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2019.08.19

7月・8月のブックカフェレポート

ニュース

2019年7月11日(木)OICブックカフェ

1日中雨の続いた日の夕方、OICブックカフェが開催されました。
本日の参加者は、総合心理学部2回生の方がお二人、政策科学部1回生の方、2回生の方が参加してくれました。本のドラマ化や映画化された作品まで広くに渡ってお話が盛り上がりました。

こんな本が話題になりました

●重松清さんの『その日をまえに』を買いました。死の話なのですが、ある男が小学校の頃に好きじゃない人、どちらかと言えば嫌いな人が重い病気にかかって、喜ぶでもないし悲しむのも違う、と考えるところが印象に残りました。人の死に対することの難しさを感じました。死に際してその人にどう接したらいいのか悩んで手に取った本です。

●松岡圭祐の『黄砂籠城』を読みました。義和団事件を書いた小説で、人物はほぼ実在の人が出てきます。北京で外国人排訴を叫ぶ勢力が大きくなる中で、外国人公使館の周りを占拠し、列強11か国が籠城する事態になっています。その中で日本人としてどう考えるのか、人としてこの小説の登場人物のように生きてみたいと思いました。

●万城目学の『悟浄出立』を読み始めています。中国故事を題材にしたもので、悟浄というのは『西遊記』の脇役である沙悟浄のことで、孫悟空や猪八戒、三蔵法師との会話で悟りを開くまでを描いているそうです。まだ最初のところで、クセのある文体や『鴨川ホルモー』で語られているような万城目の「あの世界」がまだ出て来てませんが、これからでてくるだろうと楽しみにしています。

●乙女の本棚シリーズという古典の文章と素敵な絵がセットになったシリーズがあるのですが、その中の『蜜柑』がいいです。電車の中の描写のオレンジっぽい光の加減がとても素敵です。絵を楽しみながら読む文豪の小説もいいものです。

●古市憲寿さんの『絶望の国の幸福な若者たち』を読みました。若者をひとくくりにして語るのはむずかしいと思います。あまりにもいろいろな人がいて。若者が読むと面白いかもしれないけれど、年齢が上の人が読むとひねくれていると思うかもです。

●まだ予約受付中ですが、西尾維新さんの記念すべき100冊目の本『ヴェールドマン仮説』を読むのが楽しみです。これは探偵一家に育った主人公の「僕」が、事件に巻き込まれて謎を解いていく物語です。果たして主人公は何者なのかという謎解きもありそうです。

●つい先日、本屋大賞のノンフィクション大賞の1次投票に参加しました。最近話題の『吃音』という本で、著者も吃音に悩んで就職をあきらめて旅に出て、文章を書く道を選んだそうです。本当に伝えたかった魂の叫びがそこにあるので、皆さんもよかったらぞどうぞ。

●太宰治です。明るいのは『走れメロス』を頂点にいろいろありますが、ほとんどは暗い小説ばかりです、というか暗くするのが得意のような感じがします。絶望を書くのがうまいですね。
◎文学者は選ばれた世界の人で、そこには一般大衆の感じ得ない苦悩などがあるべきという思想に基づいているような気がします。意識しなくても選民意識はあったのでは?実家は大農家のお金持ちで、本人は東大に入るだけの秀才。人が持ちえないものを持っているのに、挫折や屈託の中に作品を生み出す演出をしていたような・・・。
◎この頃の文豪は死にますね、川端にしても芥川にしても・・。もちろん太宰も。
◎それぞれ何かしらの理由はあったかと思いますが、太宰は先ほどの論調でいえば、本当は死にたくはないけれど死に近づいている自分に酔っていたような気がしますので、これは太宰の最後の女になりたかった山崎富栄に引きずられたのでは?
◎いろいろ説はあると思いますが、今度、小栗旬が太宰治を演じる映画があります。二階堂ふみが山崎富栄を演じるそうです。合っているなぁと思います。
◎とにかく『人間失格』、とても根暗な小説です。太宰の極致ですね。
◎明るい時代もありましたよね。最初の結婚をした時期の小説は綺麗ですがすがしいです。
『富嶽百景』とか、あと特に私は『女生徒』が好きです。女子言葉で女生徒の日常をみずみずしく描いています。これだけ女の子の気持ちがわかるのはすごいなぁって思います。

