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2019.07.09

6月のブックカフェレポート

ニュース

2019年6月13日(木)OICブックカフェレポート

この日はビブリオバトルもあり、慌ただしくブックカフェが始まりました。
本日の参加者は、総合心理学部の2回生の方がお二人、3回生の方がお二人、4回生の方お一人、政策科学部1回生の方お一人、2回生の方もお一人、経営学部2回生の方がお二人、そしてなんとBKCから理工学部5回生の方が参加してくれました。

こんな本が話題になりました

●最近マンガのサイトで読みまくっています。『トモダチゲーム』は、謝金を背負わされゲームに履きこまれた同級生たちが、騙し合いのゲームに参加するお話です。

●『キリングバイツ』は動物系の能力を身に着けた少年少女たちが戦うというお話です。
ミステリー的な謎解きもあります。

●前にここで勧められて『夜は短し歩けよ乙女』を読み始めました。京都大学やその周辺を舞台に冴えない京大生と無邪気な後輩女性の恋物語を描いています。これを読むと京都を歩きたくなります。

●弟が持っているラインナップから『進撃の巨人』を取り出して読みました。面白いです。
◎この人は絵がすごいへたなのに読ませますね。
◎最近は上手になってきましたよ。アニメの方はとてもきれいです。こちらもお薦めです。

●『永遠のゼロ』を読みました。綺麗に描きすぎのような気もしました。
◎作者が放送作家出身なので、つかみとか細かく盛り上がりを作るとかはうまいですよね。
◎特攻に関しては『祖父たちの戦争』という本がいいですよ。特攻を命令した人がなぜその命令にいたったのか、ということも書かれています。巻末の参考文献の数がすごいです。いろいろな史実に裏付けられたルポルタージュです。特攻の生き残りというのは、不発に終わってだめだったことで出てきます。でも不思議なのは、特攻で死んでいるのは高学歴の人たちが多いんですよね。

●辻村深月の『噛み合わない会話とある過去について』を読みました。前にこの場で話題になっていました。やはり怖かったです。

●『嫌われる勇気』を読みました。どの年代でも、どこに行っても人間関係については悩みのタネですね。

●中山七里さんの『さよならドビュッシー』を再読しました。やけどを負ったのはどちらの少女なのか最後まで迷います。面白いミステリーです。
◎私はこの本を読んだとき、『シンデレラの罠』のオマージュかと思いました。二人の少女のうち一人は顔にやけどで皮膚移植、一人は焼死。火事の真相を知るのは私一人、でも記憶を失っている。いったい私は誰なの?というお話です。まったく一緒ですよね。語り手である私は20歳。私は探偵であり、証人であり、被害者であり、しかも犯人・・・という語り始めが秀逸です。

●『神様のカルテ』を読み直しました。人の命を握りしめて生きること、毎日真面目に心を尽くして生きることの大切さを学べます。

●前にブックカフェで紹介してもらった西尾維新の『クビキリサイクル』を読みました。
天才少女とその冴えない友人いーちゃんが孤島×密室×首なし死体の事件に巻き込まれるお話です。

●『コンビニ人間』は、コンビニを拠り所に生きている普通の人になれない、拠り所のない女性が主人公のお話です。芥川賞も取って、広く読まれてきています。

●『約束のネバーランド』は、孤児院で育てられた子どもたちが特殊な勉強とテストによって育て上げられ、6歳から12歳の間に里親のもとに送り出されると聞かされて暮らしています。あるとき里親が見つかって外の世界に出ることになった少女が「食肉」として出荷されるのを同じ孤児院の二人は目撃してしまいます。それから二人は仲間を増やし、孤児院からの脱出を図るというお話です。「人間飼育場」側の人間と孤児たちの闘いが始まります。

●『約束のネバーランド』は、カズオ・イシグロの『私を離さないで』的なお話ですね。
孤児たちの運命が「食肉」ではなくて、「臓器移植」の提供者ですけれど。人権や命とは?を考えさせられます。

●『七つの大罪』は人間と人間ならざる種族が分かたれていなかった古代、ブリタニアの大地を舞台に七人の大悪人から組織された伝説の騎士団の闘いを描く物語です。

●『黒い匣』は、ギリシアでは財政破綻をしましたが、未だ救われないということが起こっています。ギリシア破綻を救おうと立ち上がった者たち。でもEU中枢の権力者たちはすべてを闇に閉ざしていきます。本当の敵は誰なのか、彼らの行く先に光はあるのかを問うていきます。

●ミステリーの古典であるクリスティの『そして誰もいなくなった』はアイディアとしては秀逸であっと驚かされますが、あまりにも型にはめようとしていてちょっと無理がある感じもします。
◎『オリエント急行殺人事件』も陳腐ですよね。全員が犯人という・・。
◎あれは人間を描いているのでそれでもありなんでしょう。

