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2019.05.27

2019年開催のトークイベント

ニュース

2019年1月15日(火)岡本健先生トークイベントレポート

少し時雨れた日の夕方、岡本健先生(奈良県立大学地域創造学部准教授)のトークイベントが開催されました。

2か月前に販売された『巡礼ビジネス』の刊行記念として今話題のアニメなどの「聖地巡礼」について語っていただくことになりました。ふらっとでは12月の新書第2位の売れ行きです。参加者は、ツイッターなどで知った内外の学生さんたちが10人以上駆けつけてくれました。

アニメの聖地巡礼を研究されている岡本先生ですが、最初に世界でどのくらいの人が移動しているかという統計を紹介されました。日本は長らく、訪日外客数(インバウンド)よりも、出国日本人数(アウトバウンド)の方が多かったのですが、近年インバウンドの数が急増しています。

また、近年SNSの発展もあって、旅行者自身が情報発信をすることが増えてきました。アニメの聖地では、アニメの世界観を旅行者が作り上げたり、旅行者が地域住民を助けたり、旅行者が旅行者を迎えるといったことが各地で見られます。さらに、通常の旅行ではあまり見られない、「アニメのグッズを聖地に置いていく」という行動が紹介されました。例えばアニメ『けいおん!』に出てくるお茶会の茶器をファンの過多が揃えて、アニメのシーンを再現しています。また『らき☆すた』の聖地である鷲宮では、現地のみこしオタクのおじいさんとファンが交流することで地域のお祭りに『らき☆すた』みこしを出して地域の一大イベントに育てているケースもあるそうです。

その地域は、ファンの人たちや地域の人たちにとっての聖地となり、「大切な場所」として認識されます。ファンの中には、クオリティの高いガイドブックを作成し、地域を盛り上げようとする人もいます。

地域にアニメオタクの人が訪れるようになると、そこに交流が生まれます。「らき☆すた神輿」の発案者である地域住民の成田さんは、最初はアニメのことを知りませんでした。自分のお店にアニメファンの方々が来るようになり、ファンの方の薦めで作品を見ます。ただ、まったくよさがわかりません。ですが、「自分も神輿が好きな神輿オタクだけど、わからない人にはわからないものだ」と理解し、「俺にとって神輿が大切なのと同じくらい、ファンの子たちにとって『らき☆すた』は大切なものなんだろう」と受け入れます。そこで「らき☆すた」みこしを提案するに至ります。素晴らしい相互理解!!

『あの夏で待ってる』の舞台になった長野県のコーヒー屋さんでは「あのパスタ」という料理がだされています。見た目はカルボナーラですが、味は冷やし中華。そこで重要なのは、作中に登場するいろいろな食べ物の中で、なぜこれを取り上げたかですが、店主いわく「冷たいものだったから」。温かい食べ物は、「におい」でコーヒーの味を邪魔するからなのだそうです。そこにはアニメファンを受け入れると同時に、こだわりの喫茶店のあり方を守っている姿があります。

アニメファンは各地で普及活動を拡げますが、そこに交流と対話が生まれます。新しいものに対して排除しようと感じてしまう原因の一つは、「情報がない」「知らない」ということです。知ることによって「理解」につながります。
鷲宮で開催された「女装コンテスト」ですが、キレイさ、イタさを競うという面白いものです。コスプレイベントにおいても、マイノリティの存在だった参加者たちが自己表現ができる場を得られたと同時に、地域の人たちにとっても異文化に触れる機会になっており、ここでもその場に参加する人々がそれぞれ利益を得ています。
会場からの質問に答える形で、最新のアニメ聖地のお話も語られました。『ゾンビランドサガ』でゾンビを打ち出している佐賀です。内容は、ゾンビになった美少女たちがアイドルとして佐賀県を救うというものです。ゾンビというものは、映画などを見ていなくても、イメージを共有でできる存在になり、広く認知されています。最近ではハロウィンのコスプレでゾンビをよく見かけます。ゾンビを地域振興に活用している「横川ゾンビナイト」の事例が紹介されました。そこでは、駅前に「ゾンビ感染所」が開設され、参加者はフェイスペイントをしてもらって自身がゾンビになることができます。中には、サバイバルゲームの参加者もミリタリーコスプレをして参加しています。よく考えると、その人たちはゾンビではなく、もはや別のコンテンツなのですが、「ゾンビが現れると軍隊が鎮圧しに来る」というゾンビ映画やゾンビゲームの世界観を作る役割をしています。つまり、「ゾンビ」に少しでも引っかかれば参加者それぞれが創意工夫して楽しめるようになっているのです。
観光とは何か。人が日常から非日常に移動して帰ってくるものと思われていますが、現実的な移動だけでなく、精神的移動について考えることが重要になっています。本の世界や映像の世界などでも観光は楽しめるのです。文化資源への「3つのアクセス」というお話がなされました。一つ目は「物理的アクセス」です。これは実際にその場所に行くことを指します。二つ目は「知的アクセス」です。これは、対象について知ることや情報を得ることです。この二つのアクセスはよく考えられているのですが、実は、一番大切なのは三つめの「感性的アクセス」ではないか。対象との精神的な距離感のことです。すなわちそれについて「好き」になるということ。これは様々なものを動かす一番の原動力となっています。観光について気が付かなかった現実と可能性について気づかされるお話でした。

長い講演でしたが、飽きさせずとても分かり易い講演でした。参加した学生たちも、巡礼ビジネスや地域振興に興味を持って、参加してくれました。その後の質問コーナーもとても盛り上がりました。