●気持ちがわかるといえば、『千恵子抄』の高村光太郎の書く文章は、すてきだと思います。「そんなにもあなたはレモンを待つてゐた/かなしく白くあかるい死の床で/私の手からとつた一つのレモンを/あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ/トパアズいろの香気が立つ/その数滴の天のものなるレモンの汁は/ぱつとあなたの意識を正常に ...」というやつです。
◎私は千恵子が精神を病んで病気になったのは、光太郎にも原因があると思っています。光太郎は、詩人であり歌人であり、日本を代表する彫刻家であり、画家でもあります。それほどの才能ある芸術家ですが、千恵子だってそれに負けないほどの才能を持っていました。狂った後の貼り絵の作品を見ても明らかです。一家に天才は二人いらないというか、二人はそびえたって存在できない、と思います。どうしても男性が主になります。
◎でも高村光太郎の『道程』はいいですよね。高校かな?読んで衝撃を受けました。
「僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る/ああ、自然よ/父よ/僕を一人立ちにさせた広大な父よ/僕から目を離さないで守る事をせよ/常に父の氣魄を僕に充たせよ/この遠い道程のため/この遠い道程のため」

●この間、NHKのヒストリアで菅原孝標を特集していたのですが、その次女が書いたのが『更級日記』です。読むとただの本好きの女の子だなぁと思います。紫式部の『源氏物語』にも言及していて、紫式部に憧れて何かをもらったとか喜んでいます。

●一大宮廷ロマンの『源氏物語』ですが、この中に出てくる女性たちの中で誰が幸せだったと思いますか。紫の上は源氏に一番愛されていましたが、子どもが出来ずに、最後は女三宮に正妻の座を奪われてしまいます。明石の君は女の子を生んでそれが天皇の妻になり、中産階級の娘としては栄華を極めますが、その実生んだ子どもは紫の上の元で育てられて愛情を注げません。
◎そういえばそうですね。桐壷× 藤壺× 葵上× 六条御息所× 夕顔× ・・・ダメですね。幸せな人が思い浮かびません、強いて言えば「花散る里」ですかね。平均的愛情と平均的生活を手に入れて、穏やかな人柄で穏やかな暮らしを手に入れた方だと思います。
◎源氏物語は、谷崎にしても円地にしても難しくて読みこなせません。私は大和和紀の『あさきゆめみし』と田辺聖子の『新源氏物語』で源氏物語を把握しました。

●高校の時に、夏目漱石にはまった時期がありました。この時一瞬、彼女がいて、すぐ振られましたが、『こころ』の中で「恋は罪ですよ」という先生のセリフがあって、僕は罪を犯しているのかと闇にはまりました。精神的に病んでしまいしばらく落ち込んでいたのですが、明るい本『夜は短し歩けよ乙女』に出会って蘇りました。これだ!!と思って生きがいを見つけた気分で元気になりました。
◎『神様のカルテ』がきっかけで、漱石の『草枕』が好きになりました。夏川草介さんがあとがきを書く『草枕』の文庫が出る、ということでこれは買うしかないと思いました。
「山路をのぼりながら考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。」そのとおりですよね。
◎漱石でいえば私はけっこう『それから』が好きです。30男が主人公です。父と兄に家計を出してもらって、書生を雇って暮らすような悠々自適な高等遊民の生活をしている主人公が、友人に紹介して嫁になった女を好きになって、友人から奪って一緒に暮らそうとします。父や兄からはそしられ勘当になり、生活費は無くなってしまいます。それでも愛を通そうとします。ここで物語は終わります。本当に二人の「それから」はどうなるのでしょう。お金も仕事もない。あるのは愛情だけ。二人のそれからを心配して終わるのです。

