる「古典部シリーズ」とか、『春期限定いちごタルト事件』から始まる「小市民シリーズ」が有名ですね。
〇古典部シリーズが良いのは主人公のキャラにもよりますよね。こうしなくていいことはしない。しなくてないけないことは最低限だけ行う、というようにがつがつしないというか、ゆったりとした性格が魅力的です。

●米澤穂信の『さよなら妖精』は面白いです。最初は小さな謎がいくつか出てきて、最後に大きな謎につながるというところが面白いです。
〇少女の「哲学的意味はありますか?」の問いかけが印象的でした。いろいろ大変な要素も出てきて最後は泣きました。よくあるボーイ・ミーツ・ガールのお話だと思っていたのにこんなに重たいとは・・。でもお薦めです。
〇読んでこなかったなぁ。ミステリーは、はやみねかおるで終わっています。
〇はやみねかおるは、みんな中高生の時に読んできた本ですよね。

●小野不由美の『十二国記』の新作がようやく出るみたいで、楽しみにしています。
〇こんなに長い間書かなくて生活、大丈夫なのかなぁ。
〇綾辻行人がついていますしね。

●『異世界語入門』も異世界に転生するという文化の違いを扱っていますが、『十二国記』などのファンタジーは別世界を本当のことのように作り上げる努力がすごいですね。でも『異世界語入門』のように言語に手を出している本はありませんよね。
〇そうすると話がなかなか進まなくなるからじゃないですかね。でも若干古代中国をベースにしていて「里」と書いて「ムラ」と呼ぶとかそういう本はありますよね。
〇世界観でいったら『指輪物語』はすごいです。でも読者を蹴飛ばして書き進めていますよ。
いろいろ説明が膨大でついていけません。でも直接表現するとヤバイことをメタファとして書いていますよね。
〇人間で書くと角が立つことを動物で書いたのが椋鳩十ですね(なるほど~!)
百田尚樹の『カエルの楽園』とかもメタファーですかね。
〇あれはカエルの世界なのにこの存在感はアメリカだ!!とかわかりますよね。

●北一輝というのは、右翼に担ぎ上げられたりしていますが、著書を読むと天皇打倒派だってよくわかりますよね。日本文化に関しても好きにに言っています。

●三島由紀夫と言えば『金閣寺』が出てきますが、これは太宰治の「とかとんとん」のぱくりじゃないかなと思ってしまいます。
〇主人公の坊さんは最初に金閣寺を見たときにがっかりするんですよね。「なんてしょぼいんだ」と。金閣寺を燃やす妄想をしている時に元気になれる自分を見て、実行してしまうという物語です。
〇吃音である生きづらさとか金閣寺への執着とかマイナス面が浮き彫りにされています。
〇同じ三島の『鏡子の家』は三島の内面、今後が出ているように感じます。ある女性のサロンに3人の男性がいます。1人はボクシングの選手、1人は軍人、1人は劇をやっている。それってその先、三島がやっていったことですよね。

●フランツ・カフカの『変身』はカフカの描いたもので生前出版されたものです。不条理文学として確固たる地位を確立しています。
〇カフカが死んだとき「全部燃やしてくれ」と遺言したのに。友人は「これはいける!」と思って出版しちゃったんですよね。
〇安倍公房の『砂の女』ですが、これもわけがわかりません。昆虫採集にでかけたら村人にとっつかまって、穴の中で砂を掻き出す仕事をさせられます。逃げると全速力で追いかけられてつかまります、でもそのうち受け入れて逃げずに砂の生活に順応していきます。その辺が恐ろしいなと思います。
〇不条理文学というのは、何かわけのわからないこと、不条理なことがちょっと格好がいいというか、高尚であるかのようなイメージを人々が持っていて持ち上げられているような感じがしています。

●太宰治も作家として悩んでいる自分をプロデュースしていたような気がします。本当は死にたくなくて、でも自分の自己主張のため何度も心中騒ぎをおこしてしまったような・・。
〇太宰も芥川も破滅した作家ですが、太宰は死から生に向かっている「死のうと思っていた」から始まる『晩年』から始まって、寓話へ進みます。芥川は生から死へ向かっている。
つまり寓話から始まって「ある阿呆の一生」とかにたどり着くと書いてありました。
〇太宰の娘の作風は違っていますよね。もっとロマンチックな感じがします。
〇太宰も最初の結婚をした頃は幸せいっぱいというか、「富士に月見草がよく似合う」の『冨嶽百景』とかノリノリですよね。

●夏目漱石の『こころ』など発表した頃は通俗小説だったのに、今はもっと格調高い扱いをうけていますよね。単に電車の中でたくさんの手紙を読む小説ですが。
〇夏目漱石は「言文一致」の始祖で、今に続く現代小説の礎の人ですから重要な位置づけなのはわかります。

●『モンテ・クリスト伯』ですが、「岩窟王」と勝手に訳されて好き勝手されていますが、その当時は著作権という概念もなかったから好きにできたのでしょうか。
〇南洋一郎さんの『怪盗ルパン』は好き勝手にまとめて勝手につけたしたりしていますが、原作よりワクワクして読みやすいですよ。
〇読みやすい訳本がよければ、ヘミングウェイの『老人と海』なんかどうですか。
〇老人が海にいて魚を相手にしているだけじゃないですか。
〇江戸川乱歩で有名な『幽霊塔』ですが、これはもともとアリス・マリエル・ウィリアムソンが書いた『灰色の女』という本を黒岩涙香が翻訳して、それを乱歩がリライトしたものです。すっかり日本人と日本の物語に作り替えられています。

