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学園探偵事務所 第七話

 

立命館ノベリストクラブ

「事件の状況を振り返ってみようか」
  薄暗い部屋の中、室長は僕を含めた円卓に座る面々を見回しながら話し始めた。
「依頼人はマダム・山田。事件は彼女が買い物に出かけたほんの十分程度に起きたものだ。被害者はマダムの家に住んでいるロゼッタ嬢。彼女の美しい姿に魅せられたものは多く、近所でも評判は良かった。しかし、発見された彼女の身体には無数の切り傷が付けられていて、特に評判の良かった足は見るも無残な状態になっている。せめてもの救いは被害者が重傷を負ったものの、死ななかったという点だけだろうな……」
  そう言って室長はテーブルに置いていた缶コーヒーを一気に飲み干してしまう。
「だが、被害者が死ななかったとはいえ、犯人のやったことは許されない!」
  ダン、と持っていた空き缶をテーブルたたきつける室長。興奮しすぎです。
「幸いなことに、犯人は決定的な証拠を残している。それがこの映像だ!」
  室長が壁を叩くと同時に、スクリーンに映像が流れ始める。そこに映し出されているのは犯行現場の一部始終のはずなのだが、スクリーンの前に仁王立ちしている室長が邪魔でほとんど見えない。
「ホシの名はアシュリー嬢。被害者と同じくマダム邸の同居人だ。彼女が来るまではマダムにかわいがられていたのだが、それも一転。被害者が来たことにマダムと接する時間をとられてしまう。今回の事件はそれが原因で起こったものと推測される。やれやれ、女の嫉妬とは怖いものだ」
  ゆっくりと自分の席に腰を下ろす室長。座ったのはいいが、すでにスクリーンには何も映し出されていなかった。
「ホシについての詳細なデータは資料に記されている通りだ。まずは各々でホシの行きそうな場所、および知り合い関係の調査に当たってほしい。以上だ。何か質問のある者はいるか?」
  そう言って、円卓に座る面々に目を合わせていく室長。室長の説明は完璧だ。それ故に質問などありはしない。だが、それはあくまで説明だけ。それ以外は突っ込みどころ満載だ。しかし、それはこのめんどくさい室長に絡むことになる。それだけは避けたい。だが――
「質問のある者はいないようだな」
  僕以外に質問する気のある者はいない。ここは僕が質問するしかないのか――!
「あのしつ――」
「遅れてごめんなさい」
  ――ちょう、と繋げるつもりの言葉は、突如現れた副室長の声にかき消された。
「む。おや、副・室長ではないか。来るのが遅いぞ。会議はもう終わりだ」
「授業終わりに先生に捕まってしまったのよ。あと副を強調するのは止めなさい。それで、これは何の茶番かしら?」
「ふむ。キミを除いた我が部署の全部員による円卓会議だが何か?」
「山田君を除いた他の部員が全員、等身大人形なのはどうかと思うけれど?」
「大丈夫だ、問題ない」
「あらそう」
  そこは大丈夫じゃないでしょ、副室長。
「ところで、そこにあるのが今回の依頼の資料? ふーん……」
  副室長は手にとった資料をペラペラと捲っていく。その速さは尋常ではない。これで読めているのだから驚きだ。
「……おおよそのことは理解したわ」
  資料を手で叩きながら――
「今回は金魚に嫉妬して家出した子猫を探してくればいいのね」
「うむ、簡潔に且つ分かりやすく言えばその通りだ。さすが副室長。実に美しいまとめ方だ。すばらしい」
「そう思うなら、次回からは簡潔にまとめておきなさい。それじゃ、早速迷子の子猫を探しに行ってくるわ」
  そう言って部室を後にしようと――
「そうそう、山田君」
「あ、はい、なんですか?」
「今回の依頼は貴方のおばあ様のものだけど、ここの部員である貴方にはきっちり働いてもらうわよ?」
  にっこりと優しく微笑む副室長。いつもは無愛想なのに、そんな顔を見せられると、思わずドキッとしてしまう。
「あ、あと、今回の活動はちゃんと日誌に書いておいてね。それじゃ」
  そう言い残し、副室長は行った。
「では私も今日はおいとまするよ」
「いや、室長は後片付けして下さいよ」
  僕の言葉にブーイングする室長。まったく、同じ女性でも副室長とえらい違いだな、この人。
「さてと。さっさとやっちゃいますか」
ふてくされながら片付けをする室長を横目に、僕は活動日誌を開いた。身内からのものだけれど、これが僕の初仕事とも言える依頼だ。今日はそんな記念すべき活動日だ。だからこそ、それ相応なものを書きたい。
「……よし、決めた!」
  真白なページに文字を走らせる。
「今日も平和っと」
  第八支部はいつもと変わらず平和です。

 

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