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2019.06.28

6月度トークイベント開催報告 第二段 「反緊縮!」宣言 経済学部 松尾匡先生

ニュース

2019年6月20日(木)松尾匡先生トークイベントレポート

 「薔薇マークキャンペーン」で人々のための経済政策の実現を訴えてらっしゃる経済学部の松尾匡先生にお越しいただきました。

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 蒸し暑い中、17名の熱心な参加者が集まり、先生のお話に聞き入りました。

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 最初に本について紹介をされました。
 『反緊縮宣言』出しましたが、反緊縮宣言とは何かについて今日のイベントではお話しチアと思います。いちばん最近出た本で『左派・リベラル派が勝つための経済政策会議』。これまでの講演の記録ですので大変読みやすくなっています。巻末にモデルマニュフェストも載っています。そして解説と一部翻訳を書いた『黒い匣』ですが、これはギリシアの債務問題について書いた内幕の暴露本です。ギリシアに銀行が貸し付けをして、ドイツが輸出で大儲けをしたわけなのですが、それが破綻して、貸した金を返せ!ということになり、返せないのでその救済処置として、EUがEU国民のカネで公的に追い貸しをする。そのお金を銀行への借金返済に使う。そしてギリシア国民を締め上げて苦しめて取り立てている現状となっています。ギリシアの国民を困らせる債務を帳消しにしろ!と著者は立ち向かったわけなのですが、反対に欧州中央銀行のマネー兵糧攻めに合い、ギリシアの首相は屈服したのです。

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 また自分とブレイディみかこさんと北田暁大さんとの鼎談本『そろそろ左派は「経済」を語ろう』は、よき社会の必須条件として「経済」を語り、考えることが必要と問うています。
 ブレイディさんが最近出した『女たちのテロル』は100年前の国家と激しく戦ったスーパーガールたちの歴史を現代に甦らせた本です。ブレイディみかこさんは現在、イギリスに住む保育士であり、ライターですが、英国の貧困者地域の託児所勤務を経験した彼女が、託児所が政府の緊縮政策でつぶれるのを経験して、反緊縮の考えを強く持つようになりました。彼女の考えが日本の文化人の間にも広く広まって来ています。
 日本の政治を見ると、安倍首相はやりたい放題をやっています。政策のほとんどは、世論では反対を受けています。私物化と言う点では森友学園問題や加計学園問題などありながら、何度選挙しても勝ち続けています。なんでや?ということですが、それは人々が求めているのは「経済政策」だということです。若い人ほど、雇用はまだある。飛びぬけていいわけではないけど、以前よりまだましだというふうに考えています。
 野党は、こちらの方がもっと未来はよくなるという主張を表だって言ってこなかった。
 反対と言うだけでは選挙は勝てない。控えめな評価で若い人は自民党支持。この状態は本当に満足していると言えるのか。やっと職にありついてもいつまであるかもわからない。企業ばかり儲けて賃金は上がらない。もっとわれわれは豊かになろう。人々のためにお金を使っていく。保育施設やその他の施設、働く人の給与を上げていく----等々と言うことが大事です。
 そのお金は儲けている企業や富裕層から税金を多く取って、再分配する、デフレ脱却してない間は、国債とかでおカネを作って出してもいいということです。

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 そこで「薔薇マークキャンペーン」ですが、そういう政策を出してくれた候補者に対して薔薇マーク認定をしていくという取り組みです。政党ではなく個人に。政策による認定ということです。賛同人の登録フォームもあります。今は参院選の候補者たちに「認定項目」に応えてもらうアンケートを出しています。また経済学部主催で、7月17日(水)にニューヨーク州立大学ストーニーブルック校教授のステファニー・ケルトンさんのシンポジウムを開催します。東京ですがよかったらお申込みください。最近話題のMMTの代表的論者でサンダースの経済顧問をしている人です。
 1980年代から日本もほかの先進国も、お金をなるべく出さない政策になり、福祉や教育の削減をしてきました。ただ使わないだけだと景気もよくならない。大多数の若い人々が、いつ職を奪われるか不安な中生きています。その理由は、少子化、資源の限界、IT革命などと変えられない条件のように言われていますが、実際は1%のごく少数の一握りの人々が、自分たちの都合がよいように世の中の仕組みを変えてきたというところにあります。ただそうした条件の利用がすごくうまいというだけです。明らかにわれわれは、利用の仕方が下手なわけです。
 税金を増やさないと持たないという論調が拡がっています。国の借金は仕方のないことだ。
 ここまで金でお金がないのなら使わないのも当然...と。声を大にして「そうではない!!」
 それはいろいろのところでお金の支出を削減するための方便です。国の借金への危機意識が広がったせいで、相模原事件にも代表されますが、税金につながらない生産性のないものに対して、価値がない、生きている意味がない、殺した方がいいという論理が広がっています。公務員や障害者、性的マイノリティへのバッシング問題も同じ根っこです。これによって問題が解決して虐げられた身がときはなされるわけではない。もっとお金を使うという立場に立つべきです。すると景気もよくなるので、それが雇用が安定するいちばんの道のりです。

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・・・ここでいったん先生の講演は終わり、質問コーナーに移りました。