●密室者でいえば、綾辻行人の『十角館の殺人』はいいですよ。学生たちが謂れのある孤島の館で1週間を過ごすお話です。作者のデビュー作ですが、たいそう評判になって「新本格ミステリ」という言葉が浸透した名作です。
◎デビュー作でいうと恩田陸の『6番目の小夜子』もおもしろいですよ。ある高校は「サヨコ」という伝説があって、3年に一度サヨコと名乗る生徒が選ばれて3つの約束を果たすと大いなる扉が開かれる・・。主人公はサヨコに立候補してその3つの約束を果たそうとするが、すでにそれは果たされていて、何が起きたのか、何が起きようとしているのかという物語です。
◎恩田陸と言えば『夜のピクニック』ですよね。男女の生徒の緊張感ある関係と、様々なためらいと悩みが夜の歩行をするという、ただそれだけの中で浮彫にされていきます。
◎昔、衣笠からBKCまで夜の行進の行事がありました。もう無くなったけれど。歩くというのは、自分の限界との闘いでもありますし。自分と向き合えるのでしょうか。
◎青春といえば朝井リョウさんの『チア男子!』じゃないですか。なんとかく始めた「チア」にのめりこみ、はじける汗と青春を感じられる本です。

◎青春といえば庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』は学生運動を背景に、日比谷高校の生徒の生活を軽妙な文体で書いた青春小説です。東大紛争のおかげで東大入試が中止となって逡巡し、大学に行くのをやめたりします。
◎森見登美彦の『四畳半神話大系』も青春小説です。京都を舞台に京都大学3回生の主人公が、1回生の時に選んだサークルによって自らの学生生活をいかに変えていったか、その可能性を描く一人称小説です。平行世界の要素が取り入れられていて面白いです。
◎この間、劇団月光斜で上演していましたよね。アニメはすごくよかったです。

●『有頂天家族』は千年の都・京都には、人に化けた狸と天狗が人間に紛れて暮らしていたという設定です。狸の名門下鴨家の父は、狸鍋にされて人間に食べられ、その死に秘められた真実が明らかになり、残された下鴨四兄弟の逆襲が始まります。面白いです。

●『夜行』はたんたんとした小説でもう一つでした。10年ぶりに集まった昔馴染みのメンバーたち。その中で4つの不思議な話が語られますが、それが回収されることもなく終わっていきます。森見は京都から離れられないのでしょうか。
◎『ペンギン・ハイウェイ』は違いますよ。これもファンタジーですが、海の近いどこかの新興住宅地ってことになっています。勉強好きの小学生の頑張りがいとおしいです。お姉さんが可愛いのがいいですね。

●ドストエフスキーの『死の家の記録』は、ドストエフスキーがシベリア送りになった時の体験を描いたものですが、その中で「世界なんてどうでもいい。紅茶が飲みたい!」と言っているところがいいです。
◎ドストエフスキーもそうなのですが、ロシアの文豪って長々強い文章を書きますよね。さすが、寒い国の人が体力と耐久力がすごいなぁといつも思います。

●『もうすぐ絶滅するという煙草について』は、煙草を飲ませろという愛煙家の作家たちのいいわけエッセイ集です。中でも開高健は、「喫煙は魂の洗濯」と言い切っています。

●『サピエンス全史』は人類史を歴史上だけに留まらずに描いています。地球の長い歴史と換算したら、たった20年前に誕生したばかりのホモ・サピエンス。7年前に言語を駆使して先行する他の人類種や獰猛な動物たちを追い払った。なぜ社会が生まれたのか。それは二足歩行になったから。これは体にかかる重力が変化し、女性の産道が狭くなります。そこで他の動物のように充分に育ってから生み出すことができなくなり、早いうちに人間の赤ちゃんは生れ落ちます。そのため長い間世話をする必要が出てきました。母は家で赤ん坊を守り、父は生活のため外へという構図ができあがったのです。そんなことも学べます。

●『構造人類学』ですが、レヴィ・ストロースはマルクスの有名の言葉「人間は自分の歴史をつくる、しかし歴史をつくっていることを知らない」を引用し、前半の言葉で歴史学を、後半の言葉で民族学を正当化し、2つの関係は補完的で分かちがたものだとしました。
言語がもたらす社会との関わりを解いている本です。

●人口知能の本でいいのは、『人工知能と経済の未来』です。AIが目覚ましい発展をとげている現在、AIは私たちの仕事をかなり代替わりできる実力を持っています。このまま技術開発が進むとどうなっていくのか。最大で人工の9割が仕事を奪われるとしています。
そこで作者はAIによって奪われた労働はBIによって補完しようと提唱しています。BIとはベーシックインカムのこと。社会保障をBIに一元化して子どもから大人まで一律の生活保障を支給するというしくみです。

●『自動人形の城』という本は、ファンタジーっぽく描いているAIの足りないところを指摘した本です。ある城で王子様が魔法使いの甘言にのって、使用人たちすべてが自動人形(AI)に変わってしまいます。人形は言葉を正しく受け取れるのか、命令の裏にある希望を把握できるのかという形で、「AI」と「言葉」をテーマに描かれています。

●『服従の心理』は合法的権威によって、他人に危害を与えるように命令された時に人はどうふるまうか、ナチスのホロコーストを進めたアイヒマンのアイヒマン事件を題材に人間の隠された本性を描く本です。ハンナ・アーレントがアイヒマンの公開裁判を欠かさず傍聴し、彼の死刑が思考されるまでを描いた記録です。アイヒマンを極悪人として描くのではなくごく小心な取るに足らない役人であったとして、悪の陳腐さについて語っています。

◎『普通の人々』は、ごく平凡な一般市民たちは、いかにして大量虐殺者となったか。大量虐殺はヒトラー一人だけでできたわけではない、いかに普通の人々がかかわっていたか。
ユダヤ人虐殺の知られざる実態とその心理的メカニズズに迫った本です。

