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From:学園探偵事務所
Subject:学園探偵事務所に関するお知らせ

立命館ノベリストクラブ

 安達義明は、もう何度目になるかわからないため息をついた。現在彼は、以前講義で使用されていた教室の机を、一つ一つ覗くという作業を続けている。その反対側から、柳木悠ものそのそと同じ作業をやっていた。
 しかし安達と柳木は初対面であり、一緒に忘れ物を探す仲ではない。二人の関係は、探偵と雇い主のそれである。
 内容はといえば、本を探すこと。大切なもので、ずっと家にあったらしいが、外したカバーをつけるときに中身を間違え、大学に持って来てしまい、そしてなくしたというのだ。
 人通りの多い所は既に探したというので、安達は既に使われなくなった教室をしらみ潰しに確認しているのだ。
 では何故安達がため息ばかりついているのかといえば、この柳木、探しているのは表面だけで、プリントの下だとかは探そうとしないのだ。注意はするが、柳木は困った顔で笑うだけである。影も薄いし、奇怪な依頼主であった。
「これだけ探しても見つからないなら、もしかすると誰かが図書館に持っていったのかもしれないな」
「なるほど。なら行ってみましょう」
 そう言って図書館へ行こうとする柳木を、安達は慌てて呼んだ。
「直接図書館で探すより、マルチメディアルームで検索した方が早いだろ」
「あ、あぁ、そうですね。すいません。自分では使えないものですから、つい」
「使えない?」
「ああ、いえ、なんでも」
 言いながらマルチメディアルームに入る。
 安達は仕事上しょっちゅう篭ることがあるので、使い勝手もよくわかっているのだが、柳木は初めてなのか、大量のパソコンに目を丸くして入口で立ち尽くしていた。
 いい加減柳木に色々言うのも面倒になった安達は、さっさと言われていた本を検索する。
 目当ての本は、図書館の三階にあるらしい。
「行くぞ」
「ああ、はい」
 結局最後まで入って来なかった柳木を連れ、安達は足早に図書館へ向かう。
「依頼主の趣味に口をだすわけじゃないけど」
「はい」
「世界の呪い全集は、ないと思う」
「だ、大事なのは中身のほうですから」
 でもカバーがあるってことは買ったんだろ?とは言わなかった。
 検索した場所を見てみると、確かにラベルのない本が一冊混ざっていた。カバーを外すと、本のタイトルが手書きで書かれている。
「友人の、自作の本なんです」
「そうか。じゃあこれで、依頼完了ということで――」
「すいません、追加して良いですか?」
 言葉を遮り、柳木はそう言った。一瞬意味がわからず、言葉を失っている間に、柳木はまくし立てるように言った。
「それを、友人に返して欲しいんです。二階の、机が並んでいる一番奥の窓側にいるはずですから」
 柳木の指差す方向をちらりと見た安達が、何か言おうと柳木の方を振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。
「どうなってるんだ、まったく」
 報酬無しの報復をどうしてくれようかと思いながら、安達は言われた場所に向かった。
 指定された場所には、確かに書籍を積み上げた男がいる。
「あの、柳木悠君の友人ですか?」
 言われた男は、やはりというか、怪訝な顔をした。
「はい、そうですが」
「柳木君からこれを預かっています」
 手書きの本を手渡すと、男は表情を失った。顔を青くして、問い掛ける。
「いつですか? これを渡されたのは」
「今日ですけど」
「今日? そんな、まさか」
「どうしたんです」
 男によると、柳木悠という生徒は数ヶ月前に事故に遭い、意識不明の重体なのだという。ヌケたところはあるが、生真面目な良い奴だったのだそうだ。彼は、本を返したい一心で現れた幽霊だったのだろうか。もしかすると、自分が事故に遭ったと気付いていないのかもしれない。だが、彼が幽霊だとすれば、様々な不可解事も納得できた。
 それから数週間。いつものように昼時のマルチメディアルームで席取りをしていた安達のところに、男がやってきた。
「あの、報酬、なんですが、持ち合わせがなくて」
 顔色はすっかり変わっているが、その声には聞き覚えがある。
「あんたの命で充分。ミッションコンプリートだ」
 今日も探偵たちは学園を暗躍する。

 

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