講演会が終わった後も、先生の著著を購入してサインをしてもらったり、また自分の研究テーマを先生とお話される学生さんなど今回のイベントを楽しんでいるようでした。岡本先生貴重なお話どうもありがとうございました。

2019年1月18日(金)奈良勝司先生トークイベントレポート

穏やかな冬の夕方、文学部日本史専攻の奈良勝司先生のトークイベントを開催しました。
20名以上の学生が集まり、熱心に聞き入っていました。

先生からなぜ「明治維新」を考える必要があるのかと問いかけから始まりました。
それは「明治維新」が近代日本の出発点であるため、近代日本を知るためには「明治維新」を知ることが必要と強調されました。今年度は「明治維新150周年」でありますが盛り上がりに欠けています。100周年はとても盛り上がったので、この50年の差とは何なのか。
1990年代に明治から続いた一本の流れが断絶してしまった事実があります。
1990年はバブルが崩壊し、混迷する日本社会が浮き彫りになり、「失われた30年」とまで言われるようになります。庶民は好景気と言われても実感がなく未来が描けないようになります。発展という一本の流れで日本の近代を理解できなくなった今、新しいやり方で明治維新をとらえ直す必要があります。
「明治維新」と言うのはレストレーション(復興)ともリボリューション(革命)とも言われていますが、安土・桃山時代から江戸時代と300年続いた要素が明治維新後も続いたのかを考えると、捨て去った面と持ちこされた面と両側面あります。
また、明治維新と言えば薩摩、長州、そして維新政府が語られ、その他の負け組は振り向きもされません。しかし敗者から逆に見るという視点も重要です。江戸時代と言うのは、長崎やいろいろ貿易の拠点があっても、精神的には鎖国を守ろうとする自己完結の社会でした。その江戸幕府を否定していったのが明治政府です。これまでの価値観で、外に向けた倫理としては、武威というものがあります。自分たちは強いという日本のアイディンティティは、だからこそ戦わず平和を守るという側面があります。
内に向けた倫理としては、日本は共同体の調和を守っていく社会です。例えば年貢も一人一人ではなく村単位で課せられます。するとセーフティネトとして人々は助け合いの精神が生まれます。共同体を維持、持続、踏襲しようという意思があります。
そういった武威がある道徳は鎖国が前提でしたが、ペリ-来航があり、これをどうやって切り抜けていくのか、これまでの価値観を延命するのか清算するのかを迫られます。
この時の徳川政権には儒学のスーパーエリートの党派がいました。彼らは武威の道徳を精算しようとして、西洋的な主権国家を目指しますが、その他の藩の人たちはそれを受け入れることができません。武士としてのプライドを捨てることはできないのです。維新政府の人たちは、武士の世界を守ろうとしますが、今は勝てない、それならば将来的に取り戻そうとします。そのために今は挙国一致が必要で、日本を一つにするために廃藩置県や四民平等が進められます。オールニッポンで勝とうとします。でも今は勝てない、とすればすることは底上げです。将来イギリスやアメリカなどと渡り合うために富国強兵をめざし、欧化政策を進めます。これは精神的保守性を守るために現実世界を変えていくことになります。でも西洋化してもそのうち取り戻すというリベンジ意識が残るのです。この精神的な被害者意識と侵略主義は共存します。欧米からの侵略の危機意識は、対外膨張につながり日本は東アジアに侵略を進めることになります。
また現代への影響として、「会社人間はなぜうまれるのか」ですが、維新によっていままでの共同体がなくなりますが、これはその構成員が望んでつぶしたわけではありません。
一員としての自我がなくなり人々は不安になります。そして自分の居場所を別の居場所に求めます。その一つが「会社」です。会社は人々の心の拠り所になり、アイデンティティと生活の保障となります。「会社」が昔の共同体に成り代わるのです。戦後「会社」を盛り上げ、日本を世界第2位の国に育てたのは、戦前、軍事を拡張し、いつかは日本を大国にと戦った兵士たちです。明治以来、軍事で対抗をめざし、戦後は経済で対抗を目指した日本。
ここまでは一つの道で続いてきた歴史ですが、「失われた30年」時代となり、それからは価値を見いだせなくなっています。
明治と現代のつながりを分かっていくことは現代に生きていくうえで重要なことになります。とお話してくれました。
寄せられた質問の一つは、明治以来、軍事や経済で頑張ってきたのにもかかわらず、空白の時代に入って、どうやったらそれを突破できますか。については①バーチャル世界で世界一を目指す。②国家や共同体の一員としての自分を抜け出す。③国際的な人になる。と答えてくれました。
また、明治で四民平等の世の中になり、立身出世が出来そうな感じですが、あまりそうしたケースは少ないのでは?という質問には、立身出世は明治初期にはきちんと機能していたと答えてくれました。例えば伊藤博文などは下級武士でそうした身分のものが一国の総理になるなど考えられないことです。などと質疑応答も盛り上がりました。

『明治維新をとらえ直す』はその時代に「躍動」した人々や事件の足跡のみを後追うのではなく明治という歴史と現代社会とのつながりをダイレクトに問う本となっています。
先生がお持ちになった古伊万里は、日本が中心の世界地図で、日本は備前や上総などその時の国々の名前、周りの国は実際ある国もあれば小人の国や女護国など実際ない国もあってその当時の日本人の世界観が分かるものでとても面白いものでした。

終ってから何人もの学生さんが本を買って先生のサインを求めました。またじっくり質問をされている学生さんもいて白熱した雰囲気でした。

先生のクラスの学生さんたちも駆けつけてくれて、最後に記念撮影に臨みました。
「明治維新」といまとのつながりが分かったように思いました。奈良先生、貴重な機会をどうもありがとうございました。