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2019.05.23

4月のブックカフェレポート

ニュース

2019年4月11日(木)OICブックカフェレポート

肌寒い4月の夕方、OICブックカフェが開催されました。今日は、総合心理の2回生の方が5名、3回生の方が2名、政策の1回生の方、2回生の方、院生の方がそれぞれ一名で、総勢10名の方が駆けつけてくださいました。3人の方が新しく参加してくださったのですが「表のポスターを見て迷い込んだら思いがけずに楽しかった」と喜んでいただけました。

こんな本が話題になりました

●大好きなのは村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』です。恰好よくて夢中になれます。
◎最初にエレベータで行ったり来たりしますよね。80年代の大学生はこれをハードカバーで持ち歩くのがトレンドでしたよ。

●森見登美彦をよく読みます『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』が自分の大学生活と合わせてこうだったら楽しいかなと思いながら読んでいます。
◎二つとも情けない ヘタレ男が主人公ですよね。
◎でも僕は、森見を読んで京都に来よう!と立命を受けました。結果、大阪でしたけれど。
◎京大じゃないんかい!!というつっこみもありでしょうか。

●伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』はわくわくして読みました。国家の謀略に巻き込まれた青年が主人公ですが、なんとかくぐりぬけていきます。友情っていいなと思えます。
◎伊坂の『夜の国のクーパー』は講義で出てた。猫の描写で、自分の気持ちより先にしっぽが立ってしまう。しっぽが立った時にしっぽにだけ任せておくわけにはいかないというような独特の描き方をしていると学びました。

●私の一番はなんといてもエンデの『モモ』です。これは児童文学という名の大人の本だと思います。

●僕は有川浩が好きです。『レインツリーの国』に心惹かれました。それから『図書館戦争』を手に取ったのですが、2冊目の「内乱」でレインツリーが出てきてびっくりしました。
◎作者がきっとこのシチュエーションで書きたくなったのですね。出版社を越えて実現しています。
◎恋愛小説は有川しか読みません。なんだか温かい未来が見えてくるようでいい終わり方だなぁと思っています。

●『図書館戦争』の本を守るというところに惹かれます。やっぱり「あまあま恋愛」はありますけれど。これがあるから正義としてこの本は成り立っていると思います。

●重松清をよく読みます。『きよしこ』はひとりぼっちの少年の物語です。友だちがほしくてそれは夢の中だけで・・。でもある出会いがあって・・。『十字架』はいじめを苦にした同級生の遺書に自分の名前が書いてあった。クラスでいじめをただ見ているだけだった僕・・。『流星ワゴン』は死にたくなった男が交通事故死してしまった親子のワゴンに拾われる。果たして失ったものは取り戻せるのか。重松の小説はほっこりさせられることはなくて、どれも暗くていやな気持を思い出させます。でもだからこそ響くというか考えさせられます。

●島本理生の『ファーストラブ』はある診療心理士が、殺人を犯した女子大生の心の淵に歩みよる心理サスペンスです。謎が満載です。

●中学生の頃から東川篤哉の本を読んでいました。『放課後はミステリーとともに』を始めとする学園ミステリーや、『完全犯罪に猫は何匹必要か?』は猫で殺人事件を語る、というユーモアが生きる笑いの入ったミステリーが面白いです。

●ミステリーと言えば、ミステリーと言えないようなミステリーを見つけました。
西加奈子さんの『窓の魚』です。4人の男女が出てきて、なんだか殺人事件が起きたかなぁという描写があり、でも誰が死んだのか、だれが犯人なのかちっとも明らかにされません。大概ミステリーなら謎解きが主流ですよね。でもこれはあいまいもこで、謎の読後感を味わえます。意味わからんなぁと。

●私の一番は『神様のカルテ』です。小6の時にこの本を読んで医者になりたいと思い込みました。そこからずっと理系を目指して勉強してきましたが。高3の夏に医学部は怪しいということになり、文系にチェンジしました。
今までは地方病院で366日働き続ける患者を一所懸命支える主人公だったのに、最新刊を読むとなんと大学病員で働いていて、それも院生として存在していました。
◎大学病院で上に行くためには、医学博士の称号も必要ですしね。
◎なかなか地方に行く医者が少なくて、地方は子供が継ぐとかでなければ医療従事者が絶えてしまうという大変さもあるようです。よく生きるとは何なのかを考えさせられる本です。
◎この本を読むと夏目漱石を読みたくなりますね。栗原先生は『草枕』を読みすぎてそらんじて言えるという先生ですしね。

