ナビゲーションをスキップ

web RUC/Ritsumeikan University Coop Canpus Communicatuon Magazine

学園探偵事務所 第10話

立命館ノベリストクラブ

 十二月には、黒歴史が出来やすい。
By室長(男。精神年齢は一桁。またの名は、「神様」?)。
*
「室長がいない!」「ゴートゥーヘブン!」「普段通りじゃん!」と普段通りの気怠い会話が繰り広げられている学園探偵事務所には、依頼人の影すらもない。
 壁には、その閑居さ伺わせるように、縦線四本、さらにそれを横断する横線一本という不吉なマークが、所狭しと刻まれ、さながら「遭難してしまった挙げ句の果て」のような様相となっている。
 事務所という、ある意味での孤島に取り残された、男女合わせて二桁にいかない低度の―あ、いや程度の―探偵達は、暇を持て余し過ぎて、ゆるやかな狂気に包まれつつあった。
 しかし、そんな閑古鳥な日々も、ついに幕開けを迎えた。
▼依頼人が現れた!
▼どうする? □会話する!
 依頼人は、分厚いコートに黒いサングラス。
 長い金髪が、帽子から溢れていた。ボーイッシュな野球帽を目深にかぶり、顔の半分が見えないほどだ。真っ赤に塗られた口紅が、妙に浮いていた。
 あんなにふざけていた探偵達も、キチッと座り直す。
「どうされましたか?」
 副室長(カッコつけが目に余る)が、依頼人を座らせてから、優雅に尋ねる。
「ここの室長を探しているの……。探してくださいますか?」
 掠れた、か細い声で依頼人が言う。
 探偵達は顔を見合わせ、苦笑い。副室長が問う。
「あの、どうしてですか?」
「理由は訊かないでください。お願いします……!」
 そう言って、依頼人は肩を震わせる。
「うーん……。分かりました! 必ずや、室長を見つけだしてみせましょう!」
 副室長は右の拳を突き上げる。
「レッツ、さぁーち!」
 探偵達は早速、室長を探し始めた。
 室長の携帯電話に呪いのメールを送りまくったり、留守番電話サービス中にドナドナを歌ったり、室長が取っていそうな講義に勝手に出たり、敢えて、敢えて!
 講義を全部無視してずっと探し回ったり、室長の下宿にピンポンダッシュを仕掛けたり、室長の恥ずかしい黒歴史をみんなに言ってまわったりしている内に、何の成果も得られないまま、あっという間に二週間ほどが経ち、また依頼人が事務所にやって来た。
 依頼人の服装は、以前と全く同じだ。
「すいません、何の成果もあげれていないんですよ……」
 副室長が申し訳なさそうに頭を下げると、それに合わせて、他の探偵達も頭を下げる。
「そんな、頭を上げてくださいな」
 依頼人は掠れた声で言う。
 依頼人は、ゆっくり立ち上がる。
「だって。だって……。私が室長なのだからな! ハハハハハ!」
 依頼人改め室長は、帽子を豪快に取り、そして、金髪のかつらも取る。バサッとそれらを投げ捨てる。口紅が、この上なく不気味だ。
「アハハハハ! 騙されてやんの! 俺が依頼人に化けてたんだよ! もっと真面目に活動しろよ! もっと推理しようよ! 推理!」
 一人笑う室長に対して、探偵達の態度は冷淡だ。
 副室長が一歩前に出る。
「室長、みんな依頼人が室長だって気づいてました。なぜなら」副室長は突然上着を脱いだ。「私も室長だからだ!」
 副室長は低い声でそう言うと、体を少し捻り、顔をキッと室長の方に向ける。副室長が、なぜ脱いだのか、それは誰にも分からない。
「いや、私も室長だ」
 室長も、副室長と全く同じようにする。
「そうか、お前もか。騙されたな」
 副室長はそう言うが、表情は全く変わらない。そういうものだ。
「全く気付かなかったな」
 室長は満足そうに、ただし低い声で、そう言った。
「「暇を持て余した、室長達の??」」
「いや、待て。私も室長だ」
 動作が他の探偵達に、次々連鎖する。十連鎖。これは、なかなか難しい。
「いや、私も室長だ」「いや、私も室長だ」「いや、私も室長だ」「いや、私も室長だ」「いや、私も室長だ」「いや、私も室長だ」「いや、私も室長だ」「いや、私も室長だ」「いや、私も室長だ」
 きっと十二月にふさわしい、神々の、おっと、探偵達の、メリークリスマス。

 

前へ戻るSITE TOP