●有川浩の『レインツリーの国』が好きです。人生を変えた一冊です。
◎そうですね。最初は単なるボーイ・ミーツ・ガールの小説かと思ったらこんな重いテーマがあったなんて。びっくりしました。人生を深淵を描いていますね。
◎有川浩だと『阪急電車』はみんなに読んでほしいですね。阪急電車を舞台に電車に乗り降りする人の人生の機微が切なく、時にはおもしろく描かれています。共感できます。
◎やはり『図書館戦争』がいちばんです。カミツレ(カモミール)の話が好きです。命を賭して本を守る図書隊のシンボルの花で、笠原が堂上教官にカミツレのアロマオイルを渡します。その時教官が「苦難の中の力」、とカミツレの花言葉を言って受け取ります。
◎『図書館戦争』を読むとレイ・ブラッドベリの『華氏451度』を思い出します。これはSFなのですが、政府により本の統制が行われている社会で「知ること」「考えること」が制限されています。焚書といって、政府が許さない本を所有している者から本を奪い取って焼いてしまいます。主人公は燃え上がる火を綺麗だなと感じていました。でも自分が行っていることの意味など考えてはいませんでした。でもある日、活字との出会いを果たします。その文字の羅列に意味があるものだと知り、変わっていくのです。
◎ディストピアものはたくさん名作がありますが、伊藤計劃の『ハーモニー』もその一つです。人々はすべて健康で、憂いのない社会で生きています。これがいちばんいい世界です、と提供された社会で、人々は従い、また疑念を持ち生きていくのです。
◎有川浩でいちばんいいのは、『空飛ぶ広報室』です。航空自衛隊の広報室の人々と、そこに出入りをするテレビ局のディレクターのお話です。ドラマも良かったです。
◎綾野剛のはっきりしない感じがとてもよかったです。
◎東日本大震災の災害のことも最後にきちんと描かれていましたね。

●この夏にぜひ読みたい本を発表して終わりましょう!!

●森見登美彦の『熱帯』です。せっかく借りたのでちゃんと読んで返したいです。
◎けっこう不思議な海洋冒険譚です。「熱帯」という本に魅了された人々の謎を追いかけていくお話です。『千夜一夜物語』が根底にあります。

●僕は野球好きです。もちろん名古屋出身なので、プロ野球は中日ファンです。でも重松清さんの『赤ヘル1975』は1975年に広島東洋カープが優勝した時のお話です。広島に原爆が落ちて30年、広島市民に愛される広島カープの歴史と繋がりを持ちながら、東京から来た少年マナブたち中学生男子の友情がからまって物語が進みます。よそ者視線でヒロシマや広島カープが描かれているのがよかった。
◎1985年は阪神の優勝の年でしたね。

●僕は山崎豊子に酔いたいです。『白い巨塔』とか『二つの祖国』。『白い巨塔』は岡田くんでドラマやっていましたが、誰に聞いても唐沢版がよかったって言います。
◎名作と言われた田宮二郎版は古すぎて誰も知らないですものね。最初は裁判に勝つところまででしたが、山崎がこれではいけないと続編を書いたそうです。続編がなければ財前も死ななかったし、裁判に負けることもなかったかもですね。でもそれでよりドラマチックになりました。
◎『二つの祖国』は真珠湾攻撃から東京裁判までの時代、日米間の戦争に翻弄された日系アメリカ人二世の姿を描いたものです。300人もの実在の人々へ面接調査と膨大な資料調査に基づいて書かれたこれまで知られていなかった史実が描かれた小説として評判になった本です。日系人のアイデンティティを問うています。

●私は、ビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』を読了しようと考えています。途中まで読んだのですが、もう知っている話は全部出てきているのにあと4巻あるんです。あとに何があるの?
◎最初、ジャン・バルジャンがパンを盗んで捕まりますよね。刑期を終えた後神父さんのものを盗んだけど、神父が警察に「それはその方に差し上げたものです」と言うのを聞いて改心しますよね。そのあとファンテーヌの娘コゼットを助けて、彼自身はマドレーヌと名前を変えて人権派の市長になりますよね。
◎その辺も読みました。それ以降何が4巻もあるのでしょうか。
◎ジャベールという警察官に執拗に追いかけられるとか、コゼットの恋と結婚とかしか思い浮かびません。
◎そうなんです。この夏『レ・ミゼラブル』を読み進めることで、『レ・ミゼラブル』の実際の姿に触れることが出来るかもしれません。

あっという間に2時間が過ぎました。次回は10月17日(木)になりました。しばしのお別れです。再会を誓って終わりました。

2019年7月30日(火)衣笠ブックカフェ

前期試験も終わりに近づいた日の夕方、衣笠ブックカフェが開催されました。
今日の参加者は、産業社会学部1回生の方お二人、4回生の方、文学部1回生の方、2回生の方、4回生の方、5回生の方、法学部5回生の方で、合計8名が駆けつけてくれました。