●最近、幸せとは何か、幸せになりたいと考えます。人間関係をどう構築するかがよりよく生きられるコツだと思いますが、うまくいく方法を見つけました。「ビリギャル」の坪田先生が書いた「エニアグラム」の本があるのですが、人間を9パターンに分けて人の心のつかみ方や、関わり方を学ぶ本です。その分け方は、①完璧主義者 ②献身家 ③達成者 ④芸術家 ⑤研究者 ⑥楽天家 ⑦統率者 ⑧調整者となっています。
熟の生徒が受験に困っているときに「大丈夫、受かるよ」と持ち上げる言い方は、楽天家には通じますが、堅実家タイプの生徒には「そんなこと信じられへん」と受け入れてもらえません。そこに相手を見て関わり方を変える必要があるのです。それが人間関係の改善の方法です。

●僕のいちばんは辻村深月の『ツナグ』です。やるせないことや取り戻せないことで悩む人たちが死者と出会って救われていきます。面白いです。

●僕は西尾維新が好きです「戯言シリーズ」は立命館大学(鹿鳴館大学と言っている)が舞台なのですが、その独特のことば使いに惹きこまれます。冴えていると感じます。
なかでも「戯言シリーズ」の第2作の『クビシメロマンチスト』は1巻目と違って、とても後味の悪い終わり方になっているところが魅力です。落としてかかるって感じです。

●西尾維新は「掟上今日子シリーズ」も読みやすいです。TVドラマと小説は内容が違ったりしますが、TVシリーズにも西尾維新が関わって作成しています。

●西尾維新のいちばんのお薦めは『りぽぐら』です。「リポグラム」という特定の文字を使えない制度の元、文章を書いていくという遊びの方法です。全世界にそうした試みの作品はたくさんあります。日本では筒井康隆は『残像の口紅』という作品で、実験しています。
使えない文字の代わりにその他の文字を使用する。それでも書けなくなったらこの言葉の表現を諦めるという感じです。
『りぽぐら』は4つの同じ物語をそれぞれ違う制限のもとに変えていくという試みで、すごく楽しめます。一読をお薦めします。

●文字の制限ではないのですが、ながく続いているシリーズでおもしろいなぁと思うのは、たとえば『三毛猫ホームズシリーズ』ですが、最初はポケベルの時代だったのに最近の本はスマホを使っています。他の状況は変わらないのに「モノ」だけ進んでいくのは面白いなと思いました。

●これまで読んだ本で心に残っているのは、森絵都の『カラフル』です。自殺した男の子の再生の物語です。別の自分になって生き直すという設定が実はそうだったんだと涙なしには読めません。

●辻村深月さんの『噛み合わない会話とある過去について』は怖いです。ある美術教師はアイドルになった卒業生に対して、昔、彼を尊重してフォローしてあげたという記憶を持っています。ある時そのアイドルが母校を訪問して出会うことになります。

自分は恩師で良い印象を持たれていると思い込んでいたのに、実際話すと相手の印象は全く違っていたという恐ろしい物語です。またもう一つは「なべちゃんの嫁」というお話で、学校時代コ-ラス部で一人だけいた男の子をみんな「なべちゃん」と読んでいて親しみを持っています。でも誰一人男の人という感覚は持っていません。卒業後しばらくして、そのなべちゃんが結婚することになります。その嫁はちょっとあかん感じの人で、コーラス部だった女子にありもしない嫉妬をしたり、結婚式にコーラスを当然でしょ!と頼んで来たり、でもすぐ取り下げたり、納得いかないことばかりです。でもなべちゃんの嫁だからヘタに遠ざけられません。女子目線ではそうそう!と納得いくことばかりの物語です。

●今年の本屋大賞を取った瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』はとても面白いです。3回も姓名が変わるという周りの保護者が代わってきた少女。ちょっとかわった家族の物語です。いろいろなエピソードが湯気の出る食卓や心慰めるスイーツと共に語られます。頑張って生きていける。未来は明るいと思わせる語り口が最高です。

●朝井リョウさんは『桐島、部活やめるってよ』や『何者』で有名ですが、どうしてこんな女性の気持ちがわかるのだろうと思わせます。『スペードの3』は陰で思っている気持ちが陰湿で怖いです。『少女は卒業しない』は3月卒業前の冷えた空気の中で過去、そして未来を語る物語で、ふとした日常に芽生える感情にはっとします。

