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2020.12.21

2020年11月のブックカフェレポート

ニュース

11月のブックカフェ。引き続きリモートで3キャンパスで開催しました。
「読書の秋」と言いますが、参加者の皆さんは季節関係なく、様々なジャンルの読書にいそしまれているようです。

11月19日(木)11月24日(火)11月26日(木)

2020年11月19日(木)リモートブックカフェレポート

穏やかな秋の日差しを感じる日の夕方、リモートブックカフェが開催しました。
本日の参加者は、政策3回生の方、総合心理3回生の方が来てくれました。ちょっと淋しい参加でしたが、その分たくさんお話できました。

こんな本が話題になりました

●西尾維新の本で『戯言シリーズ』がいちばん好きなのですが、その中で哀川潤という請負人がいます。敵なしの強さを誇るヤツで、あまりにも強くて依頼がこなくなる・・・といった感じの強力な登場人物です。その人物の一番最新の話が『人類最強の初恋』です。一万年に一人の最強ヒロインということになっている哀川潤。名探偵にして、人類最強の請負人。「あたしの旅路を邪魔するな。ぶっ殺すぞ」とまわりを蹴散らす彼女の今回の任務は、19歳にして心理学の権威の女性の現地調査への動向。連続殺人犯を追い詰めるノンストップミステリーです。読み応えがあります。そして佳境はヴェネチアでの展開になります。初恋、純愛、トキメキもあり、恋愛タッチも読みどころです。

●『デリバリールーム』は変わった設定です。50万円の参加費で、安全な出産と愛する我が子の輝かしい未来を保証する、という宣伝を主人公は目にします。そうしていろいろな事情を抱えた妊婦5名がデリバリールームに集まることになります。果たして安産の神は微笑むのか?というお話です。西尾維新は最初は売るためにしのぎを削って書いていましたが、今は楽しみや趣味の充実のために書いているような気がします。

●有川浩でいちばん好きなのが『海の底』です。人間のように大きなザリガニの襲来を受けた横浜港はパニックに陥ります。次々と捕食される人間たち。その中で取り残された子供たちを自衛隊潜水艦に保護しますが、湾内が甲殻類に埋め尽くされて身動きがとれないため、自衛隊員2人と13人の子供たちが潜水艦に籠城するところから物語が始まります。子供たちの成長と自衛隊員2人の掛け合いが面白いです。

●島本理生の『ファーストラブ』はミステリーですが、犯人はわかっておりその動機を探る物語です。女子アナ志望の女子大生が、ある日父親を殺してしまいます。しかし「動機はあなた方が探してください」と口を割ることをしません。依頼された臨床心理士の女性は、彼女に深く関わり謎を解くことになります。この物語はこの二人だけではなく、女子大生の周辺や心理士の周辺の人物も深く関わり、謎解きに影響を与えます。直木賞受賞作品です。

◎島本理生といえばかなり前に『ナラタージュ』で一世を風靡しました。主人公の女性は今を生きているけれど、過ぎた過去に現在を重ねているところがあって、それは先生と生徒の恋愛から始まります。かつての思い人から「高校の演劇部の人数が少なくなって講演が難しいので手伝ってほしい」と連絡を受けます。悩みながらも参加することにした主人公。その場で他の男性から交際を持ち掛けられたり、別の男性とつきあったりしますが、どうしても先生を忘れられません。先生とは不倫で、最後に何を選択するのか・・・。別れを決めてお互いを求めあうラストに当時は共感できなかった覚えがあります。

●有川浩では『ストーリーセラー』が気になります。夫婦がいて、妻が心の平和を得るために物語を書いていくのですが、AサイドとBサイドがあって、その2つが微妙にずれて違う物語になっていくところが面白いです。

●森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』は京都っていいな、と思わせるファンタジー作品です。

◎OICのある学生は、森見作品を読んで京都に住もうと思って立命館を受けたそうです。でもなぜか茨木に来てしまったと嘆いていました。

◎前にニュースになった百万遍でのこたつを出しての鍋ですが、この作品の「韋駄天こたつ」のことですよね。森見ファンはみんなわかったと思います。

●『ペンギンハイウェイ』は唯一舞台が京都ではない作品です。どこかの新興住宅地という書き方をされています。

◎映画だと奈良になっていますよ。出てくる風景とか。

◎とにかくペンギンがたくさん出てくるというのもファンタジーですが、より現実的に映るのは、主人公の少年の賢さ、一所懸命さです。彼は未来をより良いものにするために今を生きています。そして純粋にお姉さんに恋をします。健気さに抱きしめたくなります。

