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2020.10.21

2020年夏のブックカフェレポート

ニュース

7月のオンラインブックカフェに続き、秋の開講を待たずにぜひやりたい!ということで、8月の終わりから9月にかけてブックカフェが開催されました。
それぞれ3キャンパスで主催となっていますが、皆さんにお知らせしている&オンラインの良いところで、だんだんキャンパス横断での参加が当たり前のようになってきました。リアル開催では一緒に語ることはなかったかもしれない学部・学年の方々が、本をテーマに今回も話が盛り上がりました。

8月25日(火)OIC&衣笠合同9月15日(火)OIC9月24日(木)BKC9月29日(火)衣笠

2020年8月25日(火)OIC&衣笠リモートブックカフェレポート

明るい夏の夕方、ブックカフェを開催しました。今回は3キャンパスの学生さんにお知らせをして、3キャンパス合同で行おうという企画です。本日の参加者は、政策科学部の2回生の方、総合心理の2回生の方、3回生の方お二人、4回生の方、文学部3回生の方、4回生の方、産業社会学部の2回生の方という内訳で、衣笠とOICの7名の参加となりました。

こんな本が話題になりました

●コロナ騒ぎの中で同じ医療系だなと思って、ようやく積読だった『海と毒薬』に手を付けました。戦争中に人体実験をやった医者の物語で、出てくる医者が自分の意見も何も持たずにただ傍観者として描かれています。非人間的な出来事に遭遇しても、はっきりと反対できずに、周りに同調してしまう人間の様子が書かれていて深いです。

●この間読み始めた『風と共に去りぬ』を読み終わりました。アメリカ南部の農園主の世界が崩壊していく物語です。奴隷制について肯定的ということで物議をかもしていますが。
その後で『ある奴隷少女に起こった出来事』を読んだのでよくよく考えさせられました。
この本は南部アメリカの奴隷制の中で、起こった出来事をありのままに書いた真実の書です。逆境の中を戦い抜く様子は勇気に満ち溢れています。

●『ドリアン・グレイの肖像』はオスカー・ワイルドの唯一の長編小説です。打ち捨てた恋人からもらった自身の肖像画が醜くなっているのを見て驚き、肖像画を屋根裏に隠して20年。奔放な官能生活を送るドリアンに会いに友人が訪ねてくる。「真実の僕を見せる」と言って持ち出した肖像画のドリアンは、不思議と老いないままのドリアンと違って醜く、老いていた。その後肖像画こそ自分の良心と悟ったドリアンは肖像画を破壊しょうとする。悲鳴を聞いて駆け付けた人々が見たのは美青年の肖像画と醜い老人の死に姿だった・・という怖いお話です。

●ビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』を読みました。タイトルはフランス語で「みじめな人々」という意味ですが、その通りに主人公のジャン・バルジャンは姉の子どもたちのために一本のパンを盗んだために結果として19年間牢屋に入れられます。その後神父さまに助けられて改心しますが、罪を犯してまた捕まり脱獄をしますが、市長として転身し、人を助け・・・なのに昔の罪で、警察からは追われるというジャン・バルジャンの生涯を描いた物語です。様々な人と出会い、愛と憎しみが描かれています。

●藤田嗣治の『少女』を読みました。これは子どもを被写体にした作品を年代別に掲載したものです。それに解説がついています。年代別に作風がガラっと変わる面白さがあります。愛らしい世界を味わえます。

●『ズッコケ三人組』は昔子どもの頃、楽しく読んだなぁと記憶のある作品です。地方都市に住む三人の小学6年生がいろいろ活躍する物語です。最近は『ズッコケ中年三人組』も刊行され、このシリ-ズを読んできた今は中年層に受けてシリーズ化が決定したそうです。

●『怪談レストラン』も面白かったですね。ホラーをテーマとしたオムニバス作品です。
幽霊屋敷レストランのオーナーがメインナビゲータとなって話が進んでいきます。

●『虹色ほたる』は30年以上前の1977年にタイムスリップしてしまった少年の不思議な体験を描くファンタジー作品です。ダムが沈んだ村に出向いた主人公は、ふとしたことで村がダムに沈む前の最後の夏に行ってしまう。いとこのお兄ちゃんとして女の子と過ごすうちに、ダムに沈むことへの村人の奮闘など知っていく。別れ際、女の子にきっと現代でも会うと不可能な約束をします。さてどうなるでしょうか。

●住野よるさんの『青くて痛くて脆い』を読みました。すごく重い作品でした。この作家さんはコワイと思いました。大学一年生の主人公は、理想論をかざす女子と出会います。自分が傷つけられたというのは敏感に感じられるのに、人を傷つけたことには実感を持てない。間違った自分、弱かった自分、それを受け入れられる今の自分。主人公の有様に深く動揺してしまいました。

◎住野よるさんと言えば、『きみの膵臓を食べたい』ですよね。僕は読んでワーワー泣いてしまいました。読み返すたびに同じところで泣いてしまいます。

◎『また同じ夢を見ていた』は、自分は賢いと思っていてまわりの人をバカにしている小学生の女の子が主人公です。たった3人しかいない友人との関わりで少しずつ変化が生まれます。「幸せとは何か」それは「自分がここにいていいと認めてもらうこと」と教わります。その後、いじめにあったクラスメイトを助けたためにクラスで無視されます。まったく年の違う関わった友人たちが過去と未来に関わって主人公を助けていたことがわかっていくのです。印象深い作品です。 

●朝井リョウの『何者』は読む時期を間違えたら限りなく落ちてしまう本です。就活中にはゼッタイ読まない方がいいです。

●有川浩でいちばん読んでほしいのは、『キケン』です。はじける大学生活が楽しいです。

◎映像化してほしいです。

◎ラーメンをおいしく撮ってほしいです(学園祭で恐ろしく売れていくんです)

◎最後の最後できちんと泣かせてほしいですね。

●朝井リョウの『死にがいを求めて生きているの』は痛い本です。平成の世の若者たちは、様々な選択肢の中であえいで生きています。ある対立を主眼に、様々な人物の生き方が提示されます。その中で、植物状態で眠る青年と、それを見守る青年の間にある恐ろしい事実が少しつつ分かっていく様が怖いです。

●森見登美彦の『太陽と乙女』を読みました。エッセイなのですが、デビューから17年の作品をすべて詰め込んだボリュームいっぱいの作品です。けっこう京都が出てきますが、けっこうディスる内容になっています。森見氏は「このエッセイはフィクションです」というあとがきで、いかに自分がエッセイが苦手か書いています。でも読ませているのだから実力ありですよね。