●田辺聖子さんの『言い寄る』の主人公はハイミスですが、母からの電話でどうしている?の答えに「ちゃんと食べている。男と寝ている」とこの二つを代表して自分の生活を表す様子に感服しました。
◎田辺聖子と言えばハイミス小説の達人ですが、『風をください』の主人公も32歳ハイミスで、仕事はできて、家の中もきっちり、料理もうまい、しかも12歳年下の彼氏持ちとさばさばした生き様を描いていて痛快です。

●本の感想を書くサイトに投稿していますが、そこで物語に音楽を流そうとうことで、その小説にぴったりだと思われる音楽を投稿し合っています。さっきの『噛み合わない会話とある過去について』だとパガニーニの変奏曲だとか。面白いですね。
小説を勝手に頭の中で映像化することはありますが、そこに音楽を流すのですね。楽しい読み方は大歓迎ですね。

あっという間に時間がたって、久しぶりのブックカフェは終了を迎えました。今日参加の女子は、春休みブックカフェがないのが寂しくて3人で女子会ブックカフェを開催されたそうです。次回は5月16日(木)です。みなさん、いらしてくださいね。

2019年4月23日(火)衣笠ブックカフェレポート

気温が少し高く夏を思わせる感じの夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。
本日の参加者は、宣伝を見て初めて参加してくれた産業社会学部1回生の方がお二人、文学部1回生の方がお二人と新人4名を迎えて開催されました。それを迎える先輩方は、文学3回生の方、産業社会学部4回生の方、法学部5回生の方が駆けつけてくれました。

こんな本が話題になりました

●柳広司の『ジョーカー・ゲーム』を読みました。第2次大戦中にスパイ活動をしていた日本軍人のお話で、設定がとてもリアルで主人公がとってもかっこいいです。

●『准教授高槻彰良の推察』は人の嘘が分かる大学生が、民俗学のイケメン准教授に気に入られ、助手をしてしまうという物語です。いろいろな怪奇現象が出てきて楽しいです。

●授業がらみですが、最近はルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』を読みました。フロイスは35年間、日本でキリスト教の布教に努めた人で、その当時の日本の社会を細かく観察し、ヨーロッパとの比較・対比で記録した本です。

●有川浩が好きです。『図書館戦争』いちばん好きです。後半になるとあまあますぎますが、メディア良化法が出来て、本を読む権利が脅かされる社会で戦う図書隊の人たちの話です。『図書館内乱』で小牧教官が捕まって、尋問する人は変わるのに小牧教官はずっと起きたままで追い込まれるところが本当に怖かったです。実際に警察に捕まったらあんな風になるのかと思うとなおさらです。
◎大人たちが読むと、『図書館戦争』はレイ・ブラッドベリの『華氏451度』のオマージュだと思います。華氏451度というのは紙が燃える温度ということなのですが、その世界は本を読む自由がなく統制されています。本を奪い取って焼くのが仕事の主人公が、ある日これまで触れてもみなかった活字に出会います。それは彼の世界を開くものでした。彼は活字の意味するもの、表していた人類の知恵やその考えに触れて守ろうとしていくのです。
メディア良化法が施行され、本の検閲が実行されている『図書館戦争』の世界と似ているでしょう?
◎有川浩ではデビュー作の『塩の街』がよかったです。塩害によって世界がすべて塩に埋め尽くされようとする中で、男女の恋愛が展開するお話です。人間も塩化して死に至るというところがとても怖いです。
◎わりと読まれているのは『阪急電車』でしょうか。いろいろな登場人物がそれぞれいろいろな事情を抱えていて、一緒に怒ったり笑ったり楽しめます。
◎いちばん楽しめるのは『キケン』でしょう。ぜひ理系のBKC男子は学生には読んでほしいです。いろいろなエピソードがそれぞれ楽しめます。私は学園祭でのラ-メン販売が工夫を凝らしていてとても面白かったし、最後はほんとうに泣きました。泣かせる仕掛けでずるいです。
◎有川浩はライブ感覚というか、そのとき次第でいろいろ変えながら書いている様子ですよ。設計図は作らないんですね。
◎キャラで動かすか、ストーリーで動かすかがあるのかな。でも始まりとオチは決めていないとだめでしょう。
◎有川さんの流れでいうと、『リング』の作者鈴木光司さんは、奥さんに作品を読んでもらって終りを当てられると「チクショー」と思って、思いつかない結末にしてやると思ってどんどん変えていくそうですよ。ミステリーは計算が外れてしまいそうですが、ホラーだといけちゃうのかな。