●『夜行』に興味があります。同じ森見作品の『きつねのはなし』と同じ路線のホラーなのですが、同級生の女性がミッシング、つまり失踪したところから物語は始まります。様々なな同級生から不思議な物語が語られ、最後に謎が説かれます。信じていた世界がひっくり返ります。

●『機動戦士ガンダム』は1979年に放映されたテレビアニメで、宇宙船に乗り込んだ少年少女が宇宙戦争の中で協力しながら成長していくという物語です。主人公のアムロ・レイが、悩みながら戦うという心理もよく描かれた作品です。私は赤い彗星のシャア・アズナブルのファンです。

◎『機動戦士ガンダムORIGIN』は『機動戦士ガンダム』をベースにしたコミカライズの作品ですが、オリジナルのアイディアも加えられています。いちばん魅力的なのは、シャアの生い立ちを描いていることです。作者はガンダムのキャラクターデザインを担当した安彦さんです。

◎『機動戦士ガンダム サンダーボルト』は、宇宙世紀の戦いを描いた作品で、ガンダムのアニメ監督の富野さんがつくったアニメ作品です。モビルスーツとかメカに新しい工夫が施されてています。

●ガンダムは登場人物の心理なども書き込まれた作品でしたが、今、話題の『鬼滅の刃』も勧善懲悪ということだけでなく、敵側の事情も書き込まれている深い作品です。これってもう終わっていますよね。人気が出たから長引かせるのかと思ったけど、ちゃんと終わりました。すごいです!最近はきちんと終われない作品が多いですよね。

●『君の名は。』は映画も小説版も見ましたが、とてもいい作品です。東京で暮らす少年と飛騨の山奥で暮らす少女の入れ替わり現象と1200年ぶりに地球に接近する彗星をめぐる出来事を描いた作品です。知らない誰かをお互いに探し、最後は気がかりな人に会えるというプレゼント付きのラストです。

●僕は『天気の子』の方が好きです。離島から東京へ家出してきた少年と祈るだけで晴れを呼べる少女が出会い、運命に翻弄されながら自らの生き方を「選択」していくストーリーです。

●伊坂幸太郎は好きな作家ですが、いちばん始めに読んだのは『ラッシュライフ』です。名何人もの登場人物と、いくつものエピソードが出て来て一つ一つの話は別個なのに、読み終わると大きくつながって、一つの世界をなしていたということがわかる作品です。

◎『アイネクライネナハトムジーク』もつながりがある作品で、6つの短編が収録されているのですが、それぞれの物語が緻密な計算によってつながっている連作短編集です。イメージとしては情けないけれどいとおしいという感じです。

◎『グラスポッパー』は名作です。語り手として鈴木、鯨、蝉の3人がかわるがわる登場していきます。「殺し屋」とか出てくる物騒なところのある小説ですが、めちゃおもしろいし、せつなくもなります。この作品について伊坂は「いままで書いた中でいちばん達成感があった」と言っています。

●『冷たい方程式』というSFの名作があるのですが、設定として辺境の調査中のある惑星で疫病が蔓延してしまい、そこに血清を届ける小型宇宙船が向かっていました。宇宙船には燃料も酸素も最低限しか積まれていない。発進後、船内に隠れていた密航者を見つけます。行先の惑星で働く兄に会いたいと密航したのは18歳の少女でした。罰金程度の罪と思い気軽に密航したのですが、実は、密航者は真空の船外に放棄される規則があったのです。このままでは安全に行先につけないばかりでなく血清を待つ人々の命も失われることになります。パイロットが少女を放棄する時間を稼ぐために努力する中、状況を知った少女は手紙を書き、惑星にいる兄と無線で話した後、自ら宇宙に出ていくというお話です。いろいろ話題をまいた作品で、悲劇的結末が必然であるかのようにしすぎていると言われています。いちど読んでみてください。

●『HELLLO WARLD』は昨年公開されたアニメ映画ですが、2027年後の京都に住む青年が10年後の世界から来た自分自身から、この世界はシュミレーター内に再現された過去の世界であると聞かされます。そして間もなく会うことになる恋人の死への運命を避けてほしいと懇願されるという始まりですが、このふりも仕掛けの一つで、数々のミスリードや伏線が忍ばされてており、ドンデン返しが味わえます。

●はちゃめちゃで面白すぎるのは筒井康隆の『富豪刑事』です。大富豪の父から提供された巨万の富で難事件をどんどん解決するエンターティメント作品です。

◎筒井と言えば自作『時をかける少女』をライトノベルの始まりだと豪語してますよね。

●読んでいてしみじみよかったのは、瀬尾まいこの『図書館の神様』です。女性教員と図書委員の男の子の関わりで変わっていくこと、落ち着いて動かないことなど人生のタイミングの中であたたかい気持ちになれる本です。