◎森見は『夜は短し歩けよ乙女』が長いことロングセラーとなっています。京都大学の冴えない先輩男子学生と無邪気な後輩女子学生の恋物語が、二人の視点で交互に語られる物語です。現実を逸脱した不可思議なエピソードも楽しい作品です。

◎『四畳半タイムマシンブルース』は新しい作品です。真夏の京都でエアコンが使えなくなった。友人がリモコンを水没させてしまったから。対処を考えあぐねているとき、もっさりとした風貌の男子学生が現れて、なんと25年後の未来から来たという。そうだ!昨日壊れる前のリモコンを回収してくれば一件落着。なのに友人達がそれだけに終わらせず、昨日の世界を勝手気ままに改変を始めて、世界の消滅の危機を感じ取った主人公は果たして・・というお話です。

◎『有頂天家族』が面白いです。たぬきが主人公で、父親を狸汁でされた四兄弟が活躍する物語です。父の仇を討つ逆転劇でもあります。四兄弟それぞれ特徴があって楽しめます。

●『鬼人燈抄』は大人の鬼滅と言われているコミックです。江戸時代、まだ怪異が身近で鬼のいた時代。大切な妹に惚れた女を殺された主人公は怒りのあまり鬼となってしまう。そして刀を振るう意味を探しながら、途方もない時間を旅するという物語です。

●私はコミックなら『約束のネバーランド』が好きです。孤児院で育った子供たちが、過酷な運命に抗って生きていく物語です。実は「人間飼育場」であった孤児院から脱出計画を決行しようとします。いろいろ心理戦や攻防などありながら闘い続けます。子どもたちの賢さに圧倒されます。

●僕のいちばん好きなミステリー作家は泡坂妻夫ですが、彼の『生者と死者』はすごい作品です。袋とじのついた作品で、1度目は袋とじを飛ばして読みます。そして次に袋とじを外して読むと全く違う物語になっているという傑作です。

●『どんまい!』は、研修中のヘルパーが成長していく物語です。いじめとかいろいろあるけれどエールを送ってくれる。励ましの作品です。

●最近漢字にこだわっています、もともと字を書くのが好きなのですが、漢字を読んで意味を推測するのが楽しいです。漢字を読む勉強をするメリットは、日本語の創造力がアップすることです。

◎そういえば昔、現代でいうハハは昔はパパだったと習いました。現代の「はひふへほ」は室町あたりでは「ふぁひぃふぅへぇほぅ」で、もっと昔はパピプペポと語られていたそうですよ。

●重松清が好きです。『きみの友だち』がよかったです。短編集ですが、それぞれにつながりがある仕掛けになっています。私は賢くて挫折を知っているブンちゃんが好きです。

◎『ビタミンF』は読んでいて痛いなぁと思う作品です。これも短編集ですが、その中の「セッちゃん」というお話は、いつも家でセッちゃんの悪口を「みんなについてこれないとか」いろいろ言っている娘を叱りつけた父親が、ある日クラスメイトに揶揄されているセッちゃんは自分の娘自身だったと知るところとか本当に痛いです。ところで『ビタミンF』というのはこの世にありません。『日曜日の夕刊』も現実にはありません。面白いですね。

◎いちばん知られているのは『流星ワゴン』ですが、何もかもうまくいかず自暴自棄になっていた主人公がある日5年前事故で死亡した親子が乗っているワゴン車を見つけます。言われるままに車に乗り込んだ主人公は、自分の人生の分岐点に向かうのです。取り戻せないもの、どうしても失いたくないもの、今からでも人生はやり直せるというのがしみじみ伝わる物語です。

◎教科書に載っていた『カレーライス』ですが、あの頃の学校の日々に連れ戻してくれる本です。教室や給食、先生や友だちの声が蘇ってくるような作品です。

◎重松さんはもともと吃音で、これがなかったら自分は作家になっていなかったと言っていました。

●『幽遊白書』は物語としてはすごく面白いけれど、『ハンターハンター』の方は創りこんでいる面白さがあります。物語に登場するゲームの設計が細かくされているとか、すべての作りが細かいです。

●『星の瞳のシルエット』は70年代のコミックですが、なんだか古いマンガっていいなって思います。きらきらした青春を恋愛や受験をテーマに描いています。良いところは悪役がいないので、みんな幸せなことです。大好きです。

●昔『動物のお医者さん』ってありましたよね。主人公が公輝(マサキが本名ですが、)キミテル・ハムテルと呼ばれて面白かったですね。あとシベリアンハスキーが大ブームになりました。このマンガとドラマのおかげで、北海道大学獣医学部の志望数が跳ね上がったそうですよ。

●『アンサングシンンデレラ』は、病院で働く薬剤師さんを描いたコミックです。ドラマ化もされています。実は自分の実家が薬局で、薬剤師さんは身近な存在でした。なので、いろいろな職業のメディア化を見るたびに、薬剤師も取りあげられたらいいのになと思っていました。処方箋が本当に正しいか照会するとか、薬剤師それぞれの考えや行動に焦点が当てられて考えさせられるドラマになっています。

◎お薬手帳の存在とかこれで知りました。

●お仕事小説といえば『図書館戦争』とかもそうですよね。メディアの自由を守るために戦っている図書隊が出てきます。時は近未来なのか現代なのか、パラレルなのか、ある法律が人々を縛っている社会が舞台で、主人公の成長と恋愛も描かれています。

●『ランウェイで笑って』はファッションをテーマにした少年マンガで、デザイナー志望の少年とモデルを目指す女の子が出てきます。夢を追いかけている彼らが眩しいなって思います。発表の前に服を破って作り直すとか激しいシーンが続きますし、ランウェイの裏方もきちんと描かれていて、みんな輝いています。

●辻村深月の『ハケンアニメ』もお仕事小説です。アニメの制作現場が舞台でアニメの仕事の内容や、どんな仕事のポジションがあるのかなど理解することができました。辻村さんの小説は過去に他の作品に出ていたキャラが出てくるところがうれしくて、この作品も『スロウハイツの神様』から2,3人出ていました。

●『てぃ先生』は、実際の男の保育士さんが書いたエッセイがもとになったものです。園児との日常やその言動を書き表し、注目を浴びたものです。園児は可愛い、保育は楽しいということと同時に、保育士の待遇や保育所の体制についても語られていて、保育をトータルで見られる本です。