こんな本が話題になりました

●有川浩が好きです。『図書課戦争』がいちばん好きです。
◎有川は読みやすいのは『阪急電車』です。沿線で電車を乗り降りする人のお話がつづられています。それぞれ別個のお話ですが、どこかつながっています。

●あまり野球は得意ではないのですが、『二軍監督の仕事』という本を読みました。著書はヤクルトやメジャーリーグで活躍した人なのですが、選手の育成や指導法について書かれた本です。考え方の柔軟性や、人を育てるとはこういうことかと思います。
◎野球小説はいろいろありますが、池井戸潤の『ルーズヴェルトゲーム』は面白いです。
リーマンショックの影響で不景気で世の中が暗かった空気を吹き飛ばそうと書いた小説らしいです。企業間の代理戦争である社会人野球にスポットをあてたところが良いです。
◎有名なのはあさのあつこの『バッテリー』ですよね。天才肌の男の子のプライドが良いなと思います。でも試合しない野球小説なんですよね。

●中山可穂の『感情教育』を読みました。
◎フローベルの?二月革命前後のパリを舞台に大学生の青春を描いた・・・ではなくて?
◎中山可穂の『感情教育』はレズビアンの話です。本人の経験上からのお話みたいで、魂が震えるような同性間の純愛が描かれています。

●伊坂幸太郎をよく読むのですが、なかでも『砂漠』が好きです。これを読むとマージャンをしたくなります。キャラがよくて、話のテンポもよくていいなと思います。
◎「砂漠にだって雪を降らしてみせる」とか「学生時代を思い出して懐かしがるのはいいけれどあの頃に戻りたいと思ってはいけない」とか心に残る名言もたくさんありです。
◎『終末のフール』がいいなと思います。6年後に隕石が落ちてきて地球の滅亡が決まっている世界を描いています。最初の暴動が起こって少し落ち着いた時期の物語です。たんたんと日常を繰り返す人もいれば暴れる人もいるし、これまでできなかったことを達成しようとする人など様々な人が出てきます。
◎前にこの本のことを「読み終わるのが惜しくなった本」と言っていた人がいます。そんな本と出会えるのは幸せですよね。
◎『モダンタイムス』はあるシステムエンジニアが請け負った仕事は出会い系サイトの仕様変更だった。そのプログラムは不明な点が多く、更にはプロゼクトメンバーが次々と不幸に見舞われてしまう。というお話です。わくわくします。

●湊かなえの『絶唱』は「死」に打ちのめされ自分を見失いかけていた彼女たちが、秘密を抱えたまま太平洋に浮かぶ島にたどり着く話です。それぞれの希望の形とは何なのか。半身大震災に関連した彼女たちの話はちょっとつらいですが、作者自身の体験も交えて書かれていました。

●村上春樹の『The Catcher in the Rye』を読みました。学校を放校になってやるせない毎日を送る主人公は、家を出ていろいろな人に会ったりしますが、何もうまくいきません。一度家に帰った時に妹に言ったのが「自分がなりたいのは、ライ麦畑で遊んでいる子どもたちが、崖から落ちそうになったときに捕まえてあげる、ライ麦畑のキャッチャーのようなものだ」。主人公は社会や大人の欺瞞や建前を容認できず、その対極として、子供たちといった純粋で無垢な存在を愛し、でもその結果社会や他者と折り合いがつけられず、孤独を深めていく心理が一人称の語りで描かれていて、打ちのめされそうになります。
◎新海誠監督も春樹の影響を受けているようで「君の名は。」は夢を通して時間と空間を越えて、村の外にいる人と意識が入れ替わりますが、村上春樹も現実と非現実が接して存在していて、何かをきっかけに自由に行き来するなど他者の中に自分を見出したり、自分の中に他者を見出したりというそんな世界観があります。残酷な現実を非現実とのはざまで昇華させることで、傷ついたいた人々に力を与える。そんなイメージがあります。
◎地下鉄サリンの被害者にインタビューをした『アンダーグラウンド』や阪神淡路大震の1か月後を描いた連作短編集『神の子ともたちはみな踊る』がありますが、阪神淡路はあまりにも身近すぎてノンフィクションでは書けなかったそうです。

●夏川草介さんが好きです。『神様のカルテ』のいちばん新しいやつを読んでいます。やはり本当のお医者様の書く医療小説だなと思います。命と死を身近に感じます。

●中学生の時に一番読んだのは、はやみねかおるさんの本です。『都会(まち)のトム・ソーヤー』とか。究極のゲームを作るために冒険をするというお話です。
◎実写映画化が発表されましたね。