●何度も言いますが、吉田秋生の『バナナフィッシュ』はいいです。ダウンダウンのストリートキッズのボスであるアッシュ・リンクスの物語です。謎解きや敵との闘いなど盛りだくさんですが、日本人英二とのハートウォーミングなふれあいが物語を流れる清涼な水となって流れています。

◎19巻、アッシュが死ぬところで泣いて泣いて泣きまくりました。

●『幸色のワンルーム』はある14歳の少女がある青年に「誘拐」されます。お互いに本心を隠しながらも寄り添う生活で、心の絆を通わせあうことになる物語です。

●『7つの大罪』とはカトリックにおける7つの死に至る罪のことを指しますが、罪そのものというより、人間を罪に導く可能性のある欲望や感情のことをさすものだそうです。このコミックでは、人間と人間ならざる種族の世界が分かれていなかった古い時代にブリタニカの大地を舞台に七人の大悪人から組織された伝説の騎士団〈七つの大罪〉の戦いを描くストーリーです。アーサー王伝説の前日譚となっています。

●『カードキャプターさくら』は私のすきなCLAMPさんが書いたコミック作品です。主人公のさくらは小学4年生。ある日不思議な本を見つけます。その本は魔術師が作ったクロウカードが入っており、「封印」が解かれるとこの世に災いが訪れるというものでした。さくらはさくらの住む町にばらまかれてしまったカードを回収するため「カードキャプター」となって奮闘する物語です。めちゃ面白いです。

●浦沢直樹の書いた『マスターキートン』は日本人と英国人のハーフであるキートンが大学講師という顔と、保険会社の調査員という2つの顔を持って活躍する物語です。冷戦終結前後の世界を舞台に、考古学を背景にキートンの家族をめぐる物語が展開します。

●『ギリシア神話』はいろいろ知っておくと西洋の物語の裏側がわかって面白いですよ。ギリシア信はは古代ギリシアから語られている伝承文化ですが、いろいろな神の愛憎劇が描かれています。口承で伝達が始まったのは紀元前15世紀頃というからすごいですね。

●子どもの頃読んで、印象的だった本は『いやいやえん』です。ちゅーりっぷ保育園に通う主人公の男の子はなんでも「いやだ」を繰り返して先生や親を困らせ続けます。そんなとき、保育園の先生のすすめで、嫌いなことはしなくて好きなことだけしていればよいという保育園「いやいやえん」に通わされることになります。そこで男の子は、「赤は女の子の色だからいやだ」というと、クレヨンから赤を抜き取られ、大好きな消防車が描けなくなったり、おやつの時間に大好きなりんごが貰えなくなるなどします。またいじめっ子の男の子との対立など、さまざまなエピソードが7つ。面白い児童書です。

●私の思い出は『かっこわるいよ!だいふくくん』です。夜の商店街で、みずまんじゅうくんやかしわもちくん、くしあんこもちくんなどがそれぞれだいふくもちくんをバカにします。そんなときねずみが和菓子たちを狙っていて襲い掛かります。だいふくくんは自分の身を犠牲にしてみんなを救います。ぼろぼろになっただいふくくんの身が破れ、みんなのあこがれの苺がすがたを表すところで物語は終わります。ほんとうのかっこよさとは何かを問いかける絵本です。

●幼稚園の頃の思い出は、母親から読み聞かせをしてもらっていた『アンデルセン童話』です。母親の中で良書という認識があったのかはわかりませんが、聞いた物語が楽しくて、自分でもすぐに読み出しました。

●高校生のころ手にとって自分で買った『ジョニーは戦場へ行った』を読みました。これはとても恐ろしい本でした。前線で傷ついた兵士が病院に収容されるのですが、彼は手足もなく、目も鼻も口も耳もありませんでした。そんな彼の戦争へ行く前の生活と現在の病室の中で交互に意識が揺らぎ、物語は進んでいきます。彼には触感しかありません。窓からの日差しで夜が明けたことを知り、看護師の手の感触で生きていることを感じます。何も見えない、聞こえない、話せない自分を認識し絶望します。そこで彼は外界と唯一交信する方法は見つけ出します。彼は体を動かし、ベットに打ち付けます。医師たちはこんな状況の中で彼の気が狂ったと思います。そんなある日、看護師の一人はこれはモールス信号ではないかと気が付きます。ジョニーは、「世界中の人々に僕のこの状況を知らせて戦争をやめてくれ」と訴えたのです。もちろん無視されました。恐るべき反戦小説でした。

●私の好きなシリーズは小路幸也の『東京バンドワゴン』です。四世代の家族が住む古本屋の毎日が描かれています。ちょっとミステリータッチな作品です。この作品で面白いのはなくなったはずの大おばあちゃんは語り部となっていることです。古書店の店主大おじいちゃん、その息子の熱きルックンローラー。孫たち、まごの配偶者とその子供たち。イキイキとした愛情を感じられます。