●究極的に面白いのは『宇宙兄弟』です。二人の主人公がめちゃめちゃ性格がよくて、人のために動いて、めちゃめちゃ泣けます。

●めちゃめちゃ泣けるのは『海猿』です。海難救助を行う海上保安官の活躍を描く作品です。バディの後輩の酸素ボンベが効かなくなって、自分のを後輩にあてがって自分は海の底へ救助に向かうシーンには泣けました。

●『リメイク』は美容部員のお話です。25歳の美容部員は彼氏なしで3年間続き、まわりの友達は結婚。やるせないなかでも不器用なりに頑張っている。女性の美しさは隠れた努力に裏打ちされたもの・・。チャレンジあふれるパワフルな本です。

●『空飛ぶ広報室』はとてもよかったです。本もですが、ドラマに引きずられています。ドラマではムロさんがイイ味だしていました。テレビ局のディレクターの挫折と根性と意地っぱりさが良かったです。

◎この本は2011年に出る予定でしたが、予定が延びて2012年刊行になりました。それは2011年に東日本大震災が起きたからで、この災害を盛り込もうとして延びたんですよ。人を助ける自衛隊の姿が浮き彫りにされました。

あっというまの2時間でした。次回の再開を誓って解散しました。

2020年9月15日(火)リモートOICブックカフェレポート

暑さも少し陰りが見え始めた日の夕方、OICリモートブックカフェが開催されました。
今回の参加者は、総合心理学部3回生の方が3名、経営学部の方が1名、産業社会学部の方が1名、文学部2回生の方が2名で、OICの方が4名、衣笠の方が3名集まってくれました。

こんな本が話題になりました

●夏川草介さんの『神様のカルテ』は私にとってバイブル的存在の本です。これを読んで医者になりたいと思いました。理想の医療の実態が書かれていると思います。医者にとっては365日心休まる日もなく大変ですが、患者にとっては本当の助けとなる存在です。

◎この本を読むと、作者が夏目漱石が大好きというのが伝わりますね。『草枕』を手に携えて散歩に出かけたくなります。

◎実際のお医者さんが書いた本はたくさんありますがどれもがミステリー仕立て。『神様のカルテ』の良いところは、リアルでシリアスなところです。人は本当に亡くなります。助からない人は助からない。心から助けたいけど助からない。

●夏目漱石の『こころ』を読みました。Kの自殺ですが、友達同士で同じ人を好きになることはよくあることだと思うのですが、そこまで自分を追い詰める必要があったのでしょうか?と思います。

◎「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」とKを追い詰めて、しかもお嬢さんのことでKを出し抜いたことが今さらながら罪の意識となって自分の心に刺さったのではないかな?でもこの本は謎が多いです。だからこそ名作と言われるのかもしれませんが。

◎『こころ』は個人の内生を描いたものであると思う。細かすぎる心理描写は、漱石自身の神経衰弱気味のところがうかがい知れます。

●『坊ちゃん』は読みやすくて、「親譲りの無鉄砲」とあるように江戸っ子気質の坊っちゃんが、愛媛の片田舎でイヤな奴らを相手に大活躍します。けっこう喜劇調に描かれています。

◎ルナールの『にんじん』でもわかるように、周りの誰かからそしられても、たった一人だけでも自分を受け入れてくれる存在がいるというのは、強く生き抜いていける術であると思います。坊ちゃんにとって無償の愛を注いでくれる存在がばあやの清であったと思います。「死ぬ前日におれを呼んで坊ちゃん後生だから清が死んだら、坊ちゃんのお墓に埋めてください。お墓の中で坊ちゃんが来るのを楽しみに待っておりますと言った。だから清の墓は小日向の養源寺にある。」これが坊ちゃんのラストです。あれだけ楽しんで読んだストーリーの中で最後はしんみりと、あれほど坊ちゃんが大好きだった清の冥福を祈って泣いてしまうというのは、やられたなぁと思います。

◎『私の個人主義』という著書がありますが、個人の発展に努めることが個人主義の達成につながると論じています。結構わかりずらいので読むのはちょっと辛いかもです。でもあの明治期における漱石の考え方がわかって良いと思います。

●泉鏡花の短編集を読みました。とっつきにくいところは多いのですが、テンポがよい文章です。歌うかのような感じで描いています。そのテンポの良さというのは、体言止めが多用されていることも要因だと思います。

◎乙女の本棚シリーズというのがあって、泉鏡花の『外科室』が収録されています。冷たい感じの絵が内容とぴったりな本です。お話はお互い一目ぼれ同士だった医師と奥様が、死ぬことによっ、お互い歩み寄れるという純愛物語だけれど、ちょっと暗いイメージがあり・・という作品です。

●暗いというか、ダークな感じと言えば村田紗耶香です。キレイだけれど汚い・・。人々の倫理観に問いかけている作品だと思います。『生命式』というのはグロい作品です。人が亡くなったらお葬式を挙げますが、ここでは弔いとしてご遺体を食べるという風習がでています。亡くなった人を食べて、その生命を受け取り浄化させ、食べた人間も幸せになるという短編です。びっくりします。でも惹かれます。けっこうその作品観にひたって楽しんでいます。

◎村田さんの作品は同じようなテイストの作品が多いですね。『殺人出産』も10人産んだら一人殺せる、というものです。10人産む「産み人」の存在で出生率を保つ未来の日本。産む人が人の命も奪えるという世界のお話です。

●江國香織さんの本は2種類の方向性があると思います。一つはファンタジー的な非現実な世界を描いたもの。もう一つは作品とは違う現実世界。不倫とかが自然に描かれる世界です。『ウエハースの椅子』は、主人公が幸せな家庭を持つ男性に恋してしまいます。彼といるときに満ち足りている自分、でもやがて彼の中に閉じ込められていくようで・・。恋の孤独と絶望を描いています。『スイートリトルライズ』は夫も妻もそれぞれ恋人がいるのに、お互いにお互いを必要とする生活を続けている夫婦の形を描いています。妻は昼間何があろうと夫の帰りを気にして、夫はデートをしても妻が夕飯を準備しているからと急いで帰って来ます。そして満ち足りた時間を共有する。不思議な在り方です。

●田村優之の『夏の光』を読みました。高校時代の親友と20年ぶりに出会った主人公は20年前の事件に否応もなく引き戻され、そして現れる真実とは何か・・。というお話です。でも難しい!です。

●西加奈子は注目です。生きていく上での力強さを分けてもらえるような気がします。何か困難にあったとしても、陽は登って朝はやってくる。ごはんを食べてまた一日生きていこうというような感じです。