●朝井リョウさんをよく読みます。いちばん好きなのは『桐島、部活やめるってよ』です。皆さんはどのエピソードが好きですか。それぞれのエピソードはその章の主人公の目線で書かれていますが、結局桐島の視点・主張が一切出てきません。そこが面白いです。
◎『星やどりの声』登場人物一人一人の悩みがすっと胸に落ちてくるようなお話です。
◎『少女は卒業しない』が好きです。どうして朝井さんはこんな女性目線のお話が書けるのかなと不思議ですね。3月卒業前の澄み切った中、過去のわだかまりや苛立ち、そしてやってくる未来への希望などいろいろな物がつまって卒業という季節を味わうことができます。
◎『もういちど生まれる』で面白かったのは、単行本の時は「メーリス」が出てきてましたが、文庫本になると「LINE」に変わっていました。世の中の動きに呼応しているのですね。

●最近、市川拓司にはまっています。『いま、会いに行きます』とか。亡くなった妻が雨の季節に帰ってくるというファンタジー恋愛小説で、主人公の女の子がある時、ある時期だけ未来に移動します。そこは自分が結婚した夫と子供がいる世界でした。手品のように自分の未来を知ってしまった主人公はそれを受け入れて生きていきます。そして自分が死んでしまった後も、ひとときだけ会いに来るよと言い残すのです。とにかく泣けます。

●中村航にもハマっています。いろいろ良い本はありますが、『僕の好きな人がよく眠れますように』は切ないお話です。院生同士の恋のお話ですが、北海道からやってきた彼女はその恋が決して許されないワケがあった、というお話です。許されなくても惹かれあう純情に心打たれました。

●最近は『恩讐の彼方に』を読んでみようかなと思っています。罪を犯した男がその後、僧となって、人が事故で死んでいた難所へトンネルを掘ろうと決意します。そこへ以前殺してしまった男の息子が復讐にやって来て・・・。何か大きなものを感じる作品です。

●『夢をかなえるゾウ』は分かり易くて面白いです。小栗旬のドラマも良かったです。ちょっと気を付けて自分を変えていくだけで道は開ける・・。ガネーシャがおもしろい。

●ニーチェはいいですよ!『ツァラトゥストラかく語りき』などありますが、最初はニーチェの言葉をまとめたものを読んで雰囲気を味わうことから始めました。
◎よくサンリオのキャラクターが簡単にその哲学の極意をあらわす文庫とかが出てますよね。ニーチェはプーさんが担当しています。簡単すぎて本当に伝わるのか、曲解されないか心配です。

●司馬遼太郎が好きです。最初は父親の影響で手に取りましたが面白くてあっという間でした。始めは美濃国の領主になった斎藤道三が成り上がるお話で、やがてそれは織田信長に受け継がれます。戦乱の世が描かれています。手に汗を握る面白さです。
◎『竜馬がゆく』は長かったけれどあっという間に読めて、竜馬像がはっきり伝わっておもしろかったです。登場人物が死ぬとき、なんかこだわらずにあっという間に死ぬので物足りないというか。司馬自分、描いてきた人物が死ぬことに思い入れがないんだなと思いました。
◎司馬作品でいちばんのお勧めは『燃えよ剣』です。そんなに長くないし、幕末が幕府や新撰組の目線で描かれているし、歳さまはかっこいいいし。ある時代が終わっていく滅びの美学を感じます。

●ジブリの「風立ちぬ」良いなぁと思います。純粋に飛行機好きなんだなということと、純粋な恋愛というか、失ってしまったものへの惜別の思いが押し寄せてきます。関東大震災も描かれていましたし。

●坂口安吾の『教祖の文学』は、小林秀雄に対抗して書かれています。生きている人や生きようとして出てくるもの、人間だけが地獄を見る様子を受け入れることをしないのは、まるで悟りを開いて教祖のような立場にいることだと批判しています。
◎小林秀雄をあまりよく知らないので何も言えませんが、『モオツァルト』を読むと、モーツァルトの交響曲について「悲しみが疾走する」と書かれていてすごく詩的だなと感じたのを覚えています。
◎坂口安吾と言えば『堕落論』ですが、やはり『桜の森の満開の下』がはずせません。桜という日本人の心の心に宿る桜への執着の気持ち、桜自身の妖しさ、この世のものでないような美しさが土台にあってあの物語は出来あがっていると思います。