●朝井リョウさんの『世界地図の下書き』を読みました。施設で暮らす子供たちが出てきます。季節のいろいろな出来事、そして迎える大切な人との別れ、その時4人の小学生が計画したある「作戦」とは?という物語です。

●早川書房から出ている『アステリズムに花束を』がおススメです。SFマガジンの百合特集がとても評判良くて作られたアンソロジーです。その中の「月と怪物」はソ連が舞台の百合&SF小説です。1944年の第二次世界大戦末期の時代。ある姉妹が宇宙開発のための専用施設で育てられるところから物語は始まり、ハードなSFもありで国家が個人を追いこんでいくさまが恐ろしく描かれています。おススメです!
◎『オクターヴ』は売れなかったアイドルが、孤独な日々の中で元ミュージシャンという女性と出会い、好意を抱き、肌に触れ、ひそかな関係が始まる・・・という物語です。バイセクシャルの百合が出てきます。一人の女性が女性と男性の間で揺れていきます。セクシャルマイノリティが受け入れられない様子も描かれています。
◎歴史的な作品だと吉屋さんの『花物語』とかが始まりでしょうか。一種の女性の通貨儀礼というか、これはとても美しく描かれていますが。
◎『やがて君になる』は誰かを特別に思う気持ちがわからない女の子と、自分自身のことが嫌いで他人を受け入れられない女の子を軸とした百合小説です。今、百合はブームですね。

●村田沙耶香さんの『地球星人』は、地球では若い女は恋愛をしてセックスをするべきで、恋ができない人間は恋に近い行為をやらされるシステムになっている。地球星人が繁殖するためにこの仕組みを作りあげたのだろう-という村田さんらしい変わった世界観の物語です。最後がすごいです。

●柳広司さんの『ジョーカーゲーム』もすごいです。昭和12年にスパイ養成学校「D機関」が設立されたということで、様々な国や人物が暗躍する中、物語は進んでいきます。
◎結城中佐がとてもカッコイイ!!あの時代に自分の意志を通すことや、生き延びることを現実にやってのけるさまに感動しました。

●『ワイヤード』では現実世界とデジタル世界を一対一で対応させる取り組みが試みられています。何も書かれていない白い本を開くと文字が浮き出てくるような感じです。物理的なものと概念的なものをイコールと捉えています。

●横溝正史を読んでいます。『犬神家の一族』『獄門島』『八つ墓村』『悪魔の手毬歌』などなど。金田一耕介のキャラ付が面白いです。高学歴なのに働かない、高等遊民ですよね。
◎『こころ』の先生や『それから』の主人公も高等遊民ですよね。漱石は家族を養うために自由がなかったので、高等遊民が憧れだったのでしょうか。
◎金田一耕介が登場する小説は77もあるとのことですが、田舎の因習や血縁の因縁を描いたおどろおどろ的な作品が評判を呼んでいますよね。怪奇色が強いけれど、その実、論理とトリックを重んじた本格推理小説です。
◎『迷路荘の惨劇』という作品がありますが、けっこう横溝作品の中で良いと評判らしいです。いろいろな仕掛けがされた迷路荘を舞台に殺人事件に巻き込まれた金田一耕介は、20年前に起きた血の因習の惨劇事件を知り、そこから謎解きをしていくというものです。

●よく聞くのですが、「世界系」ってなんでしょう?
◎諸説はありますが、ある個人の力は世界を変えられると信じている設定のことだと思います。晴れ女の出てくる『天気の子』も大きく括ればその系統かと。
◎『最終兵器彼女』なんかもその系統ですか(そうですね!の声あり)。

●少年テロリストの話を読みました。平凡な毎日を送っている少年は、コンプレックスを抱えて何とかしたいと思っていました。ある時ある政治家の講演会のサクラのバイトをします。そこから少年の生活は変わり、今の日本の現像を変えようとします。ある記者が少年の真実を追い、追い詰めていくお話です。

●大江健三郎の『個人的な体験』を読みました。大江健三郎の長男が脳ヘルニアのある障害者で、出生後数週間の間に激しい葛藤をし、逃避、医者を介しての間接的殺害の決意、そして受容に至るまでの経過を書いた作品です。大江健三郎は現在の作家たちに多くの影響を与えた作家で、村上春樹に大きな影響を与えているし、伊坂幸太郎の『重力ピエロ』は大江の『性的人間』の影響を受けています。大江のブームは来ていると言えます。