●伊坂幸太郎の『AX』を読みました。これは『グラスホッパー』『マリア・ビートル』に続く殺し屋三部作の三作目です。でも前作とはちょっと様子が違って、今回の主人公には家族がいます。家庭人としての主人公、殺し屋としての主人公が描かれ、ちょっとコメディっぽいです。これを読むと、人って簡単に死ぬんだなと思えて、その残した思いが後々大きな力となって影響を与えていくところが感動でした。驚きのあるストーリーでした。

●有川浩の『クジラの彼』は『海の底』の後日談の短編集です。前作で出会った少女と潜水艦の乗組員。「浮上したら漁火がきれいだったので送ります」という2年ぶりのメールから始まるラブコメです。

◎『図書館戦争』はみんな知っていて、ラブラブあまあまなところが愛されてもいるし、ちょっと敬遠もされていますが、本を守るという崇高なテーマ性を持っています。

◎有川浩と言えば『ストーリーセラー』です。AサイドとBサイドのお話でできていて、Aは妻の視線で、Bは夫の視線でそれぞれ描かれています。読み進めるとズレが出て来て、何がなんだか、本当に本当のことがわからなくなってしまいます。迷路に入ってしまったような読後感です。

●ダークサイドといえば、人間を食べるという本があります。『ひかりごけ』ですが、日本陸軍の徴用船が難破し、真冬の知床半島で食料もない極限状態に置かれた船長が仲間の遺体を食べて生き延びた事件をモチーフに書かれた小説です。極限状態における人間の心理に真正面からぶちあたった作品です。

◎同じような内容で『アンデヅの聖餐』ってありましたね。1972年ですが、旅客機が遭難し、雪山に取り残された乗客たちが死体を食料にして生還したという実際の話です。

◎『野火』は、野火の燃え広がるフィリピンの原野で極度の飢えと病魔と闘う一等兵の戦争体験を描く作品。人間の極限状態を余すことなく描いています。

●『彼女のこんだて帖』は、人生つらいことがあっても料理を作っておいしいものを食べていれば幸せを生み、人をつなぐ。そんなことを語ってくれるレシピ付き連作短編集です。

●『アンナチュラル』はテレビドラマ作品で、脚本家のオリジナルです。解剖医が出てくる死亡究明ドラマで、死亡原因を究明することで今生きている人々も救い、未来への希望をつなぐということが描かれています。主人公の女性解剖医が黙々と食事する場面が印象的です。リアルに生きることが伝わってきます。

◎ごはんが印象的なのは古本屋を営む大家族を描いた『東京バンドワゴン』です。4世代が揃って食べる朝ごはんはいろいろ種類があって、家族のつながりを印象づけていて生きる力になっている様子がイイです。

◎『西の魔女が死んだ』も、おばあちゃんの元にやってきた孫娘が真っ赤なルビーのような野イチゴを摘んでジャムを作ります。いろんなお菓子立も出てきます。自然との触れ合いを感じます。

◎おいしそうだと思ったのは、新美南吉の『きつねのおつかい』という物語です。ある時きつねがロウソクを買いに出かけます。このロウソクは菜種油でできています。きつねはどうしてもがまんできなくなって、ペロペロとロウソクをなめてしまいます。食べ物じゃないのにその様子がとてもおいしそうでとても印象的でした。

●朝井リョウの『スペートの3』ですが、これを男性が読むと引くと思います。女性のこだわりの有様やいやらしさが出ていて、どうして朝井さんがこんなヤバイ本が書けるのか不思議です。

◎朝井さんの作品は、『最後の恋』という同じテーマでいろいろな作家が書いているアンソロジーの中で読んで注目して、それから読んでいます。

◎あいかわらず『何者』は、就活生を翻弄していますね。真っ只中の方は絶対読まない方がいいです!

◎『武道館』は朝井さんがアイドルという職業が背負う十字架を一度すべて言葉にしようとして書いた本です。結果として今の時代を表している作品となっています。

◎『チア男子』は弾ける青春エンターティメントで、若さいっぱいの作品です。主人公のためらいや悩みは出てきますが、裏表のない明るさはストレートに楽しめる面白さです。

●辻村深月さんと言えば『ツナグ』で、死者との出会いで果たせなかったことを達成していく浄化作用の本を書く作家さんだと思いがちですが、『噛み合わない会話とある過去について』は違います。美術教師である女主人公には有名になった教え子がいます。彼女は、自分が彼に少なからずも影響を与えた存在であると疑っていませんでした。ある日、学校に訪問してきた彼との再会の機会が訪れるのですが、彼の思いは彼女とはまったく違うものだった・・・この無意識のすれ違い加減が恐ろしすぎると思いました。

◎恩田陸さんは『ドミノ』ではテンポのいいコメディを書いているのに、一方では『蜜蜂と遠雷』のような専門性のあるシリアスな作品を書いています。

◎私は、初期の頃の作品は傑作と駄作の幅が大きいと思っていました。昔ですよ・・。

●おどろおどろの達人である江戸川乱歩さんですが、イチバンお薦めしたいのは『人間椅子』です。全体的に気持ち悪い設定ですが、なんだ、こういう物語か!と思ったらガーンと最後にヤラれてしまいました。

◎乱歩は『黒蜥蜴』もお薦めです。美貌の女盗賊・黒蜥蜴と名探偵・明智小五郎のバトルと恋を描いた傑作です。

●横溝正史でいちばんのお薦めは、映像化されている作品なら全て傑作なのですが、あえて言えば『悪魔の手毬唄』です。おどろおどろ具合がすこぶる良いのと、仕立てがクリスティの『そして誰もいなくなった』と似ていて、面白いです。

●太宰の作品ですが『津軽』はおすすめです。これは太宰が依頼されて津軽記を書いた作品で、日本の中から見ても小さな存在である津軽の現在(昭和)の姿をあらわそうとしています。一種の風土記的作品です。旧家育ちの彼の背負っているものもかいま見えます。

◎私は『斜陽』が好きです。戦後の没落していく貴族社会の人々を描いていますが、冒頭のお母さまがソラマメのスープをひらりひらりとスプーンを使って上品に飲んでいるところは、今はもう失われた世界を象徴しているようで、破滅への予感を感じさせます。

あっという間に2時間が過ぎてしましました。これからも月に2,3回リモートブックカフェを開催します。ご都合の良い時にいらしてくださいね。

2020年9月24日(木)BKCブックカフェレポート

秋の雰囲気が感じられるようになった日の夕方、BKCリモートブックカフェが開催されました。今日の参加者は、理工学部3回生の方、理工院の方、政策科学部2回生の方、総合心理学部3回生の方、産業社会学部2回生の方、文学部3回生の方の6名の方で、今回もキャンパスを超えて参加してくれました。