●キェルケゴールが絶望を描いた『死に至る病』は、第一部「死に至るや愛とは絶望である」第二部「絶望とは罪である」から成っていますが、この本はヘーゲルを頂点とする近代理性主義を批判した書としても名高い本です。絶望とは自己の喪失であり、神との関係の喪失も意味する。無自覚な人間が自己を見つめればより絶望にあたり、真に自己であろうとするがゆえ絶望は深まると説いています。むずかしーですね。

●ミシュエル・フーコーの『監獄の誕生』を読んでみたいと思います。ニーチェの系統学アプローチが使用されて書かれた本ということなので。刑罰の近代化の過程が描かれているそうです。1975年に刊行されています。

●僕は海外文学をよく読みます。フォークナーやカポーティなどです。『八月の光』は、禁酒法時代のミシシッピの架空の町で、人種間の軋轢が描かれている作品です。3つの話が21章で描かれていて、最初はその章ごとに語り手が違っているし、章ごとの関連性やその人間関係の把握が難しいけれど、そのうち3つの話が収縮されていきます。難しいといわれているフォークナーの作品の中では平明な方だそうです。

●カポーティの『冷血』は、1959年に実際に起きた殺人事件を徹底的に取材をして、事件の発生から加害者の逮捕、そして加害者の死刑執行に至る過程を再現した小説です。

●サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』はイニシェーション小説というか主人公の成長物ですが、最初、野崎訳で読んで、次に春樹訳で読んで、次は英文対訳で読んで、いろいろ世界観を味わって来ました。
◎村上春樹訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』はタイトルを邦訳せず、英語のままをカタカナ表記したのがスゴイことですよね。「つかまえて」は確かに「キャッチャー」なんですよね。新しい時代を感じました。

●桜庭一樹は『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が一番で、それを超す作品は見当たらないです。ショッキングでグロテスクだけれど衝撃的でした。
◎『GOSICK』は結構読まれていますよね。賢い天才少女とそれに逆らえず追従する少年の二人を取り巻くあやしい世界と謎解きの微妙さ。とても面白いです。

●少年少女世界文学全集を小学校の頃読んでいました。『ハックルベリー・フィンの冒険』は『トム・ソーヤーの冒険』の続編ですが、大金持ちとなったハックと彼のお金を狙う父親とのやり取りや、黒人奴隷ジムの逃亡を手助けするとか、自由を求めてオハイオ川を横断していきます。いろいろ考えさせることの多い本です。
◎フランス文学だとルナールの『にんじん』が印象的です。赤毛とそばかすのために「にんじん」と呼ばれ家族で不当な扱いを受けている少年が、時には皮肉な視点で物事を見ながら成長する物語です。

●よくキリスト的世界を学ぶのに遠藤周作の『沈黙』とか言われますが、芥川龍之介の『奉教人の死』も注目です。キリスト教的考え方が学べます。ある奉教人を気に入った女性が追いかけますが、その奉教人は見向きもしません。それが悔しくて女性はその奉教人に手を出されたと嘘をつきます。彼は避難を浴びますが、何とも言いません。ただ黙っています。ある時火事が起きて、彼は人を助けるために火に飛び込み、彼は死んでしまいます。そしで人々が彼の身体にさわると・・・・。あっと驚くラストが待っています。

●ディストピアものと言われる小説はいくつかありますが、その中心的な存在はオーウェルの『一九八四年』です。全体国家によって統治された近未来社会の恐怖を描いていています。そのタイトルは描かれた1948年の4と8を入れ替えただけという説もあります。『動物農場』などと一緒に反全体主義のバイブルになっています。
◎もともとは1934年に発表された『すばらしい新世界』から始まるのでしょうか。機械文明の発達を享受する人間が、自らの尊厳を失っていくさまを描いています。きわめて嗜虐的で極端な文体が、かえって皮肉めいた可笑しみを醸し出している作品です。