●若者に支持されている小説は『夜は短し歩けよ乙女』ですが、これは京都という街を最大限に楽しめる小説だと思います。

●春樹の『海辺のカフカ』はギリシア悲劇と日本の古典を下敷きにした長編小説で、15歳の少年が不思議な世界を行き来する中で成長を遂げていくお話です。

●中学の頃、西村寿行を読んでびっくりしました。暴力と凌辱、バイオレンスの世界です。
今はもうあまりどこでも買えませんが、『蘭菊の狐』は代々狐付きの家とみなされ村八分にされていた家の息子が、母親も父親も追い込まれて死んだことで怒りと復讐に燃え、たった一人で闘いに挑みます。そんな彼の前に奇妙な中年男が3人現れ・・・と物語が進んでいきます。恐ろしいほど熱のある本です。

今回は、本以外の話題も多くあり情熱的なひと時でした。次回は10月1日10月29日に行うことが決まりました。10月1日は9月開催分に代わる日程設定です。
みなさん、誰でも参加できます。いつでも!いらしてくださいね。

2019年8月1日(木)BKCブックカフェ

蒸し暑い日の夕方、BKCブックカフェが開催されました。今日の参加者は、経済5回生の方、理工5回生の方、情報理工院生の方が駆けつけてくれました。白熱した本の語り合いの他、リンクショップでのフェア企画「ラブロマンス」の選書をしました。

こんな本が話題になりました

●『カラマーゾフの兄弟』読みました。あまりワケがわかりません。兄弟がいて地主の親がいて、ごたごたしています。
◎兄弟がいて、弟は牧師で兄はインテリで、でもおやじの愛人と付き合いたいとかいろいろあって、事件が起きて、裁判が始まります。この小説は続編をやるはずだったのに未完で終わってしまっています。父親殺しの嫌疑をかけられるのが中心のストーリーですが、いろいろなサイドストーリーが盛り込まれていて、なかなか受け止めきれません。
◎ドストエフスキーの小説の中では『罪と罰』の方が読みやすいですよね。ラスコーリニコフの逡巡や悩み、「選ばれた人間は、新たな世の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持つ」と至る思考の流れなどにもなんとかついていけます。検事に追い込まれていく様やソーニャの可憐さの中に救いがあったり、おもしろいです。
◎作家は女が書けたら一人前と言いますものね。
◎山城むつみさんの『ドストエフスキー』の評論集があるのですが、その作家を知ろうと思ったら日記を読まないといけない、そうしないと物語は読み解けない、と言っています。
◎『やさしい女』は金にあかせて若い女を娶った男がその妻に自殺され、安置された妻の遺体を前に苦渋にみちた結婚生活を回想する小説です。主人公の独白形式ですが、人間の心の深淵を描き出そうとしています。でも妻の自殺の動機がもう一つわかりません。
◎『東京大学で世界文学を学ぶ』で著者が小林秀雄の言葉を紹介しています。
「若い人々から、何を読んだらいいかと訊かれると、僕はいつもトルストイを読みたまえと答える。だまされたと思って『戦争と平和』を読みたまえ。だが実行してくれた人はいない。途方もなく偉い一人の人間の体験の全体性、恒常性というものにまず触れて充分に驚くことが大事である。」
◎ロシア文学は長編で読み切るのに体力がいりますよね。
◎やたら説教くさい。そして思想書っぽい感じがします。『貧しき人々』なんて刊行したとたん政治犯呼ばわりされています。初老の小役人と少女の往復書簡で、お互いの身の回りの出来事やその心境を語っているだけですが。

●漱石は『こころ』が好きなのですが、思い出そうとすると記憶が薄らいでいきます。先生が高等遊民というか、世間と区切りのある存在なのが気になります。
◎先生の遺書があれだけ長くなったのは、当時新聞小説で『こころ』を連載していて、次の連載の作家が書けずに連載が伸びたせいだそうですよ。その悪い作家は谷崎潤一郎だそうです。

