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学園探偵事務所 第六話

 

立命館ノベリストクラブ

 竹宮ゆゆこはいつも通りの時間に、いつも通りの教室で、いつも通りの席に座っていた。ただいつもと違うのは教室内に、ゆゆこ以外の学生がいないことだった。それもそのはず。今日の講義は休講なのだから。
  では何故ゆゆこは今日この教室へ来たのか。もちろん講義を受けるためではない。ゆゆこは探偵としてある依頼を受けにきたのだ。そして今回の依頼主はこの講義の講師である小坂教授その人だった。
小坂教授は学内新聞でたびたび紹介されているため、彼の事を知っている学生は非常に多い。小坂教授の講義は楽しい、内容が分かりやすい、単位が取りやすいの三拍子をそろえている。そのため、誰もが彼の講義を受講したがっており、彼自身も学生に絶大な人気を誇っていた。
  ゆゆこにはそんな小坂教授が悩みを抱えているようには見えなかった。一体、教授の依頼とは何なのだろう。実はゆゆこはまだ依頼内容は聞かされてなかった。ゆゆこはあることを思い出し、教壇の前に立っている依頼人に向かって尋ねた。
  「先生、もしかして依頼って、私が小テストを受けることですか?」
  実はゆゆこは以前、ある依頼が手間取ったことで、講義に出席できず、小テストを受けられなかったことがあった。それなりの理由があって休んだ場合なら、後日再テストを受けることができたのだが依頼解決のためと言うのはそれなりの理由とは言えなかった。
  しかし、いくら小坂教授と言えど、一人の学生に小テストを受けさせるためだけに休講にするはずが無い。もちろんゆゆこは冗談のつもりだった。だが小坂教授は力の無い笑みを浮かべるとゆゆこの方に近づき、一枚のプリントを渡した。それはまさしく小テストのプリントだった。戸惑うゆゆこを見て、小坂教授は呟いた。
  「探偵というのはなかなか鋭い勘を持っているんだね」
小坂教授はそのまま覇気のない声でなぜこのようなことをするか説明し始めた。
  小坂教授は人に物を教えるのがとても好きだった。そのため、毎回の講義に趣向を凝らし、学生が楽しめ、なおかつ良く理解できるよう努力した。やがて彼の評判は学内中に広まった。それに伴い、彼は増える講義数と学生の期待に悩ませられ始めた。そのうち彼は学部主任や役員など、様々な仕事を任されることになった。年々増えていく仕事量、溜まっていく疲れ、彼にはもう自分の研究をする時間も無かった。仕事の量を減らしてもらえるように頼んだが、聞き入れられることは無かった。もう限界だった。
  そこで、小坂教授はちょっとした不祥事を起こすことにした。一人の学生に小テストを受けさせるために講義を休講にする。しかもその学生がテストを受けなかったのはその日の講義をさぼったため。そのことが他人の知るところとなれば、小坂教授の指導方法には問題ありとされ、様々な役職から外されることになる。もちろん仕事の量も確実に減る。一人の学生のために講義を休講にしたという事実は既に学内新聞発行部に伝えていた。
  つまり、小坂教授は逆マッチポンプをやろうとしていたのだ。
  「おそらく、今度の学内新聞の見出しは『小坂教授の親切すぎる指導法』とかになるんじゃないかな。大丈夫、君の事については何も書かないように頼んでおいたから」
  小坂教授は誰に言うとも無しにそう言った。その表情はとても悲しげだった。ゆゆこはそんな小坂教授を見て、彼を助けたいと思った。教授とは自分の好きなことをできる気楽な職だと思っていたが、そうではなかったらしい。
  「では、先生の本当の目的は仕事量を減らすことですか」
  ゆゆこは尋ねた。小坂教授は無言でうなずく。それを見たゆゆこはそのまま教室を飛び出した。そして事務所のメンバーに急いで連絡を取り、全員で学内新聞発行部に働きかけるように頼んだ。小坂教授のためと聞くと全員快く協力してくれた。小坂教授はやはり人気者だった。
  働きかけの甲斐あってか、後日出された学内新聞の見出しは『小坂教授、過労により講義できず』になった。
  それからまたしばらくたったある日、ゆゆこは午前の講義を終え、食堂に入った。午前の最後の講義は小坂教授の講義だった。小坂教授の講義は以前と変わらず面白く、分かりやすいものだった。変わったところと言えば小坂教授が以前よりもはつらつとしている所だった。仕事量が減ったために小坂教授は時間的余裕が増え、自らの研究も再開できたことをゆゆこは知っていた。
  食堂の空いている席に座り、ゆゆこは入り口で貰った学内新聞を広げる。その一面にはこう書かれていた。
  『小坂教授の新理論、学会を揺るがす』
  「ミッション、コンプリート」
  今日はお昼からデザートも頼もう。ゆゆこはそう思った。

 

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