●城平京の『虚構推理』は怪異たちの知恵を司る少女と不死身の男性とか出てくるミステリ作品です。「虚構」に重きをおいて、事件の真実より「どうやって人々を納得させるか」に終始しています。そういえば名探偵ホームが事件の順時をすればもし、実際と違ったとしても、人々が納得するのと同じようなことかなと思ったりしました。まぁおさまるところにおさまるのでいいかな。嘘でも納得できれば。

●『魔女の旅々』は魔女が存在する中世に似た世界を舞台としています。その世界で旅する魔女が主人公で、様々な場所に出向き、様々な人々で出会う連作短編集です。魔法を使た戦闘技術が見事なことが特徴です。

●那須きのこの『空の境界』は長編伝奇小説と言えるもので、事故によって2年間眠り続けた少女とその周辺の人々が描かれています。物語は原因不明の少女たちの自殺から始まり、それが大きな流れとなっていきます。

今回はすくない人数でしたが、大いに盛り上がり、たくさんの本の話題がでました。またブックカフェにお越しくださいね。

2020年11月24日(火)リモートブックカフェレポート

寒さが厳しくなってきた日の夕方、リモートブックカフェが開催されました。
本日の参加者は、総合心理学部3回生の方、4回生の方、産業社会学部2回生の方、情報理工学部2回生の方、文学部4回生の方が来てくれました。

こんな本が話題になりました

●阿部智里のやたがらすシリーズ『烏に単は似合わない』は、人間の代わりに人間に変身することができるやたがらす一族が支配する世界では、世継ぎの后選びが始まっていた。有力貴族の姫君4名の壮大なバトルが始まります。何といっても表紙の絵がきれいです。第1巻は大奥ぽくって女性同士の争いが描かれていますが、第2巻は世継ぎの方の話に移り、政治色が出てきます。第3巻は謎解きめいた話になります。同じシリーズと言っても1巻1巻性格が違って見えます。第5,6巻は、私たちの現代世界が出て来て、烏の世界は、私たちとつながりのある世界だったと気つがされます。そして人間界にいる烏は、落ちこぼれた烏が存在しているということにも気づきます。シリーズ内でいくつものシンクロが描かれていて面白いです。

●コミックですが、『アクタージュ』は、読んでいて鳥肌がたつコミックです。ある女子高生が女優をめざすのですが、その劇中劇とかの入れ込みようが半端ではありません。その演技は神がかっています。コミックの流れる音楽や映像がそのまま流れてくるようです。リアリティを感じまくりの作品です。お薦めです。

●宮部みゆきといったら『ブレイブストーリー』です。彼女の作風はミステリ、時代ものやファンタジーなど幅広いですが、この作品は現世ともう一つの幻界が存在し、クラスメイトとのバトルや、父親の家出など苦しいことが起きます。そんなとき「運命を変えたかったら幻界へ行け」という親友の声に導かれて、幻界へ出向き、願いをかなえてくれる運命の女神の元を目指します。さまざまなことを見聞きするにしたがい主人公は、自分の運命と世界の行く末について考えるようになります。最後に父親がやはり帰らないとうところがせつなかったです。

●宮部みゆきで好きなのは、『ステップファーザーステップ』です。プロの泥棒がよんどころない事情で泥棒に入った家で、双子の子どもの父親役をするはめになるお話です。たぶん喜劇です。この作品は人気が高く、好きな宮部作品のランキングでも1位になっています。

●宮部が世に知れわたったのは、『火車』でしたが、これは社会問題としての消費などの多重債務をテーマに取り上げており、サラ金やカード破産による多重責債務の取り立てに翻弄される女性を描いています。

●『ここはボツコニアン』も宮部みゆきのファンタジー冒険小説です。ある王国では12歳の誕生日を迎えると枕元にゴム長が現れるという奇蹟が起こり、それが当たりだと長靴の騎士としてボツコニアンを救うため旅立たなくてはいけなくなるという設定です。そして双子の姉弟は旅立ちます。さぁどうなるのかという物語です。

●最近いちばん面白かったのは島本理生さんの『ファーストラブ』です。父親殺しの女子大生と臨床心理士が関わりあい、殺人事件の謎が解き明かされます。二人を中心に周辺の人々も描くことで、現代社会の家族の闇を浮彫にする作品です。