●『ロリータ』で有名なナボコフの『絶望』ですが、これはクリスティの『アクロイド殺し』的印象の作品です。ベルリンのあるビジネスマンが、自分にそっくりの男を見つけて保険金殺人を行おうとします。完全犯罪を狙った主人公が自らの行動を小説にまとめる、という形で書かれています。本人は自分がやり手だと自負してるのですが、けっこう馬鹿で、失敗をします。でもそれに気が付かずに破滅するという物語です。

●宮沢賢治で好きな本は『注文の多い料理店』です。賢治の生前に出版された唯一の本です。でも自費出版同然だったそうです。この話は森に狩猟にやってきた二人のブルジョワ青年が山の中で迷い、帰り道を見つけることが出来ない。そこに「西洋料理店 山猫軒」と書かれたレストランを見つけて、二人は安堵して入って行くところから始まります。数々の注文に彼らは答えていきますが、最後に恐ろしいことに気が付きます。この恐ろしさは何度読んでも変わらないところがすごいですね。
◎『春と修羅』は『注文の多い料理店』と同年に刊行された詩集です。「心象の はいいろはがね(灰色鋼)から」で始まるのですが「おれはひとりの修羅なのだ」という箇所に象徴されて、内面と外面、光と影の対比というような書き方をしています。

●『憲法学の病』は、著者が国際法の専門家です。憲法を語る時に人々が無視している部分に言及しています。そもそも憲法というのは曖昧さが良いのであって、自衛隊の有無を書きこむのはふさわしくない。明記しなくても自衛隊の存在は憲法では否定していないのであって改憲の必要はない、としています。特に憲法より国際法が重要視されるべきであって、なぜ国際法より自国の憲法を優先するのかと言っています。集団的自衛権は認められているし、そして「九条は始めから自衛隊を否定していません」と言っています。作家でも大江健三郎や井上靖は憲法を守ろうとする側ですね。反戦の思想を持っていると思います。

●『ネット右翼とは何か』ですが、ネット右翼というものがあるという前に、もっとデータで出してもらえたらと思います。こうだという結論が先にありきのような気がします。それよりもネット炎上を経済学で解いた『ネット炎上の研究』の方が「読みで」があります。ネット炎上に経済効果はあるのか、市場に影響はあるのかが書かれています。確かにネットで話題になると知名度が上がるという効果はありますよね。

●司馬遼太郎ですが、『21世紀に生きる君たちへ』はすごいです。「歴史とは、大きな世界で、かつて存在した何億という人生がそこに詰められている世界なのです」と語っています。
歴史の楽しさ、素晴らしさを語りながら、自分では手の届かない21世紀というもの、未来を担う若い人たちへ呼びかける。人は社会を作って生きている。社会とは支え合う仕組みということ、優しさの気持ちを持って助け合うということ。などなど小学生に向かって語っているんですよね。

◎『国盗り物語』は面白いです。油屋商人から身を起こした斎藤道三が美濃一国の城主となり、その志が娘婿の織田信長につながっていく。駆け上るような躍動感があります。
◎『項羽と劉邦』の武人である楚の劉邦と、戦下手だけれどその人柄によって周囲を賢人に恵まれて最後は天下を手にした漢の劉邦。始皇帝の死から項羽の死まで数多の群像の興亡を描いた歴史小説です。中国政治において英雄とは食を保証できるもののことをいうそうです。

●中村文則の『教団X』を読みました。何をやりたくて600ページも費やして小説を書いたのはよくわかりません。破滅する世界を書きたかったのでしょうか。

●村上龍の『希望の国のエクソダス』は中学生の革命を描いた小説です。経済が停滞し、閉塞感が漂った現代の日本。そんな現代社会に絶望した約80万人の中学生たちは、学校を捨て、ネットワークを結成し、ビジネスを始め、北海道に広大な土地を購入し、30万人規模で集団移住を敢行。都市と経済圏を形成し、日本からの実質的独立を果たすという壮大な物語です。

●『半島を出でよ』は、9人の北朝鮮の武装コマンドが開幕ゲーム中の福岡ドームを占拠し、さらに約500名の特殊部隊が来襲し、市中心部は制圧されます。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗ったのです。そういった危機が実際起こりうるかも、と思わせる設定でびっくりします。日本政府の要人から北朝鮮特殊部隊員まで、多彩な人物の視点で進行していくのが面白いです。

