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2019.07.23

7月8日(月)倉橋耕平先生トークイベントレポート

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2019年7月8日(月)倉橋先生トークイベントレポート

蒸し暑い日の夕方、産業社会学部倉橋先生の『ネット右翼とは何か』の刊行記念トークイベントが開催されました。この本はふらっと6月人文書ベストで1位となっています。先生は、著書『歴史修正主義とサブカルチャー』で紀伊国屋じんぶん大賞2019で第2位を受賞されました。また今年3月刊行の『歪む社会―歴史修正主義の台頭と虚妄の愛国に抗う』は好評発売中となっています。

トークイベントには20人の方々が参加してくれました。

「ネット右翼」とは何かということですが、①中国・韓国への否定的態度②保守的政治志向③ネットで発信している、という3つの条件をすべて満たす場合に「ネット右翼」とみなします。一方①と③の2つの条件を満たす場合は「オンライン排外主義者」と言っています。同書に収められている社会調査(第1章、第2章参照)この人たちはめちゃめちゃ少ない人数にも関わらず、熱心な活動を行っています。ネット右翼は自民党、安倍政権支持が多い。自分自身で強く「保守」という意識があります。「オンライン排外主義者」は、必ずしも「保守」を自任するわけではなく、政治的立ち位置は明確ではありません。ネット右翼は年齢としては40代がいちばん多く、経営者、自営業者が多く、社会的不遇な人はいなくて、高い階層意識を持っています。
まとめると40代で、精神的保守主義で、伝統的家族観を持っていて、マスコミを信じていないと言えます。

「排外主義者」は、4~50代で、保守であり、中韓が嫌いで、伝統的家族観を持ち、マスコミより口コミを信じる。そして主には男性で、経営者が多く、右派の団体にも参加していると言えます。なぜ経営者、自営業者が多いかと言えば、自己裁量で使える時間があるからです。サラリーマンはそもそもネットにはりついてはいられません。自分の時間を使える立場にある人たちが参加するのです。学歴や階層はあまり有意な相関ではなく、社会的に孤立しているとか、淋しいからするというわけでもありません。そういう事態が分かることが大切です。
2016年、在特会(在日特権を許さない市民の会)の代表である桜井誠が、東京都知事選に出て、10万票をとるということが起きました。この人はまずテレビは出ておらずす、ネットだけの活躍でこの数字はスゴイです。また歴史修正主義者は、マスメディアへの反発がきつく、職業としてはIT関連、情報技術者が多いです。この人たちは「自分たちは情報に強い(情強)」と思っており、エリート意識があります。心理的不安傾向を探るアンケートがあるのですが、一般の人は不安傾向が20%のところ、桜井支持者は36%を越えているというのが分かっています。
第5章のファビアン・シェーファーさんたちの研究は、2014年の衆議院選で自民党のネット戦略について、「Twitter」の分析を行ったもののまとめです。世論を操作し、政治的争点をあいまいにする政治的botが用いられていたことを実証しました。オリジナルのツイートは20%ほどで、79.4%がコピペということです。自動投稿プログラムを駆使して、少ない人数でもたくさんいるように見せています。
そして「ネット右翼」はアンチマスメディアという態度をとっています。「ネット右翼」は、マスメディアでは伝わらない現実、社会の真実を自分たちは知っていて、目覚めたというスタンスをもっています。マスメディアではなくインターネットにこそ真実があると考えています。ところで「メディア・リテラシー」という言葉がありますが、これは情報を読み解く、機器が使えると言うことを指します。この言葉がどこから出てきたのかを見ると、カナダやイギリスの左派たちからの運動からできたものです。右派論壇の評論家・西村幸祐は、自分たちが情報強者であることを説明するために〈メディアリテラシー〉を持ち出しますが、がもともと左派のものであるということからしてもねじれがあると言えます。自分たちは「イデオロギーフリー」である、右、左に分けること自体が左だとと考えているから、こうした用語の使い方ができるのだと、倉橋先生は第4章で紹介しています。

「カルチュラル・スタディーズ」の著名な研究者であるスチュアート・ホールは、サッチャリズムの研究において、保守を支持して割を食うのは下層階級の人たちなのに、その下層階級の人たちがサッチャー政権を支持してしまう傾向を問題視しました。若い世代にとって革新政党とは維新であり、保守とは公明党をさすという社会調査の結果があり、ねじれの様子がうかがえます。しかし、それはサッチャリズムの時にも起こった言葉の意味を組み替えて新しい支持者を獲得したのと同じような構造だ、と最後に指摘されました。

ここで先生のお話はいったん終わり、質問コーナーに移りました。

質問:自分は60歳以上で退職者ですが、ネットで発信すると分母を少なくても発信した門は世界中に行きます。少ない人の発信がなぜ支持されているのか。やはり挫折感の表れで、はけ口ではないのか、これまで左翼は理想を掲げて来ていても実現できていない。下層の人はもう世の中どうでもいと思うのではないか。
回答:ネットに不自由な受け取る側の人たちが何を受け取ったかですが、それは権威主義の傾向があります。力の強い人が言っていることは正しいという考え方です。このことは今の政権が中心にあることが影響しています。戦後すぐから戦前に帰ろうという意見はずっとあったが、それは党内の抑制が効いていて押さえられてきました。現在、下層階級の方々が安倍支持なのは、「自己責任論」が多くを占めています。そして長期政権でやっているってことはいいという考えを持っています。

質問:「ネット右翼」というのは社会的孤立とは関係ないとのことなのですが、年収も高くある程度の社会的地位もある中でどうしてそうなるのでしょうか。
回答:経営者、事業者たちは、「自己責任論」が強い立場にあります。自ら経営を背負ってやってきたという自負があります。そして地域に根差している。ネットに染まっている中でトランプを支持する考えを持っています。また「ネット右翼」はアンチフェミニズムと言えます。「ネット右翼」は男性が多い傾向です。彼らは、フェミニズムが男性の特権を引き摺り下ろすと思っています。それに対する反動は強く、女にむかつく、女が本来自分たちの側にあるはずの社会的な牌をとりやがって、という考えを持っています。

質問:ふらっとで最近、七夕の笹を置いて、短冊に願い事を書いてもらっていたことをご存じでしょうか。その短冊に「東大に入りたい」「慶応合格」を書かれていて、その願いごとを写メで撮って、「立命館の現実」とSNSで回わされ、あっという間に広がってしまいました。立命館に希望して入った人も多くいるわけで、気分良く思わない人も多かろうと、「内容を見て外す場合がありますよ」と断って外したところ、今度は「どうして外すんだ」と抗議が入りました。
回答:難しいですね。名前の公表の問題もありますし、被害は最小限でとどめたいですね。
そういうことは起こりうると、あらかじめ覚悟して、対処の準備をしておくことが必要ですね。

質問:現在就活中です。民間もいくつか内定をもらっていますが、公務員試験も受験します。
今、勉強しているのがポピュリズムのことなのですが、そういう政治色というのは面接で出してはいけないのでしょうか。
回答:わからないですね。大事なことは、私たちアカデミズムの人たちが、それを通して政治活動をしているということよりも、アカデミズムの立場で今の政治や社会について考えているということです。そこではロジックが大切です。ロジックをバイアスなしに組めたらいいですし、自分の思想とは相異なる結果が出たときにも論理は拘束力があるので、それに従うということが大事です。

1時間に渡るトークイベントが終了しました。
最後に希望者にサインをしていただき。この会は終わりました。
倉橋先生、ありがとうございました。