●京極夏彦の『姑獲鳥の夏』は、仕事場で早く仕事が終わって手が空いたので他の人が残業をしている時間に書いた、のがこの小説とのことです。思いついて講談社に持ち込んだら即刊行が決まったということです。才能あったんですね。
◎京極は、もともと装丁家の成果、究極のものづくりにこだわります。文章をページの終りに合わせて作ります。新書から文庫版で組が違うと文章を変えてでも合わせます。そういう職人気質がその作品の書き込み方や長さに表されているかもしれませんね。

いろいろお話は飛びましたが、あっとう間に時間が過ぎました。次回は5月28日(火)になりました。皆さん、いらしてくださいね。

2019年4月25日(火)BKCブックカフェレポート

ちょっとだけ時雨れた日の夕方、BKCブックカフェが開催されました。本日の参加者は経済学部1日生の方、経済学部5回生の方、理工学部1回生の方、理工学部4回生の方、理工学部院生の方が参加してくれました。用事があって早く帰られた方もいて、全員が揃った写真にならず残念でした。

こんな本が話題になりました

●最近、伊藤計劃の『トリビュート』を読みました。伊藤計劃に寄せてのアンソロジーです。いろいろ課題もあって、いろいろな作家さんが競作のような形で書かれています。
◎伊藤計劃と言えば早くに病気で亡くなられていて、最後の未完の作品を円城塔が引き継いで世に出したのが『屍者の帝国』です。なんとか伊藤計劃カラーを出そうとしながら円城塔らしく仕上がっています。

●映画「AI」もキューブリックの発案をスピルバーグが引き継いで作ったものですよね。
妊娠・出産に厳しい統制がひかれている未来、多くの資源を必要としないロボットたちが活躍する世の中になっていました。その時代に人間と同じ愛情を持つ少年型ロボットが製作されて、息子を不治の病で冷凍睡眠をさせている両親の元に送り込まれます。母親を愛するようにプログラムされた彼は最初こそ幸せだったど、本当の息子が返って来て捨てられてしまいます。それから彷徨い海の底で機能停止した彼は、人類が絶滅した2000年後の未来で、より高性能なロボットに目覚めさせられます。どうしても母親の愛を得たい彼は果たして・・という物語です。僕は泣きました。

●『どうせ死ぬ身の一踊り』は、大正期の私小説作家・藤澤清造の現世にすがりつく男の彷徨う魂の叫びを描いた生々しい小説です。

●エッセイというとみんなに読んでほしいのは中島らもです。薬中毒で警察につかまるようなしょうがないやつですが、とにかく面白い。

●エッセイでしたら なぎらけんいちもお薦めです。居酒屋の様子を書いたり、その空気感がいいです。リンクに来る学生にエッセイをおすすめしたいですね。

●堤未果の『ルポ貧困大国アメリカ』を読みました。9・11の当日、堤未果は攻撃を受けた貿易センタービルの隣のビルにいたそうです。崩れ落ちるビルを目の当たりにしてPTSDに近い症状にもなったそうですが、この本は「アメリカの貧困層は最貧困層へ、中流の人々も尋常ならざるスピードで貧困層へ落ちていく。弱者を食いものにして一部の富裕層だけが潤っていく」という世界構造の中で、その中身を解明し、それに抵抗する流れを描いています。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』はそんな状況の中、弱くてマイノリティな人々が立ちあがる姿を希望として描いています。

●僕は小林泰三が好きで初期の作品から追っています。『記憶破断者』は前向性健忘症の主人公が記憶を書きかえる殺人鬼と戦う物語です。頼りになるのは自分の記憶を記した1冊のノートだけ。SFというか、ホラー・サスペンスなのですが、グロテスクな描写がとてもうまくて生々しく描かれています。『玩具修理者』は面白いです。何でも修理してくれる玩具修理者。ラジコンカ-でも独楽でも死んだ猫でも・・・。誤って弟を死なせてしまった主人公はその弟を玩具修理者のもとに運びます。果たして・・。現実なのかも妄想なのか、そのつかみどころのなさも魅力です。表紙も怖いのでジャケ買いティックなところもあります。

●ジャケ買いと言えば、吉田秋生の『バナナフィッシュ』はまったく知らなかったのにネット上で話題になっていて、表紙が鮮烈だったので(黄色いうやつの方)本を買ってしまいました。主人公のアッシュがとても恰好よくて、いろいろ負の材料はありますが、彼を慕う日本人の男の子とのやりとりが楽しくてほっこりします。