●『翻訳できない世界のことば』日本にはどうしても海外に翻訳できない言葉があります。たとえば「木漏れ日」「わびさび」など。その反対もあります。トナカイで走る距離を表すとか、バナナを食べることで時間を表すとか。世界の文化に裏付けされて言葉があり、それぞれ違っているのです。そんなことが分かります。

●『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』はインスタグラムやツイッターでフォロアーが300万人以上もいる作者が書いたもので、「やなこと全部スワイプして消すよ」という感じで、人間関係や将来、恋愛など目の前のあなたの悩みを新機軸に吹き飛ばす本です。

●坂口安吾は『百万人の文学』でこれから残っていく本、読まれ続けていく本について書いて言います。例えば太宰治は読まれ続けるとしています。残っていく本の価値はどこにあるのか考えさせられます。
◎古典1冊はビジネス書の10冊遺書の価値があるっていいますものね!
◎ビジネス書はこうしろ!!って何か追い立てられるような感じがします。
◎真逆のことを言いながら真実をついているのが、三島由紀夫の『不道徳教育講座』です。女は捨てるべし、とか弱いものは苛めるべしとか、PTAはなくせ、だとか・・何てことだ!と思いながら読み進めると共感、納得、説得させられます。
◎PTAについては筒井康隆が『くたばれ!PTA』というのを書いています。マスコミや主婦連から極悪の烙印を押されたSF漫画家の猪狩が爆発するお話です。黒い笑いが楽しめるショートショート集です。

●『走れメロス』は太宰が借金をして、三島由紀夫を借金のかたに置いて、金策に行ったけれど川端康成のところでマージャンをしていたというエピソードからできたそうですよ。

●オーディブル
音で物語を聞くのもいいものです。小さな時間を読書に費やせます。読むのが難しい本でも、耳からなら自然と入ってきます。これからは耳から聞く読書もチャレンジしてみてください。

●APUの出口先生に会いに行きました。朱雀に来られた時に30分だけ時間を取ってもらえました。出口先生によると成功するポリシーは3つあるとのことでした。一つは本、そして、人、そして旅で、本はリーズナブルにいつでも知識を仕入れられる。人には会いなさい、賢い人にあっていろいろ聞きなさい。そして旅とは経験です。たとえばどこどこのカレ-がおいしいときいたら話だけに終わらずに食べにいきなさい。「旨い」を共感しなさい。様々な場所にも行ってみる、行ってみないとわからないことがたくさんあります、と言っていただけました。なのでバイトで人力車を始めました。いろいろな人と出会えます。みなさん、たくさんのことを経験されているなぁ、ためになるなぁと思っています。

あっという間の2時間でした。ビブリオバトルから通しで参加された方、お疲れ様でした。
次回は7月11日(木)となりました。誰でも参加できます!みなさんいらしてくださいね。

2019年6月25日(火)衣笠ブックカフェレポート

よく晴れた日の夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。
今日の参加者は、産業社会学部1回生の方が4名、2回生の方、4回生の方、文学部1回生の方、3回生の方、5回生の方が参加してくれました。初めての方はお二人でした。

こんな本が話題になりました

●最近水上勉の『一休』を読みました。一休の破天荒な生涯を余さず書いた伝記文学で、谷崎潤一郎賞も取っています。ただ原典の羅列のぺージもあり、とても読みにくいです。

●有川浩の『塩の街』がすごく好きです。困難に見舞われた中でも生き抜こうとする姿に共感します。
◎有川は本質的に温かいというか、いろいろあっても、最後は裏切らないというか読者の目線に立ったラストが用意されている気がします。
◎『図書館戦争』では堂上教官のファンです。
◎私は小牧教官のファンです。まりえちゃんとのラブストーリーがきゅんきゅんします。

●「いやミス」と呼ばれていますが湊かなえの『告白』は怖いです。麻薬になる面白さを秘めています。

●万城目学が好きです。『鴨川ホルモー』は陰陽道を取り入れた奇妙な設定で、京都の4つの大学がホルモーという謎の競技で戦うコミカルでちょっとせつない青春ファンタジー小説です。
◎『鹿男あをによし』は奈良の鹿から命を受け、日本の滅亡の危機を回避するために奮闘するというファンタジー小説です。知らない土地に行って教師になるとか、いろいろ生徒にからかわれるとかの雰囲気が『坊ちゃん』に似ています。
◎『プリンセス・トヨトミ』も壮大なファンタジーです。トヨトミの子孫を守ってきたという大阪府民。会計検査院の調査官3名と空堀商店街に住む2人の中学生。そして地下に眠る大きな大阪国、隠された歴史の扉が開きます。

◎『偉大なるしゅららぼん』は、琵琶湖を舞台に「湖の民」としての力を持つ一族同士の対決が描かれます。これも映画化されています。万城目作品はよく映像化されています。

●星新一の本の解説に筒井康隆についてふれてあったこともあって、筒井作品を読んでみました。
◎『日本沈没』ですか。
◎それは小松左京で、筒井は小松左京の『日本沈没』がでた2週間後に『日本以外全部沈没』というパロディ作品を書きました。そのセンスはスゴイですね。
◎筒井作品でいると七瀬三部作が好きです。七瀬というのはテレパスで人の心が読めます。
そのため正体を悟られないように、お手伝いとして各家庭を渡り歩いています。そこで出会う変わった家族たちの正体が七瀬の超能力をとおして描かれます。
一点して『七瀬ふたたび』では超能力者がある組織に追い詰められていきます。同じような能力を持った人たちと出会い逃避行を続けます。最後に静かに森の中で目を閉じ、暗黙の世界が訪れます。これで七瀬は死んだと思っていると、最終刊の『エディプスの恋人』では七瀬は名門私立高校の事務職員となっています。七瀬が受け取る他人の思考の様子を、普通の文章だけではなく、文字色・表記の工夫やページ一面に文字をレイアウトするなど、視覚に訴える記述がされているのが目で読むという感じで面白いです。「彼」と彼を守る「彼女」の存在に気づき、その意図を探ろうと物語は始まります。
◎筒井は『時をかける少女』で日本初のライトノベルを書いた人ですよね。
◎本人が自ら言っています。自分が始祖だって・・。