●柳広司の『吾輩はシャーロク・ホームズである』は、英文学の研究に押しつぶされて神経衰弱になった夏目漱石は、そこで医師から軽い小説を読むことを勧められます。そこでシャーロック・ホームズのシリーズを読み込んでしまった漱石は、自分がホームズだという妄想にかられ、それを直すためにワトソン博士のもとに連れてこられます。そさで参加して降霊会で霊媒師が変死し、その事件を二人で担当することになるというミステリーです。

●重松清の『ルビィ』を読みました。自ら命をたった少女ルビィが主人公です。自殺した人間は天国には行けなくて、ルビィは7人の命を救わないとと天国にいけないのです。そこで出会ったのは、作家の仕事に疲れて自殺してしまったダザイさん。彼はルビィに誘われて誰かの命を救う旅にでます。ひとの痛みをまっすぐに見つめて。いきることへの尽きせぬ希望を描いています。救いがあってやさしい作品です。ああ、これが重松清だ~って思います。

●『青い鳥』は中学の国語の非常勤講師が主人公です。彼は言葉がつっかえてうまく話せません。でも彼のまわりには助けを求める生徒たちがいて、いじめの加害者になってしまった生徒、父親の自殺に悩む生徒、家庭を知らずに育った生徒、一人一人の心にそっと寄り添い再生を支える物語です。

●『ナイフ』は5つの短編からなる作品集で、そのうち4編がいじめをテーマにしています。いじめを受けている子どもたちとその家族に寄り添うように物語は進んでいきます。いじめの描写があまりにも露骨なので切なくてなかなか読み進められません、そんな作品です。

●『くちぶえ番長』は、一輪車とくちぶえがうまい女の子が転校してきたところから始まります。誰よりも強く頼りになって、友だち思いの彼女と出会ったツヨシはサイコーの相棒となり一年間の友情物語が展開されます。

●『きよしこ』は、言葉がちょっとつっかえる少年キヨシが主人公。独りぼっちで寂しく、なんでも話せる友達が欲しかった。そんなとき聖夜にある出会いがあって、その不思議な存在「きよしこ」は「きっと伝わるよ」とキヨシに語りかけました。大切なことを伝える大切さをしみじみ感じられる作品です。

●中島敦の『山月記』は難しくて読みにくいのですが、なんだか惹かれます。この難しさは中国の漢語調の文章にあるような気がします。詩人になる夢が破れて虎になってしまった主人公が自分の数奇な運命を友人に語るという変身譚です。

◎森見登美彦の『新釈走れメロス』の中にある「山月記」も一つのことに没頭する人物が描かれています。彼は文学に没頭していて、ドストエフスキーのような大長編小説を目指して小説を書き続けていました。そして彼はついには天狗になってしまいます。けっして凡人とは触れ合わない、孤高をつらぬく様子が彼を異界に紛れ込ませていると感じました。

●『四畳半タイムマシンブルース』は、暑いさなか、エアコンのリモコンが水没したと騒いでいると、そこに未来から学生がタイムマシンにタイムマシンに乗ってやってくる。そうだタイムマシンで昨日に戻れば、リモコンがなおせると閃いて、過去に戻っていくけれど、未来を変えそうになってそれを回避する闘いが始まるというドタバタ系のエンターティメントな作品です。

●知事邑深月さんの作品で『名前探しの放課後』というのがあるのですが、主人公は女子高生。いつのまにか3か月前に来ていた彼女は、もとの世界で自殺をしてしまったという生徒を救うべく動き始めます。これにもあっと驚くラストがまちうけているのですが、私が興味を惹かれたのは、全編にショパンの音楽が流れていたことです。

●カズオ・イシグロの『夜想曲集』は、音楽と夕暮れをめぐる5つの物語で構成されています。寂しいけれどほんのりとした印象で。全編にジャズが流れていて、聞きながら読んでいる気分になれます。

●朝井リョウさんの『世にも奇妙な君物語』は、5編からなる短編集で、人間の持ついやな面をあぶりだしたような小説です。いちばん注目したのはw規約立の主役へのオーデションですが、熱烈なバトルロワイヤルでそれぞれのわき役が訳ありを持って語っています。でもすごい重い家事で、朝井リョウさんは人を落ち込ませる天才だなと感じました。

◎朝井リョウさんは、この作品を「世にも奇妙な物語」のように映像化を狙って書き上げたそうですよ。

●森絵都さんの『カラフル』は、全国の中学生のバイブルなような作品ですが、死んでしまった男の子が再生のチャンスを得て、別の男の子の体で生き返るが、はたしてそれは・・?というちょっとミステリな部分もある、とても励まされるお話です。

●同じく森絵都さんの『ラン』も一所懸命な小説です。ある日自転車で走っていると、今はいなくなった家族に会えた。それからの主人公は再び会えることを願って走り続けます。元気をもらえる作品です。