●『恐怖小説キリカ』は、新人文学賞を取った主人公が順風満帆かと思ったら、友人からの嫌がらせを受けるようになり、それと共に妻の秘密を隠しきれなくなるという怖いお話です。これは出版社が面白い宣伝をしていたのが読むききっかけです。選考委員の貴志祐介さんが「本当にごめんなさい。日本ホラー小説大賞は、ついうっかり本物を世に出してしましました」というのに目が惹かれました。これもジャケ買いの要素ありです。

●ジャケ買いと言えば伝統的にかわいい女の子のイラストを打ち出すライトノベルですが、15年位まえに集英社で出した太宰治の『人間資格』の表紙が「デスノート」の作者のもので、一世を風靡しました。めちゃ売れでした。

●すみません。ジャケ買い続きで、小野不由美の『十二国記』シリーズですが、講談社から新潮社に出版社が代わって、表紙イラストが一新されました。この絵がとても気に入っています。新作も出るということなので楽しみにしています。

●『ベン・トー』はライトノベルですが、半額弁当を巡って、閉店間際のスーパーマーケットで毎晩のように超人的なバトルや駆け引きが繰り広げられるというコミック的な小説です。庶民派シリアスギャグアクションと宣伝されています。

●『指輪物語』はその世界観が売りだと思いますが、最初の一巻の説明パートで、その説明口調にやられて先が読み進めなくなります。それに比べると『ハリーポッター』は書き込まれている割にはとても読みやすい。もともとどこかの世界の物語というのではなくて、現実世界との関わりが密接にある物語だからでしょうか。
◎ハイファンタジーの世界でそもそも人間とエルフが関わるなんて難しいですよ。流れている時間が違っています。なんせエルフの寿命1000年ですからね。

●『ドラゴンラージャ』は、初めは韓国で、パソコン通信で連載が始まりましたが、その後日本でも翻訳が出て広まっています。仮想の国と世界で戦う様子が描かれています。ちょっと哲学的な感じで、自分らしく生きるってなんだろうという問いかけもありますし、魔法とかもクラス分けがあって、学んだクラスの魔法しかできないとか限定があります。なんかファンタジーvs.カフカとかのフェア、したいですね。
◎カフカだったら、カミュと安倍公房も揃えたいですね。空想小説対不条理小説のような・・・・。

●『陽だまりの彼女』読んでおもしろかったです。こんな終わり方かよ・・。でも温かいものを感じる感じでした。

●伊坂幸太郎の小説は、それぞれに少しづつつながりが描かれている感じで楽しめます。
いちばん好きなのは『重力ピエロ』です。仙台の街で起こる連続放火事件。その現場近くには必ずグラフィテフィアートが描かれている。その謎を解き始めた兄弟たち。果たして・・、という物語ですが、最後自分らしく生きていいよという感じの終わり方がいいですね。
『死神の精度』も哲学的なお話で、死神の調査部として人間界に派遣された死神千葉は、人間の死を見定める役割を持っている。「可」なら死、「見送り」なら天寿を全うすることになる。死神は人間の死に何の感傷も持たず、たんたんと仕事をする。ミュージック好きなところなど微笑ましい。必ず人間界に来る日は雨の日ばかりなど、軽妙な中に重たいドラマを忍ばせている。名作かもです。

●僕は理系の新書をよく読みます。『時間はどこで生まれるのか』は面白いです。相対性理論や量子論に基づいて、時間の謎を解明したもので、時間と温度と色は同じような概念だと書かれています。例えばミクロの世界では、温度は乱雑に動くもので温度は存在しない。
色も電子顕微鏡でみると、その小さな世界には色は存在しない。光は物質に反射して色彩が登場しますが、それは人間のスケールがあってこその現象です。それと同じように小さな世界では時間は存在しないと書いています。
◎その手の話で思い出したのは、『サイボーグ009』で主人公の島村ジョーが奥歯に仕込まれた「加速スイッチ」をカチッと押すと早く動けるというものがあります。
◎筒井康隆の初期作品の『お助け』では主人公の時間が人よりも早く流れるようになってしまいます。とどのつまりは周りの速度が、ほぼ動かなくなるくらいの差がでます。そこで主人公はあまりの速さのために他の人たちからは見えません。助けてほしいことが出来ても回りにはわからないのです。悲劇ですね。
◎『サイボーグ009』にも加速スイッチが止まらなくなってどうしたらいいんだというエピソードの回がありました。