こんな本が話題になりました

●『空が青いから白をえらんだのです』は詩集です。普段は詩集なんてまったく読まないのですが、ある時新潮文庫の100冊の中に入っていて、それが手に取ったきっかけです。少年刑務所が舞台で、ほとんど教育を受けることのない人の集まりなのですが、再生プロジェクトの一環として詩の教室があるのです。参加者も語彙の少なく、言い回しもまったくうまくありません。でもその単純なところに心惹かれてしまうものがありました。
ある時、発表があってそので発表された詩の中に「僕の好きな色は青です。2番目に好きな色は赤です」たったこれだけの詩ですが、聞いた他の参加者からは「〇〇くんの好きな色を2つも知れてよかった」などの感想がだされ、コミユニケーションの場にもなっているということです。

◎同じ詩集で空と青がタイトルに使われたものとして、谷川俊太郎の『空の青さをみつめていると』があります。有名な「二十億光年の孤独」もここで出会いました。

◎小学校の頃読んだ本で『君の可能性』という本がありました。さっきの少年刑務所に収容されている人たちと似通った人物が出てきます。島秋人は幼い頃から恵まれず、家族の愛もなく、学校でも馬鹿だ馬鹿だと言われ続けて生きてきました。そして転落していき、殺人まで犯して死刑囚となってしまったのです。そんな彼にも人生の中でたった1回、学校の先生に褒められた記憶がありました。なぜか懐かしいと思い、その先生に連絡を取ります。このことが縁で交流が生まれ、二人の間で短歌がやり取りされるようになったのです。
あれだけ馬鹿だ馬鹿だと言われていたのに、島秋人の中にある知性と感性を先生は気が付きます。こうした中で彼は自らの人生を振り返り、足りなかった自分、罪を犯してしまった自分を見つめていきます。人間は誰でも再生できる。生き直せると思ったとたん、彼に法による死が訪れます。いろいろなことが学べた本でした。

●『夜を駆ける』は小説をもとにネタを作るという趣向で書かれたもので、性や死への欲が赤裸々に表現されています。

●星新一は昔から読んでいました。僕の一番のお薦めは「おーいでてこい」です。これは中学1年のときにこのショートショートが英訳されたものが、教科書に載っていたのがきっかけです。ある大きな穴を見つけて「おーいでてこい」と呼びかけます。なにも反応がないので、ゴミを捨ててみます。どれだけ捨てても底が見えることがないので、これは幸いと核の廃棄物などヤバイものもどんどん捨てていきます。ある日空から「おーいでてこい」という声が聞こえて、次に石ころが落ちてきました・・・というゾッとするお話です。

◎私のお勧めのストーリーは、ある時、宇宙人が地球人の子どもを手に入れようと地球人カップルを誘拐しますが子どもはできません。なぜなら同性愛者のカップルだったからというオチの話です。昔なのに普通のことのようにジェンダーについて書けるというのはすごいことだと思いました。

◎私のお気に入りは、何でも電脳化された未来で、サラリーマンの主人公が朝はベットが振動して起こされて、朝ごはんも早々と準備されて、歯磨きや着替えも勝手にされて、マイカーで会社に向けて送り出されるんですが、会社に着いた主人公は車の中で青ざめて亡くなっているのが発見されるというブラックな作品です。

◎いちばん有名な「ボッコちゃん」はアンドロイドをバーでお客のお相手として使っている中で、お客の口説きにもなんの反応を示さないのに腹をたてたお客が、ボッコちゃんに毒入りのお酒を飲ませるんです。平気な顔をしているボッコやんにそのお客は恐れをなして逃げますが、そのあとマスターはいつものようにボッコちゃんの体の中に溜まったお酒を取り出してその場のお客に飲ませます。どうなったかは自明の理ですよね。

●有川浩は、あとがきがすごくイイと思います。『レインツリーの国』は聴覚障碍者が出てくる物語ですが、オマケにとどまらない読ませてしまうあとがきだと思います。聴覚障碍者を前にしたとき、どう自分はあるべきなのか、もし自分が間違ったとき、打ちのめされる自分でありたい、変わっていける自分でありたいと書かれていました。

●有川作品でBKCでいちばん人気なのは、『キケン』です。理系男子のバイブルだと思います。あんな必死に取り組む大学生活でありたいと憧れました。

●スポーツを題材にした小説は多いと思いますが、僕は剣道をやっていたので『武士道シックスティーン』のシリーズが好きです。気合の出し方、声の出し方は本物に近いです。「こて」ではなくて「こぉてぇ!!」という感じです。

●箱根駅伝だと『風が強く吹いている』ですよね。素人同然の寮の下宿人が、一人一人自分と向き合って高みを目指していくところ、勝てるというのは速いことではなく強いということなど、最後にどうなるのかわくわくして読み進めました。

●『あと少し、もう少し』は中学駅伝のお話です。頼りない顧問のもと、寄せ集めの駅伝チームが切磋琢磨する青春スポーツ小説です。

●『一瞬の風になれ』は高校陸上部のお話です。スポーツテストに参加したことがきっかけで、その疾走感を味わい走りたいと願う主人公と、天才的スプリンターの幼なじみ、彼らが競うことで一時代を作り上げる。走ることの苦しさと楽しさを共有しあえる三部作です。

●朝井リョウさんのエッセイは読みごたえがあります。人をイジる才能、自分を変な方向で下げる才能があふれています。自虐ネタがうまいです。ラジオのようによどみなく言葉が流れて読者は引き付けられます。いい具合のイヤさ加減が絶妙です。

●自分を押し下げるという意味では万城目学さんのエッセイも最高です。どこまで真実なのか、どこへフィクションが滑りこんでいるのか皆目わかりません。

●伊藤家劃の『虐殺器官』は注目です。世界が大虐殺に巻き込まれている近未来で、主人公はそれを阻止する特殊部隊にいます。どれだけ虐殺を止めようとしても止められない現実が描かれています。

●『虐殺器官』の後日談が『ハーモニー』なのですが、世界が崩壊した後これが幸せなのだと、超健康志向社会が形成されます。いわゆるディストピア社会を描いた作品です。

●有川浩といえば『図書館戦争』ですが、元ネタはレイ・ブラッドベリの『華氏451度』だと思います。本を読むことが許されない社会で、人々は思考することが取り上げられています。その中で主人公は本を集めて焼いてしまう職業についています。自分のやっていることの意味など考えることもなく、ただ燃えさかる炎の美しさに惹かれていました。 しかしある時、本の活字に触れて知性というものを実感します。それから戦う側になっていくのです。『図書館戦争』も自由に本を読むことが阻害されている社会の中で、戦う人々が描かれています。知識を得ること、考えることを阻むのは悪ですね。