●山崎豊子の『白い巨塔』を読みました。骨太で、主人公の財前の勢いが面白くてすぐ読み切ってしまいました。大学病院の中の人間関係や紛争など、医療現場のことだけでなく、人間社会のバトルが面白かったです。

◎こどもの頃家に並んでいた『白い巨塔』は正と続に分かれていました。もし最初の分が評判にならなくて続がなければ、財前が落ちぶれる裁判もなかったし、死ぬこともなかったように思います。評判になったので、よりドラマチックになったのですね。

●さっきの音楽が流れている小説で思いだしたのですが、森絵都さんの『アーモンド入りチョコレートのワルツ』は、シューマンやバッハ、サティなどのピアノが流れています。甘くて懐かしい余韻を感じさせる作品です。

●大好きな『憂国のモリアーティ』について話させてください。ホームズライバルとされるモリアーティの目線で、シャーロック。ホームズの物語を語るコミックです。歩合は大英帝国全盛期のロンドンです。イギリスの階級社会を背景に、モリアーティは孤児なのに、モリアーティ家を乗っ取ったり、人も殺しそうになる悪役な主人公です。ホームズの宿敵、ボヘミアンの女性との抗争があたり、盛り上がる内容です。

●誰もが知っているマーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』ですが、現代社会からは黒人擁護小説とけなされていますが、ミッチェルにしたらおばあちゃんの世代から実際に聞いていた我が家の歴史、そして自分につながる南部のかつてあったこと、そして今はなくなってしまったことを残したかあったのではないかと思います。広い綿花畑を運営するために必要だった働き手が、奴隷商人ら供給された黒人となっていて、白人はプランター(農場主)として貴族的な暮らしを謳歌するという世界でした。そうしたス姿が丁寧に描かれていると思います。そして一つの世界が崩壊する中で、自分自身を守ろうと抗う女主人公の姿は、とても魅力的に見えてしまうのです。

●朝井リョウ作品で一番好きなのは、『少女は卒業しない』です。恋や争い、別れなどその時代にあることがいくつも語られ、共感を呼びます。朝井さんはなぜこんなに女性の気持ちがわかるのでしょうか。

◎前にトークイベントで来られた時、女性の気持ちというより、自分より背が小さくて、体重も、腕のリーチも短くて、その場合どう動けるのかなとか物理的的に考えることを女性を書くときにやっていると言っていました。そんなアプローチをしているんですね。

◎この作品は私も大好きです。深閑とした3月の冷たい空気の中、様々な登場人物が悩み、決意し、行動していく、そして別れを経験し、少女たちの成長を実感する。読んでいて気分のよい作品でした。

あっという間の2時間でした。今回は一つの作品について象熱を持ってたくさん語られました。参加者のみなさん、ありがとうございました。

2020年11月26日(木)リモートブックカフェレポート

寒い中でも穏やかな日差しを感じる日の夕方、リモートブックカフェが開催されました。
今日の参加者は、政策科学部3回生の方、理工院の方、文学部3回生の方と4回生の方が参加してくれました。

こんな本が話題になりました

●西尾維新『人類最強の初恋』、大好きなので何度も語りたくなるのですが、主人公が嫌われまくるぶっ飛んだ作品です。いつものように言葉遊びが満載で楽しめます。

●小林泰三さんの『アリス殺し』ですが、不思議の国に迷い込んだアリスという名の少女の夢ばかり見る女子大生の主人公は、ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見ます。すると主人公の通う大学で、玉子というあだ名の研究生が墜落して死んでしまう。その後も夢と現実が映しあうように怪死事件が続いていくという物語です。それで最重要容疑者にアリスが指名されてしまうのですが、トリック満載で読み終わるとあっと驚くことができます。

●『玩具修理者』は、子供なら誰でも知っているおもちゃをいつでも直してくれる存在です。あるとき主人公の少女が弟をおぶって歩いていた時に歩道橋から転落してしまい、弟を死なせてしまいます。そこで彼女は玩具修理者のもとに弟を連れて行こうとする物語です。かなり心理的に怖いホラーです。

●今評判の『ケーキを切れない非行少年』は、少年院では認知力が弱くてケーキを等分に切ることすらできない非行少年が大勢いるということが描かれます。しかしそれは現実の社会でも同じことで、人口の十数%いるという「境界知能」の人に焦点を当て、困っている彼らを学校や社会生活で困らないようにと考えるメソットを書いています。

●冲方丁の『マルドゥック・スクランブル』は武器の存在意義とそれを使うことの意味をテーマに描かれているSF作品です。主人公は少女娼婦で、新たな能力を手に入れて敵と戦います。気軽に読んでみてください。