●今まででいちばん面白かったマンガは『アカギ』です。マージャン界のバイブルです。
人間の内面を細かな心理描写であらわしているところが魅力です。そのために大局の描写が長引いて仕方がないのが玉にきずですね。

●森絵都の『カラフル』はそれこそ中学生のバイブルです。読んだら心が温かくなります。
そして生きることへの希望が出てきます。いつだって誰だってやり直すことはできる。

●『凶悪』は、「人を殺してそれを巧みにお金に換えるプロがいる」と獄中の死刑囚が告発した殺人事件の真相を雑誌記者が暴き、首謀者逮捕に至るまでのルポルタージュです。とにかく面白くてたまりません。

●『ベルカ吠えないのか?』は、キスカ島に残された4頭の軍用犬が交配と混血を繰り返しながら無数に繁殖した犬たちが、国境も海峡も超越し、戦争の世紀=20世紀を駆け巡る様子が描かれる迫力の名作です。犬たちから見た近代史です。巻末の犬の系図が面白いです。

●『バカの壁』は、「話せばわかる」というのは大ウソ。人間同士が理解できるとうのはうそで、人は理解できない相手を互いにバカだと思う。ということが書かれています。15年も前の大ベストセラーです。

●『ゾウの時間ネズミの時間』はまず動物のサイズが語られます。大きなザイズの動物は遅れて出現をしていきます。サイズが小さいものが動物の祖先になりやすいのは、一世代の時間が短く、個体も多いので、変化に対応しやすいからとのことです。いろいろ書かれていますが一番心に残ったのは、ゾウは何十年も生きて、鼠はたった1年の命、寿命に差があるように感じますが、両方とも心臓の鼓動の数は一緒、すなわち一生の充実度は同じというところですね。

●昔は流行った本と言えば『チーズはどこへ消えた?』というのがありましたね。
「1時間で読めて10年役に立つ」と評判の本でした。2016年にあの大谷翔平選手が愛読書と言ったことも話題でした。ある日、ネズミ2匹と小人2人がチーズの山を見つけます。ネズミは毎日チーズのところへ通い食べ続けます。小人はチーズのある場所の近くに引っ越しゆったりと毎日を過ごし、チーズを食べ続けます。ある日忽然とチーズが消えます。何のことはない、食べてしまったから無くなったのです。その後ネスミと小人はまったく違った行動を取ります。ネズミはチーズを見つける前の生活にすぐ戻り、新しいチーズを見つけるために新しい場所に走りだして行きます。小人は自分は賢いと思っていたので、チーズがなくなったことに納得がいきません。でも小人の一人は新しいチーズを捜しに行くことを決意します。はたしてここでいうチーズとはなんでしょうか。幸せ?成功?豊かさ? ビジネスにも人間関係としてもチーズは考えられます。深い本ですね。

●『ケロロ軍曹』は、カエルをモチーフとした宇宙人ケロロ軍曹が地球侵略に来たけれど日向家に居候をすることになり、日常と非日常の融合とギャップの面白さを楽しめるコミックです。また魅力的な女性キャラクターが出てくることも楽しいです。

●浦沢直輝の本はどれも魅力的です。『マスターキートン』は考古学へのあこがれを高めますし、『モンスター』は人間の怖さを印象づかせます。でも『20世紀少年』はまったくダメですね。入りはすごくてとても良かったのに、終わりはこれかよ~って感じでした。長い物語をうまく終わらすのはむずかしいのでしょうか。
◎松本零士の『銀河鉄道999』もそうですが、入りは壮大な感じで、夢が感じられて広がりがありましたが、最後はちょっと残念でした。しょぼい感じでしょうか。松本さんは拡げるのはとてもうまい作家さんなんですけれどね。
◎しょぼいと言えば、大作の『ベルセルク』も作者の筆が遅くてついていくのが大変です。
宮本武蔵を描いた『バガボンド』もようやく巌流島の闘いになるかと思ったら、武蔵が畑仕事のパートに入り、進む気配はありません。

◎同じ作家ですが、『スラムダンク』も終わり方が唐突でした。インターハイのトーナメントの途中でばっさりです。作者は「続きは書きたい」と言っていますが、筆で書いている作者の同じような絵の線がもう書けないんじゃないかなと思います。

◎それでいうと『暗殺教室』、きれいに終われていると思います。やりたいことだけやったという感じでよかったです。

2時間があっという間に終わってしまいました。次回は5月30日(木)です。
誰でも参加できます。よろしくね。