●日本最古の超能力ものは『かぐや姫』ではないですか。
◎美女ではあったけれど、そんなのあったかなぁ。美しさで惑わすのが超能力としたらそうですね。
◎倉橋由美子のオマージュ作品で『大人のための残酷童話』というのがあって、このかぐや姫の章も原作と同じように進むのですが、一つだけ違うのは、かぐや姫は月に帰るのをあくまでも拒みます。どうしても首を縦にふらないかぐや姫に月の従者たちは、ではこのまま地球におれ!とかぐや姫を投げ出します。地球の人々がかぐや姫に駆け寄るとそこにはこれまでのかぐや姫とは似ても似つかない芋虫のような物体がありました、という怖さです。地球人の姿ではなく月での姿に変えられたまま地球に放置されたのですね。誰もが思いつかなかった展開です。

●夏川草介さんの『神様のカルテ』が好きです。地方病院だけどそれなりに大きな規模の大きい病院に努める主人公。医者としてとても忙しく過ごしています。大学病院の医局で先端医療に携わるべきかいろいろ悩みのある中、助からない患者と関わる中で、一つの答えを出します。生と死に向き合う物語です。
◎夏川さんの本を読むと夏目漱石が読みたくなりますよね。『草枕』とか。「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
◎みなさん『こころ』をちゃんと読んでいますか。遺書のところだけではもったいないです。
◎私はKが好きです。世捨て人的な感じがかっこいいです。
◎奥さんはどこまで知っていたのかとも思いますが、第1部で先生のことを心配しているのを見ると、きっと何も知らなかったと思っています。
◎私は『坊ちゃん』のきよとの関わりが好きです。最後にきよのことを話すのを忘れていたと始まるのですが、肺炎でなくなったきよが死ぬ前に「後生ですから、きよが死んだら坊ちゃんのお寺に埋めてください」と頼みます。だからきよの墓は小日向の養源寺にある、というところが大好きです。いつも泣かされます。
◎『夢十夜』はすごいです。どの章も「こんな夢を見た」から始まりますが、文章が秀逸です。第3夜の背中に抱えた子どもがだんだん重くなってくる話もとてつもなく怖いですし、第1夜の100年の恋はとても美しい話です。
◎夏目漱石は言文一致してから、文書のルールとして、後輩坂たちの見本になった存在ですから、無駄のない文書力、表現力はすごかったのでしょう。理路整然としています。

●同じ時代の作家だと森鴎外ですね。『舞姫』は文語体ですが、読みやすいです。話としてはくず男の話ですが・・。
◎『高瀬舟』の方が共感できるかもですね。ある意味ミステリー仕立てです。弟を殺してしまった罪人の心持ちが現れていきます。

●上橋菜穂子さんが好きです。アニメを見て「どはまり」して本を読みました。上橋さんはとにかく文章がうまい。そしてファンタジー小説必須ですが、世界観をつくるのがうまい、本当にありそうな食卓やごはんとか・・。
◎さすがアプロジニー専門の文化人類学者ですね。

◎上橋さんの主要男性キャラはどの作品も似通っている気がします。寡黙で落ち着いていて、穏やかな中に鋭さも持っているという人物像です。
◎そういえば『鹿の王』は、アニメになります。「IG」という政策会社が作ります。ここは知る人ぞ知る会社で、アニメ制作でここといえば間違いないと言われています。

●芥川龍之介のいちばんは『藪の中』です。殺人と強姦事件の4人の目撃者と3人の当事者の証言で作られた物語です。それぞれが矛盾しており錯綜しているので、真相がつかめない構造となっています。
◎『蜘蛛の糸』はとても読みやすいです。地獄に落ちた罪人にお釈迦様が手を差し伸べるお話です。1本の蜘蛛の糸によじ登って地獄から出ようとしますが、あとに続いて来る罪人たちを振りほどこうとして、自らも落ちるというものです。自分だけが助かろうとした無慈悲の心を戒めています。
◎好きなのは『奉教人の死』です。安土桃山時代の長崎の教会に信心深い修道士がいて、でも彼には思いを寄せる傘屋の娘がいて、その娘が妊娠したとき、姦淫の罪によって破門されてしまいます。彷徨いながらも信仰心を失わない主人公。あるとき長崎の街に大火が出ます。
傘屋の娘の子どもが家に置かれたままになったときに、主人公が現れて助け出します。それで主人公は命を落としてしまいますが、赤ん坊は助かります。人々はそこで主人公の秘密、決して父親になれない秘密に気がつくのです。

●太宰でいちばん明るい小説は『走れメロス』でしょう。
◎最初の結婚をした頃の『富嶽百景』、なんか良いですよね。「富士には月見草がよく似合う。」
◎その頃は太宰の精神安定期と言われていますよね。