●いちばん読んでほしい翻訳ものは『夏への扉』です。何を言ってもネタバレになりそうなのですが、主人公は友人にも裏切られ、会社の特許も奪われて冷凍睡眠で30年後の未来に送り出されてしまうというお話です。それからどうやって逆転するのかが見ものです。

◎この本は猫がとてもカワイイですよね。猫好きの人も読まれたらいいですね。

●もう一つお薦めは、『アルジャーノンに花束を』です。知能が子どもくらいしかない主人公は、まわりの人に疎まれているのかどうかもわからず、いじめられてもそれなりに幸せな日々を送っています。あるとき、知性を呼び起こす実験に参加してみるみる賢くなっていきます。ほぼ天才といえるほどの知能を得た彼が新しい人生を歩み始めます。アルジャーノンというのは彼より先に実験を受けたねずみの名前で、ねずみも天才的な賢さを誇りますが、あるときを境に衰え始めます、それを見た彼はこの実験が期限あるもので、いずれは自分もまた何もわからなくなってしまうと自覚をします。秀逸なのは日本語の訳です。彼の知能に合わせて間違いだらけの文章から、天才の書くバリバリの文章まで、段階を通じて見事に描かれています。最後にどんどん間違いだらけの文章を書くようになり「アルジャーノンのお墓に花束をあげてください」といって物語は終わるのです。

●今いちばん輝いているバレーコミックは『ハイキュー』ですね。高校バレーボールが舞台ですが、実際の技を取り上げていたり、ルールを知らいな読者にもわかりやすくストーリーの中に組み込んで説明していたり、親切な本です。

●『リベロ革命!!』は天才的アスリートの主人公の背が低いために、リベロとしか採用されなかったり、困難はあるけれど、弱小チームを率いて頑張る姿が魅力的です。

●私は『エースをねらえ!』でテニスのルールを学びました。華やかなお蝶夫人には笑えたけれど、歴史的なテニスプレーヤーも学べておもしろかったです。

●皆さん、ファンタジー小説は読まれますか?僕は『ドラゴンラージャ』がバイブル的存在になっています。主人公が身代金をもらうために旅に出るところから物語は始まり、本当の自分を探すのです。いろいろな種族が出てくるのですが、それぞれに特徴があって、エルフ族は調和を大切にする種族で争いを好まないとか、細かく設定されています。かなり考え込まれた世界観作りをしていて飽きることがありません。

◎『モモ』には影響を受けました。時間泥棒が出現し、みんなそれぞれの心から余裕がなくなっていきます。人の話を聞いて、それぞれに元気を与える不思議な力を持つモモが失われた時間を取り戻すという物語です。

◎『はてしない物語』は、現実とファンタジーの異世界の世界を行き来する物語です。ひょんなことから手にした「はてしない物語」を手にして、はてしない物語の中の世界の崩壊を救います。主人公自身がファンタジーの世界に迷い込み、ここでの旅を通して本来の自分も取り戻すというものです。

◎『ダレン・シャン』は、友達を助けるためにバンパイアとの取引をしてしまう主人公が出てきます。半バンパイアとなった彼はバンパイアになることに抵抗を示しますが、やがて受け入れていきます。

◎『ナルニア国物語』は、20世紀イギリスの少年少女が異世界に入り込み、与えられた使命を果たす物語です。

◎『ゲド戦記』は太古の言葉が魔力を発するとされる土地が舞台で、主人公ゲドをめぐる数々の物語です。「影との闘い」は自分が優れていることを証明しようと禁止された技を使って死者の霊を呼び出したけれど、一緒に影も呼びだしてしまい、ゲドはその影に脅かされ続けるのですが、いよいよゲドはその影と対峙することを選ぶ・・・っという感じです。

◎『風の谷のナウシカ』は高度産業文明を崩壊させた「火の七日間」と言われる闘いの1000年後。世界は汚染され巨大な菌類の森、腐海が広がっています。風の谷に住む族長の娘ナウシカは心優しい娘ですが、大国の登場で闘いの種は生まれ、物語は進んでいく・・。みんな映画のナウシカを知っていますよね。

◎宮崎駿監督の『ハウルの動く城』は、ハウルと、魔女の呪いで90歳の老婆に変えられた少女ソフィーの少し恋愛チックな雰囲気もありつつ、でもソフィーはハウルを助けるための戦いに臨みます。最後はハッピーエンドですね。

●森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』はお薦めです。ヘタレの先輩と後輩の黒髪の乙女がそれぞれ代わりばんこに語り手となって物語は進みます。京都の街が楽しめるのと、先輩と後輩のズレがとてつもなく面白いです。

●朝井リョウはやはりデビュー作が鮮烈で印象深いです。桐島がタイトルなのに一切桐島が出てこないとか、スクールカーストの問題とか、読みどころが深い作品でした。

◎単純にはじけて楽しいのが『チア男子』です。柔道一筋に進んでいたのに挫折を味わい、ひょんなことからチアリーディングに足を踏み入れた主人公の活躍を描きます。

◎『星やどりの声』は家族の物語ですが、口に出して言いづらい心の中や、目の前に広がる風景を子供たちの目線で色鮮やかに切り取った繊細な物語です。

◎『世にも奇妙な君物語』は、朝井リョウが「世にも奇妙な物語」が大好きで自らテレビドラマ化を狙った作品です。

●リリー・フランキーの『東京タワー:ボクとオカンとときどきオトン』を読みました。僕は生まれが福岡なので、九州の様子が描かれていて懐かしかったです。

◎おかんのつくる湯気のたつ食卓が、とても暖かくて、元気をもらえてよかったです。

●『壊れる日本人』がすごいのは、書かれたのが10年前なのに、ケータイやネット依存について危機感を提示しているところです。急激なIT化が私たちから奪っていったものを徹底解明しています。

●『アフリカ経済の真実』ですが、アフリカは土地も広いし、資源も豊富です。なのにけっして発展していない。先進国から食い物にされています。その世界的搾取の構造を明らかにした本です。

●『ケーキの切れない非行少年たち』はタイトルの帯を見ただけで衝撃でした。少年院の子どもたちは、認知能力が低くケーキを当分に分けることさえできない。知らなかったので怖いと思いました。