●小松左京の『ゴディアスの結び目』は、上級の家庭に育ったマリアが遊び人の男に騙され麻薬中毒にされてしまいます。売春をさせられながらも耐えますが、男が他の女に走ったのを見て男を殺害してしまう。精神病院に隔絶されることになったマリアは、拘束されたままベッドをサイコキネシスで動かすなど超能力による暴走を続け、ついにはブラックホールまで生み出す・・・心理学と物理現象を混ぜたようなSF作品です。

●『三体』は中国人によって描かれたSF作品です。とある三重星には、生きと滅びを繰り返す三体星人があり、その中の最も新しい三体星人は地球文明の科学技術よりさらに先端のものを有していると設定されています。地球人との交流を持ち始めた三体星人は過酷な世界に生きています。三つの恒星の栄光を受けているこの星は、穏やかな時があると思えば、日の登りと暮れが一定の決まりがなくなる天災にさらされ、滅びを繰り返してきました。残りの選択は宇宙移民ただ一つであるとされています。そこに地球が現れた。どうなっていくのかという作品、今は三部作のうち2作まで刊行されています。先が楽しみで仕方ありません。

●『魔女のたびたび』は、魔女が各地に出向き様々な人間と交流を持つお話ですが、『キノの旅』が魔法寄りになったようなお話です。『キノの旅』もキノが相棒と様々な国をめぐります。連作短編集ですが、毎回独特の制度や文化・価値観を持つ国家や国民と関わっていくというストーリーです。そこに寓話的アプローチがされています。

●辻村深月でいちばん好きなのは『ツナグ』です。一生に一度だけ死者との出会いをかなえてくれるというツナグ。心に屈託を持つ人々が気になる人と出会うそれぞれの思いを抱えた一夜。これまでの苦しさが解けていく様子に浄化されます。

●有川浩といったら、なんといっても大学生には『キケン』です。キケンとは機械制御研究部の略で、破滅的な先輩たちに引き回される1年生たちを描いた作品です。これぞ学生時代!という弾けた青春のエピソードを楽しみ、そして最後は泣かせられるという名作です。

●小野不由美といえば『十二国記』ですが、恐ろしいのは『屍鬼』です。1000ページを越えるボリュームを誇り、登場人物はメインの他、周りの人々や家族を事細かく描写しており、150名を超える細かさなのがスゴイです。古めいた山村の村で三人の村人が殺されて事件性はないとされたが、その後も次々と異変は続きます。屍鬼とは死後生き返って、超人的な能力をもち生命維持に人間の血液を必要とする存在を指します。最初の説明口調の巻や、登場人物の多さに負けずに読んでほしいです。最後は報われます。信じて下さい。

●宮部みゆきの『模倣犯』は、「天才」を自称する犯罪者の暴走を描いた作品です。犯罪の被害者、加害者の双方の視点から事件を描写することによって、犯罪者の愚かさや幼稚さを浮彫にしています。映画はせっかくの大作なのに駄作でした・・・残念。

●宮部といったら『ブレイブストーリー』です。現実と戦うために、非現実の世界の戦いに身を投じる主人公。とても健気です。

●小野不由美の『十二国記』は中国風の異世界を舞台に書かれたファンタジー小説ですが、世界観がきちんと確立しているところがすごいです。それぞれの十二の国は王政国家で、麒麟が天の意思を受けとって王を選び、王は不老となり統治する。おもしろいのは十二国記の世界と地球は隣り合っており、お互いに流されて存在することも多い、となっていることです。さまざまな立場の人々が、過酷な運命のもと必死に生きる姿を描いています。

●子供の頃から好きだったのは『ドラゴンラージャ』です。ある征伐隊に参加したのはいいけれど、敵につかまり多額の身代金を要求されるところから物語は始まります。その要求を仲間に伝えるために、首都へ旅立つ主人公たち。迫りくる危機の中、どうなっていくのか・・。

●子供の頃よく読んだのは『ズッコケ三人組』です。1話完結の読みやすさもあって、どんどん読み進んでいました。

●『僕の初恋をキミに捧ぐ』は全寮制の高校の男子寮寮長と女子寮寮長の二人を中心にお話は進みます。幼なじみの二人は将来を約束しますが、片方が二十歳まで生きられないと知り、逃げるように全寮制の高校に行きます。彼を追いかけて同じ高校に入った彼女。様々な物語が展開していきます。

●綿矢りさの『蹴りたい背中』は本当に印象的でした。周囲に溶け込むことのできない高一女子とアイドルおたくの男子の交流を描いた作品です。文中の表記が大好きです。「さびしさは鳴る。耳が高くなるほど高く澄んだ音で鳴り響いて、胸を締め付けられる。せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる」高校生がこれを書いたの?と思うと綿矢さんの繊細な感性にノックアウトでした。