●三浦しをんの『舟を編む』は読みがいがあります。一つのことをたんたんと行って達成していくという王道のような小説です。
◎三浦さんは就活時に早川書房さんに文才を認められて、「小説家」になった方がいいと言われて作家になったそうです。

◎今年の本屋大賞の7位に入っていた『愛なき世界』も面白いです。大学が舞台なのですが、お料理男子と植物女子の噛み合わない恋愛を描いています。植物研究の描写がすごいです。
3分の1はよくわからない文章でした。

●乙一は昔、白乙一、黒乙一と呼ばれていましたが、その白乙一作品の『きみにしか聞こえない』は切ない愛の物語です。クラスで居場所のない少女が、頭の中で突然電話が鳴りだして話をするというものです。

◎『失はれる物語』の中の短編、「傷」は11才の少年が主人公です。その少年はクラスに適合できないという理由で特殊学級に入れられます。そこで聡明なのに口を利かない転校生と出会います。あるとき少年がナイフで誤って手を傷つけたとき、転校生が傷に手をかざすと傷は転校生に移っていました。他人の傷を自分に移すこと、自分の傷を他人に移すことが出来る転校生。読んでください。。
◎『夏と花火と私の死体』は乙一が16歳の高校時代に書かれたものですが、9歳の私は友達に殺されてしまいます。その友達は殺したことを誰にも言わず、兄に相談します。兄は、その頃よく起こっていた誘拐事件として偽装することをもくろみます。隠そうとする兄妹たちを死体の「私」の視線で書いたホラー小説です。
◎乙一と言えばある作品のオマージュを書いています。『冷たい方程式』という海外のSF作品ですが、ある辺境の惑星で致死性の疫病が発生し、血清を届ける小型宇宙船が派遣されたのですが、発進後、隠れていた密航者を発見します。密航者は船外に放棄することが決められていましたが、その辺境の星で働く兄に会いたい一心で密航した18歳の少女は、命と引き換えになる重大なことをしでかした、とは思ってもいなかったのです。船長はなるべく少女の船外放棄を遅らせるために努力しますが、最終的には最小限の燃料しか積んでいないこと、血清が届くのが遅れたら何人もの命が失われることを少女に説明します。それて少女は自ら宇宙船の外に出るのです。この物語は評判を呼んで、何人もの作家がオマージュ作品を出しています。すなわち少女が助かる方法はないか・・。そこで乙一ですが、彼の解決策は手足を切り落とすことでした。ホラーですよね。

●朝井リョウさんだと『星やどりの声』が好きです。家族のそれぞれの視点で書かれた温かい物語です。

◎『もう一度生まれる』は焦りと不安を抱えた5人の若者たちの物語です。その中で美しくて賢い姉にコンプレックスを持って嫉妬する物語がいちばん気になります。朝井リョウさんは人間のコンプレックスを描くのがうまいと思います。
◎日常のなんてことないことをすくい取って書いています、と本人は言っていますが・・。
実は大きな物語を書ける方かもしれませんね。
◎『何様』は、『何者』のスピンオフ作品で、『何者』では見えてこなかった裏話がわかって面白いです。

●村上春樹ですが、これから春樹を読む人にお薦めとしたら、『風の歌を聴け』は古すぎてまずいのでは?と思われます。僕の一番のお薦めは『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』です。これは最初は短編でしたが、春樹曰く、多崎の彼女が発した一言で勝手に登場人物が動いて長編になったそうです。この作品はめちゃめちゃファンタジーやわけのかわらない異世界風のしつらえでもないのでいいかと思います。
◎私がけっこう好きなのは『パン屋再襲撃』です。パン屋なのにマクドナルドを襲撃したり笑えます。『パン屋襲撃』とともにお楽しみください。
◎有名ですが『ノルウェイの森』はアカン!と思います。精神的におかしな人ばかりですし、出てくる男はヘタレですし・・。
◎これは講談社の販売戦略の勝利じゃないでしょうか。すなわち赤と緑のぴかぴかの上等な表紙を採用したことです。これで多大なイメージアップがされました。文庫化の時に一度は大人しい表紙に変わったのですが、評判悪かったせいかすぐもとに戻りました。

●荻原規子の『RDGレッドデータガール』が好きです。主人公は姫神が憑依する家系の子孫で、その家系を守る山伏の子孫と一緒に東京で学ぶことになります。そこでいろいろな事件が・・。面白いです。

◎『空色勾玉』は、不死の輝(かぐ)の勢力と、転生を繰り返す闇(くら)の勢力の戦いを描いています。葛藤が背景となって主人公の成長が描かれます。

●けっこう桜庭一樹が好きです。『推定少女』は地方都市に住む少女の焦燥感が真正面から描かれた物語です。家出をして途中で出会った少女と東京へ向かいます。この物語、最初はバッドエンドだったそうですが、編集者の意向でハッピーエンドに変わったそうです。
◎『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は、ショッキングでグロテスクなストーリーです。
主人公とその兄が山に登りながらこれまでの出来事を回想していきます。徐々に衝撃的な事実が明かされていきます。時間を遡っていく構成が効いています。
◎私は何と言っても『GOSICK』です。第一次世界大戦の第二次世界大戦の間の不穏な空気の中、良家の子女が学ぶ寄宿学校で出会った天才ビクトリカと日本人の少年・・・・。出てくる謎解きを楽しみ、そうしているうちに大きな歴史の渦の中に巻き込まれてしまいます。思いあう二人の気持ちの勝利を信じたいです。