●『変身』で有名なカフカ。そして「不条理」といえばカフカ、カミュ、安倍公房の三者といわれていますが、筒井康隆によると福田恆存の『堅塁奪取』がいちばんの不条理小説だと言っています。ある日、ある作家のところに「俺の原稿を見てくれ」という作家志望の男がやってきます。いつのまにか家に入り込んだ彼は「なぜ見ないのか」と詰め寄ります。作家はひたすら拒みます。その問答がとてつもなくすごくて、最後にはどっちが狂気でどっちが正常なのかわからなくなってしまうという作品だそうです。

●『文学部唯野教授』は主人公の文学部教授が学内のいざこざに巻き込まれる様子と、文学理論の講義の内容で構成されています。大学のリアルな日常も不条理と言えば不条理と言ってしまえそうですね。

◎筒井康隆の『七瀬三部作』はとてもおもしろいです。第1作の『家族百景』はテレパスであることを隠すために住み込みのお手伝いさんをやって暮らしている七瀬が、いろいろな家族と出会いますが、その家族たちの頭の中や感情の表現が面白いです。特に第3作の『エディプスの恋人』はボールがうなるように飛んでいくさまなどを文字と図形で表す面白い表現ばかりです。でも一番心に響くのは、追い詰められていく超能力者たちを描いた『七瀬ふたたび』です。最初の電車事故の衝撃と最後の森の中の静けさが印象に残っています。
◎『虚人たち』は小説の「虚構性」、表現手法に対する疑問について極限まで突き詰めています。そのあげく、さまざまな実験的手法を注ぎ込み、不気味な雰囲気を持った小説世界を構築したという怪作です。
◎荒唐無稽の極致なのは、『富豪刑事』です。金持ちのぼんぼんが金に飽かせていろいろな仕掛けを行い、悪党を逮捕するという痛快エンターティメント小説です。

●買い物依存症の作者・中村うさぎと佐藤優が出した『死を語る』は、原因不明の心肺停止で臨死体験を体験した中村うさぎと、「鈴木宗男事件」で社会的に葬り去られそうになった佐藤優が本気で「生と死」を語りあう対談集です。
◎中島らもさんも、作品がというよりその人格が破滅的な死と接しているような感じですよね。『明るい悩み相談室』は笑えました。
◎死と言えば伊集院静がやっている雑誌の人生相談の中で、死について相談した人に対して「人間は事故や病気では死なない。寿命だから死ぬんだ」と言い切っていました。

●『選べなかった命』は、出生前診断で大丈夫と言われたわが子が生まれてみると障害児だった、という体験が描かれています。出生前診断で子どもを堕ろすというのは法的に許されていないけれど、「母体保護法」を拡大解釈して実施されています。グレーゾーンの内容です。子どもは脳に障害があり、合併症も起き、生後数日しか生きられませんでした。このことで病院の罪は問えなくて、民事での裁判をしています。
◎マルサスの『人口論』は、人口は制限されなければ幾何級数的に増加するが、生活資源は算術級数的にしか増加しないので、生活資源は必ず不足すると結論づけています。この考え方は優性思想につながり、弱い立場の人々が淘汰されてきた歴史があります。ドイツでいうと「灰色のバスがやってきた」で語られるユダヤ人ではなく、自国民を選抜していた歴史があります。

●最近アスペルガー症候群のことなど話題にのぼりますが、これは自閉症の一種ですよね。
弱いところはたくさんあっても優れた部分があるとか聞きますが、人との関係の持ち方やコミュニケーション能力が取り沙汰されています。
◎どこか別世界の人の話ではなく私たちの周りにいるってことを自覚したほうがいいかも、ですね。『自閉症の僕が跳びはねる理由』は人との会話ができない中学生が自分の心を著した本です。「自分の気持ちを伝えられるということは、自分が人として世界に存在していると自覚できること」「自分がなんのために生まれてきたのか話せない僕はずっと考えていました」時間軸も視覚情報も身体感覚もまったく違うというのが分かりました。

●『ハローサマーグッドバイ』は少年のひと夏を描いたSF恋愛小説です。夏に読むのにふさわしいと思います。ぜひどうぞ。ジャケ買いというか表紙も涼しい感じで、かわいいのがいいですね。

そして最後にリンクショップで行うフェア「ラブロマンス」の選書をしました。
次回は9月26日(木)開講の日に行います。ブックカフェは誰でも参加できます。みなさん、いらしてくださいね。リンクショップのフェアコーナーでもお待ちしています。