あっという間の2時間でした。来月も行います。お時間の都合の合う方、ぜひ参加してくださいね。

2020年9月29日(火)衣笠リモートブックカフェレポート

朝と昼の寒暖差が厳しい日の夕方、衣笠リモートブックカフェが開催されました。
今日の参加者は、文学部3回生の方、3回生の方、4回生の方、産業社会学部2回生の方、理工学部3回生の方、理工院の方、総合心理3回生の方お二人の計8名の方が来てくれました。衣笠ホストですが、3キャンパスの学生が揃って和気あいあいと語り合いました。

こんな本が話題になりました

●楳図かずおの『漂流教室』を読みました。小学校の敷地ごと荒廃した未来に飛ばされてしまう、という物語です。小学生の男女がサバイバル生活を余儀なくされ、いやおうなしに争いが日常化します。不思議なことは、これだけ時空が離れていても主人公の男の子と過去に生きる母親との気持ちが通じ合っていることです。男の子は欲しいものを願い、母親は跡地となった校庭にそれを埋めます。するとそれが男の子の手に届くのです。

◎もっと重たい『十五少年漂流記』みたいでもっとグロいですが、感動したのは、未来に飛ばされた小学生たちが「どんなことをしても全員で過去には帰ることはできない。僕たちがここに飛ばされたのは、こんなに人が住めないほどになった地球をこれから蘇らすためなんだ」と家族のもとに帰ることを諦めます。でも、唯一紛れて未来に来てしまった幼稚園児1人を帰そうとします。そして、現代に戻った幼稚園児は未来のことを見てきた中で、この世界をあんな未来には決してさせないと力強く歩いていく姿を最後のカットとしたところです。

◎『洗礼』は別の作品ですが、主人公の女の子には、美しくはないけれどとても優しいお母さんがいたんですが、実はその母親には野望があって、娘の美しさを自分のものとするために、娘が大きくなったら脳移植をして、自分が娘に取って代わることだったのです。はたしてそれは実行されるのか?という怖いホラーコミックです。

●『悪魔の手毬唄』はお薦めなのですが、人間関係や家系図もシンプルでわかりやすいというのもお薦めの要因の一つです。また「手毬唄」という唄が殺人の手引きになっている点もシンプルな仕掛けです。これには民族学的見地からの解説がほどこされていて、とても勉強になる本です。

●『少女は夜を綴らない』の主人公は、人を傷つけてしまうのではないかという強迫観念を持つ中3の女子。そんな彼女は秘密の殺人計画を夜の日記に書くことにで心を慰めている。彼女は父親から暴力を受けている男子に、父親の殺人計画を手伝えと迫られる。二人はいよいよ殺人計画を実行に移してこれからどうなるのか?先の見えないミステリー小説です。

●『羊と鋼の森』は、ピアノの調教師をめざす主人公が出てきます。彼は先輩たちの指導によって、自分なりのやりたい調律をできるようになっていきます。最初は体育館にあるピアノを調律するところを見て、彼は調律に目覚めます。とても素直なタイプで穏やかにピアノに関わっていく様子が、心地よく読んでいてめちゃよかったです。静かな静かな中で自然の描写や音楽の表現が美しい。小説なのに音が聞こえてくるかのように感じます。

●『夜は短し歩けよ乙女』をようやく読み終わりました。京都の街が舞台のお話はボーイ

ミーツガールなのですが、実は出会っているのは先輩の方で、彼女の方からはまったく出会っていません。そのすれ違い具合が面白いですし、思えば森見作品というのは、現実と空想の境目が非常にあいまいだと思います。そして取り巻く人々が本当に個性的です。そんな人がまわりにいるから目立ちませんが、彼女も大変変わった部類の人だと思います。

◎変わったといえば、ちょっと前にニュースで言っていましたが、百万遍の交差点で、こたつを出して鍋を食べるという元ネタはこの作品からです。

●今邑彩の『よもつひらさか』は短編集なのですが、その中の「よもつひらさか」はとても怖いです。ある男が、子どもが生まれた娘の元を訪ねてやってきたのですが、途中ちょっと調子が悪くなって、傍らを歩いていた青年に助けられます。方向が一緒だったので共に歩くことになって「この坂は『よもつひらさか』といって黄泉につながる道なのですよね」と話し始めます。つまり知らずに冥界側の人間と関わって、その人間が提供する水などを飲んだ人間は・・・・・という、もう取り戻せない・戻れないというお話です。

●『霧が晴れた時』は『日本沈没』で有名な小松左京のホラー自薦短編集です。どれも最後に水をかけられるようなゾッとする仕上がりになっています。

◎小松左京は最近、『復活の日』で「復活」を果たしていますよね。これは殺人ウイルスと核ミサイルの恐怖で人類死滅の危機が迫る中、南極基地で生き延びようとする人々のドラマを描いた作品です。

●有川浩の『空飛ぶ広報室』は、自衛隊をベースにしたお仕事小説としても、挫折からの蘇り小説としても、恋愛小説としても楽しめます。最近有川さんは、事件性や社会性のあるテーマをよく取り上げてきていると思います。

◎この『空飛ぶ広報室』もほんとうは2011年に刊行予定だったのですが、東日本大震災が起きてしまって、そのエピソードを入れるのに刊行が1年伸びました。

●『ラブコメ今昔』は自衛隊の様々の登場人物のラブを描いた短編集でおすすめです。

●有川浩で大学生にいちばんお薦めしたいのは『キケン』です。あんなはじけた学生時代を自分も送ってみたいなと切に思いました。

◎最後にノスタルジックというか泣かせる場面があって・・・やられてしまいました。

●『図書館戦争』は、前回のブックカフェで元ネタが『華氏451度』だという話題がありましたが、けっこうこの本は難しくて読むのは大変かもしれません。同じテーマを持っている『図書館戦争』はとてもわかりやすく、ここまでエンターティメントに仕上げるとは、有川さんの実力が伺い知れます。

●ホラーでいうと短編だけれど、この世でもっとも怖いなと思ったのは、海外ものですが『猿の手』というお話です。ある日、老夫婦のもとに猿の手のミイラがやってきます。なんでも願い事が3回叶うという触れ込みでした。老夫婦は誘惑に負けて、いくばくかのお金が欲しいと猿の手に願います。そうすると、息子が事故で死んでしまいその保証金として願ってお金が支払われます。後悔する夫婦ですが、今度は妻が息子を返してくれと願います。すると墓から息子が蘇り、人間でない姿となって家のドアをたたきます。そこで夫は息子を安らかに眠らせたまえと願うのです。何もなかったような静けさのうちに物語は終わっていきます。