●谷崎潤一郎の『細雪』は以前、ビブリオバトルで発表した人に向かって、女子4人の話ということは「百合」なのですか?と聞いてしまったことがあります・・・。
◎「百合」ではありませんが、谷崎の小説は確かにエロいですよね。戦争中に発表できなかったのもわかる気がします。でもあれだけ無駄な文章を書いていなからつやっぽく、読ませてしまうのはやはり文章力があるのでしょうね。

●宮沢賢治の『春と修羅』の意味は「シン・ゴジラ」だけが知っています。
◎「シンゴジラ」のファーストカットに『春と修羅』の初版本が映されていたんですよね。
◎『銀河鉄道の夜』はこれをモチーフにしたプラネタリウムを見て、あまりにも良かったので本も読みました。詩の世界の描写は素晴らしいと思うけれどそれは雰囲気で実際のところ理解できないです。あまり好きではありません。しかも世の中には賢治ファンが多すぎて否定できないような空気がいやです。特に小学校教師!!押し付けるのはよくありません。
そして『やまなし』は教科書に載せるべきではないと思います。

◎読んで楽しむのなら『注文の多い料理店』が好きでした。どこまでも疑わないで言うことを聞いているうちに、どうしょうもないところに追い込まれてしまう主人公たち。最後に助かったときはうれしかったです。

●『死んでしまう系のぼくらに』はネット時代詩人が語る新次元の表現の作品です。現代詩の概念を打ち破って詩で遊ぶという、詩の新たな楽しみ方を提示しています。

●『サラダ記念日』って売れたんですか。
◎当時はすごかったですよ。短歌の革命のような扱いでした。口語体で素直に気持ちを表しているところが評判でした。「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」
◎俵万智の短歌できゅんきゅんしたのは好きな人と一緒に歩いていて、でも恋人じゃないので、並んで歩けなくて、後ろを歩いてそっと陰を踏むというような短歌があって、いいなぁと思いました。

●『ちぃちゃんのおかげおくり』は穏やかな描写中で戦争の悲惨さを感じさせます。あのおばちゃんに見つけてもらった時になんでついて行かなかったかな。そうしたら生きて行けたのにと思って哀しいです。
◎『一つの花』も戦時中のお話で、小さな女の子がお父さんに「一つだけちょうだい」といつも声をかけます。たった一つだけください、という気持ちと、一つだけもらったものの中にコスモスの花があって、最後にお父さんのことを忘れてしまった女の子がたくさんのコスモスの中をかけていくシーンが印象的でした。
◎『この世界の片隅に』を読んで、初めて戦争を身近に感じることができました。日常の中に焼夷弾が人々に向かって落とされるというのが、本当にこわかったです。

あっという間に2時間が過ぎ去りました。次回は7月30日(火)に開催することになりました。誰でも参加できます。よかったらいらしてくださいね。

2019年6月27日(木)BKCブックカフェレポート

雨の降る日の夕方、BKCブックカフェが開催されました。
今回の参加は、理工院の方、理工5回生の方、経済5回生の方が雨にも関わらずかけつけてくれました。リンクで行うフェアの談義をしたのですが、今考えているホラー小説フェアの次は恋愛小説フェアをすることになりました。

こんな本が話題になりました

●最近はマンガばかり読んでいます。この頃は「うつマンガ」がブームで『最終兵器彼女』などもそうですが、この『なるたる』は、小学校の少女が世界をリセットしょうとする勢力の闘いに巻き込まれる話です。細かな心理描写が多く、残酷な場面もありますが、これは作者のうつ状況によるものらしいです。

●『おやすみプンプン』は、どこでもいそうな少年プンプンの半生を描いた作品ですが、けっこうクリアなので自己評価が低い人は読まない方がいいマンガです。主人公や家族が落書きのような描線で描かれており、実験的なシュールレアリズム表現が多いです。

●『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、突如侵略者の巨大な宇宙船がやって来たというところから始まります。でもその宇宙人はとても弱く、政府は簡単に倒せるのにそれを隠し「敵を倒すために」との名目で軍備を強化するというお話です。
◎なんとなく『銀魂』っぽいですね。