●森鴎外の『舞姫』は日本の作品ですが、読みにくさ抜群です。病んだ男がいけないことをします。「ゴミか!こいつ」と思いました。

●スタンダールの『赤と黒』は面白かったです。頭はいいけれど貧乏な男が金持ちの家庭教師になって、奥さんともいい仲になって上昇を狙う、という物語です。記憶力が素晴らしくよくて、ラテン語を使えます。その当時、ラテン語が使えるというのは世界の共通語なので、全ての知識人と話ができるというハイクラスの存在の証明なのです。

●小林秀雄はとにかく『戦争と平和』を読めと言っています。
〇でもロシア文学は長たらしくて、名前とかも難しくて、読むのに体力が必要で疲れます。
〇確かに。登場人物一覧をつけてくれるとか、分かり易いあらすじをつけてくれるとかしてほしいですね。
〇ドフトエフスキーの『死の家の記録』は彼が捕まったの経験談で、面白いですよ。「世界なんてどうでもいからいい紅茶を飲みたい」とか言っています。

●ホーガンの『星を継ぐもの』は、主人公とバトっている科学者たちの側を知っておくだけで、それぞれの名前とか押さえなくても読めます。もともと名作のSFですが、分かり易さも必要ですね。
〇P・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』は、人間とは、私とは何かを突き詰めています。もともとアンドロイドを発見して駆逐する仕事をしている主人公ですが、どれが何がアンドロイドなのか、どちらが人間なのかまったくわからなくなります。
〇伊藤計劃の『ハーモニー』は設定された幸せ社会をディスるお話ですが、人をものに変えると、つまり社会的なものに置き換えると幸せになれるという理論があります。これは『虐殺器官』の後日談ですが、ふりきったあとに元に戻るようような感じがします。

●前にここで紹介を受けた『凶悪』を読みました。ルポルタージュ小説なのですが、捕まっている犯人が余罪を語るのですが、それがどれも凶悪な殺人事件で、関わっているのにのうのうと生きているやつを追うという物語です。

●ルポと言えば『八九六四』は注目です。天安門事件を起こした側の人から描いています。
いままで表面上出てこなかった当事者が何を語るのか、隔離されてきた人々の生の声が浮き上がります。

●『イスラム教の論理』という本があるのですが、これは「イスラム国」を肯定した本です。
なぜイスラム国が正しいかというのは、イスラム教にはコーランとか教義の元になるものがありますが、「アラー以外に神はなし」というイスラム理念をいちばん再現しているのがイスラム国ということだそうです。国家の形成や民主主義は西洋思想のものでイスラムではない。個人主義などの自由思想もあってはならないものだそうです。なかなか相容れるのが難しいですね。

●立命館の松尾先生も書いている『そろそろ左派は経済を語ろう』では失業率と自殺の相互関係はありありだそうです。安倍政権も失敗はあるけれど金融関係は成功している。野党のように全部だめというのはいけない、感情で政治を見つめてはいけないと言っています。

●読書論の本はたくさんありますが、これは役に立ちました。『流されない読書』といういう本です。本を読んで哲学を使用というスタンスです。ショーペンハウエルの『読書について』は、めちゃめちゃ勉強をしている人向きで、凡人の役にはたちません。加藤周一の読書論も本をよく読むやつにしか通じません。どこから始めたらいいのか。楽しいだけの読書もOK。またジャンルを決めない方がいいということ。例えばヒットラーの読書は自分の理論を支持するような本ばかりしか手に取りません。すなわちゲルマン民族優先で、その考えが正しいと位置づけるような本しか読まないわけです。そうすると視野は狭まるし、対話もすることも出来なくなります。

●東日本大震災の時に、パルプの紙を作っている会社が苦労のすえに復旧をかちとる『紙つなげ』はすごいと思います。あのときの津波の映像にはびっくりしました。そんな中よく蘇ることが出来たということに頭が下がります。

●また松尾先生ですが、『不況は人生です』を読んでそのとおりだなと思いました。今凶悪犯罪は昔より多数起きていると叫ばれていますがよくよく見るとなんのことはない。戦前の方が馬鹿ほど起こっています。とすれば、今行われている若者へのバッシングなどは理由ないものになりますね。

●『ダーウィン・エコノミー』なのですが、アダム・スミスは「需要と供給は必ず釣り合う」と言われていますが、絶対的に釣り合わない場面も出てきています。そこに市場の失敗が拡散されています。自然淘汰によって環境に適応できる個人や会社が残っていく。世の中を采配するのは偶然であって、才能があれば生き残れるわけでもない。そこにダーウィン理論の正しさがあるとのことでした。

今日はなかなか難しい話になりました。その他、新学期に新入生に薦めたい本の選書も行いました。

最後の今回の卒業予定の方にみんなで花束を贈りました。
学部4年と院2年の6年間ブックカフェに親しんでくださってありがとうございました。
次回は4月25日(木)となり、再会を約束して終了しました。