●綿矢りさのデビュー作は『インストール』でしたよね。受験戦争から脱落して登校拒否になった女子高生が、ある日部屋の掃除を思い立ち、すべてのものをゴミ捨て場に運びます。でも祖父からもらったコンピュータだけは手放せない。壊れたコンピュータをゴミ捨て場で抱えて座っていると、小学生の男の子から声をかけられる。彼が「コンピュータが欲しい」というところから二人の交流が始まります。彼はチャットで商売をしているのですが、その片棒を担ぐことになった女子高生は様々な人とチャットで話すうちに心に変化が訪れる・・。失ったものを取り戻す再生の物語です。面白いです。

●皆さんは、森田季節ってご存じですか。あまり知られていないのですが「なろう系」で小説を書き続けて評価されたライトノベル作家です。青春とかSFとかミステリとか、感情を刺激して泣かせる派です。

●ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』は、何度となくチャレンジしましたが、読み切れませんでした。ページを見ているだけで難しい。何よりロシア式名前についていけません。お近づきになるにはどうしたらいいでしょうか・・・。

●『フルメタルパニック』は、小さな頃から戦場に身を置いていた一人の兵士が主人公のSFミリタリーアクション作品です。物語は、西太平王戦線に所属する主人公がソ連で一人の少女を保護するところから始まります。少年少女たちのブラックテクノロジーによって変わる歴史とそれを阻止しようとする主人公を描いています。

●『マジンガーZ』はもともと永井豪のコミックで、ロボットアニメとして有名です。地球の平和を守るため戦うために兜博士によって作られた「マジンガーZ」は、孫の兜甲児がその巨大な人型ロボットマジンガZに乗り込み戦うという方式で、初めて巨大ロボットとして有名になったものです。

●『アトム・ビギニング』は、『鉄腕アトム』を原案としており、当初はアトムの誕生までを描くつもりだったのが、本編とのズレがでてきたので、本編とは歴史が分岐した別世界であるとしています。新しく「意思」と「人格」を持った自立型ロボットを作られるところから物語はスタートします。また未来から来た少年型ロボットという噂も流れ、それが事実なのか、謎を解き明かしていきます。

●『鬼滅の刃』は絵はきれいだし、書き込みがすごいと思います。不滅の名作というのはこういうところでまず迫力が出ているのでしょうか。シーンごとの構成力も考えられていると思います。

●『ワンピース』の名シーンはもちろん「エースの死」ですよね。あれは泣かせます。

●『テラフォーマ』は能力紹介のページが半端ないです。かなりのページで紹介して次のページで死んでいる・・・とか、よくありますよ。けっこうインパクトがあります。

●『ハリー・ポッター』で面白いのは、本筋に関係のないキャラがひたすら出てくるところです。作者が書きたかったのでしょうか。

●星新一の伝記が書かれている本を読み始めたところです。星新一は森鴎外の血縁にあたり大富豪の御曹司として生まれたそうです。父親は伊藤博文の秘書もやっていたそうです。有名な篠沢紀信とディズニーランドも一緒に行ったりしたそうです。星新一ショートショートで育った方、ぜひ手に取ってみてください。

●『漂流教室』は、マニアックでグロテスクですが、泣けます!画風が古いですがプロットや作り方がいいです。荒廃した未来に小学生たちが学校ごと送りだされてしまい、友情や敵対、バトルを経て希求していた元の世界に戻ることが叶わないと知った時、みんなでこの荒廃した世界を甦らすために僕たちは来たんだ、と決意するところが泣かせます。夢もあったし、家族との日常生活も懐かしい。その中で未来に挑む姿勢が愛おしいと思います。メッセージ性の強い作品です。

●『思考実験』は聞いたことあるけれど、よくわからないままにしている思考実験「シュレディンガーの猫」などをわかりやすく解説してくれる本です。「箱のなかにいる猫は、生きた状態と死んだ状態が重なりあっている」(シュレディンガーの猫)、「修理した船と、もとの材料を集めてつくった船、どっちがオリジナル」(テセウスの船)、「暴走するトロッコからどちらを救うか」(トロッコ問題)などを紹介してくれます。

●綾辻行人の『Another』は、学園ホラーミステリー作品です。病気療養のため母親の実家に身を寄せることになり転校していた主人公は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚えます。そしてクラスには不思議な存在感を持つ少女がいて、彼女に惹かれる彼ですが、そんな時にクラスメイトが非業の死を遂げます。このクラスに隠された謎とは何か。怖くてドラマチックな作品です。続編もあります。

あっという間に駆け抜けた2時間でした。もっといろいろ話題に出たのに、書記が把握できない本もたくさんあってすみません。また次回にもいらしてくださいね。