●最近、ナチスやユダヤ人に関する本を立て続けに読んでいます。『普通の人々』は、ナチス・ヒトラーが直接ユダヤ人を虐殺しろと言ったわけではなくて、一か所に集めて絶滅させろという命があり、その当時の警察予備隊が如何に動いて虐殺にいたったかという経過を、その行政のメカニズムを解くという形で書いている本です。
◎ハンナ・アーレントの『エルサレムのアイヒマン』という本で、アイヒマンは小役人であり、平凡はおじさんだったけれど、機構の中で大量殺戮が出来たと言っています。悪の陳腐さという言葉が有名ですが、僕にしてみたらアーレントは甘いです。きちんと裏を取って科学的に示すのではなく大ざっぱな判断です。哲学者の限界があると思います。
◎ユダヤ人500万人虐殺とありますが、それは本当だったかは誰にもわからないですね。
◎ナチスものの恋愛小説なのですが、『朗読者』は考えさせられます。ある女性に本を読み聞かせていた15歳の少年が何年か後、司法修習生となって参加した裁判で、昔知っていたその女性を見ます。ナチスの協力者として訴えられていたのです。文書を持って協力したとされていますが、本当のところ彼女は文盲で、そうした疑いが起こる行動が出来るはずがないのです。でも彼女は肯定します。なぜなら字が読めないということをどうしても認められないのです。それを言う位だったら汚名を着ると決意しています。少年は彼女が無実であることを知るのですが、彼女の心を慮って誰にも言いません。
◎ナチスを擁護するような小説と話題になりました。
◎単なる恋愛小説としてもとてもお面白いですよ。
◎松永美穂さんの訳が秀逸です。とても読みやすいですよね。
◎『否定と肯定』ですが、これは2000年に起きたホロコーストの裁判について描いています。現在、ホロコーストはなかったという主張をしている否定派が多くいて、肯定派が「これではいけない」とイギリスで裁判をおこしたのです。イギリスでは立証責任が被告側にあるからだそうです。でも否定論者はうまく逃れていきます。なぜならナチスによって収容所はあとかたもなく壊されており、おそらくここがガス室だろうと予測はできても立証は難しいのです。裁判は肯定派が勝って終わりましたが、否定派の主張が途絶えることはありません。

●これも映画ですが、『ちいさな独裁者』という作品です。脱走兵がある時ナチス将校の制服を拾って身に着けるところから物語は始まります。終戦間近の頃で、敗戦が色濃くなったドイツでは英語で「連合国ようこそ」を掲げる者たちも出始めていました。その中でそういう人たちを裏切り者として血祭に上げていくのです。
◎『死の泉』という本があります。ユダヤ人とは何かというのは特定が難しいですが、反対に優秀とされるアーリア人とは何かというのも特定が難しい問題です。ただアーリア人の特色を決めて、それに沿う子どもたちを連れ去って誘拐したという歴史があります。

●江川紹子さんの『カルトはすぐ隣に』は皆に読んでほしい本です。今なぜオウムなのかというのは、時代が移って忘れ去られていく状況だからです。この本の最後でLearnではなくてStudyが大切、つまり教育ではなくて、自らの感性で自ら考えていくことが大切ですが、考えさせないのがカルトと言っています。オウムに引き寄せられた若者たちは誰もが真面目で世界のことをよくしたいと考えていて、とても親思いです。だからこそひっかかってしまうのです。
◎オウムが変節したのは選挙に出て誰も当選しない、すなわち世間に受け入れられなかった、というところからですよね。
◎オウムは公明党をめざしていたんですよね。宗教と合体した政治団体として公明党になりかわろうとしました。

●オウムでなくても、ルワンダとか虐殺の歴史は世界にたくさんありますが、『虐殺器官』はスゴイです。サラエボで発生した核爆弾テロによって戦争・テロが起こっている世界が舞台です。そして事態を重く見たアメリカが情報収集をして、戦争犯罪人の暗殺を行うようになります。主人公の軍人はある人物の暗殺を命じられますが、果たして・・という世紀末的な雰囲気の小説です。
◎『虐殺器官』で描かれた世界の終焉の後に現れた世界は、病気のない誰もが幸せを享受できるとされている世界です。この本は伊藤計劃が病気でなかったら決して書けなかったように思います。「戦争のある世界は暴力に殺される。この世界はやさしさに殺される」と言い得て妙な表現をしています。

●アーシェラ・K・ル=グウィンの『風の十二方位』は、魔法を使う世界の物語で。どちらかというと感情より理論的な文章です。その中の一つの話は、人類共同体でユートピアが描かれています。男女間の交渉も自由な社会で、みんな幸せに生きていますが、地下牢に一人閉じ込められているのです。食事だけは与えられますが何も手を施されません。みんなは見に来たりはしますが、誰も助けようとはしません。功利主義ですね。一つの犠牲は払うだけでいいという。ファンタジックなSFですが、書かれていることはしんどい内容ですね。

●ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』は、ラテン文学の金字塔的存在である一族の年代記です。ある一族が村を創生し、やがて滅亡するまでの100年を描いています。
◎焼酎ではないですよね。
◎焼酎ではありません。けっこう変わった本で、最後は近親での婚姻が続いたため、豚のしっぽの生えた子どもが生まれてしまいます。婚姻相手は血のつながりのない相手を、という家訓を残していきますが、破られ、破滅に向かっていきます。

●筒井康隆は自選短編集がいいと思います。『文学部唯野教授』はこれを読むだけで文学史が身に付きます。
◎『誰にもわかるハイデガー』は筒井康隆が書いた分かり易い哲学書です。『存在と時間』の超入門書で、唯野教授の最終講義とされています。人間は必ず死ぬ存在で、人間は誰もがそれを知っている。だけれどいつ死ぬかはわからない。そのわからないことに悩んできたのが人間。その命題をユーモラスに分かり易く解いています。

●小松左京は筒井康隆の盟友ですが、小松左京のいちばんの名作は『果てしなき流れの果に』
です。宇宙をまたにかけ、10億年の時空を舞台とする壮大なスケールの本格SFです。
中生代の地層から無限に流れ続ける砂時計が見つかり・・。『日本沈没』や『復活の日』ともつながっています。殺人事件もあってミステリー的要素もあります。
◎次回のNHKの100分で名著は小松左京をとりあげるそうですよ。

●『ネット階級社会』は、IT企業の台頭で生活は便利で豊かになった。一方で既存企業の破壊や格差の拡大が起こっている。一握りの企業が主導する流れは不可避なのか。これからのインターネットの社会の在り方を探る本です。