  • 質問:三橋貴明さんと同じ考えですか。
  • 回答:三橋さんの著書を読みこんだわけではありませんが、お金をたくさん使っていこうというのと日本に借金があるというのはデマというところは一緒だと思います。
  • 質問:国債は次の世代の負担になると言われていますが、本当にそうなのか。
  • 回答:プロの経済学者ですととっくの昔に解決している問題です。「増税」をして今借金を返さないといけないという論著がありますが、例えば現在世代が一世代で貯める資産は増税がなければ100兆円として、国の借金は70兆円としましょう。この借金を増税をして今返します。すると将来の世代への遺産は30兆残ります。世代をまたぐと利子が1割つくとすると、将来世代は33兆円手にします。
    それに対して国の借金の70兆を返さない場合、100兆円は利子がついて110兆円として次世代へ遺産として引き継がれます。利子がついて77兆になった国の借金を将来になって返すとします。すると未来に残るのは33兆で、どちらも一緒のことになります。少子化で人口が減っても同じです。払う人口も減るけど、遺産をうけとる人口もおなじように減るということになりますから。インフレを考えても同じです。遺産も借金も同じように目減りしますから。
    今の話は、増税しても消費が減ることはないという、借金返済派に都合のいい前提をおいています。でも現実には、消費税を増税すると消費が減って景気が悪くなります。景気が悪い時には設備投資もしません。子どもも作らなくなり少子化が進みます。すると将来の生産力が低くなります。それは将来世代に負担を増やすことになります。
  • 質問:企業から多くの税金を取るということになると企業は海外に逃げたり、タックスヘヴンのように税金の安い国へということになりませんか。
  • 回答:前に企業が海外に進出したのは円高だったからです。企業がどこで商売するかについてのアンケート結果では、税金というのは選択肢の中では低い項目になっています。労働力の確保だったり、安全や市場としての力が上に来るので、税金だけのせいで、企業がいなくなることはないです。円高にならないようにするのが一番です。
  • 質問:国債というのは何のためにありますか。
  • 回答:国債は期限がきたら必ず額面のお金がもらえます。じゃあ、お金との区別は分かりますか。企業とかの場合、銀行券をたくさん持っていてもしかたないので、普通は銀行に持っていって預金に換えて預金で決済します。国債は銀行に持っていけば担保になり、お金に換えられます。両者に違いがありません。国債イコールお金ということです。つまり利子がつくお金とつかないお金があるということです。
    経済を大きく二つに分けて考えてみましょう。政府と中央銀行をまとめて見て、民間もひとまとめにして見ます。すると、民間に対する政府の支出は利子のつくお金でするか利子のつかないお金でするかしていて、そうした民間に出したお金のうち利子がつくのとつかないのとの割合で、市場の金利が変わってくることになります。だから、国債の出し入れは、金利を調整するためにあります。国債の本質はお金を借りるとか返すとかいう問題ではないのです。
    国債は半分以上日銀が持っています。期限がきたら借り換えをするだけです。(実は今、民間の国債が足りなくなっているので、日銀の持つ国債も政府は返して行っていますが、その方法はまた国債を発行して民間に売るのです。それを日銀がお金を作って買っていきます。だから、結局日銀の持つ国債を直接に借り換えするのと同じです。日銀の持つ国債は、お金を出した引き換えに持っているので、すべての国債の借金を返すと世の中のすべてのお金がなくなります。だから継続して借り換えしているのですが、と言うことは国債が半分以上この世にないのと一緒です。
    インフレの時は国債を売って、世の中からお金を回収してインフレを押さえます。その分は民間に国債が出て行きます。でもそれは日銀の持っている国債を全部使うわけではありません。
  • 質問:内田樹は薔薇マークキャンペーンの賛同人になっていますが、『沈む日本を愛せますか?』などの著書で「成長より、成熟すべき」と言っている人で、薔薇マークに似つかわしくないような気がしているのですが。
  • 回答:まずブレイディみかこさんのファンになったようです。文章からせつせつと訴えてくる現状を理解するようになったようです。その後、このところ山本太郎の活動にすごい共感をしていて、その辺は反緊縮政策への共感が進んできたようです。そんなわけで、一度会ったときに、山本太郎いいねという話から始まって、すごく意気投合しました。
  • 質問:日本の財政はお金を使わない方向ですが、これが町や市お単位ではどうでしょうか。反緊縮運動もうまくいくのでしょうか。
  • 回答:市や町は自分でお金を作りだせませんので、収入の範囲でやっていくしかありません。
    一つの自治体の範囲では限界があるので、国に要求を出すことなどが必要です。地方交付税の会計は一般の税とは別になりますので、債券として出して、日銀に買ってもらい再分配するとかですね。また東京には多くの労働者がいて富も集まっています。儲かっている側の地方のお金を再分配する方法も考える必要があります。
  • 質問:ゼロ金利で金融機関に負担がかかっている問題や、金持ち課税してもタックスヘイブンに逃げてしまう問題はどうか。
  • 回答:お金を持っている人からの再配分はやる必要があります。また金利については、国債は現行法では直接政府が日銀に販売できず、民間を通して売るしかありません。民間が国債不足なので、日銀は額面超えでやっと国債を買えたりします。この時マイナス金利となります。日銀の直接引き受けが許されればこれは解消されます。地方銀行は苦しいと言われますが、地域の中でお金をまわす役割を果たしているので、公的なものにしてくべきです。特に郵便局は再国有化したらいいと思いますし、もともと金融機関は公的なコントロール下におくべきです。
    タックスヘヴンについても海外との交渉、つまり一つの国だけ安い税率にしておかないような国際協力していく。そうした極右ではできない、左派しかなせない政策を考えるべきです。

 白熱した質問タイムにも情熱的に答えていただきました。
 最後にブックセンターふらっとで展開している「反緊縮ブックフェア」と「反ポピュリズムのフェア」を先生自らご紹介いただきました。
 松尾先生、どうもありがとうございました。

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