●昔流行った鈴木光司の『リング』ですが、カセットで増殖していくという発想はすごくて感激しました。ただ映画の貞子像は映画監督のもので、ああいう貞子は原作には出てきません。映像化でいうとフジテレビのドラマ化されたものが一番原作に近いです。主人公は男の人のままですし。

◎続編の『らせん』は、『リング』がホラー作品だったのに対して、その謎の解明を生物学的見地に求めたものです。『ループ』は三部作の解決編とされていますが、前作とは様子が違い、ウイルスに侵されていくヴァーチャルリアリティの世界が書かれています。

●僕は伊藤計劃が好きなので『虐殺器官』をお薦めします。世界中で巻き起こる虐殺を止めようというお話ですが、結局世界は崩壊し、『ハーモニー』の世界が作られます。表面上は優しく見えるけれど、優しいフリをした残酷な世界が描かれています。

●『屍者の帝国』は伊藤計劃のラストの本とも言えますが、円城塔の作品になってしまっています。最初は伊藤作品を守ろうとしていたのでしょうか、途中から円城のカラーが出まくりです。

●伊藤計劃が読んでいたとされている『戦争広告代理店』は、どんな手立てを使って世間を味方につけるのかという情報操作が実際に行われている中身が描かれていてコワイです。

●私の中で不条理三人組と言えば、カフカ、カミュ、阿部公房ですが、みなさんはいかがですか。

◎『変身』は読んでぶったまげました。人間が虫になるという感覚がよくわからなかったです。最後は本をぶん投げました。

◎カフカの『城』とかもワケがわからないですね。城に雇われた測量士が、城に入らしてもらえず、物語はこれっぽっちも進んでいきません。

◎人気なのはカミュの『異邦人』ですね。世間の常識と主人公はかけ離れていると自覚しながらも、人殺しをしてしまったのは「太陽が眩しかったから」というのに妙に惹かれた記憶があります。

◎阿部公房の『壁』は名前をなくした男が現実での存在権を失い、ありとあらゆる罪を着せられてしまい、最後は自分自身が無機質な壁となってしまうというこれもまったく何が何やらわからない物語です。

◎箱男はいつか読もうと買って置いています。

●『ニューロマンサー』は超巨大電脳ネットワークが地球を覆いつくし、財閥と呼ばれる巨大企業とヤクザが経済を支配している近未来を舞台にしています。話の内容は結構ごちゃごちゃしていてわかりにくいです。

●ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』は地球の植民地である月が独立を目指して革命を起こすというものです。月世界と地球の武力衝突まで書かれていますが、あるコンピュータ技師の視点を通して出来事が描かれています。

●ハインラインと言えば『夏への扉』がおすすめです。古典となっているタイムマシンものですが、未来から帰ってくるのはタイムマシンで、未来へ行くのは冷凍睡眠で時間をかけて、というところが面白いです。

●やはり古典的作品といえば『2001年宇宙の旅』ですよね。でも読み進めていっても何がなんだかわかりません。コンピュータは狂いだすし、最後にスターチャイルドは出てくるし、理屈で考えるとまったくついていけなくなります。

◎映画は猿人の持っているこん棒が空に投げられて、それが宇宙船に変わるとか、宇宙を漂っている宇宙船を「美しく青きドナウ」の音楽が包み込むとか、ビジュアルのすごさに圧倒されます。

●『ソラリス』は旧タイトル『ソラリスの陽のもとに』の映画で有名ですが、惑星ソラリスを探索中の宇宙ステーションが消えて救難信号は出されるも、不思議な現象が巻き起こるというものです。なんかソラリスの海それ自体が思考を持つ、とかいうような話じゃなかったかな。

●長いシリーズの作品と言えば『グイン・サーガ』を思い出します。今は亡き栗本薫のヒロイックファンタジー小説です。豹頭の戦士であるグインを主人公として、様々な人々の生と死や愛憎を描き、壮大な人間模様を紡ぎだしています。正伝130巻、外伝22巻にも上っていて、作者の死後も他の作家によって書き続けられています。

●もっとすごいのはドイツのSF作家たちが書き続けている『ペリーローダン』シリーズですよ。もう500とか・・・もっと出ています。一人の宇宙英雄を主人公として書かれているのですが、こんな展開になったのにいつの間にかなかったことになっている!とかいう矛盾も楽しみながら読める感じです。

●そんなに長いわけじゃないけれどお薦めは『ダルタルニアン物語』です。知っているくせに読んだことないっていう三銃士が出てくる物語です。

●赤川次郎の『三毛猫ホームズ』シリーズも相当長いです。最初の頃に主人公が持っているのはポケベルだったのに今はスマホとか、時代の移り変わりを感じます。

●長くて読みきれていないのが、ビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』です。姉の子供のためにパンを盗んだジャン・バルジャンが結果として19年も投獄され、やさぐれていましたが、慈悲深い神父様に助けられ、人生を変えます。今は主人公が助けたコゼットが美しく成長して、求婚者マリウスが出てきたくらいです。

◎あの時代は貧しきものがよりいたぶられていた時代なのでしょうか。理不尽だと思うことばかり出てきます。

●同じフランスで長いのは『モンテ・クリフト伯』。日本では「巌窟王」で有名ですが、一大復讐劇です。

●『時計じかけのオレンジ』は暴力と欲望に満ちた荒廃した自由放任社会と、管理された全体主義社会のジレンマを描いた作品です。ある意味で風刺小説と言えます。

●面白いなと思うのは『ケロロ軍曹』ですが、なぜなら、ありとあらゆる作品のオマージュで出来ているからです。クスッと笑えるところ満載です。

◎パロっていると言えば『銀魂』も相当なものですよ。出てくるパロディのすごさといったら・・・・。よくよく見てみてくださいね。

●京極夏彦が好きで読んでいるのですが、最初は枕くらいの暑さだったのですが、そのうちサイコロになりそうなほどページ数が増えています。1行で済むところを10行かけて表現する緻密さを誇っています。これだけ長いのに途中でやめられないのは、最後の10ページが怒涛のように面白いとわかっているからです。伏線が回収されまくってたまりません。

●柳田邦男の『壊れる日本人』は現代に生きる日本人にとって必読書だと思います。ケータイやネット依存症への警告を12年も前に語っていた本です。急激なIT化が私たちから奪ったものを解明していきます。ぜひ読んでみてください。

あっという間の2時間でした。また10月にお会いしましょう。