●『包帯クラブ』は、思春期の少年少女たちが心に傷を持っていて、傷の思い出の場所に包帯を巻くと傷が軽減できるとしてクラブを作って包帯を巻いていくという物語です。

●いしいしんじの『トリツカレ男』はめっちゃ優しい。優しさだけでできている物語です。泣き笑いをしながら読めます。

●『冷たい方程式』は海外のSFなのですが、密航した少女が掟に従って宇宙にも放り出されるというお話です。なんとか助けたいと思った小説家たちが、アンサー小説を書いています。

◎自己犠牲という点では『たったひとつの冴えたやり方』と一緒ですね。宇宙船の中で胞子を飛ばして寄生する生命体と出会った少女がいったんは仲良くなるけれど、このまま基地に帰ると脳を食い荒らす胞子をまき散らすことになる。少女のたった一つの冴えたやり方とは・・・?というお話です。

●『輪るピングドラム』はお兄ちゃん二人で、妹がいる家庭のお話ですが、妹が病気で死にそうという設定です。ある時水族館に行きたいといって連れて行ってもらって元気に過ごしますが、突然苦しんで死んでしまいます。なのにお土産屋のペンギンの帽子をかぶっていたら突然生き返るのです。不可思議な能力も持って。なぜ死ななければならないのかなど、テーマは運命だったりします。絵がキラキラとかわいいので読みやすいです。

●宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』は、きこりの息子として生まれた主人公が冷害での飢饉に見舞われます。その後学問の道に入り、イーハートブ火山局の技師となります。その後また深刻な冷害に見舞われます。
そのとき主人公は火山を人口噴火させるとその温室効果により、飢饉を回避できると発見します。しかしどうしても一人が犠牲にならざるを得ない。主人公は自分が犠牲になることを選ぶのです。
◎『アトム』も地球のために太陽に突撃しましたよね。
◎浦澤直樹の『PLUTO』(アトムのオマージュ的作品)はラストにその場面がなかったので泣いて喜びました。
◎『グスコーブドリの伝記』は銀河鉄道のモチーフとなった作品ですよね。仲良くなった友だちは死んでしまっています。取り戻せないもの切なさがあります。
◎『宮沢賢治の真実』は数々の名作に潜む人生の慟哭を著しています。同性への愛情や妹を死の渕まで追い込んだ事件、その悩みと苦悩を作品に変えていた日々。賢治観が変わります。

●『マスターキートン』はバイブル的本です。考古学への興味をかきたてます。この本の原作者は最初だけ世界観とキャラを作っただけで、その後は、浦沢直輝と編集者が頭をつき合わせてストーリーを作ったということですが、キャラと世界観を作ったことが大きい。結局この作品は自分のものであるとバトルになり、長い間出版されませんでした。この論調に賛同したのが『美味しんぼ』の原作者です。むずかしいですね。
◎『モンスター』はとても怖いです。ドイツ、チェコを舞台としたサスペンスマンガです。猟奇殺人や医療倫理その他様々なテーマが描かれています。舞台はベルリンの壁崩壊の以前と以後を描いています。一人の少年が病院に運び込まれて手術で助かるのですが、実はその少年は・・。怖いです。

◎『PRUTO』は『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」のエピソードを語りなおしたものです。手塚治虫の近日を継ぐ未来につながる作品です。読みましょう。
◎手塚治虫と言えばいろいろありますが、『アドルフに告ぐ』は名作です。ナチスの支配下にあったドイツと戦前の日本を舞台にアドルフのファーストネームを持つ3人の男の人生が巨大な歴史の流れに翻弄されていきます。「ヒトラーがユダヤ人の血を引く」という機密文書から始まり、戦後、イスラエル建設など歴史的事件の中で物語は展開していきます。
大作であり、名作です。

●恋愛小説だと『センセイの鞄』がいいです。川上弘美は人間の心の機微を描くのがうまいですよね。人間の一生の中で恋愛はどれだけの位置を占めるのかなと思います。38歳女子と70歳くらいの先生。ヤバイですよね。やはり死は二人を分かつというか、切ないです。
◎川上美映子の『すべて真夜中の恋人たち』は、校閲ガールが主人公で家にこもりきり、外にも出ず仕事をして早や30歳。これではいけないとカルチャースクールに行って、そこで学校の先生という男子に出会って、少しずつ関係を築いていきます。好きとはこんな感じかなと思います。
◎島本理生の『ナラタージュ』はワケがわかりません。かつて恋い焦がれた先生と再会して心が動きます。先生もそうです。でも先生は妻帯者です。いろいろ関わりが出来る中で最後に妻の元に戻ると決めた先生が初めて主人公に手を出します。別れを決めてからです。やめておけよって思います。
◎高橋留美子の『めぞん一刻』は、古いマンガですが、今でも今の感覚で楽しく読めます。
◎恭子さんが素敵です。気が付かないところがすごいです。
◎五大くんはほんとうにヘタレです。でも一途に一人の人を思い続ける純情さは共感を覚えます。
◎それぞれのキャラが立っていて面白いです。最後の恭子さんの「ずっと前から好きだった」には痺れました。

あっというまに時間が来てしまいました。
次回は8月1日時間が少し早くて4時始まりになりました。試験も終わって帰省がまだの方、ちょっと寄ってみませんか。よろしくね。